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*** 151 オーストコアラリア救援 ***

 


 或る日のアルス中央ダンジョン幹部会にて。


「まずはみんなにこの幹部会の新メンバーを紹介しよう。

 もうみんな知っているだろうけど、ヒト族のガリオルン・ブリュンハルトだ」


「ガリルとお呼びください。

 みなさんよろしくお願いいたします」


「「「 こちらこそよろしくお願いします 」」」


「ガリルたちは、主にヒト族の国を回って避難民や孤児たちを集めているし、悪党たちも大勢捕らえてくれているんだ。

 北大陸でも大活躍だったしね」


「いやまあダイチに言われた通り動いただけだったけどね」


「実際ずいぶん助かったよ。

 それから、みんなのおかげで地球の国を2つほど救うことが出来た。

 これもありがとう」


「じゃが、それらの国を救うたことによって、膨大な量の食料を贖うことが出来たのじゃろ?」


「そうだね、おかげで20万人の1年分の食料を追加で溜めることが出来てるな」


「凄まじいのぅ。

 地球はやはり豊かなのじゃの……」


「まあ人口が多いからな。

 タイ王国には6800万人のヒューマノイドがいるし、インドドの水不足を救った地域には2億人もいるからね。

 それだけの人口を支える農業生産があるんだよ」


「それもまたすごい話じゃ……」


「この中央大陸だって、戦争が無くなって平和になったら、人口はすぐに1億ぐらいになるんじゃないかな」


「そのためにはもっともっと頑張らねばの……」


「そうだね。

 北大陸も順調だし食料も溜まったしで、これからは本格的に中央大陸のダンジョン村の住民を増やして行こうか。

 シス、今のダンジョン村の人口は?」


「8万人を超えて9万に迫っているところでございます」


「それじゃあ北大陸に派遣していたモンスター部隊も帰って来たから、大森林内の種族たちへの避難勧告部隊をもっと増強しようか。

 イタイ子、200組ぐらいに増やしておいてくれるか」


「心得たわ」


「シスとテミスは、モンスターたちによる街道や街の悪党捕獲部隊をもっと増やしてくれ」


「「 畏まりました 」」


「淳さんはシスくんと一緒に受け入れ態勢の一層の強化をお願いします」


「了解」


「良子さんはダンジョン村の食堂街をさらに増やしていただけますか」


「はい。

 レストランや料理工場は大人気の職場ですので、大丈夫だと思います」


「ガリルには、引き続き各国でのオークション開催と、奴隷の買い付けと、村人たちへの避難勧告をお願いするよ。

 もちろん商品も金貨もいくら使っても構わないから」


「はは、いくらでもカネを使っていいっていうのは凄いな。

 わかった。任せておいてくれ」


「それじゃあみんなよろしく頼むぞ」


「「「 はい! 」」」




 ダンジョン村の運営は実際実に順調だった。


 最近では、異世界狂の淳はアルスに大量の写真機材や撮影機材を持ち込んでいて、村人たちの写真や映像を撮りまくっている。

 その中で特に人気があったのは、モンスターや獣人たちの家族写真であった。


 まずは族長が家族と共に写真に納まり、それをA3判にプリントした上で木工所製の写真立てに納められ、各種族の集会所に飾られたのである(ガラスは地球産)。

 その写真には下隅に大地のサインまであった。


 これらの写真は各種族を魅了したのである。


 しばらくして淳の写真館が完成し、そこでは12人の弟子たちに写真の撮り方や印刷機やソーラー発電機やバッテリーの扱い方を教える淳の姿が見られたそうだ。

 そのおかげで、順番に村人たちの家族写真も撮影されていったのである。



 そして……

 こうした家族写真を見るたびに、モンスターや住民たちは今の生活の幸福を噛みしめ、大地への感謝と忠誠心をますます高めていったらしい。



 特にモンスター族の族長たちは……


(この孫たちの笑顔……

 我がこの子らと同じ年頃のころに、このように屈託なく笑っていたことがあっただろうか……)


(マナだけで生きていた子供のころは、わしの体は小さかったのう……

 それがこの子らはどうだ。

 なんと大きく立派に育っていることであろうか……)


(これはわしの子や孫だけではないの……

 種族の子らが皆大きく逞しく育っておる。

 読み書きや計算まで出来るようになっておるしの……)


(この上は、族長たるわしはいつ死しても大丈夫じゃ。

 後継者たる次の族長候補たちも、我が族長になったときよりも遥かに大きく強い。

 これならば、我が子孫も種族もずっと安全に豊かに暮らして行けることじゃろう……)


