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*** 149 鍛錬風景の録画 ***

 


 大地は説明を続けた。


「今後は虫病の治療のために、順番に全てのヒューマノイドを集めようと思っています。

 ついでにダンジョンに招待して食事も食べて貰えれば、ヒューマノイドたちの間でダンジョンを認知してもらえるでしょうから」


「なるほど……

 彼らは多かれ少なかれ寄生虫症に感染しているからな……」


「そうなれば、冬のブリザードのときにも無事にダンジョンに避難して来られますし」


「「 !!! 」」



 国王陛下とバハー氏は顔を見合わせた。


「のうバハーよ……

 これでもう我らも悪夢に魘されることもあるまいな……」


「そうだなワトラー、ようやく45年前のトラウマが解消されそうだ……」



 画面がダンジョン内のヒト族のコロニーに切り替わった。

 そこでは10人ほどの男たちが、徒党を組んで他の住民を脅している。


 と、突然その男たちが、その場で絶叫しながらのたうち回り始めた。



「このコロニーには、『幻覚の魔道具』という物を設置してあります。

 この魔道具は、『他人を暴力などで脅して従わせようとしたとき』を発動条件にして、その人物が経験した最も強烈な痛みと恐怖をフラッシュバックさせるものなんです」


「な、なるほど……」


「さらに、この魔道具を2回発動させた者は、自動的に『変身刑』が下されるように設定しました」


 画面では、身長が50センチほどになった男たちが固まって震えている。



「もちろん、過去に殺人や殺人教唆などの犯罪歴があるものは、刑務所の独房に収容してあります。

 基本的には終身刑になりますが、服役態度によっては自然環境ダンジョンで農業も出来るようにしてやる予定になっています」


「見事だ……」


「ああ、こんな解決方法があったとはな……」


「それにしても不思議ですよね。

 アルスのヒト族は過酷な環境下で『収奪のための王制』を作り上げますが、その他のヒューマノイドは、環境が過酷なほど、そして弱者ほど助け合って生きて行きます。

 アルス中央大陸では、ヒト族の体の大きさや強さとE階梯は見事な反比例関係にありますので」


「それがサルから進化したヒト族の業なのかもしらんな……」


「そうだな、地球でもつい100年前までは全く同じだったろう……」


 画面では、幸せそうに食事をしているペンギン族の親子の姿を映したまま、エンディングロールが出始めた。



「それにしてもダイチ殿。

 いったいどのようにして、このような力や巨額のダンジョンポイントを得られたのでしょうか……」


「今中央大陸ダンジョンでは、毎日モンスターを集めたモンスターハウスで、わたしが戦っているんです。

 おかげでみんなレベルアップしたり進化したりしていますし、ダンジョンポイントも稼げますからね」


「なんと……」



 皆の頭の中にシスくんの声が聞こえて来た。


(ダイチさま。

 中央大陸ダンジョンでのダイチさまとモンスターたちの鍛錬の様子も録画しておりますが……)


「はは、そんなものまで録画してたのか。

 それじゃあ見て頂いた方が早いかな。

 皆さんよろしいですか?」


「是非見せてくだされ……」


「それじゃあシス、頼んだ」


(畏まりました)



