*** 144 種族連合 ***
「ねえタマちゃん、なんかヒト族の3割が牢屋に入れられちゃってるし、5割が身長50センチになっちゃったね」
「酷い種族にゃねぇ」
「こうしてみるとさ、地球の知的生命体がヒト族しかいなかったのって、まだマシだったのかも」
「うにゃ、もしも他の平和な種族がいたら、ヒト族に襲われて支配されて、随分と悲惨な社会になっていたろうにゃね」
「もうヒト族は全員牢屋でもいいから、他の種族を救援に行こうか」
「にゃ」
「シス、海沿いと海底のダンジョン化は終わってるかな」
「はい」
「その範囲内の最大水深は?
それから大型生物は?」
「最大水深は160メートル、平均水深は120メートルほどですね。
大型の生物は、最大体長15メートルほどのシャチに似た生物と、少数ながら体長50メートル近いクジラに似た生物がいます」
「それじゃあ、その海底ダンジョンの周囲に直径50センチの穴の開いた城壁の建設を。
海面からの高さは20メートルで、冬に流氷に囲まれても大丈夫なように頑丈に頼む。
陸上側の城壁は内陸方向5キロ地点で、高さはやはり20メートルでいいだろう」
「畏まりました。作業に入ります」
「それじゃあミンナさんヘンナさん、これから俺は海岸まで行って、そこのヒューマノイドも助けられるかどうか調査してみますけど、お2人はどうされますか」
「あ、あの、よろしければそれも見学させて頂けませんか……」
「それじゃあ一緒に行きましょう」
大地たちは南の海岸に転移した。
(あっ!
ぺ、ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ、ペンギン族だぁぁぁっ!
か、可愛いい……
うーん、遠目にはまんまアデリーペンギンだわー。
身長は80センチぐらいか……
顔はちょっとだけヒトっぽくなって嘴も小さいけど、体形はほぼペンギンだ……
あ、フリッパーの先が3つに分かれてる。
そっか、あれが指の代わりになってるんだな……)
大地は近くにいたペンギン族にゆっくりと近づいていった。
流木らしき棒を持って立っているところを見ると、兵士か見張りなのだろう。
「やあ、俺はダンジョン村って言う所の村長をしている大地っていう者なんだが、ここの村長さんはいらっしゃるかな」
「ここで待つっぺ。
今村長に都合を聞いて来るっぺよ」
途端に見張りの脚がうにょんと伸びた。
それまでの10センチほどの状態から60センチほどになり、膝の関節らしきものもある。
見張りはそのままルッカリーに向かって走って行った。
(あーびっくりした。
そうか、もともと地球のペンギンって皮下脂肪の中に折り畳まれた足があるんだよな。
膝関節は固定されてて伸びないんだけど。
だから実際には彼らの脚は短いんじゃあなくって、単に足首から先しか外に出てないだけなんだけど。
このアルスでは、その足を伸ばして外に出せるように進化したのか……
それにしても、細い足の長さが60センチになってスタコラ走って行くペンギン……
違和感バリバリだわー……)
しばらくすると、ガタイの大きなペンギン族が3人やってきた。
「お待たせしましたっぺ。
わしはこのルッカリーの長をしておりますアデリゴと申しますじゃ」
「俺はダンジョン村の長をしている大地という。
さっそく来てくれてありがとう」
「それで、ご用件はなんですかの。
わしらは今、沖合に突然出来た大きな壁の調査を始めたところでして、少々忙しいのですが……
なにしろなぜあのようなものが出来たのか、皆目わかりませんですからの」
「すまんなアデリゴさん。
あの壁は俺が部下に命じて作らせているものなんだ」
「「「 !! 」」」
「なんと……
そのようなことがお出来になるとは……」
「俺は神さまや天使さまに任命されて、この大陸のヒューマノイドたちのために働くことになったんだ。
あの壁が完成したら、その内側からシャチなんかを外に出せるから、ペンギン族も安全に漁が出来るようになるんじゃないかな」
「ほ、本当ですかの……」
「シス」
「はい」
「海中の城壁はどのぐらい出来ているんだ?」
「現在ここより東西方向に500キロずつほど出来ています」
「それじゃあ少しやってみるか。
ここから半径10キロ以内のシャチに『ロックオン』
ほう、10頭もいるのか。
それじゃあ1頭ずつ『念動』……」
海の中から体長10メートルほどのシャチが出て来て宙に浮いた。
そのまま沖に向かって移動して、城壁の外の海に放り出されている。
続けて残りの9頭も城壁の外に出されていった。
ペンギン族たちはその光景を口を開けて見ている。
「す、凄まじいお力ですの……」
「まあ、神さまや天使さまに授けてもらった力だからな」
「ということは、あなたさまはやはり天の御使いさまであらせられましたか……」
ペンギン族たちが腹ばいになった。
陸上移動の際のいわゆるトボガンの姿勢である。
多分彼らにとっての平伏なのだろう。
「まあ天の御使いであることは事実だが、そんなに気を遣わなくてもいいぞ。
元は単なるヒト族だからな」
「で、ですが御使いさま、これで我らは安全に漁が出来るようになりました。
なんとお礼を申し上げたらよろしいのか……」
「やはりシャチの被害は多かったのか」
「それはもう。
漁は常に命懸けでありました故……」
「あの海中城壁には50センチほどの穴がたくさん開けてあるんだ。
その穴を潜って中に入って来られるような肉食獣はいるかな?」
「シャチの子供なら入って来られるかもしれませんが、そのように小さければほとんど魚しか食べないでしょう。
我々も戦えるでしょうし」
「そうか。
