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*** 158 商品披露 ***

 


「それじゃあ応接室に戻って少し贅沢品を見てもらおうかな。

 こちらは有料だぞ」


(ストレー、老眼鏡を3種類出してくれ。

 それから紙束とサインペンもだ)


(はい)



「こ、これはなんですかの」


「これは『オールドグラス』と言って、特に歳を取って物が見え辛くなった人用の視力矯正道具なんだ。

 こんなふうにかけてみてくれ。

 強度は3種類あるから、見比べてみてくれるか」


「これはガラスで出来ているのですかの……」


「実際には硬質プラスティックというものなんだが、まあガラスのようなものと思ってくれればいい」


「このように美しい細工のガラスがあるとは……

 うおっ!

 も、物がはっきりと見えるっ!

 す、素晴らしい……」


「慣れないうちは少し目が疲れて頭が痛くなるかもしれないが、オールドグラスを外せばすぐ治る」


「こ、こここ、これはおいくらで売って頂けるのでしょうか……」


「逆に会頭さんならいくらの値をつけてくれるか?」


「そうですな……

 金貨2枚、いや金貨2枚と銀貨50枚で売って頂けませんでしょうか」


「はは、いくらなんでも高すぎるな。

 ひとつ銀貨50枚で売るよ」


(それでも静田さんのショップ向けショップで1000円で買ったものだからな。

 うほほほ、500倍で売れるんか!)


「よ、よろしいのですか?」


「もちろん」


「そ、それでは、これら3種類の『おーるどぐらす』を合計で8セット買わせて頂けませんでしょうか。

 この国の宰相閣下には昔から御贔屓にして頂いておるのですが、閣下も最近とみに細かい字が見えなくなって来たそうでして、部下からの報告書は侍従に読み上げさせておられるそうなのです。

 おかげで引退もお考えだとのことでしたので。

 また、わたくしの茶飲み仲間たちも、最近小さな字が読みにくくなっているようでして」


「それなら3種類8セットで、金貨12枚だな。

 自分に合った物以外は返品を受け付けてもいいが、あと何年かしてさらに見え辛くなったときには、別のオールドグラスが合うようになるかもしらんから、3つ持っていた方がいいだろう」


「なるほど……」


「ところで教えて欲しいんだが、この国では羊皮紙作りは盛んなのかな」


「いえ、羊の飼育はこの国の北側にあるキルストイ帝国が独占しておりまして、子羊や羊の番は他国には絶対に売らないのです。

 それで我が国はキルストイから羊皮紙を輸入せざるを得ないのですが、この輸入品も北の地に領地を持つノリンゲルト第2王子殿下が独占しておりまして……

 我らは羊皮紙を100枚で銀貨70枚という高値で買わねばならないのです」


「そうか、それなら『植物紙』をいくら普及させても構わないな」


「『しょくぶつし』、でございますか?」


「それじゃあ、この紙にペンで字を書いてみてくれ」


「こ、これは羊皮紙ではないのですか……」


「そうだ、植物から作った紙だ。

 薄くて保管が楽だし、匂いも無いから使いやすいぞ。

 それから、そのペンはボールペンと言ってな。

 中に見える芯に黒いインクが入っているだろう。

 そのインクが無くなるまで書ける筆記用具だ」


「どのぐらいの量の字が書けるのですかの」


「そうだな、普通の大きさの字なら、その紙に100枚以上は書けるぞ」


「そ、そんなに……

 それにインク壺が要らないということは、屋外でも使いやすいということですか……」


「そうだ。

 さあ、試しに紙に字を書いてみてくれ」


「こ、これは……

 なんと滑らかで書きやすい紙だ……

 それに線も細いので小さな字が大量に書けますのぅ……」


「さて、その紙100枚はいくらで買ってくれるかな。

 それからそのボールペンは」


「そうですな……

『かみ』は100枚で銀貨50枚、『ぼーるぺん』は1本やはり銀貨50枚で如何でしょうか」


「はは、両方とも銀貨10枚でいいぞ」


「なんと……

 そ、それでは取り敢えず紙は10束1000枚、ボールペンも10本買わせて頂けませんか」


「もちろんだ」


(ストレー、紙の100枚束10束とボールペンを10本出してくれ)


