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*** 143 ヒト族の救援と処罰 ***

 


「あーみんな、喰いながらでいいから聞いてくれ。

 この夏はやっぱり作物の実りが少なかったのか?」


 皆が頷いている。


「それじゃあ冬は越せそうにないのかい?」


 子供たちは夢中で粥を喰っていたが、大人たちの多くが項垂れた。


「そうかい、それならさ、この先にあるダンジョンにみんなで避難して来ないか?

 食い物もいっぱいあるし、温かいぞ」


「だ、だんじょんとは、あの洞窟のことかい?」


「そうだ」


「あの洞窟に入ると、恐ろしい魔物が出て来てみんな殺されちまうだろうに……」


「いや、もうあのダンジョンには魔物は出なくなったんだ」


「ほ、本当か!」

「それに食い物もあるのか!」


「本当だ。もちろん食い物もたくさんある」


「な、なあ、この宙に浮いてる皇帝たちはどうなるんだ?」


「あのダンジョンには掟があってな。

 人を殺したり殺せと命じたことのある者は、牢屋に入って貰うことになるんだ。

 だから、この宙に浮いてる莫迦共には2つの道がある。

 このままこの村で暮らすかダンジョンの牢屋に入るかだ」


「ということは、もうこいつらの言うことを聞かなくても……」


「もちろん聞かなくていいぞ。

 というよりもう2度とこいつらに会うことも無いだろうしな」


 村人たちはあからさまにほっとした顔をしている。


「それからもうひとつ掟がある。

 それは、他人を脅したりして従えようとしてはならないということだ。

 もしもお前たちが次の皇帝になろうとして他人を脅したりしたら、罰が与えられることになる。

 それから、暖かい場所に土地を用意するから、自分たちで畑も作ってくれ。

 その畑の実りが得られるまでの喰いものは保証する」


「あ、ありがとう……

 今年は夏が寒すぎて穀物の実りが少なく、冬には大勢が死ぬところだったんだ……」


「その穀物はどこにあるんだ?」


「あの『宮殿』の中の倉庫に置いてあるようだ。

 その中から3日に1度、わずかな配給が行われていたんだよ」


「3日に1度か……

 やはり統治組織ではなく収奪組織だったんだな……」



 大地は宙に浮いている男たちを振り返り、『遮音』を解除してやった。


「今聞いての通り、お前たちには2つの道がある。

 お前たちは全員人を殺したことがあるか、殺せと命じたことがあるからな。

 だから、もしダンジョンに避難して来たとしても、牢獄で暮らすことになる。

 まあ、食い物は喰わせてやるが。

 それが嫌ならここで暮らせ」


「ふ、ふざけるなこの下賤の者めっ!

 皇帝たる朕に対してなんたる侮辱っ!

 み、皆の者こやつを殺せぇっ!」


「わははは、ちんちん曝け出したおっさんにそんなこと言われてもなぁ」


 他の近衛兵とやらも喚いていたが、若い男がひとり叫んだ。


「お、お願いだ! 俺をそのだんじょんに連れて行ってくれ!

 こ、こんな奴らの命令を聞くぐらいだったら、牢屋の方がマシだぁっ!」


「よし、よく言った。

 それではお前はダンジョンに連れて行ってやる」


 大地が指さすと、その男は地上に降りて来た。


「それじゃあおっさんたちはここに残留だな。

 倉庫の食料の3%ほどは残していってやるし、あと6時間ほどしたら降ろしてやるから達者で暮らせ。

 ついでにこれからは他人を暴力で従わせようとすると、自動的に罰が与えられるから気をつけろよ」


 男たちはなにやら喚き散らしていたが、村人たちが僅かな身の回りの品を持っていなくなると、その声も次第に小さくなっていった。



(ストレー、ここに『幻覚の魔道具』を設置してくれ。

 ついでに『隠蔽』の魔法もかけてな)


(はい)




 6時間後、自称皇帝陛下と近衛兵たちは地面に落下した。


「「「 ぶぎゃっ! 」」」


 しばらく痛みに呻いていた自称皇帝は、ようやく立ち上がると大声で喚き始めた。


「おい! キサマの服をよこせ!」


「…………」


「なにをしておる! 早く服を渡すのだ!

 近衛兵ごときの服では到底朕には似合わんが、我慢してやるからすぐ渡せ!

