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*** 141 北大陸へ ***

 


 ダイチとタマちゃんは、ツバサさまに連れられて北大陸ダンジョンに転移した。


「お久しぶりですミンナさん、それからあなたは確か助役の……」


「ヘンナでございます天使さま」


「初めまして、わたしはツバサという天使族です。

 このアルスと、それから地球の担当をさせていただいています。

 今後ともよろしくお願いしますね」


「こ、こちらこそよろしくお願い致します……」


「それからこちらはダイチさんと仰って、中央大陸でダンジョンマスターをしてもらっていたのですけど、この度神界からこのアルスの3つのダンジョンの統轄マスターに任命されたの。

 もちろんこの北大陸のダンジョンマスターは今まで通りミンナさんですけど、これからはダイチさんの助言や助力を受け入れて欲しいと思ってお邪魔したんです」


(あー、なんか2人とも目の周りに隈が出来ちゃってるよ……

 顔色も悪いし、よっぽど状況が酷いんだな……

 北欧美人が台無しだわ……

 お、部屋の隅に黒猫がいるな。

 この子もインフェルノ・キャット族なのか……)



「あの……

 お言葉とお力添えはありがたいんですけど……

 もう、今の状況は絶望的なんです……」


「ただでさえ作物の実りが少ない上に、今年の夏はさらに冷害に見舞われて、もう住民たちの食料の蓄えもほとんど無くなってしまって……

 このまま冬を迎えたらみんな……」


 20歳ぐらいの美人さんたちが、ぽろぽろ涙を零し始めた。


(こりゃ相当に追い詰められてるな……

 大陸の住民もこのひとたちも……)



 ツバサさまが優しく微笑んだ。


「それじゃあ、試しにダイチさんに任せてみたらいかがかしら。

 この北大陸とは事情が違うけど、ダイチさんはダンジョンマスターになって半年ほどで、中央大陸の状況を大きく変えつつあるのよ。

 それもわたしや神界が想像もしていなかった方法で」


「は、はい……

 もしこの大陸のみんなが1人でも助かるのなら……

 どうかお願いいたします……」


 ダンジョンマスターとその助役が深く頭を下げた。

 ダンジョンの床にぽとぽとと涙が落ちている。



「初めまして、ダイチ・ホクトと申します。

 お役に立てるかどうかはわかりませんが、精一杯やらせて頂きますのでよろしくお願い致します」


 タマちゃんが隠蔽を解いてその場に現れた。


「にゃ、あちしはタマにゃ。よろしくにゃ♪」


「た、タマ姉ちゃんっ!」


「にゃはは、ジージ、元気だったかにゃ」


「う、うん、僕は元気にゃけど、でもミンナとヘンナが……」


「まあこのダイチに任せておけば大丈夫にゃ♪」


「あにょ、タマ姉ちゃんの弟のジージです。

 よろしくお願いしますにゃ」


「こちらこそよろしく」


(弟くんの方が礼儀正しい……)