(はい)


「なんとまあ、『収納』の魔法というのは便利なものですのう……

 特に商人にとっては垂涎の品ですわい」


「残念ながらこれは売れないんだ。

 万が一好戦的な国の手に渡ると、兵糧を運ぶ手段に使われて戦争が増えるからな」


「ごもっともです。

 我が国の周囲の好戦的な大国がこれを手に入れたと考えるとぞっとします。

 ダイチ殿、周囲4国から派遣されて来ております大使にはお見せになられませんように。

 奴らであれば、ダイチ殿の商会を襲って『あいてむぼっくす』を手に入れようとするぐらいは、平気でやりかねませんので」


「ほう、この国は他国と大使を交換しているのか」


「ええ、我が国の国王陛下が提唱して始められたことなのです。

 陛下はより平和な状況を作るためだとお考えのようでしたが、他の国はワイズ王国が戦争を準備していないかとか、どの地域の兵が弱いかなどと、戦争準備のためだとしか思っていないようですが」


「そうか……」


「ところで、この『おーるどぐらす』と『かみ』と『ぼーるぺん』は、まだ買わせて頂くことが出来るのでしょうか」


「もちろんだ。いくらでも買ってくれ」


「それは貴殿の商会の商いの妨げになりませんか?」


「俺の商会では小売りをするつもりはないんだ。

 すべてあなた方のような地元の商会への卸売りに限定しようと考えている」


「と、いうことは、我らがこの品を売っても構わないと仰られるのですか!」


「そうだ」


「ふう、確かにこれほどの品であれば全ての商会が仕入れたがるでしょうな……

 ときに、これらの品を王家などに献上してもよろしいですか」


「いったんあなた方に売ったものだ。

 それをどのように使うかは買い手の勝手だろう」


「これは宰相閣下もお喜びになられるでしょう……」



「それでミルシュ会頭さん、先ほど言った食料の提供なんだが、小麦だけでは栄養が偏るんだ。

 だから俺の国では小麦に12種類の穀物を混ぜた『穀物粥』というものを食べさせている。

 まあそれ以外にもたくさんの食い物はあるが、主食はこの穀物粥だ。

 それの素を提供してみようと思っているんだが、味見してみないか」


「是非お願いいたします」


(ストレー、白磁の器に入れた穀物粥の熱いやつと、磁器のスプーンを)


(はい)


「ま、また突然料理が出て来た……」

 こ、これは『あいてむぼっくす』の中に入っていた料理でございますか?」


「そうだ」


「で、ですが、湯気が上がっておりますぞ」


「はは、俺のアイテムボックスでは、内部の時間を止めておくことが出来るんだ。

 だからその粥は出来たてだぞ」


「な、なんと……

 そ、それでは中に入れた食料も腐らないのでございましょうか」


「もちろん。例え10年入れていても、入れた時のままだ」


「なんと…… なんと素晴らしい……」


「さあ、冷めないうちに食べてみてくれ」


「はい……

 う、旨いっ!

 こ、こここ、これは穀物の味だけではなく、なんという深みのある味!」


「そうだな、調味料も5種類ほど入れてある。

 見た目はただの粥だが、味と栄養には自信があるんだ」


「こ、この粥にはかなりの量の塩が使ってありますな。

 それにまさか胡椒までも……」


「そうだ、栄養ばかりではなく、塩が不足しても病気になるからな。

 胡椒は単に味を良くするためだけのものだが」


「ほ、本当にこの粥を100石分もご提供下さるのですか……」


「もちろん。

 今日は穀物粥の素だけを置いて帰るが、2日後の昼に患者の様子を診るためにまたお邪魔しよう。

 そのときに調味料セットも持ってこようか」


「あ、ありがとうございます……」



「それでは献上に適した商品をもう一つ見てもらえるかい」


「是非とも」


(ストレー、高級ティーセット1式と、紅茶にサブレ、それからケトルや魔道具も出してくれ)


