表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

152/410

*** 152 中華人民共和帝国軍 ***


お下品注意♪


 


 こうしてオーストコアラリアの森林火災消火活動が始まったのである。


 オーストコアラリア空軍の連絡将校としてタイ空軍の輸送機に乗り込んだ中尉は目を剥いた。


(な、なんだと……

 1時間当たりの放水量が40万トンだと……

 オーストコアラリア空軍の輸送機に比べて1万倍の消化能力……

 ああ……

 地上の猛火がみるみる消えて行く……)


「あ、あの、機長殿。

 こ、この輸送機も航続時間は12時間でよろしいのでしょうか……」


「いえ、12時間というのは満載状態での航続時間ですからね。

 今は交代要員とその食料しか搭載していないおかげで増槽も積めていますので、高度2000メートルという低空を飛行していることを考慮しても、航続時間は15時間に伸びています」


「ということは……」


「はい、当初は空中給油により24時間飛行を続け、5日ごとに整備を行う予定でしたが、夜間空中給油の危険性を減じるために、朝7時から夜7時までの運航体制に切り替えることになっています」


「あのコアラ像の放水を止めることは出来るのでしょうか……」


「あの像の下の箱に、白い石がついていますでしょう。

 あそこに触れると放水は止まります。

 スイッチが無ければ空港が水浸しになってしまいますからね、はは」


「あ、あの……

 こ、このコアラ像は2つしか無いのでしょうか……」


「いえ、実はこのコアラ像は、天部のご好意により貸与されているものでございまして、あと48基ほどございます。

 因みに今放出されている消火用水は、天部の方が我がタイ王国の大水害を救済して下さった際に、河川やダムから吸い上げた水が元になっています。

 さらにそれを純水にしたものを撒いていますのでご安心ください。

 まあ、インドド大旱魃を救われた際の水と同じでございますね」


「あ、あの……

 天部の方にお願いして、予備のコアラ像も使わせて頂けるものなのでしょうか……」


「『貸与』という条件であれば問題は無いとのことです」


「あ、ありがとうございます!」



 連絡将校はすぐに空軍本部に連絡を取った。

 おかげで、翌日にはオーストコアラリア空軍の司令官を始め、12人ほどの人員がタイ空軍の輸送機に乗り込んで来たのである。

 その中には、軍のカメラクルーも含まれていたようだ。



 この奇跡の光景は瞬く間に全世界に広がって行き、すぐに外交チャンネルを通じてタイ王国政府に依頼が行われた。

 そうしてまずはオーストコアラリア空軍のC-17輸送機8機が地上に降り立ち、内部の水タンクを取り除くと同時にコアラ像が積み込まれたのである。


 その後は、タイ空軍機と同様に食料や操縦クルーの交代要員を乗せて次々と空に戻った。

 こうして、12時間の飛行で480万トンの消火用水を散布出来る航空機が10機も用意されたのである。


 さらにまだ放水の魔道具の数には余裕があったため、日本、アメリカ合衆愚国、尊大韓民国、ニュージジーランド、インググランド、カナダダ、インドドなどから派遣されていた救援輸送機にも続々と搭載されていった。

 そうしたニュースを見た北朝鮮民主主義人民王国から派遣されて来たセスナ機には丁重にお帰り願ったが……


 また、このころになると、タイ王国政府を通じてオーストコアラリア政府に天部の要請が伝えられている。


 それは、オーストコアラリア中央部の砂漠地帯に消火用水確保のための溜池を作らせて欲しいというものだった。

 オーストコアラリア政府が一も二もなくこれを了承すると、大地はまたアスラ第1形態になり、オーストコアラリア空軍の輸送機で大陸中央部の陸軍基地に降り立ったのである。



「それでは、この基地から西に100キロほど行った地点に溜池を作らせて頂いてよろしいでしょうか」


「はっ! 首相官邸よりアスラさまのご要請には全て従うようにとの指令を受けております!」


「それでは早速作りに行きましょう」


「ただいまヘリをご用意させて頂きます!」


「いえ、乗り物は自前の物がありますので。

 もしよろしければ、みなさんも見学されますか?」


「よ、よろしいのですか?」


「ええもちろん。

 なにしろお国の領土内に作らせて頂くものですからね。

 20人ほどまでは大丈夫ですよ」


「ありがとうございます!」


(シス、ここから西へ100キロの地点を中心に、半径50キロの範囲を外部ダンジョン化してくれ)


(はい)


(その範囲内に何か障害物はあるか?)