 それからお前はあの焚火に流木をくべて食事を作れ。

 残った者共はあの賤民どもを連れ戻すのだ!」


「なあおっさんよ……」


「な、なんだと……

 き、キサマ、不敬罪で処刑するぞっ!」


「誰が俺を処刑するんだぁ?」


「お前ぇ、俺たち全員を相手に勝てるとでも思ってるんかぁ?」


「ったくよう、近衛兵になればいい思いをさせてやるとか言うから従ってたけどよ。

 もう皇帝ごっこも終わりにするかぁ……」


「な、なななななな……」


「これからはお前ぇが俺たちの奴隷になるんだよ」


「せいぜい頑張って働かねぇと、処刑しちまうぞぉ」


「ぎゃははははは」


「ん? あれ? な、なんだ?

 なんか痛ぇぞ」


「「「 ぎゃあぁぁぁぁぁ―――っ! 」」」

「「「 痛ぇ痛ぇ痛ぇ―――っ! 」」」


「ふ、ふはははは、皇帝たる朕に逆らった天罰だっ!

 よし、朕が直々に反逆罪の罰を与えてくれようぞっ!

 ん? な、なんだ?

 ぎゃあぁぁぁぁぁ―――っ!

 痛い痛い痛いぃ―――っ!」


 その場では、8人の男たちが糞尿を撒き散らしながらのたうち回っていた。

 しばらくすると大人しくなるのだが、また口論が始まるとすぐに転げまわり始める。

 それは全員の体力が尽きるまで続いていたそうだ……




 村人たちを引き連れてダンジョンに帰ると、大地は婦人部隊の数人を案内係に指名して、居住スペースに移動させた。

 すぐに家や炊事場の建設も始まるだろう。



「ミンナさんヘンナさん、どうでした?」


「あんなふうに村人を避難させるんですね……」

「ダイチさんは魔法が使えたんですか……」


「そうですね、ミンナさんとヘンナさんも魔法は使えるようになっておいた方がいいかもしれませんね」


「ど、どうやって……」


「ダンジョンでモンスターと戦って、ダンジョンポイントを稼ぎながらレベルを上げてスキルや魔法のスクロールをゲットするんですよ」


「ダンジョンマスター自らがですか……」


「そうです。

 モンスターって、挑戦者に殺されてもダンジョン内ならリポップされるでしょ。

 だから、挑戦者もリポップされるように設定を変えるんです。

 そうすればダンジョンマスターもモンスターもレベルは上がるし、ダンジョンポイントも稼げますしね」


「そ、そんなことまでしていたなんて……」

「わたしたちにもダンジョンポイントを稼ぐ方法があったんですね……」


「それに、これでダンジョン内で暮らす連中を300人ゲットしたでしょ。

 だから、これからは少なくとも毎日300ポイントの収入が入って来ますよ」


「な、なるほど。

 まるで食料と引き換えにダンジョンポイントを得ているみたいですね……」


「あの村人たちも飢えなくて済むんだから、まあいい取引なんじゃないですか?」


「そんな方法もあったなんて……」

「わたしたちも、嘆いてばかりじゃなくて、同じように行動してればよかった……」


「まあ、今からでも遅くないんじゃないですか」


「「 はい…… 」」


「あ、そうだ。

 言い忘れてたんですけど、今日のこの北大陸ダンジョンの様子とこれからの様子を、地球のスポンサーさんに見せてあげても構いませんかね。

 きっとすごく喜ぶと思いますんで」


「もちろん構いません」


「もしよろしかったら、いつか私たちもその方のところへ連れて行っていただけませんか。

 是非お礼を言わせていただきたいんです」


「もちろん構いませんよ。

 もう少しヒューマノイドたちの避難が進んだら訪ねて行きましょうか」


「「 ありがとうございます…… 」」




 その日の様子を録画したものは、中央大陸から派遣されて来た移住・避難勧誘部隊に披露された。

 皆熱心に見ていたが、まあ中央大陸での勧誘に比べて大きな差があるわけではないので安心しているようだ。



「ねえタマちゃん、タマちゃんの『生命探知』ってどれぐらいの有効範囲があるの?」


「だいたい50キロ以内かにゃ」


「それさ、妖精族に言って魔道具化してきて貰えないかな。

 この大陸は中央大陸や南大陸に比べてさらに人口密度が低いから、地表ダンジョン網を作るのはかなり非効率だと思うんだ。

