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*** 159 ビタミン補給方法 ***

 


「さて、その魔道具と茶器セットにはいくらの値を付けてくれるかな。

 それからその紅茶葉と砂糖と焼き菓子も」


「正直申し上げて見当もつきませぬが……

 この『ねつのまどうぐ』は金貨30枚、『みずのまどうぐ』は金貨50枚、茶器は金貨20枚で如何でしょうか……」


「ははは、全部金貨5枚ずつでいいぞ」


「!!!

 そ、それではすべて1つずつ買わせて頂けませんでしょうか……」


「王家に献上したら会頭さんが楽しむ分が無くなっちゃうんじゃないか?」


「そのようなこと……

 王家と同じ茶器を使ったりすれば、下手をすれば首が飛びます故……」


「それなら、この茶器はどうかな」


(ストレー、白磁の茶器セットを)


(はい)


「こ、これは白無地の茶器セット……

 これも実に美しい……」


「これは金貨1枚で売ろうか。

 これなら王家よりの御咎めも無いんじゃないか?」


「あ、ありがとうございます……

 それではこの白無地の茶器セットは5つほど買わせて頂けませんでしょうか。

 茶仲間の商人たちも欲しがると思いますので」


(ストレー、白磁の茶器セットをあと4つ)


(はい)


「これでいいかな。

 そうそう、紅茶100グラム入りの箱と焼き菓子20枚入りの箱は銀貨2枚にしようか。

 砂糖は80グラム入りの箱で銀貨10枚にするか」


「ほ、本当にそのような安値でよろしいのですか?

 どれも10倍の値でも売れましょうに……」


「まあ、挨拶代わりだ」


「そ、それでは全て10箱ずつ買わせていただいてもよろしいでしょうか」


「もちろんだ。たくさんの買い上げ感謝する」


「お礼を申し上げるのはわたくしの方でございますよ……」




 会頭が部屋の隅に控えていた息子に目配せした。

 息子は頭を下げると退出し、すぐに革袋を持って戻って来た。


「その中には金貨35枚と銀貨が40枚入っております。

 どうぞお確かめください」


(はは、さすがは商会の会頭とその息子だ。

 払いがいくらになるか暗算してたのか。

 それにしても……)


「年末払いじゃないのかい?」


「それでは1国を代表される方に失礼でございますれば……」


「ふうん、俺が国の代表だということを信じるのか?」


「この大陸には、500年前の建国伝説が多く残されております。

 その中には、建国王はほぼ例外なく魔法を使えたと言い伝えられておりますので、魔法をお使いになられる方が王と言われるのにはなんの違和感もないのですよ」


「そうか、まあ厳密には俺は王ではなく国の代表なんだがな」


「それは何が違うのでしょうか……」


「まあその話はまた別の機会でもいいだろう。

 代金は確かに頂戴した」


 テーブルの上の金貨袋が消えた。

 会頭とその跡取りがため息を吐いている。



「あの…… いくつかご質問をお許し頂けますでしょうか……」


「構わんぞ」


「2か月ほど前に、この地より南西に30日ほど行ったところにあるカルマフィリア王国という国が滅びました。

 それも、他国に攻め込まれて滅んだのではなく、焼き菓子を欲した王太子が貴族に命じてダンジョン商会という名の商会を襲わせたところ、その兵が次々に行方不明になり、また民も消えて行ったとか。

