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*** 154 近衛小隊壊滅 ***

 


「ダイチさま、この度はご任務のお手伝いを拝命させて頂き、まことにありがとうございます」


「おおノワール族長、よろしくな」


「はっ!」


「ねえタマちゃん、街道はそれなりに整備されてるね。

 荷を担いだ人も少しは歩いてるみたいだし」


「それでもやっぱり馬車はいにゃいし、馬の背に荷物を載せてるひともいにゃいにゃあ」


「きっと馬は高価なんだろうね。

 もしくは軍馬にしか使われていないとか」


「あ、そう言ってる側から前方に馬が10頭とヒト族が10人いるにゃ。

 ヒト族はみんな金属鎧を付けてるし、剣も持ってるにゃよ」


「移動中の貴族軍かな?」


「どうやら馬のうちの1頭が足を痛めて立ち往生してるみたいだにゃあ……」


「それじゃあ、もう少し近づいてから、道を外れて通り過ぎようか」


「あの…… ダイチさま。

 あの足を痛めた牝馬を助けてやっては頂けませんでしょうか……

 我ら馬系種族は足を痛めるとすぐに死んでしまうものですから……」


「もちろん助けてやるぞ。

 今あの馬に『ロックオン』をしたところだ。

 その場で光魔法を使うとみんな驚くだろうから、後で人気のないところで治してやろう」


「ありがとうございます」


 それじゃああいつらを鑑定しておくか。

 ほう!

 一際豪華な鎧を付けてるのは第3王子か。

 なになに、年齢は14歳か。

 あ、E階梯が3.5もある!


 それ以外の9人は近衛兵のようだな。

 あー、やっぱり全員が貴族家の嫡男から4男だけあって、E階梯は低っくいわー。

 あの小隊長らしき奴なんかマイナス3.2だとよ。

 総合レベルもたったの3しか無いし。

 あれ?

 この小隊長、『第2王子の間者』って表示されてるぞ……



「そこな馬車停まれ!」


(ノワール族長、停まってくれ)


(はい)


「ちょうどよかった。

 おい商人、その馬を献上せよ」


「いくらだ」


(ノワール、お前を売ったりしないから気にしないでくれ)


(はい)


「な、なんだと!」


「この馬は大切な仲間だ。

 今は馬車も曳いてもらっている。

 それを売れと言うからにはさぞかし高く買ってくれるんだろうな」


「買うと言っているのではないっ!

 献上せよと言っておるのだっ!」


「なんだよなんだよ。

 タダで寄越せって言ってるんかぁ?」


「き、キサマ…… 命が要らんらしいな……」



 王子が言葉を発した。


「キルドリク・ノルント、お前の言は盗賊共と変らんぞ」


「し、しかし殿下!」


「商人相手に物を譲れと言うからには、値段を提示するのが当然というものであろう。

 そこな商人、我らの馬のうちの1頭が足を痛めてしまっての。

 そちの馬を売って欲しいのだ。

 金貨1枚で足りるか?」


 近衛小隊長が前に出て来た。


「王子殿下がこのように仰せである。

 金貨1枚でその馬を献上させてやろう。

 すぐに馬を引き渡し、後で王城に第3近衛大隊を訪ねてくれば、金貨を下賜してやるのでありがたく思え」


「断わる」


「な、なんだと……」


「まずこの馬の価値は金貨10枚でも足りん」


「「「 !!! 」」」


「それにだな、あんた腰の袋に金貨を入れてるだろう。

 なのに何故今金貨を出さずに王城まで来いと言うんだ?」


「この痴れ者がぁっ!

 平民が貴族と取引するには、まず献上させておいて、後で貨幣を下賜するのが常識であろうがっ!」


「それは、お前ら貴族が勝手に作った常識だろうに。

 そんなもんは知ったこっちゃねぇな」


「「「 !!!!! 」」」


「ああそうかあんた後で王子から金貨貰って、俺が訪ねて行ってもお前なぞ知らんと言って追い返すつもりだな。

 ったく、そんな詐欺までせにゃならんほどカネに困ってるんかよ。

 貴族だとか威張りくさってても、内情は平民以下だなぁおい」


「な、なんだとぉっ!」


「それからだ。

 馬が足を痛めて歩けなくなったならば、自分の足で歩けばいいだろうに。

 なんで他人様の馬を奪おうっていうんだぁ?」


「ふ、フザケるなっ!