(ということはだ。

 我に残された使命とは、これらすべての幸福を齎して下さったダイチさまを奉じ、そのご命令に従って働くことのみよ。

 例え死地への突撃を命じられようが、安心して死んで行けるぞ。

 これは一族の長老や戦士たちも同じ思いであろう……)



 ということで……

 単に『家族写真を撮ってあげる』という行為が、超強者たちの狂信的軍団を作ってしまっていたのであった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ねえタマちゃん、シスの負担を減らすために、モンスターやガリルたちに『転送』のスキルって持たせたいんだ。

 街道や街や村での悪党退治のときに、彼らの力で対象の悪党をストレーの中に転送させられるように」


「ツバサさまに頼めばそのスキルも作ってくれるとは思うにゃけど……

 ストレーくんの中に転送させるだけにゃから、悪用は出来にゃいか……

 にゃったら多分E階梯2.5以上あればOKにゃないかにゃ」


「そのスキル、神界に行ってツバサさまに作って貰って来てくれないかな」


「了解にゃ」



「ところで、スラさん。

 インドドはどんな状況になっていますか?」


「ダイチさんのご提案の通り、綿花畑を3割ほど穀物や野菜の畑に転換しているところです。

 今までは平野部の農地と競合するためにあまり野菜は作っていなかったようなんですけど、バハー首相がダイチさんの援助で農産物買い取り公社を作ってくれましたから、皆喜んで穀物と野菜を作り始めています」