 更にはその周囲の3カ国に於いても同様に貴族の兵などが消えておるそうでして……

 ひょっとして、それはダイチ殿が為されたことなのでしょうか」


「さすが大商会の会頭ともなると情報が豊富なんだな。

 そうだ、あの国は俺が滅ぼしたんだ」


「周辺の国の間では、かの国は『焼き菓子に滅ぼされた国』と呼ばれておるのですが、まさか……」


「わははは。

 そうだ、その焼き菓子はさっき会頭さんが食べたものと同じだぞ」


「なんと……

 あ、あの…… 

 貴族軍や近衛軍は皆殺されてしまったのでしょうか……」


「いや、俺は誰も殺してはいない。

 単にうちの国の牢に入れてあるだけだ。

 他国が侵略して来たために我が国に避難させたカルマフィリアの民も、今は俺の国で腹いっぱい食べながら幸せに暮らしているぞ」


「と、いうことは……

 も、もしや、次の狙いはこのワイズ王国なのですか!」


「いや。

 俺は、俺や俺の仲間が攻撃されない限り、俺からは決して攻撃をしない。

 だからそうだな、この国が滅びるか栄えるかは、この国次第だと思うぞ」


「よ、よくわかり申した……

 そ、それから、武装した近衛9名を手玉に取り、我が国の第3王子殿下とその近衛を一瞬のうちに裸にして立ち去った者というのも……」


「ほう、よく知っているな。

 あの近衛は俺を武力で脅して財物を奪おうとしたので、仕置きを与えたんだ」


「じ、実は国王陛下がその者にいたく興味をお持ちになられまして、一度お会いしたいと仰せでございまして……

 それで、門の衛兵と大手商会に対し、『16歳ほどの黒目黒髪の男』を探し出して王城に招くよう密かにお触れが出ているのです」


「ははは、捕縛せよではなく会いたいというのか。

 面白そうな王だな。

 よし、俺もこの国の王には一度会って話をしてみたいと思っていたんだ。

 構わんぞ」


「か、畏まりました……

 それにしても、よく今まで誰も見つけられずに……」


「俺は『転移』の魔法も使えるからな。

 王子一行に罰を加えた後、この国を視察してすぐ自分の国に帰ったんだ」


「『てんい』の魔法でございますか……」


「試しに見てみるかい?」


「も、もしよろしければ……」


「その窓の下に見えるのはミルシュ商会の中庭かな?」


「左様でございます」


「それじゃあ今から俺は中庭に転移してみよう。

 会頭さんも息子さんも窓から見ていてくれ」


「は、はい……」


 大地が消えた。

 驚いた2人が窓から下を見ると、大地が笑顔で手を振っている。

 すぐに大地が応接室に戻って来た。


「「 …………… 」」


「こんな風に転移で移動出来るんだよ。

 だから、俺を捕縛したり牢に閉じ込めるのは不可能なんだ」


「「 ……………………… 」」


「さて、それでは倉庫に案内してもらおうか。

 穀物100石を預けておこう」


「は、はい」



「こちらでございます」


「ここに積み上げればいいのか」


「はい……」


(ストレー、穀物粥の20キロ袋を800袋出して積んでくれ。

 あと、大型寸胴も30個だ)


(畏まりました)



 その場に大きな袋が積み上がっていった。


「「 …………… 」」


 さらには大型寸胴30個も出現する。


「「 !!! 」」


「こ、この金属の鍋は……」


「これはさっきのケトルと同じアルミニウム合金の鍋だ。

 穀物粥は、料理し易いように予め前の晩から水に漬けておかなければならないんでな。

 大きな鍋があった方が便利だろう」


「お、畏れ入ります……」


「そこの金属の棒に半球形のものがついているのは、粥をかき混ぜたり掬ったりする道具だ」


「なんと……

 貴重な金属を料理道具にするとは……」


「それじゃあ俺は帰るが、2日後の昼に患者の様子を診にまた来るぞ」


「お待ち申し上げております……」


 大地が消えた。



(なあシス、この会頭さんにマーカーをつけて動きを観察しておいてくれるか)


(畏まりました)




 ミルシュ会頭は息子を振り返った。


「のう、ウルガンや、あの男をどう思う?」


「あの言が本当であれば……

 いやどうも私には本当のことだとしか思えないのですが、1国を滅ぼし、3カ国の戦力を半減させたのですね、それも無血で……

 そのようなことがもし出来るとすれば、あのお方はもはや神の使いかと……」


「そうか、お前もそう思うか……

 それではビルトレン・シュナイドレ宰相閣下に先触れに行ってくれ。

 私が明日ご訪問させていただきたいということと、あの『16歳ほどの黒目黒髪』の男が見つかったとお伝えするように」


「はい」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ねえタマちゃん、当面はタイのサプリ飴でなんとかするとしてさ、ずっとビタミン補給を飴に頼るわけにもいかないよね」