 栄えある近衛兵が、徒士と同じ真似が出来るかっ!」


「はは、歩くのはみっともないからイヤだけど、詐欺で馬を巻上げるのは恥ずかしくないんか。

 不思議な感覚だな」


「も、もう許せん!

 不敬罪で処罰するっ!」


「ギルトラン・ルシエル近衛小隊長、止めよ。

 この者が申す事ももっともだ」


「殿下、これは我ら貴族が侮辱されたことに対する不敬罪です!

 殿下にお止めになる権利はございませんっ!

 おい、お前、こやつを徹底的に痛めつけろっ!」


「はっ!」


「あははは、なんで自分で手を下さないんだぁ?」


「は、早くこいつをぶちのめせっ!」


(ほほう、ガタイが大きいだけあって、剣を使わずに素手で殴りかかって来たか……

 でも遅っそいわー)



 バキッ! 「うぎゃぁぁぁ―――っ!」


 大地のキックが近衛兵の腕をヘシ折った。


「こ、こ奴っ! 抵抗するかぁっ!」


「あははは、お前馬鹿だろ。

 盗賊団に反撃するのは当たり前だろうが。

 それにしても、近衛兵っていうのは弱っちいんだなぁ。

 まだ盗賊の方が強ぇぞ」


「さ、3人で囲んで痛めつけろっ!」


「「「 はっ! 」」」


 バキッ! 「うぎゃぁぁぁ―――っ!」

 ボキッ! 「あぎゃぁぁぁ―――っ!」

 メキョ! 「ひぎゃぁぁぁ―――っ!」


「な、なんと情けない者共だっ!

 ええい! 剣を抜けっ!

 殺しても構わんっ!」


「えーっとぉ、武器を抜いた奴は手加減出来ないけど、いいんかぁ?」


「こ、殺せぇぇぇ―――っ!」


 バキボキ! 「ぐぅぎゃぁぁぁ―――っ!」

 ズガバキ! 「おぅぎゃぁぁぁ―――っ!」

 バギドカ! 「ひぃぎゃぁぁぁ―――っ!」

 ドグメギ! 「あぅぎゃぁぁぁ―――っ!」


 その場に両腕とも骨折した近衛兵たちが転がった。


「な、なんだと……」


 大地は『威圧Lv2』を発しながら近衛小隊長に近づいて行く。


「さぁて、残りはお前ぇだけだ。

 部下たちに命じてばかりいねぇで、たまには自分でも戦ってみろやぁ」


「ひ、ひいぃぃぃぃぃぃ―――っ!」


 あ、こいつ逃げ出してやんの!

 どこまで腐ってるんかねぇ……

『念動』……


 小隊長が馬の背から宙に浮き、大地のもとへ引き寄せられて来た。


 ドガバキボキグシャ! 「うっぎゃぁぁぁ―――――っ!」



(テミス、これ強盗未遂と殺人未遂で賠償金貰ってもいいよな)


(もちろんです)


「ストレー、こいつらの武器防具と衣服を全て収納せよ」


(はいっ)


 9人の近衛兵と王子がマッパになった。


「「「「 !!!!! 」」」」


(それじゃあ足を痛めた馬を治してやろうか。

 治癒系光魔法……)


(ダイチさま、ありがとうございます……)


「ストレー、馬たちも収納してブラックホース族の村に送り届けてくれ」


(はい)



「さて、それじゃあ俺たちは行くとするか。

 おーい、お貴族サマに王族さんよぉ。

 王都まで2時間も歩けば着くだろう。

 タマには自分の足で歩いてみるのもいいもんだぞぉ」


「「「「「 ……………… 」」」」」



(シス、この王子にマーカーをつけて、俺にも様子が見えるようにしてくれ)


(はい)