ストレー、壁が出来次第、内部のシャチを外に出しておいてくれ」
「畏まりました」
大地が壁面に穴を開けるよう指示したのは、内部の海水が淀まないようにするためと、回遊魚に入って来て貰って、内部の水産資源が枯渇しないようにするためだった。
だが、流氷に潰されないよう、シスくんはこの海中城壁の基部を相当な厚さで作っていた。
これが最高の漁礁になり、図らずもこの北の海では長く大豊漁が続くことになる。
「それからアデルゴ村長、あの城壁はけっこう頑丈に作ってあるから、冬になっても流氷は入って来ないぞ」
「「「 !!! 」」」
「だから、これで冬の間も漁が出来るようになるんじゃないかな」
「ほ、本当になんとお礼を申し上げたらよいのか……
冬の漁は、各種族が力を合わせて氷をどけまして、海に潜る穴を開けておりましたのです。
それでも風向きによっては氷が動いて穴が塞がり、毎年多くの犠牲者が出ておりました……」
「そうか。
まあ多少は海面も凍るだろうけど、それぐらいだったらみんなで石でも使って穴は開けられるだろうな」
「はい……
ところで、あの壁はどのぐらいの広さでお作りくだされたのでしょうか」
「そうだな、ここから沖の壁までの距離は、俺たちの言葉で10キロっていう長さなんだ。
そして、壁の長さは左右にその300倍ぐらいだな」
「そ、そんなに……
壁によって救われる多くの同胞や種族に代わりまして、深く御礼申し上げます……」
「なあ、この海岸にはどんな種族がいるんだい?」
「まずは我々ペンギン族、それからアザラシ族、アシカ族、トド族、それから白熊族でございます」
「白熊って肉食獣だろう。
ペンギン族やアザラシ族を襲わないのか?」
「遥かな昔にはそのようなこともあったと聞いておりますが、なにしろ彼らは数が少ないですので、我々種族連合が力を合わせて撃退したそうでございます。
今では不戦協定の下、種族連合の一員になっておりますです」
(種族連合とかあるんだ……)
「白熊族は力はありますが、魚を捕らえるのはあまり上手ではありません。
ですから、冬の間は海の氷に穴を開けたり、夏は陸上に畑を作ったりして働いております。
ですが、今年の夏はいつもより寒い夏だったせいで、畑の実りもかなり酷いものになっておりまして、白熊族も困り果てていました。
彼らに冬を越させてやるために、種族連合としても冬の食料を供出してやらなければならなかったのですが、あなたさまのおかげで冬も安全に漁が出来るようになりました。
これで彼らも助かることでしょう」
「そうか、それはよかったな。
ところでヒト族はいないのか?」
「ヒト族もおりますが、種族連合に加盟している村はごく僅かです。
彼らも白熊族と同じように内陸部に畑を作って暮らしているので、夏の実りの少なさに困っておるようでした」
「それ以外のヒト族の様子はわかるかな」
「ほとんどは内陸部の川沿いに村を作っておるのですが、彼らは非常に攻撃的で残忍なものですから、近づいて来るたびに種族連合の兵士たちが追い払っております」
(ヒト族…… やっぱりどこに行ってもしょーもない連中だったか……)
「内陸部から肉食獣は襲って来るのか?」
「はい、特に冬の間は……」
「まあこれからは大丈夫だろう。
海の中の壁の建設が終わったら、内陸部にも壁を作るから、もう肉食獣も入って来られなくなるだろうからな」
「「「 !!! 」」」
「ほ、本当になんとお礼を申し上げたらいいか……
あの、我々に何か出来ることはございませんでしょうか」
「それならさ、その種族連合の連中を紹介してくれないかな」
「もちろんでございます。
この地より西の方角へあの海の壁までの距離の10倍ほど行ったところに、連合の本部がございますので、ご案内させていただきましょう。
長老会のメンバーにも是非ご紹介させていただきたく思います。
海を泳げば2日ですが、陸上を行くと4日ほどかかりますので、ただいま食料と水を準備させます」
「いや、その必要は無いぞ。
ストレー、ここに移動用の円盤を出してくれ」
「はい」
その場に直径20メートルの円盤が現れた。
「試しにこれに乗ってみてくれるか」
「は、はい……」
ペンギン族の代表3人が恐る恐る円盤に乗った。
(まあ手摺もあるし大丈夫だろう……)
大地も円盤に乗り込むと、『念動』で円盤を浮かせる。
「「「 !!!!! 」」」
「安心してくれ。
この乗り物は俺が動かしているんで安全だ。
それでアデルゴ村長さん、種族連合の本部に行くのはこの3人でいいのかな?」
「は、はい……」
(それじゃあみんな、乗り込んでくれ)
(はいにゃ♪)
タマちゃんの念動魔法で空中にいたミンナ嬢とヘンナ嬢も乗り込んで来た。
2人の口がまた開いている。
「それじゃあ出発しようか」
円盤が高度50メートルほどに上昇した後、西に向かって飛び始めた。
下では海岸にいた多くのヒューマノイドが上を見上げている。
15分ほど経つと、タマちゃんから念話が来た。
(ダイチ、5キロほど先ににゃにか建物があるにゃ。
たぶんそこが種族連合の本部にゃから、少しスピードを落とした方がいいにゃ)
(了解、タマちゃんありがと)
(どういたしましてにゃ♪)
大地は敢えてその建物の前に数分浮いていた。
下には多くのヒューマノイドが集まって来ている。
(おー、あれがアザラシ族か。
足の鰭が長くなって直立2足歩行してるんだな。
あ、あれたぶんアシカ族だわ。
ほほう、4本の鰭で4足歩行してるわ。
あー、やっぱりトド族は体が重そうだな。
あんまり動かずに上半身だけ立ててるよ。
あの流木を持って周りに立ってる大きいのが白熊族か。
まあ対肉食獣用の兵士として働いて給料を貰ってるのかもしらん……)