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*** 145 城壁建設見学 ***

 


「さてアデルゴ村長さん、そろそろ円盤を下ろすけど、俺が降りる前に種族連合の幹部たちのところへ行って説明して来てくれるかな」


「か、畏まりましたです……」


 地面に下ろした円盤から村長たちが建物に向かって歩き始めると、集まっていた連中から驚きの声が上がっている。

 知り合いのペンギン族が、あのような不思議な乗り物から降りて来たからだろう。

 まもなく村長たちの前に、連合の幹部らしき面々がやって来た。


 アデルゴ村長は、幹部たちに身振り手振りも交えてなにやら必死に説明している。



(ダイチさま、海中城壁を作り終わりました。

 このまま陸上の城壁を作り始めてもよろしいですか?)


(そうだな、東西の端から作り始めてくれ。

 中央部の300キロほどは少し待っていてくれるかな。

 あの種族連合の長老連中にも城壁を作っているところを見せてやろう)


(畏まりました)



 どうやらアデルゴ村長の説明が終わったようだ。

 ペンギン族、アザラシ族、アシカ族、トド族、白熊族の長老格とみられる5人が大地に近づいて来たので、大地も円盤を降りた。


「やあ初めまして。

 俺はダンジョン村の長で大地という。よろしく」


 中央の大きなペンギンが口を開いた。


「わしは種族会議議長のエンペルーという者だ。

 ヒト族よ、なんのためにここまで来た」


(あ、これ、エンペラー・ペンギンだな……

 それにしてもやっぱヒト族は信用されてないのか)


「俺がここに来たのは、神界に頼まれてこの大陸の各種族に幸福を齎すためだ」


「幸福を齎すためだと」


「そうだ、そのための第一歩として、海の中に城壁を作らせてもらった」


「なんと……

 あれをそなたが造ったと申すか」


「そうだ」


「「「 ………… 」」」


「城壁の役割は2つある。

 ひとつ目は、海岸から城壁までの間のシャチを排除して、諸君らの漁を安全なものにすることだ」


「先ほどから壁の内側にいたシャチが宙に浮き、城壁の外に放り出されていたが、それも貴殿がやったと申すか」


「そうだ」


「ふむ、先ほど兵士を派遣して調べさせたが、壁には我らが潜れるほどの穴が無数に開いているそうだ。

 ということは、魚は入って来られるが、シャチは入って来られないということなのだな」


 周囲の人垣からどよめきが起きた。


「まあ子供のシャチは入って来られるだろうがな。

 だが、その程度の大きさならば、あんたたちでも対処は出来るだろう」


「うむ」


「それから、あの城壁の役割として、冬にやって来る流氷を海岸に寄せ付けないことがある。

 海面に多少氷は張るだろうが、その程度なら毎日海岸の氷を砕いていれば、海への安全な入り口は確保出来るだろう」


「「「 おお! 」」」


「そのためだけにあのような巨大なものを造ったというのか……」


「そうだ」


「あの壁はどれぐらいの長さがあるのだ?」


「ここからあの壁までの距離は、俺たちの単位で10キロある。

 左右の長さはその300倍で3000キロだな」


 またどよめきが上がった。


「ということは、これから我々は陸の肉食獣だけに気をつけていればいいということなのか……」


「いや、ここから5キロほど陸側入ったところにも今城壁を作っている。

 それが完成すれば、陸の肉食獣もシャチと同じように城壁の内側から排除出来るだろう」


「なんと……」


(あ、白熊族の兵士たちがちょっと項垂れてる……

 自分たちが失業しちゃうって思ったのかな……)