「なんか言ったかにゃ?」


「いえ、なんにも……」



 大地たちは粗末なソファセットに腰を降ろした。


「すみません、わたしたちもうお金を使い果たしてしまっていて、お出しするお茶も無いんです……」


「お気になさらずに。

 それではまずこちらをどうぞ」


 大地はテーブルの上に厚い包みを2つ置いた。


「なんですかこれは?」


「地球時間で45年前にこの北大陸ダンジョンのマスターをしていた方からお預かりして来ました。

 その方も大変に苦労されて、今でも当時のことを夢に見られるそうなんです。

 それでその方が、あなた方が地球で私財も売り払って食料を買い、この北大陸に持ち込まれていると知りましてね。

 今ではその方もかなり裕福になられましたんで、先輩としてあなた方に寄付して下さるそうなんですよ」


「は、はあ……」


「その包みには、それぞれ100万ドルずつ入っていますので、どうか地球での生活にお使いください」


「「 !!!!! 」」



 大地はまたLv8の収納袋を取り出した。


「それだけではありません。

 その方は、取り敢えず1000万ドル相当の穀物12万石を寄付して下さいまして、調理道具とともにこの収納袋の中に入っています。

 また、今後も総計で少なくとも1億ドル相当の食料も下さるそうです。

 これで、この大陸の住民も冬を越せるのではないでしょうか」


 北大陸のダンジョンマスターとその助役が口をぱくぱくさせている。


 たっぷり1分近く経って、ミンナ嬢が声を出した。


「そ、そんなに大量の食料を……

 で、ですがわたくしたちにはその食料を住民たちに配る手段が……」


「それでは順を追ってご説明しましょう。

 まずは、この北大陸ダンジョンの1階層を、モンスターの出てこない階層にしてください」


「えっ……」


「そうして、1階層を自然環境付きの100平方キロほどの広さにして頂けますか。

 そうですね、10平方キロほどの広さの空間を10個所作って。

 ダンジョン内ならば気候制御は自由自在に出来ますので、内部の気温は20度ぐらいにするといいかもしれませんね。

 その気温なら避難して来た住民たちが畑も作れるでしょうし」


「「 !!! 」」


「そ、そんな方法があったなんて……」

「か、考えもしませんでした……」


「はは、神界もそうだったようですね。

 ですけど、実はもう中央大陸ダンジョンはそうなっているんですよ」


「は、はあ……」



「ところでツバサさま、この大陸のヒューマノイドはどの辺りに多く棲みついているんでしょうか」


「あまり海に近いと海棲の巨獣たちに襲われるので、獣人種族は海から100メートルほど内陸に入ったところにコロニーを作って住んでいるようですね。

 彼らの主食は魚や貝類ですから、あまり海から離れたところには住めないんです。

 でも冬は海が流氷に閉ざされて漁が出来なくなるものですから、夏の間に畑で作物を育てて冬場の食料にしています。

 氷の隙間から海に入ることも出来ますけど、その間に海氷が動くと陸に戻れなくなって息が出来なくて死んでしまうので、滅多に海には入りませんけど……

 それから、ヒト族は主に大きな河沿いに住んでいるようで、ある程度内陸部にもいますね」


「そうですか、海岸線のどのぐらいの範囲に獣人種族のコロニーはありますか?」


「どうやら東西3000キロほどの範囲のようです」


「そうですか、それでは東西3000キロほどの範囲で、海岸から陸側へ5キロと海側へ10キロの海底を外部ダンジョンとしましょう」


「えっ!」

「そ、そんな外部ダンジョンなんて……」


「わたしはダンジョンの外の情報を知りたかったものですから、神界にお願いして、ダンジョンの外も外部ダンジョンとして設定出来るようにしていただいたんです。

 まあ、ダンジョンとして認識するだけで、部屋も作る必要が無いから格安にして貰えました」


「そ、そんなことが出来たんですね……」


「ええ、お願いしたら出来るようにして貰えました。

 そうして、その外部ダンジョンにダンジョンの入り口を600か所ほど作って、ここと接続すればいいでしょうね。

 そうして、この大陸の全てのヒューマノイドに、モンスターが出なくて温かくて食料もたっぷりあるダンジョンへの避難を呼びかけるんです。

 警戒するコロニーの住民に対しては、村長たちを招いてダンジョンの見学会をさせてあげたらどうでしょうか」


「あ、あのあの……

 わ、わたしたち、食料を調達するのにもうほとんどダンジョンポイントを使い切ってしまっていて……

 ですから、ダンジョン内にそんな広い空間を作ることも、外部ダンジョンを作ることも、到底出来ないんです……」



 大地は微笑みながらテーブルにダンジョンポイントカードを置いた。


「それではこのカードに入っているダンジョンポイントを貸して差し上げましょう。

 もちろん無利子無期限ですのでご安心を」


 ミンナ嬢が恐る恐るカードを手に取った。

 途端に口を押えて震え始めている。


 それを見てヘンナ嬢もカードを手に取ったが、すぐに口を押えて悲鳴を上げた。


「取敢えず10億ダンジョンポイントをご用意しました。

 もしそれで足りなければ言ってください」


「で、でもでもでもっ!