 レコーダーからDVDが取り出され、代わりにどこからともなく現れたDVDが挿入されて映像がスタートした。


『中央大陸ダンジョン鍛錬風景』というタイトルの後は、大きな広間で大地を取り囲む実に1600体ものモンスターたちの姿が映っている。


 またシスくんのナレーションが入った。


『こちらのモンスターたちは、種族ごとに並んでいまして、また前列ほどレベルの低いモンスターになります』


 大地の声が聞こえた。


「それじゃあみんな、鍛錬を始めようか。

 いつもの通り前列の者から順番に俺を攻撃するが、最初はウィル・オー・ウィスプ族の男の子たちからだな」


「「「「 はいっ! 」」」」


 まず、大地はリフレクト・ウィル・オー・ウィスプの男の子たちを軽く殴って行く。

 ウィル・オー・ウィスプたちは平然としていたが、大地の体には少し痣が付き始めた。


「ウィル・オー・ウィスプ族の男の子は、物理攻撃反射能力を持っていますので、彼らにはダメージが入りません。

 代わりに物理攻撃を加えたダイチさまにダメージが入っています」


「それじゃー、ウィル・オー・ウィスプ以外のモンスターたちは攻撃を始めろ!」



 20種類のモンスターたちが一斉に大地に襲い掛かった。

 大地はそれらの攻撃を反撃せずにその場で受けている。

 前列にいたモンスターたちは、大地に攻撃を加えるたびにその場で昏倒し、後方のモンスターたちに担架で運ばれていっていた」


『レベル10以下のモンスターがレベル53のダイチさまに攻撃を加えると、一気にレベルが3以上上がるために、こうしてレベルアップ酔いを起こして気絶します』


 そのうち、空中からの火球やウインドカッターの攻撃も加わって、大地の体も傷つき始めた。


 さらに後方のレベルの高いモンスターたちが参戦すると、大地の体はボロボロになっていく。

 あちこちでモンスターたちが光り始めた。


『この光はモンスターたちが進化する際の光です。

 例えばゴブリンがゴブリンソルジャーになり、またゴブリンコマンダーに進化したときには、こうして光りながら進化するのです』



「よーし、みんな1回は俺に攻撃を加えたな。

 まだHPも少し残ってるから、気絶していない者はまた順番に俺を攻撃して来い!」


「「「 はいっ! 」」」



 間もなく大地の体が光のエフェクトに変り、ダンジョンに吸収されていったが、大地は無傷の姿ですぐにその場に復活した。


「それじゃー、もう1回俺を攻撃しろー!」


「「「 はいっ! 」」」


 画面ではこうした光景が何度も繰り返されている。



「ダイチ殿…… この鍛錬は……」


「もちろんこの鍛錬ではダンジョンポイントはほとんど稼げません。

 リポップされるようにしてもらった代償で、ダンジョンポイントはわたしのレベル53×10にしかならないようになっていますから。

 ですから、ここまでの鍛錬は全てモンスターたちのレベルを上げて進化させてやるためのものなんです」


「なるほど……」




「よーし、それじゃあ今度は俺からも攻撃するからなー」


「「「 はいっ! 」」」


「よし、まずは『サンダーレインLv8』だ!」


 その場に1000本近い雷が落ちた。

 半数以上のモンスターが光のエフェクトと共に消えて行く。


 だが、そのうちの25本ほどが大地に向かって反射された。



『先ほどのウィル・オー・ウィスプ族の男の子は物理攻撃反射型ですが、女の子は魔法攻撃反射型なので、こうして魔法攻撃の一部がダイチさまに向けて反射されています』


 大地は物理攻撃で魔法反射型ウィル・オー・ウィスプたちを倒して行った。


 残りの半数ほどのモンスターに対して、アイスジャベリンシャワーが降り注ぐ。

 最後に残った8体ほどの族長クラスのモンスターは、ウインドカッターで片付けた。


 すぐに全てのモンスターがリポップして来る。


「みんな腹減ったろう。

 今菓子パンとジュースを配るから、10分間の休息だ」


「「「 はいっ♪ 」」」


 この鍛錬の様子も途中省略されながら10回繰り返された。

 モンスターたちに『心の平穏Lv10』の魔法が降り注ぐ。


『この魔法は、モンスターたちに心の平穏を齎して、今の恐ろしい体験のトラウマを取り除いてあげるためのものです。

 通常の魔法ですとウィル・オー・ウィスプ族の女の子は反射してしまうのですが、レベル10ともなると如何に魔法反射型ウィル・オー・ウィスプ族でも効果があるようです』



 その後は、モン村&ダン村幼稚園や保育園や畑やレストランや魚処理工場で働く通常形態のモンスターたちの姿が紹介され、エンディングロールを迎えた。


 最後にまたシスくんのナレーションが入る。


『この1605体のダンジョンモンスターたちの平均レベルは18.2になります。

 ですから1回の戦いでダンジョンが得られるダンジョンポイントは18.2×1605×1605になり、約4688万ダンジョンポイントの収入がありました。

 この日はこうした鍛錬を10回繰り返したために、ダンジョンの収入は約4億6880万ポイントにも達したのです。

 つまり、ダイチさまとモンスターたちは、ほぼ毎日の鍛錬で月間120億を超えるダンジョンポイントを稼いでいるのです。

 おかげで内部ダンジョンも外部ダンジョンも大幅に拡張出来ていますし、ダンジョン内での作業も捗るようになりました……


 つまり……

 ダイチさまは、単に神界から与えられた能力だけではなく、そのご努力によってダンジョンをここまで進化させて来られたのであります……

 我々サポートシステムやダンジョンモンスターたちは、そうしたダイチさまを深く深く尊敬申し上げておりますのです……』


 DVDの映像が終わった。



「ははは、シス、ちょっと褒め過ぎだぞ」


(いえ……

 どなたも反論はされないと思います……)