 たとえ1キログリッドで作っても、さっきの300人規模の村ですら見逃す可能性があるし」


「それもそうだにゃ」


「それでいくつか『生命探知の魔道具』を作ってもらって、それを円盤に乗せてシスくんに操ってもらいたいんだ。

 念のために30キロぐらいのグリッドで大陸中をくまなく探し回れば、ほとんどのヒト族居住地を見つけられるんじゃないかな」


「さすがはダイチにゃ。

 いーいアイデアだにゃぁ。

 それで何個ぐらい作ってもらうかにゃ?」


「シスくん、円盤による探査は同時に50個所ぐらい出来るか?」


「5000個所でも余裕ですが」


「はは、さすがだな。

 だが、勧誘部隊は50組しかいないからな。

 それに部隊のサポートもあるから、50台の円盤で探査をしてくれるか」


「はい」


「それじゃあいったん中央大陸に戻って、妖精族に魔道具を依頼して来よう。

 その間にシスくんは円盤を50台作っておいてくれ」


「畏まりました」




 翌日から円盤による空中探査が始まった。

 シスくんがヒト族居住地を見つけるたびに、そこに勧誘部隊が転移していく。

 ほとんどの村では支配層による暴力的抵抗が見られたが、シスくんの『念動』によって宙に浮かべられてすぐに無力化された。


 最初のうちは大地もシスくんを通じてその様子を見ていたが、さすがに部隊は勧誘に慣れていた。

 仮に戦闘になったとしても、部隊メンバーのレベルは圧倒的であり、すぐに安心して見ていられるようになっている。



(それにしても、ヒト族の村にはどこも必ず収奪者がいるよな。

 それも自称王だの皇帝だの将軍様だの現人神だのってエラそーにしてる奴が。

 いやまあ、ヒト族は類人猿から進化した生物だから、サル由来のヒエラルキー行動が残ってるのは仕方ないんだけど。

 それにしても、『統治者としての王』がいないんだよ。

 いるのは『収奪者としての王』ばっかりだし。

 ほんっとヒト族はしょーもないわ。


 まあ、日本だってつい75年前まではおんなじだったけどさ。

 最近よくマスコミなんかで『貧富の差が拡大して来ている』とか言ってるけど、そんなもん、つい75年前までは富者と貧者の差はそれこそ天文学的な差だったんだから。

 その状態を維持するために、支配層たちは犯罪概念の中に『思想犯罪』っていう物まで造ってたし、その思想犯罪者を撲滅するために憲兵隊だの特別高等警察だのっていう暴力組織すら作ってたんだから。

 おかげで、戦前は皇居の周りをただ歩いてるだけで『不敬である!』って言われて逮捕されてたんだし。

 まあ、地球の場合は知的生命体がヒト族しかいないから、その異様さが認識出来なかったのかもしらんけどな……)




 多くのヒト族居住地では、支配層は例外無く勧誘部隊に暴力を振るおうとしたために、罰としてその場に放置された。

 もちろん『幻覚の魔道具』の配備付きである。


 まあ、生産能力の無い支配層はすぐに死にそうだったために、1週間ほどの反省期間のあとは、ダンジョン村の牢に入れて生かしてやってはいたが。



 大地は、それまでの被支配民については、全員を大部屋に収容してみた。

 もちろん宿泊施設も炊事場も燃料も食料も十分に用意してのことである。


 だがやはり『2:6:2』の法則はここでも発揮された。

 今まで圧政の下にあった被支配民たちの中から、すぐに暴力集団が発生して次々に王や将軍様を名乗り始めたのである。


 だが、もちろんこのダンジョン内ヒト族居留地にもあの『幻覚の魔道具』は設置してある。

 さらにこの魔道具を2回発動させた者には、あの『変身刑』も待っていた。


 おかげで、最初の10日間で避難民の2割が身長50センチになってしまっている。

 次の10日間では残りの2割も、また次の10日間ではさらに残りの2割も。

 こうして、最初の1か月でヒト族の半数以上が身長50センチになってしまったのであった。

 もちろん実際に暴力を振るおうとした悪質な者は、全て牢獄の独房に収容されている。





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