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*** 133 タイ王国へ ***

 


 大地はストレーくんの収納庫内にウィル・オー・ウィスプ族に来て貰った。

 タマちゃんもついて来ているが、今は少し離れたところに座っている。


「これからちょっと実験をしてみたいんだけどさ、協力して欲しいんだ」


「「「 仰せの通りにマスター! 」」」


「まあそんなに堅くならないでくれ。

 単なる確認だからさ」


「「「 はい! 」」」


「まずはみんなに『防御』の魔法を掛けてみよう」


 ウィル・オー・ウィスプたちが淡く光った。

 だが、魔法反射型の女の子たちに当たった光は、跳ね返されて大地に降り注いでいる。


「そうか、『防御』の魔法でも跳ね返されちゃうんだな。

 それじゃあ男の子たちは今かなりの防御力になってるはずだから、協力してもらおうか。

 万が一のことがあってもここならリポップ出来るし。

 それじゃあまず『ロックバレットLv3』を撃ってみるぞ。

 ひとり前に出て来てくれ」


「はい」


 カイーン!


「痛くなかったか?」


「ちょっとした衝撃はありましたけど、全く痛くはありません」


「そうか、『防御』の魔法の効果だな。

 それじゃあ次は石をぶつけてみるぞ」


 大地は外で拾ってきた小石を取り出し、ウィル・オー・ウィスプに向かって投げてみた。

 その石は男の子に当たると音もたてずに大地に跳ね返ったが、大地はそれを手で受け止める。


「今、石に当たった衝撃はあったか?」


「いえ、ありませんでした」


「なるほど、ロックバレットで作った石は魔法で作られたものだから当たったけど、普通の石をぶつけるのは物理攻撃扱いになってリフレクトされるんだな」


「たぶんそうだと思われます」


「それじゃあ次の実験をしてみよう」


 大地は自分から5メートルほど離れた場所に『念動』で石を浮かせ、その石をやはり『念動』でウィル・オー・ウィスプに向かって投げてみた。


 カイーン!


「そうか、やはり魔法攻撃と見做されるな……

 それじゃあお前たち、その物理攻撃リフレクト能力を、人に付与することって出来るか?」


「と、仰いますと?」


「そうだな、例えば誰かにその能力を付与したとするだろ、そうしたらそいつはお前たちと同じように物理攻撃では傷つけられなくなるんだ」


「すみません、この能力は種族特性なので、わたしたちにはそのようなことは出来ないです」


「そうか……

 ねぇタマちゃん、このリフレクト能力を付与する魔法って、ツバサさまにお願いしたら作ってもらえないかな」


「実際に存在する魔法現象にゃからにゃんとかにゃるかも。

 でもやっぱり、『戦争教唆』や『強盗教唆』は裁けないにゃね」


「もちろんそうだね。

 でも手段はなるべく多い方がいいかなって思って」


「それじゃああちしはツバサさまのところに行ってくるにゃ」


「よろしくね」



 翌日。


「にゃあダイチ、『リフレクト能力付与』の魔法、作ってもらえたにゃよ」


「もう出来たのか、やっぱりツバサさまはすごいね」


「うんにゃ、ツバサさまと一緒に神界に行って、神さまたちに作ってもらったにゃ。

 神さまたち5人も集まって来て、みんなでうんうん唸りながら作ってたにゃ」


「そ、そうだったんだ……

 な、なにかお礼をした方がいいかな」


「神さまたちにあの紅茶と焼き菓子を頼まれたにゃあ」


「神さまたち、なんで紅茶とサブレのこと知ってるんだろ?」


「にゃんかみんにゃ、ダイチの活躍を楽しく見守っているらしいにゃよ」


「げげげげ……」


「ストレーくん、あの最高級ティーセット2つと、砂糖と紅茶と焼き菓子を大量に用意してくれるかにゃ」


(はい)


「それ持って、また天界に行ってくるにゃあ♪」


「よ、よろしくお伝えください……」


「うにゃ♪」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 或る日の幹部会にて。


 スラさんが大地にむかって正座し、両手を揃えて頭を下げた。


「ど、どうされたんですかスラさん!

