表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/410

*** 136 チャオプラヤー川氾濫阻止作戦 ***

 


 大地は一旦日本に転移し、すぐにまたアルスに転移して、幹部一同を集めて事態についての説明をした。


「ということで神界からの許可も下りたんで、地球にうちのダンジョンの分地を作ることになったんだ。

 それで、まずストレー、地球で活動出来るか」


「はい。わたくしはダイチさまに従属する存在ですので、ダイチさまさえいらっしゃれば何の問題もございません。

 さらには、ダンジョンの分地が出来れば、その分地を通じてダイチさまがアルスにいらっしゃっても地球で活動出来るようになります」


「そうか、それはよかった。

 ところでかなりの量の水を12個所ほどで『収納』してもらうことになるが、大丈夫か?」


「はは、例え南極の氷を全て収納せよと仰られても大丈夫ですよ」


「マジか……

 それって地球の海水面を60メートルも押し上げるだけの体積だぞ」


「はい、大丈夫です。

 それから12か所ほどの地点での『収納』ということでございますが、それにはレベル8ほどの収納箱をご用意させて頂きます。

 その箱の中に収納した水は、自動的にわたしの本体に転移させるようにしておきますので」


「さすがだな」


「お褒めに与り恐縮です。

 ついでに『クリーンの魔道具』の使用許可を頂ければ、真水と不純物も分けておきますが」


「それいいなあ、溜めた水を農地なんかに使えるのか。

 ということは、その収納箱から水を排出することも出来るんだな」


「はい」


「それじゃあよろしく頼む」


「畏まりました」


「テミスはどうだ?