 わ、わたしたちではとてもではないですけど、3000キロに渡ってこの地のヒューマノイドたちのコロニーを訪問することなんか出来ません!」


「装備もありませんし、寒さですぐに死んでしまいます!」


 大地はまた2人を見ながら微笑んだ。


「いえ、ダンジョンへ避難を勧める勧誘員は、我が中央大陸の精鋭たちにお任せください。

 彼らは既にそうした勧誘任務を数多く熟しているベテランでして、今ヒト族とモンスター族の主要メンバーたち合計200名ほどと、100名ほどの炊き出し部隊が待機しているところですので」


「「 !!!!! 」」


「中央大陸ダンジョンでは、苦しんでいる住民たちにそうした避難や移住を勧める活動を始めて3か月ほどになります。

 まあ大陸も広い上に、ヒト族たちが非常に暴力的ですので、まだ5万人しか集められていませんが、それでも既に始めていることですからね。

 同じことをこの北大陸でも行うだけのことですよ」


「そ、そんな大勢の方々が……」


「で、でも冬までにすべてのコロニーを回るのは……」


「外部ダンジョンの役割は、そうしたコロニーを見つけるだけではないんです。

 勧誘部隊を転移させることも出来るようになりますからね」


「「 !!! 」」


「そうすれば、200名の隊員たちも、自分の脚で歩く距離は最小限に出来るでしょう。

 それにこの北大陸ダンジョンと中央大陸ダンジョンを転移の輪で繋げば、勧誘部隊も夜には自宅に帰って休めますし」


「す、すごい……」


「それからうちの管理システムと収納機能の一部をこちらに接続させて下さい。

 彼らは中央大陸のやり方に習熟していますので、こちらの管理システムにノウハウを供与出来るでしょうから」


「は、はい。よろしくお願いします」


「シス、ストレー、分位体をここに転移させてくれるか」


(( はい ))


 その場に6歳ぐらいと8歳ぐらいに見える男の子たちが現れた。


「「 !!! 」」


「この子がシスくんと言って、中央大陸ダンジョンの管理システムの分位体なんです。

 それからこちらがストレーくん。

 彼はレベル10の収納なんですけど、収納以外にもかなりいろいろ出来るんですよ。

 2人とも実に優秀です」


「「 えへへへ…… 」」



「す、すごい…… 分位体まで……」


「それではこのシスくんに、このダンジョンの管理権限の一部を与えてやっていただけますでしょうか」


「は、はい……」


「ところで、このダンジョンの管理システムのお名前はなんと仰るのですか?」


「あの…… わたしたちは単に『管理くん』と……」


「それでは彼がシスくんの指導で一人前になったら名前もつけてあげてくださいね。

 出来れば分位体も買ってあげてください」


「はい……」


「シス、管理くんとコンタクトは取れたか?」


「はい」


「それじゃあ、このダンジョンの1階層からモンスターたちを退去させて、5階層にモンスター村を作ってやってくれ。

 中央大陸ダンジョンと同じ仕様で頼む」


「畏まりました」


「ストレー、モン村に転移の輪と各種食料を」


「はい」


「それが終わったら、シスは第1階層を1キロ四方の自然環境ダンジョンに変更して、入り口横に休息スペースを頼む。

 その周囲に10平方キロの同じく自然環境ダンジョンを10個と、念のため牢獄も」


「はい、10分ほどで作業終了いたします」


「「 !!! 」」


「はは、早いな。

 それじゃあ、まずはこの北大陸ダンジョンから南方向に外部ダンジョンを延して、海岸からの距離を測定してくれ」


「どうやら、ここは海から内陸へ5キロほど入った場所のようですね」


「そうか。

 ツバサさま、中央大陸も南大陸もダンジョンはほぼ大陸中央にありましたけど、ここでは大分南寄りの位置にあるんですね」


「それはたぶん、500年前の担当者がヒューマノイドの生息域の中心にダンジョンを造ったからでしょう」


「なるほど。

 それじゃあシス、このダンジョンの周囲10キロメートルも外部ダンジョン化してくれ。

 それから、さっき言った海岸沿いの範囲も」


「あの、まだここ北大陸のダンジョンはそうした作業に慣れていませんので、中央大陸のダンジョンを使ってもよろしいでしょうか」


「もちろん構わんぞ。

 北大陸のダンジョンにも作業手順をよく見せてあげるように」


「はい」





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