 近衛兵たちはその場に座り込んでしばらくの間呻いていた。


「さて、そなたたち。

 いつまでもここに座っているわけにもいくまい。

 腕は痛むかもしれんが、そろそろ王都まで帰るぞ」


「お、お待ちください殿下……

 殿下や近衛が服も鎧も無く裸足で街道を歩くなどとは……

 お、おい、お前! すぐに王都まで走って行って救援を呼んで来いっ!」


「…………」


「いや隊長、それは無理だ」


「えっ……」


「王城ならば近衛たちの顔を見知っておるものもおるだろう。

 だが、王都門に配置されている衛兵がそなたたちを知っているはずもなかろう。

 ということは、怪しい者として牢に入れられるだけで、救援などは行われるはずもない。

 それとも誰か、衛兵たちに知り合いがいる者はおるのか?」


「「「「 …………… 」」」」


「そうであろうの。

 同じ国に仕える者であるのに、そなたたちは相手が平民であるというだけでいつも衛兵を見下しておったからの。

 まあ、我らが全員で行ったとしても、まず間違いなく牢に入れられるだろうが、それでも王城への遣いは出してもらえるやもしれん」


「「「「 !!!! 」」」」


「そ、そんなまさか、殿下やその護衛を牢に入れるなどと……」


「それは当然であろう。

 私が王族であり、そなたたちが貴族であるということを如何にして証明するのだ?

 お前は裸の男が10人も裸足で歩いて来て、『俺たちは王子とその護衛の近衛だ!』と言うのを信用するのか?

 むしろ我らを牢に入れない方が衛兵としては問題があるぞ」


「し、しかし……」


「ここを戦場と考えよ。

 我らは敗れて味方の陣地まで撤退するのだ。

 さあ立ち上がれ」



 近衛たちは痛む腕を抱えて立ち上がった。

 だが、隊長は……


「い、痛い痛い痛いっ!

 お、おい、お前たち、俺を背負っていけっ!」


「「「 ……………… 」」」


「ルシエル近衛小隊長。

 王子としてそちに命ず。

 自分の足で歩け。

 さもなくば落伍者として置いていく」


「あう……」



 その後、皆はゆっくりと歩き始めた。

 せめて、街道を行き交う者たちに衣服などの助力を乞おうとしても、10人もの男たちがマッパで歩いているという異様な光景を見て、全員が踵を返して逃げてゆく。

 また、隊長が痛みを訴えて喚き散らして頻繁に休息を要求するために、通常であれば2時間少々の道のりを6時間歩いてもまだ城門には着けなかった。



「さて、そろそろ日が暮れる。

 さすれば城門は閉ざされ、我らは明日の朝まで城外で野宿する羽目になろう。

 少し急ぐぞ。

 ついて来られなければ置いていく」


「あうぅぅぅぅ……」



 こうしてマッパの男たちは、城門が閉まる直前にようやく王城門に辿り着いたのであった。



「待てっ! 何者だっ!」

「なんという怪しい奴らだ!」

「こっちへ来い!」


「わたしはアイシリアス・フォン・ワイズ、この国の第3王子だ。

 賊に襲われて不覚を取り、近衛ともどもこのような姿にされてしまった。

 王城に遣いを出してくれ」


「なんだと!」

「王族貴族の名を騙るは重罪ぞ!」


「騙ってははおらん。本人だ」


「おい…… 隊長を呼んで来い……」


「はっ」




「第3王子殿下の名を騙るはお前か」


「そうだ、わたしがアイシリアス第3王子だ」


「何故にそのような風体になっている」


「賊に襲われて不覚を取ったからである。

 衛兵隊長、王城に遣いを出してくれ。

 第3離宮のクシウス侍従長ならば、わたしの身元確認が出来る」


「………暫し待て。

 怪しきものは衛兵隊にて詮議せず、勾留して王都警備隊に任せよとは国王陛下よりの勅令である」


「国王令第33条第2項だな。

 当然の判断だ」


「…………」


「だが衛兵長、部下たちが皆怪我をしておる。

 手当を願えまいか」


「わかった…… 衛兵隊の衛生兵を呼ぼう」


「感謝する」



「おい、この者を小房へ収用せよ。

 残りは大部屋に収容し、衛生兵を呼べ」


「はっ!」



「これを使え」


「毛布か、ありがとう」



 1時間後。


「残念ながら王都警備隊窓口は本日の業務を終了したそうだ。

 それから、王城警備の近衛隊にも、勤務時間外だということで取次ぎを断られた。

 明日の朝、改めて来いとのことである」


「そうか…… 対応感謝する」


「今晩はこの房に収容するが、明日の朝もう一度王城に遣いを出そう」


「よろしく頼む」



 その日の夜遅く、小房と大部屋には熱いスープが差し入れられた。

 肉などほとんど入っていない粗末なスープだったが、その温かさは王子の身に染みたのである。


(これは衛兵たちが普段口にしているものなのだろうな……)





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