 地球でも活動出来るかな」


「わたくしもダイチさまに従属する存在ですのでストレーさんとおなじです」


「そうか、ありがとう。

 それじゃあシスくんはどうかな」


「あの、地球のダンジョン分地はどこに作りましょうか」


「そうだな、あの山小屋を本部にしようか。

 それで、タイの王宮の一角を借してもらって、そこもダンジョンにさせてもらおう」


「畏まりました。

 通常のダンジョン拡張と同じ費用がかかりますが、構いませんか」


「もちろん構わないぞ」


「それではさっそく作業を始めさせていただきます」


「みんなよろしくな」


「「「 はい! 」」」


「それじゃあ俺はまたタイに戻るわ」


「「「 いってらっしゃいませ! 」」」




 翌日朝。


 タイのホテルに戻っていた大地は、迎えの車を断ってタマちゃんやスラくんと共に歩いてタイ王室のアンポンサターン宮殿に赴いた。

 途中の公園の物陰で『変化』の魔法を使って第1形態に姿を変える。

 尚、大地が身元を隠すために『変化』の魔法で姿を変えていることは、スラくんが予め国王陛下に伝えてくれていたらしい。


 宮殿の入り口からは、執事らしきひとの案内で扉を次々と抜けて行き、最後に謁見の間に辿り着く。


 そこにはラーム10世ワトラー・ロンコーン国王を始め、6人ほどの男女が待っていた。

 どうやらシリンスーン姫の家族のようだ。


 国王は大地の姿を見てほんのわずかに眉を動かしたが、すぐに微笑んでいた。



 朝の挨拶が終わると、大地は20センチほど高くなった床の国王の隣に座らされた。


「先ほど皆にも申し伝えた通り、これからの話は内密にして貰いたい。

 これは国王からの要請である」


 全員が頷いた。


「こちらにおわすアスラさまは、畏れ多くも天界からの御使いさまであらせられる。

 昨夜天界より賜られた妙薬を持って来て下されたおかげで、シリンスーン姫が一命をとりとめた」


 姫の母親らしき女性が号泣し始めた。

 見ればその場の全員が涙を流している。


「まずは皆でアスラさまに御礼申し上げたいと思う」


 国王陛下がつと立ち上がり、高床を降りた。

 そうして、一段低くなった床に例のタイ式正座をしたのである。

 すぐに全員が同じ正座姿になった。


「このたびは、我が王族のシリンスーン姫の命を助けて頂き、誠にありがとうございました」


「「「「 誠にありがとうございました! 」」」」


 さすがの大地もこれには困惑した。


「み、みなさま、どうかお顔をお上げくださいませ。

 お願いいたします!」


 全員が顔を上げてくれたが、やはり皆泣いている。


「ということは陛下、シリンスーン姫のご容体は……」


「医師が言うには、多少の衰弱が残っているだけで、もう病気の痕跡すらないようでございます」


 また父母らしき2人が号泣しながら額を床につけた。


「皆のもの。

 当然のことではあるが、わたしはこのタイ王国の国王として、このアスラさまを我が王室の最高賓客とさせて頂いた。

 むろん生涯の御地位である。

 皆もそれを忘れずにアスラさまに接するように」


「「「「 ははぁっ! 」」」」


「尚、ここにいるスラークン・イムチャンロンを、アスラさま専従の連絡係とする。

 スラークンを通じたアスラさまのご要請は、わたしの言葉とおなじと心得よ」


「「「「 うははぁっ! 」」」」


(なんだかすごいことになっちゃったなぁ……

 あ、なんか20歳過ぎぐらいの美人さんがスラさんを見てうっとりしてる……

 そうか、このひとがスラさんの婚約者さんなんだ……)


「それではアスラさま、恐縮ですがわたしの執務室でしばしご歓談のお時間を頂戴出来ませんでしょうか」


「ありがとうございます」


 くちぐちにお礼を言い続けるひとたちとひとりひとり握手を交わし、大地たちは国王の執務室に移動した。

 執事らしき人は部屋の外に控えている。


 ソファに座るとすぐに紅茶が運ばれてきて、それを一口含んだ国王陛下が切り出した。


「それにしてもお見事な変化魔法ですな」


「地球とアルス担当の天使さまに授けていただきました」


「それはそれは……

 それならばお見事なのも当然ですな」


「ええ」


 陛下の表情が真剣なものに変った。


「今日の正午にはシリンスーン姫が快方に向かい始めたことを、王室として公式に発表する予定になっています。

 実は今このバンコクに大洪水の危険が迫っているために市民の避難を始めているのですが、病院前でシリン姫のために祈っていてくれる国民がまだたくさん残っていますからね」


「その洪水についてなんですが陛下。

 実は昨晩神界の了承を頂戴しまして、わたしが魔法やダンジョンの能力で洪水を防ぐ努力をさせていただいても構わないことになったのです」


「な、なんと……」


「まあ、私がいくら頑張っても成功するとは限らないんですが、それでも試させて頂けませんでしょうか」


「ほ、本当によろしいのですか?

 そのようなことをされればどうしても民の目に触れ、ダイチ殿やダンジョンのことも話題になってしまうかと……」


「そのことについても神界の了承を得ています。

 まあ、私は出来るだけ表に出ないようにしますが、ダンジョンの存在は知られても構いません」


「おお……」


「それでですね、いくつかお願いしたいことと、ご了承を頂戴したいことがあるんです」


「なんでも言ってくだされ」


「まずは、チャオプラヤー川の流域3個所、つまりナン川とピン川の合流地点と、アユタヤの大工業団地の水門付近と、バンコク市内最北部のチャオプラヤー川に『収納の魔道具』を設置して水位を下げたいと思っています。