(いえ、見渡す限り荒れ地と岩石だらけの荒涼とした地です)


(そうか、それなら俺が円盤を飛ばして中心部に行くまでに、溜池を作る準備をしておいてくれるか)


(はい)



 陸軍の上級将校やカメラクルーを乗せた円盤が宙に浮いた。

 やはりその場の全員が硬直していたが、それでも必死になって周囲を見渡している。

 20分ほどで溜池建設予定地に到着すると、大地は300メートルの高度を保った。


「それではただいまより溜池の建設を始めます」


(シス、始めてくれ)


(はい)



 眼下の大地が半径50キロに渡って凹み始めた。

 同時に黒い岩石が大量に現れて、その窪地に敷きつめられている。

 岩石の配置が終わると、その岩石が液状化されて窪地の底で平滑になっていった。


 オーストコアラリア陸軍の将校たちは驚愕のあまり声も無い。


 30分ほどで、その場に深さ50メートル、直径100キロもの溜池が完成した。


(はは、すげぇな。

 この広さになると、溜池の底が地球の曲率に沿って膨らんでいるように見えるのか……)


「「「「「 ……………… 」」」」」



(ストレー、この中に取り敢えず南極の氷を10億トン出してくれ。

 あと、溜池の周囲に水吸収用の転移の魔道具も12個ほど設置を頼む)


(はい)


 その場に巨大な氷塊が1万個ほど現れた。


「「「「「 !!!!!!!!!!!!! 」」」」」



(おっ、さすがは砂漠地帯だ。

 こっちは今冬だけど、日照が強いせいでもう氷が解け始めてるわ……

 ストレー、ある程度水が溜まったら収納しておいてくれるか。

 その後も氷が解けたらその分氷を補充してくれな)


(はい)


「あ、あの……

 あ、アスラ殿、あの氷はどちらから……」


「はは、南極条約に抵触する可能性がありますので、氷の出所は秘密にさせてください」


「か、畏まりました……」




 こうして消火用水の確保も終わり、世界中から集まった50機もの大型輸送機が、毎時2000万トンもの水を撒いていったのである。

 広大な地域で燃え盛っていた火がみるみる消えていった。


 その光景には全世界が瞠目し、やがて大喝采になっていっている。



 だが……

 中華人民共和帝国から派遣されていたツポレフ輸送機が、突然進路を変えて本国に帰還し始めたのだ。


 オーストコアラリア空軍管制塔が必死で呼びかけても、機体整備のためとしか返答が無かったのである。



(そうかいそうかい。

 そうまでしてあのコアラ像が欲しかったんかい……

 シス、あの輸送機と魔道具にマーカーをつけて追跡してくれ)


(はい)



 10時間後、ツポレフは広州市郊外にある空軍基地に着陸し、コアラ像はただちに大型ヘリに積み替えられて、北京市の西側20キロにある中華人民共和帝国軍の大本営に運ばれて行った。


(それにしてもなんだよこの国名……

 漢字の国のくせに、共和と帝国の字を一緒にするんか?

 意味わかってんのか?)



「シス、この大本営辺り一帯も外部ダンジョン化しておいてくれ」


(はい)



 ヘリから魔道具が降ろされると、軍を管掌する政治局員を筆頭に共産党幹部と軍幹部たちが魔道具を取り囲んだ。


「ふはははは、遂にあの貴重な純水製造装置が手に入ったか。

 これでわしにも次期国家主席の芽が出て来たというものよ。

 仮に政治局員のまま勇退するにしても、我が帝国に世界最大の半導体製造企業を作り上げてやるわい!」



「明日は国家主席陛下と政治局員一行が視察にみえられる。

 万が一の失敗も無いように、今この場で作動確認を行え」


「ははっ!」


(シス、この魔道具を地面に厳重に固定せよ)


(はいっ!)


(それから、準備は出来ているな)


(もちろんです!

 魔道具にLv8の結界も張り終わりました!)



 輸送機の機長が魔道具の白い石に触れた。

 コアラ像の前方に巨大な魔方陣が展開される。


 どどどどどどどどどどどどどどどど……


「うわぁぁぁぁぁぁ――――っ!」


「な、なんだこれはぁっ!」


「く、臭いぃぃぃぃぃ―――っ!」



 そう、既に8万人を超える住民が暮らしているアルス中央大陸ダンジョンと、延べ300万人を超えるヒューマノイドが訪れた北大陸ダンジョンに於いて、トイレにあるクリーンの魔道具で回収されていた膨大な量の汚穢が吹き出して来たのである。

 その噴出量は、やはり毎時40万トンにも及ぶ激烈なものだった。



「と、止めろぉっ。

 そ、その道具を止めるんだぁぁ―――っ」


「と、止まりませんっ!

 いくら石に触っても止まりませんっ!」


「ええい! 銃撃で破壊せよっ!」


 兵士たち50人がカラシニコフ自動小銃を構えて発砲した。


 だが……


 カキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキン……


 全ての銃弾が結界で跳ね返されて上空に飛んで行っている。


「ば、爆薬で破壊しろっ!