「そうだにゃあ、まあ1つ銅貨1枚で売っても大儲けだろうけどにゃ」


「ははは、儲けたいんだったら、そんなことしないで海岸沿いを金抽出の魔道具に乗って飛び回るよ」


「それもそうだにゃ」


「貴族病防止のためのビタミンB1は小麦の胚芽を食べればいいとしてさ、遠征病予防のビタミンCはどうしようか」


「果物じゃダメなのかにゃ?」


「このアルスだと果物って超高級品なんだよ。

 だから、とてもじゃないけど庶民は食べられないんだ。

 まあ、トマトとジャガイモはビタミンCが豊富だから、種と種イモを分けてやればいいけどさ。

 それでもトマトは夏から秋にかけてしか食べられないし、ジャガイモも秋からから冬にかけてしか食べられないだろ。

 秋植えのジャガイモなら春には収穫出来るけど、それでも春から夏までのビタミンC供給しか出来ないよね。

 アルスに保存技術なんか無きに等しいんだから」


「そうかぁ、地球と違って温室栽培も出来にゃいし、冷蔵技術もにゃいもんにゃぁ……」


「冬場のビタミンC補給になにかいい食べ物は無いかね」


「『料理スキル』に聞いてみたらどうかにゃ?」


「そういやあそうだった。

 なあ、料理スキル、冬場のビタミンC補給になにかいいものはあるかな」


(野菜の漬物などは如何でしょうか。

 乳酸発酵はその過程でビタミンCを作り出しますので)


「うーん、漬物の漬け方を普及させるのが大変かも。

 それに漬物に必要な塩って、アルスだととっても高価なんだよ」


(それでは馬乳酒やヨーグルトはどうでしょう。

 地球では古来、ユーラシア大陸の騎馬民族の主なビタミンC源は馬乳酒でしたし、西欧諸国では冬にはヨーグルトでビタミンCを補っていました)


「それもいいんだけど、庶民の口には入らないんだよなぁ。

 馬も牛もあんまりいないし」


(あの、農産物やその加工品でなくともよろしいですか)


「特に拘らないけど……」


(それでは昆布は如何でしょうか。

 生の昆布にはビタミンCを始めとした栄養素が豊富ですし、あまり長時間煮込まなければビタミンCの棄損率もまあまあ低いです)


「おお! 昆布があったか!

 穀物粥を作るときに出汁を取った昆布を、細かく刻んで粥が煮えてから入れてやればいいか。

『料理スキル』、他にいい料理方法はあるか?」


(出汁を取った後の昆布を醤油とみりんと少量の砂糖を入れた液に漬けて、『昆布の浅漬け』を作って粥に乗せられたら如何でしょうか。

 出汁を取ったものだけではなく、生の昆布も漬けて多目に乗せるとか)


「それいいなぁ。

 まあ、ネックがあるとすれば、日本で買うと昆布は高いことか」


「アルスの北の海では獲れにゃいかにゃ?」


「そうか!

 なあシス、北大陸の海岸沿いに昆布はあったか?」


(ございます。

 特に東部と西部にはたくさんありました

 いずれも日本の利尻昆布に酷似しております」


「それ、最高級品じゃないか……」


(それに、中央大陸の北部海岸沿いにも昆布の生育地がございますね)


「それじゃあ秋の終わりごろに北大陸の昆布を獲らせてもらおう。

 それだと保存にはストレーを頼ることになるけど、そのうち中央大陸が平和になったら、北部の海岸沿いで獲った昆布を乾燥させて中央部と交易させればいいし」


「いーいアイデアだにゃあ」


「でも北大陸の産物を勝手に獲るのもなんだから、ミンナとヘンナに挨拶に行こうか。

 シス、2人の都合を聞いてみてくれ」


(少々お待ちくださいませ……

 お2人とも今はお手すきだそうです。

 いつでもおいでくださいとのことでした)


「今から行くと伝えてくれ」


(はい)





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