 ダイチは周囲を見渡した。

 国王陛下もバハー氏もミンナ嬢もヘンナ嬢も、全員顔面蒼白になっている。

 特にお嬢さん2人は完全に涙目になっていた。

 ジージくんもしっぽや体の毛が盛大に膨らんでいる。


 だが……

 見ればジージくんの前の皿からお菓子が少しずつ消えていっていた。


(タマちゃん……

 それジージくんのお菓子でしょうに……)


(気づいてないみたいにゃから、だいじょうぶにゃ♪)


(……まったく……)



 国王陛下が震える手もそのままに口を開いた。


「これでようやくわかりました。

 当時の我らと同じダンジョンマスターであるダイチ殿が、なぜたったの2か月で北大陸に幸福を齎せたのか……

 そして、我がタイ王国の大水害を奇跡の力で未然に防いでくださることが出来たのか……」


「「 えっ…… 」」


「はは、お嬢さん方はご存じありませんでしたか。

 しばらく前に全世界で話題になった『タイの奇跡』は、すべてこのダイチ殿が為して下さったことだったのですよ」


「「 ええぇぇ―――っ! 」」


「あ、あの仏像と天部像が川やダムの水を吸い取ったのって……」


「そうです、すべてダイチさまのお力でした……」


(にゃあダイチ、ミンナとヘンナがダイチを見る目がハート形になってるにゃよ♪)


(タマちゃん、それ絶対に口にしないでね)



「それではみなさん、別室にお食事をご用意させていただきましたので、恐縮ですが部屋を移って頂けますでしょうか」


 タマちゃんたちはワーキャット姿に変身し、一行はダイニングに移動した。

 まもなく和洋タイの各種料理が大量に運ばれて来る。

 どうやらテーブルの中央に大皿料理が置かれ、執事さんにお願いすると、各自の小皿に取り分けてくれるスタイルの様だった。


 全員が素晴らしい料理を褒め讃えながら食事をした。

 食後のデザートも食べ終わると、また陛下の執務室のソファに戻る。

 すぐに紅茶やコーヒーが用意された。



 国王陛下が背筋を伸ばす。


「ダイチ殿、実は不躾ながら本日もお願いがございます」


「お聞かせくださいませ」


「こちらのバハーは、親の後を継いだ第12代のマハーラージャ(藩王)でして、現在インドド共和国のマハーラーシュトラ州の25%を所有する大地主であると同時に、州政府の首相を務めておるのです」


(やっぱりそんな貫禄だよな……)


「それでな、ダイチ殿。

 貴殿も聞いているかもしらんが、インドド南部のデカン高原は今100年ぶりという大旱魃に苦しんでいるのだ」


(し、知らなかった……

 こ、これからは地球のニュースも見た方が良さそうだ……)


「おかげでゴーダバリー川、クリシュナ川、カウベリー川という大河川がほとんど干上がってしまったのだよ。

 そのせいで今年の夏の農産物生産は壊滅的な打撃を蒙っているのだ」


「それでダイチ殿、一度はご自由にお使い下されと申し上げたタイ大洪水を防いで頂いたときの水なのですが、どうかその一部をインドドに回してやっていただけませんでしょうか」


「ガンジス川などは、ヒマヤラ山系の雪解け水を源流としているために干上がることは無いのだが、デカン高原の河川は全て降雨に依存しているために、雨が降らなければどうしようもないのだ」


「ということは、本来モンスーン期に降るはずだった雨がほとんどすべてインドシナ半島に回ってしまったということなのですね」


「ああ、おまけに台風までこっちに来ちまったんだ」


「テミス、あの水でインドド共和国も助けてあげて構わないかな」


(今のお話の間に神界から了承を取り付けております。

 神さま方はダイチさまの思う通りに行動せよと仰られていらっしゃいました)


「ありがと」





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