 い、いや戦車砲も使えっ!」


「は、ははっ!」


 それでもコアラ像は健在だった。

 軍幹部一同が輸送ヘリにのって避難した後は、地対地ミサイルまで動員されて破壊が試みられたが、もちろんLv8もの結界とあれば、その程度の攻撃には簡単に耐えられる。

 なにしろ大地のヘル・レーザーLv9ですら5秒間も耐えられるシロモノであった。


 もちろん地対地ミサイルの着弾の衝撃波で、中華帝国大本営前面の窓ガラスは全て吹き飛んでいる。

 おかげで、職員の中にはメタンガス中毒で気絶する者も相次いでいた。


 すぐに化学戦防御服を身に着け、酸素ボンベを背負った特殊部隊が投入され、大本営職員たちの救助活動が始まった。

 ほとんどの者が気づかなかったが、シスくんも人命救助に参加している。



 そうして……

 救助活動に時間を費やしているうちに、爆臭はさらに広がっていった。

 折からの西風によって、北京市まで迫っていたのである。


 さらに……

 ヘリで避難していた幹部たちのうち、国防担当政治局員が怒りのあまり命令を発してしまったのだ。


「護衛の戦闘ヘリ部隊に、あ、あの汚穢箱をヘルファイアミサイルで飽和攻撃させよっ!」


「はっ!」


「お、お待ち下さいっ! い、今あのようなところにミサイル攻撃などしたら!」


「ヘルファイアミサイル全弾発射っ!」


 どどどどごおおおおぉぉぉぉぉ―――ん!

 ずずずどどどどどどどどどどどどどどどどどどど………



 ミサイルの噴射炎と爆発炎が周囲に充満していたメタンガスに引火した。

 その爆発は、まるで燃料気化爆弾を思わせるほど強烈なものだった。

 まあ戦術核兵器に匹敵する破壊力を持つ燃料気化爆弾と似た原理の爆発であるからして、その威力はすさまじい。

 ミサイルを発射した1個中隊の攻撃ヘリ9機も軍幹部を乗せた輸送ヘリも、空中で衝撃波を浴びてぐしゃぐしゃになって墜落していく。


 もちろん、乗員乗客はシスくんが10キロ離れた地上に転移させていたが。



 その大爆発は……

 きのこ雲すら伴う激烈なものであり、中華人民共和帝国軍の大本営があった場所を更地にした。

 さらに、周囲5キロの軍施設をもまっ平らに均してしまったのである。


 また、大爆発により現場の汚穢が吹き飛ばされ、周囲100キロに渡って上空や地面に飛び散った。

 ついでに爆発の火球により上昇気流が発生し、現場周辺に豪雨が降り注ぐことになったのだが、その雨は何故か茶色だったという……

 このために、現場から東側にある北京市も爆臭に襲われ、全ての官公庁と学校が臨時閉鎖されたのであった……



 その場にいた軍幹部は、政治局員も含めて、その日のうちに全ての地位と特権を剥奪されて強制収容所送りになっている。



 そして……

 このときの一部始終はなぜか録画されており、全世界のニュースネットワークに乗ったのである。

 もちろん中華帝国ではこうした海外ニュースは遮断されていたが、それでもインターネットでの拡散は防げなかった。

 3日後には全てのプロバイダーに遮断命令が出されたが、すでに中華帝国人民の大半がPCへのダウンロードを終えていたのそうだ……



 しかもである。

 あれだけの大爆発の爆心地にありながらも、あのコアラ像は無傷だったのだ。

 そうして、ますます勢いを強めて汚穢を吹き出していたのである。

 周囲のえぐれた土地にはみるみる汚穢が溜まっていった。

 中華帝国政府は、バキュームカー3個師団を動員して汚穢処理に充てざるをえなかったのだった……




 中華帝国外務省から、タイ王国政府に猛抗議が来た。


「いえいえ、あれは天部のご好意により貸与されていた魔道具でございます。

 わたくしどもは貴国の不幸な出来事に一切関与しておりません」


「な、ならば天部に我が国からの厳重なる抗議と賠償金要求を伝えよっ!」


「よろしいのですか?

 確か貴国は建国皇帝の命により、あらゆる宗教活動は阿片と同じであるということになっていて、完全に禁止されていらっしゃいますよね。

 その中で正式に天部に抗議などしたら、仏教を認めてしまうことになりませんか?」


「!!!!!!!!!」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その後、アメリカ合衆愚国政府からタイ王国政府を通じて天部に丁重な依頼が来た。

 折から急拡大していたカリカリフォルニア州の山火事消火のために、あのコアラ像を貸してもらえないかとの要請である。

 もちろん大地はこれを許し、アメリカ空軍に貸与されたコアラ像10基が太平洋を渡った。


 その後、アメリカ国内の半導体製造産業から、極秘裏にホワイトハウスに陳情が行われた。

 アメリカのコンピューター産業の発展のために、あのコアラ像を密かに調査させて貰いたいというものである。


 ホワイトハウスの返答は、

『カリカリフォルニアの空に汚穢が撒かれ、ワシントンDCも糞尿に沈んだ場合の賠償金1兆ドルを用意してからにしろ』

 だったそうである……



 カリカリフォルニア州内52個所で猛威を振るっていた山火事も、僅か1週間で完全に鎮火した。

 ホワイトハウスからは、タイ王国政府を通じて深甚なる感謝の意が大地に伝えられたのである……





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