「それはよかった。

 ただでさえ綿花って生育に大量の水を必要としますからね。

 旱魃の危険の多い地域で作る作物じゃあないでしょう。

 それに、これでまたうちの食料備蓄が進みますし。

 あ、ところで、農産物買付の代金は金のままでよかったんですか?」


「なにしろインドドは世界第2位の金消費国ですからね。

 大歓迎だとのことでした。

 それでバハー首相から頼まれたことがあるのですが」


「何でしょう?」


「インドドでもタイと同じように金の1キロインゴットを売って頂きたいのだそうです。

 出来ればガネーシャ像の刻印を押したものを」


「はは、それじゃあそうしましょうか。

 シス、ガネーシャ刻印付きの1キロインゴットをまた100万本ほど作っておいてくれ」


「はい」


「タイ王国の状況は如何ですか?」


「おかげさまで順調です。

 なにしろいくら農産物が豊作になっても、ダイチさんのおかげで値崩れしませんからね。

 それに、世界各国の製造業からアユタヤ大工業団地への工場進出要請が殺到しているんですよ」


「ほう」


「タイは一応東南アジアのハブとしての地位を確立していますから、各国の企業も製造拠点を作りたかったのでしょう。

 ですが、ネックになっていたのが2011年の大洪水だったんです。

 あのときは、アユタヤの工場群も大きな被害を受けましたし、そのせいで損害保険料も高止まりしていましたし。

 ですが、今回の『タイの奇跡』によって、アユタヤの安全性が証明されてしまったものですから、進出希望が殺到しているようです。

 なにしろ、工業団地入り口前にはあの天部像が鎮座して下さっていますからね」


「ははは、なるほど」


「ですから、政府としても嬉しい悲鳴を上げているのですが、問題もあるようなのです」


「といいますと?」


「なによりもまず電力不足ですね。

 今でもベトナムやラオスから電力を購入しているぐらいですから。

 火力発電所を建設するのも環境汚染の懸念がありますし。

 現在、日本とフラフランスから原子力発電所建設の強力なオファーが来ているのですが、まだまだタイ国内には原子力技術者が少ないですからね。

 政府もかなり悩んでいるようです」


「そうでしょうねぇ。

 建設も運用も外国に任せるわけにはいかないでしょうし。

 万が一原子力事故でも起きたら、その被害は洪水どころじゃないでしょうから」


「はい」


「ところで、申し訳ないんですけど、スラさんにはまたお願いがあるんです」


「なんなりとお申し付けください。

 なにしろダイチさまは我が母国の大恩人であらせられますから」


「まあ、おかげで食料が得られたんですから、あまりお気になさらずに。

 今、スラさんはアルスの日中はこちらで働いてくださって、アルスが夕方になると地球のタイ王国に戻られて、食料調達をして下さっていますよね」


「ええ」


「それでですね、俺もジムでのコーチングのためにそれなりに地球には戻っているんですけど、地球のニュースを見ている暇が無いんです。

 ご存じのようにアルスから地球の情報は得られませんし。

 ですから、タイにいらっしゃる間にタイとインドドと日本を中心に、世界の主要なニュースをまとめておいて頂けませんでしょうか。

 映像でも音声だけでも構いません。

 ストレーの時間停止倉庫でチェックさせていただきますから」


「畏まりました。

 陛下がわたしのオフィスに5人ほどスタッフを付けてくださると仰られていましたので、彼らにも手伝ってもらいましょう。

 ということは、タイやインドドと同じように自然災害を救援されるかもしれないということですね」


「ええ、タイでもインドドでも、ストレーとシスが見事に災害を防いでくれましたからね」


「「 えへへへへ…… 」」


「それで、スラさんはアルスでもタイでもお忙しいでしょうから、ストレーの時間停止倉庫の中に、スラさん専用の住居を用意させて頂きたいと思います。

 建物はシスに用意させますから、家具なんかはお好きなものを持ち込んでください」


「ありがとうございます。

 ところで、タイやインドドに次ぐ自然災害と言えば、今は何と言ってもオーストコアラリア東部の森林火災ですね」


「そんなに酷いんですか……」


「既に10万平方キロに渡って類焼してしまっています」


(日本の面積の4分の1以上か……)


「人的被害は最小限に抑えられているようなのですが、野生動物の被害は10億頭にも上るとの試算があります」


「原因はなんだったんですか?」


「記録的猛暑とやはり記録的な旱魃です。

 オーストコアラリアは広い上に、火災発生個所も数千か所もあるそうなんです。

 現在世界各国から輸送機が派遣されて消火活動を行っていますが、なにしろ現在世界最大の輸送機でも80トンほどの積載量しかありませんので、住宅地付近に水を撒くのが精いっぱいのようなんです。

 我が国からも空軍のC-17輸送機が2機派遣されています」


「そうですか、でも僅か80トンじゃあ文字通り焼け石に水ですね。

 消火用水を積載して飛行場から飛び立つんですから、どんなに急いでも1回あたり2時間はかかるでしょうから」


「はい」


「ストレー、今お前の中にはどのぐらいの水がある?」


「約150億トンでございます」


「それじゃあ、オーストコアラリアで水撒きをしようか。

 あのガネーシャ像からは1時間当たりどれぐらいの量の水を出せたんだ?」


「魔方陣の大きさを変えることでいくらでも多く出来るのですが、ダムを破壊しないために最大でおおよそ毎時400万トンでございました」


「すげぇな、現代最新鋭の輸送機に比べて10万倍の消化能力かよ。

 でも、いくらなんでもそれじゃあ多すぎるかもだ。

 それじゃあシスとストレー、最大放水量毎時40万トン級の魔道具を50個ほど用意しておいてくれるか。

 オンオフのスイッチ付きでな」


「「 はい 」」


「スラさん、確かC-17輸送機って、空中給油出来ましたよね。

 それから空挺部隊のパラシュート降下のために、飛行中でもカーゴベイの扉を開けられたと思うんですが」


「はい」


「それじゃあ陛下や首相に、オーストコアラリアに派遣しているC-17輸送機を交代させるように伝えて頂けませんか。

 交代機には、操縦クルーと水散布要員を6時間交代で24時間体制で勤務させられるようにして。

 あと、大量の食料や飲料水も搭載するように言ってください。

 まあ、5日に1度は機体整備のために空港に着陸しなければならないでしょうけど、1機辺り1日で1000万トン弱の水を撒けるでしょう」


「にゃあダイチ、そんなにたくさんの水を撒いたら下の地面に被害が出にゃいかにゃ?」


「水って高度1000メートル以上の上空から落とすと、表面張力で地表では雨や霧になるんだ。

 それに、航空機だからゆっくり飛んでも時速400キロにはなるだろうからね。

 だから、念のため高度2000メートル辺りから水を撒けば大丈夫だよ。

 それで洪水が起きそうになったら、飛行速度を上げるか魔道具を止めればいいし」


「にゃるほど」


「畏まりました。

 早速陛下に連絡を取りまして、交代のC-17輸送機を2機用意して頂きましょう」



「それにしても、2機で1日当たり2000万トンの水散布か……

 今ある150億トンの水じゃあ少し心もとないな。

 ストレー、南極の氷河からの氷の収納を進めておいてくれ。

 目標は200億トンだ。

 もちろんその分は海水も200億トン汲み上げて、南極中央部に撒いておいてくれな」


「はい」


「タイ空軍の輸送機が消火活動を始めたら、タイ外務省からオーストコアラリア政府に申し入れてもらって、大陸中部の砂漠地帯に大きな溜池を作って氷を溶かそう。

 シス、なるべく黒い石を溜池用に用意しておいてくれ」


「畏まりました。

 ところでダイチさま。

 水撒きの魔道具の上に乗せる像は何の像に致しましょうか」


「そうだな……

 まあ、オーストコアラリアだから、コアラでいいんじゃね?」


「「「「 ………… 」」」」





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