(はい)



「こ、こここ、これはっ!」


「うちの国の紅茶という茶を淹れるための道具だ」


「なんという、なんという美しい茶器でしょう……」


「会頭さん、さっきの茶は実に旨かったが、あの茶を淹れた水は井戸水ではなく、川の水を汲んで来たものではないか?」


「さ、さすがよくおわかりで……

 井戸水ではどうも旨い茶が淹れられないものですから、ここより半刻ほど歩いた地にある沢の水を汲んで来させたものでございます」


「この箱は『水の魔道具』と言ってな、この石に触れると茶を淹れるのに適した水が出て来るんだよ」


「なんと……」


「まあ、茶のためだけではなく、旱魃のときなんかには農業用水も出せるけどな」


「!!!」


「それから、こちらは『熱の魔道具』と言って、薪を使わなくとも湯を沸かせる道具なんだ。

 今、このケトルに水を入れて湯を沸かしてみよう」


「き、金属製の器でございますか……

 し、しかも、なんという複雑な形……」


「確かに金属製ではあるが、これは青銅製でも鉄製でもなく、アルミ合金っていうもので出来ているんだ。

 錆びないから便利だぞ」


「なんとまあ……」


「もう湯が沸いてきたか、それじゃあこの湯を入れてカップを温めよう」



(ストレー、淹れたての紅茶って収納してあるか?)


(ございます)


(それじゃあ、後で合図したらその紅茶をカップに入れてくれ)


(はい)


「カップは温まったかな、それじゃあこの容器に湯を棄ててと。

 本来ならこのティーポットに茶葉を入れて湯を注いで作るんだが、時間短縮のために予め淹れておいた紅茶を出そう」


(ストレー、よろしく)


(はい)


 カップの上に現れた紅茶が滴り落ちて行った。


「……………」


「執事さん、いや会頭さんの息子さん」


「!!!」


「よ、よくおわかりで……」


「俺は相手の素性が分かる魔法も使えるんだ。

 あんたは執事服を着ているが、名前はウルガン、会頭さんの長男で41歳だろ」


「は、はい……」


「ここに、『紅茶の淹れ方』を書いた冊子があるから、後で試してみてくれ」


「畏まりました……」


「さあ会頭さん、冷めないうちに飲んでみてくれ」


「はい。

 ああ…… なんと美しい色と良い香りだ……

 なるほど、この茶の色を楽しむために器の中が白いのですな。

 それに器の口が大きいのは香りを立たせるためでしたか……

 う、旨いっ!

 こ、これが紅茶っ!」


「気に入って貰えてなによりだ。

 ところで、紅茶本来の香りと味を楽しんでもらったあとは、そこの砂糖とミルクも入れてみないか。

 これもこの茶の正式な楽しみ方なんだ」


「やはりこれは砂糖でございましたか。

 これほどまでに白い砂糖があったとは……

 ああ…… なんという味わい。

 こちらは味もさることながら、また別の馥郁たる香りが……」


「ついでにその焼き菓子も食べてみてくれ」


「こ、こここ、これも旨いっ!

 なんという甘さ!

 こ、これはさぞかしたくさんの砂糖を入れてあることでしょうな。

 しかもなにか木の実の香りすら致しますぞ!」


「それはココナッツっていう木の実を入れてある焼菓子なんだよ。

 俺も大いに気に入っている菓子だ」


「まさに王侯貴族の菓子ですな……」


「ははは、俺の国の民も大好物でな。

 子供たちはほとんど毎日喰ってるぞ」


「なんと……

 貴国は実に豊かな国なのですのう……」





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