 それから、プミポンダム、シキリットダム、シーナカリンダムやワトラーロンコンダムなどの大型ダムにも『収納の魔道具』を設置して水位を下げます」


「ありがたい。

 2011年の大水害ではそれら王族の名を冠したダムが危険水位に達したために、放水をせざるを得なかったのです。

 その放水された水で下流域の被害が拡大されたせいで、我々王族は内心忸怩たる思いを抱えていたのですよ」


「今回はそのようなことが無いように努力致します。

 それ以外にもあと5か所の大型ダムの水位を下げましょう。

 それでですね、それら12個所に設置する『収納の魔道具』を警備するために、軍のお力をお借りしたいのです。

 万が一民間の方が魔道具を見たとしても、驚いたり壊したりしないように」


「了解しました。

 陸軍特殊部隊をヘリに乗せて出動させましょう」


「いえ、みなさんの移動は私が行いますので、警護要員の方を48名揃えていただくだけでけっこうです。

 あ、3日分の食料も持たせてください」


「わかりました。

 スラークンよ、執務室の外に控えている執事に、至急陸軍特殊部隊の司令官を呼ぶように伝えてくれ」


「はっ!」



「それから陛下、これはお願いなのですが、チャオプラヤー川流域の水量を監視するために、流域一帯を地表ダンジョン化することをお許しいただけませんでしょうか。

 もちろん我々がダンジョンと認識して監視出来るようにするだけで、モンスターが現れたりはしませんので。

 それに洪水の危機が去れば、ダンジョン指定は解除させて頂きます」


「はは、モンスターが出たら大騒ぎになって、世界的な観光地になりそうですの。

 もちろん構いませんとも」


「最後にここ王宮の敷地を少し貸して頂けませんでしょうか。

 現地ダンジョン本部にさせていただこうかと思います」


「それも国王の名に於いて認めさせて頂きます。

 建物はどのようなものがよろしいですか?」


「いえ、建物は要りません。

 30メートル四方ほどの土地だけでけっこうです」


「それではこの窓の下に見える中庭をお使いください」


「ありがとうございます。

 それでは部下と相談させて頂けますでしょうか」


「もちろんどうぞ」



「シス」


(はい)


「国王陛下のご了解を頂いた。

 チャオプラヤー川流域一帯と、9つの大型ダム周辺を地表ダンジョン化してくれ」


(はい)


「それから中庭もダンジョン化して、そこに直径30メートルほどの移動用の円盤を頼む。

 手摺と50人用のシートベルト付きの座席もつけてくれ。

 目的地までは転移でも行けるだろうけど、途中の堤防の様子も観察したい。

 お前も堤防の様子を見ていて、弱そうなところがあったら教えてくれ」


(はい)


「それから、休息用の10畳ほどの広さの小屋も12個作って、ストレーの中に準備して欲しい。

 多少の食料とスポドリや茶も置いてやって、仮眠用ベッドや『クリーンの魔道具』付きのトイレもつけてな」


(畏まりました)



 そのとき陸軍特殊部隊の司令官が到着したようだ。

 どうやら王宮との連絡係として近くにいたらしい。


「陸軍特殊部隊司令官コボイル・ルトローン、国王陛下のお召しにより参上いたしましたっ!」


(……コボイル・ルトローン…… 略してコボルトかよ……

 そういやあちょっと犬っぽい顔だな……)



「ご苦労、楽にしなさい」


「はっ!」


「こちらはアスラさまと仰る方だ。

 タイ王室の最高賓客でもあらせられる」


「ははっ!」


「これよりアスラさまの指揮により、チャオプラヤー川氾濫阻止作戦を開始する。

 至急48名の警護要員を手配して、この窓の下の中庭に集合させよ。

 以後はこちらのアスラさまのご指示を私からの要請と思って従うように」


「畏まりましたっ!」



 30分後、非常時に備えて待機していた特殊部隊員が中庭に集合した。

 皆、不思議そうな顔をして中庭に浮いた円盤を見ている。

 円盤からは乗り込むための階段が降りていた。

 尚、タマちゃんとスラくんはお留守番である。


 お見送りのタマちゃんはなにやら鼻歌を歌っていた。


(にゃんだばだばだば、にゃんだばだばだば、にゃんだばだばだばだ。

 にゃんだ~ばぁぁぁどぉ~♪)


(さ、さすが長命種族……

 子猫のくせになんて古い歌を……)



 特殊部隊のコボルト司令官が隊員たちに大地を紹介した。


「こちらは今より我らの指揮官となられるアスラさまだ!

 国王陛下より、アスラさまのお言葉は陛下のお言葉であると思えとのご指示を頂戴している!」


「「「「「 ははっ! 」」」」」


「アスラと申します。

 みなさんよろしくお願いいたします。

 それではこれよりチャオプラヤー川氾濫阻止作戦に向かいますので、みなさんこの円盤に搭乗して着席し、シートベルトを締めてください」


「「「「「 はっ! 」」」」」


 さすがは特殊部隊員たちである。

 頭の中は「?」マークで一杯だろうが、すぐに従ってくれた。

 司令官も乗り込み、最後に大地が搭乗する。


「それでは出発します」


 大地は円盤に『結界』の魔法を掛けた。


(シス、あとは任せた。

 なるべく早く最初の目標地点まで運んでくれ)


(はい!)


 隊員たちの驚愕のどよめきを無視して、円盤は高度200メートルほどまで上昇し、そこからはスピードを上げて時速500キロほどで移動を始めた。

『結界』の魔法のおかげで円盤上は無風であり、高速移動が可能である。


 特殊部隊員たちは、或る者は座席から伸び上がって周囲の景色を見ようとし、また或る者は固く目を瞑っている。

 中には経を唱えている者までいた。


(さすがは仏教国だぜ、はは……)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