「ところでみんな、海の城壁や陸の城壁を造っているところを見てみないか」


「そ、それはまさかその乗り物に乗ってか」


「そうだ、空中からの方がよく見えるからな」


 長老たちが互いに顔を見合わせて困惑している。

 アデルゴ村長が、あの乗り物は全く揺れずに安全だったと説明を始めた。



「そ、それでは見学させて貰いたいが、長老衆だけでなく、ここにいる幹部たちや兵士たちも乗せて貰えるだろうか」


「もちろんだ。是非乗ってくれ」



 総勢30人ほどのメンバーが恐々と円盤に乗り始めた。

 皆手摺沿いに立って辺りを見回している。


「それじゃあ出発するぞ」


 円盤がゆっくりと宙に浮き始めた。

 種族会の面々は、或る者はその場に座り込み、また或る者は手摺が砕けんばかりに握りしめている。

 高度100メートルほどに上昇した円盤は、そのままゆっくりと沖合に向かい、城壁の上空に静止した。


 その眺めは圧倒的だった。

 なにしろ長さ3000キロと言えば、東京-鹿児島間の直線距離の3倍に匹敵する。

 城壁は海岸の形に沿って全体では弧を描いているが、このスケールではそれは分からない。

 過去数千万回から数億回もの冬の間、海流に乗って動く流氷に削られて、この大陸の南側はかなりはっきりとした円弧形状をしているが、その緩やかな弧に沿って、城壁は東にも西にも水平線の彼方に見えなくなるまで続いていた。


 座り込んでいた多くの乗客たちもよろよろと立ち上がって、そうした光景を息を呑みながら見ている。


「な、なんという凄まじい城壁だ……」


「こ、これだけ広ければ魚を獲り尽くすこともあるまいな……」


「それにしても、よくもまあこれだけの物を造れたものだ……」


「まあ、俺の力というよりは、神さまの力を貸してもらっただけなんだけどな」


「そうか……」


「それじゃあ、これから今作ってる陸の城壁が完成するところを見に行かないか?」


「よろしく頼む……」



 一行を乗せた円盤はシスくんの誘導で内陸部に向かい、5キロほど奥に入ったところで停止した。

 眼下には、ところどころに灌木が生えただけの荒涼とした土地が広がっている。


(シス、残りの城壁を完成させてくれ)


(畏まりました)


「さあ始まるぞ」


「「「「 ………… 」」」」



 眼下の土地が直線状に窪み始めた。

 その窪みから得られた岩石や土砂が南側に積み重なっていく。


 そして……

 東西から四角いものが走って来た。

 地球人が見たら、巨大な電車が走って来るようだと思ったことだろう。

 その岩の塊は、一行が見守る中で静かに衝突して城壁が完成したのである。


 その城壁は、底面の厚さが15メートル、高さが20メートル、上面の厚さが20メートルという構造になっていた。

 つまりオーバーハング形状であり、手掛かりも無い壁を登るのは不可能に近いだろう。


 そうして東西の長さはやはり3000キロ。

 もう少し色が付いていれば、宇宙空間からでも視認出来るほどの巨大構造物だった。


「「「「 ……………… 」」」」


 もちろん観客たちは声も無かった。

 これほどの城壁が、見ている間に完成してしまったのである。

 土木技術どころか金属器すら持っていない文明から見れば、まさしく神の技だったろう。


 いや、現代地球人であるミンナとヘンナの口も大きく開いているところを見ると、彼女たちにとっても大驚愕だったようだ。



「後は今城壁の内部にいる肉食獣を外に追い払うだけだな。

 これでみんなも少しは安全に暮らせるようになるんじゃないか?」


「あ、ああ……

 なんとお礼を言っていいものやら……」


「これが神の使いの力……」


「それじゃあ種族会の本部に戻ろうか」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 中央大陸ダンジョンくん:


「どうだ俺の仕事は!」


 北大陸ダンジョンくん:


「す、すげぇ…… あ、アニキと呼ばせてくだせえ!」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 一行を乗せた円盤は、本部の建物前にゆっくりと着地した。



(にゃあダイチ、あの建物のにゃかに60人ほど人がいるんにゃけど、その半数は随分弱ってるみたいにゃよ)


(ありがとタマちゃん)



「なあ長老さんたち、あの建物の中には病人がいるのかい?」


「神の使徒さまにはそのようなことまでわかるのですか……

 我々は多かれ少なかれ『虫病』に罹っておるのですが、体力の無い年寄りや子供のうち、重体になった者を収容して看病しておるのです」


(虫病…… 寄生虫症か……

 そうだよな、こいつらほとんど魚は生食だろうからな。

 海の魚には寄生虫は少ないだろうけど、それでもいないわけじゃないし、母川回帰性の半分川魚みたいなのもいるだろうし)


「その虫病には手当の方法はあるのかな」


「ある種の薬草を食べれば治る者もおるのですが、全員ではありません……」


(あ、それってたぶんセンダンだな。

 あれは一部の寄生虫に効果があるそうだから)


「それに夏の実りが少なかったせいで、その薬草もほとんど無くなってしまいまして……」


「そうか……」


「ストレー、『治癒系光魔法Lv8&クリーンLv8』の複合魔道具ってあといくつある?)


(2台ございます。

 空の大魔石はたくさんございますが、魔力装填済み大魔石は残り100個ほどでございますね)


(そうか、中央大陸ダンジョンでもけっこう使っただろうからな)


(はい)


(ねえタマちゃん、確か光魔法もクリーンの魔法も、閉鎖空間の方が効果は高いんだよね)


(その通りにゃ。

 にゃから室内の方がいいにゃあ)


(でも最初は魔道具じゃなくって、俺の直接魔法で治してみるか……)



「長老さんたち、もしよかったらここで患者さんたちに俺の魔法を使ってみたいんだ。

 ひょっとしたら治るかもしれないぞ」


「ほ、本当ですかの!」

「是非お願い申し上げます!」


「それじゃあ試してみよう」



 大地は長老たちに案内されて建物の中に入って行った。

 そこでは老人や子供たちが辛そうに眼を閉じて横たわっている。

 特に子供の腹部はそれとわかるほどに膨らんでいた……



(それじゃあまずこの子を診断してみるか……)


「スキル『診断Lv5』……」


『寄生虫症(アニサキス)、体力低下大』


(やはりそうか……)


「治癒系光魔法Lv8…… クリーンLv8……」


 建物の中がまばゆく光った。

 その光が収まると、ほとんどの患者が目を開けている。


「スキル『診断Lv5』…… 『病状なし。体力低下中』

 お、上手くいったな……」



「な、なんだったのだ今の光は……」


「エンペルー議長さん、どうやらみんな治ったようだぞ」


「ほ、本当ですかの!」


「だがまだ体力は相当に落ちているようだから、しばらくはたっぷり食べて安静にしていた方がいいな」


「畏まりました。

 それではさっそく皆を漁に行かせて……」


「いや、もっと消化のいい食べ物の方がいいぞ。

 シス、ダンジョンの食事処の準備は出来ているかな」


(はい、モン村婦人部隊が準備を終えています)


「それじゃあ、ここと食事処を転移の輪で繋いでくれ」


(はい)


「ストレー、確か淳さんが担架を作ってたよな」


(はい、たくさんございます)


「それ、ここに大型と小型のものを30台ほど出してくれるか」


(はい)



「長老さんたち、この輪を潜るとダンジョンの中に行けるんだ」


「ダンジョンとは、恐ろしいモンスターが出て来る場所なのでは……」


「ダンジョンの1階層にはモンスターが出ないようにしたんだ。

 ついでに穀物の粥も食べられるようにしてあるし。

 だから、この担架で患者さんたちをダンジョンに連れていって、しばらく養生させてあげたらどうかな。

 それから、試しにここにいるみんなも一度見学に行ってみないか?」


「ぜひお願いしたいと思います……」


「それじゃあ白熊族のみなさん、あなた方ならこの担架に患者さんを乗せて連れていってあげられるだろう。

 お願い出来るかな」


「畏まりましたですじゃ……」





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