 あ、頭を上げてください!」


 スラくんは頭を下げたまま続ける。


「昨夜地球に戻って大学に行きましたところ、タイ王国外務省から連絡がありまして、至急帰国するようにとのことでした。

 ま、まことに申し訳ないのですが、1か月ほど休ませていただけませんでしょうか」


「も、もちろん構いませんよ。

 誰だって休む権利はあるんですから。

 ですからどうか椅子に座ってください。

 そのままじゃ話もしにくいですから」


「ありがとうございます……」



「それでなにかタイ王国で問題でもあるんですか?」


「実は国王陛下の直孫であるシリンスーン王孫殿下が危篤状態になりまして、全世界にいる王族に帰国指令が発せられたのです」


「それはそれは……

 時間も無いでしょうけど、少しお話を聞かせていただけますか」


「はい、どうせ次の飛行機が出るのは12時間後ですから」


「そのシリンスーン王孫殿下はおいくつなのでしょうか」


 スラさんの表情は沈痛だった。


「それが…… シリンスーン姫はまだ12歳であらせられるのです。

 2年前に白血病を発症し、長らくアメリカで治療を受けていたのですが、もはや長くはないということで、せめてタイの地で最期をと……」


「それはお気の毒に……

 スラさんはよくご存じの方だったんですか?」


「はい、実はわたしの婚約者は、年の離れた彼女の姉でして、小さいころからよく一緒に遊んであげていたのです……」


(っていうとスラさんの婚約者って、国王の孫だったんだ……)



「ねえタマちゃん、これスラさんに『エリクサー』を渡しても構わないよね」


「にゃ、コーノスケの前例があるから大丈夫にゃと思うけど、念のため今ツバサさまに聞いてみるにゃ」


「よろしく」


 その前例で命を取り留めた淳は真剣な顔をしていたし、良子は大粒の涙をぽろぽろ零していた。



「にゃ、神界からOKが出たにゃよ」


「やったね!」


「でもひとつだけ条件があって、ダイチが直接かけてあげることにゃって」


「そうか、淳さんのときもじいちゃんが直接かけてたんだっけ」


「うにゃ」


「それじゃあスラさん、一緒にタイ王国に行きましょう」


「よ、よろしいのですか?」


「もちろんです」


「あ、ありがとうございます」


「ねえタマちゃん、じいちゃんはタイにマーカーを置いてたりしてないかな」


「タイには静田物産の支社があったから、たぶんマーカーもあるにゃ」


「シスくん、確認出来るか?」


「バンコク市内のビル前に、確かにマーカーがございます」


「それじゃあ急いで支度してすぐに飛びましょうか。

 スラさんの帰国記録や俺の入国記録は残りませんけど、あとで何とかするとして」


「あ、ありがとうございます……」




 ダンジョンくん:


(ねぇ…… 城壁……まだ?)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ダイチとタマちゃんとスラくんがタイに『転移』すると、バンコクはまだ夕刻だった。

 タマちゃんはいつもの通り『隠蔽』で姿を消して大地の頭の上にいて、スラくんは王族の正装である民族衣装を纏っている。


 スラくんはそのままタクシーを拾って大地たちを王宮に連れていった。


(なんか市民がやたらにピンク色の服を着ているにゃあ)


(ええ、タイではピンク色は長寿と健康を祈願する色なんです。

 国民が皆、シリンスーン姫のことを心配してくれているのでしょう)



(タイ国王や王族って、世界で一番国民から敬愛されてる王室って言われてるそうだけど、本当だったんだな……)



 大地はタクシーの窓から外を眺めていた。


(なんか厚い黒雲が垂れ込めてるなぁ……

 あっ!

 あれひょっとして、バンコク名物『浮き上がって見える横断歩道』かな。

 うっわー、ほんとに浮いてるように見えるよー。

 でもこれ、車道が青信号のときに走って来た車がびっくりして急ブレーキ踏んで、追突事故とか起きないんかね?)



 王宮の敷地内には、東南アジア最大と言われるシリラート病院があった。


 その正面入り口に立つ警備兵は、スラくんを見ると敬礼をしている。

 敬礼を返したスラくんは、大地を連れてそのまま病院の奥に向かった。


 そのエレベーターの左右には軍服を着た兵が2名立っていて、その兵はやはりスラくんに敬礼し、エレベーターのボタンを押した。

 どうやらここが王族専用区画の入り口らしい。


 エレベーターが最上階につくと、ロビーから連絡が行っていたのか、執事服を着た初老の男性に出迎えられた。


「お帰りなさいませ、スラークン・イムチャンロンさま」


「シリンスーン姫のご容体は?」


「相変わらず昏睡状態が続いておりまして……」


「そうか……

 こちらは日本からの重要なお客様だ。

 部屋を用意して差し上げてくれ」


「畏まりました」


「陛下はどちらに?」


「シリンスーン殿下の病室におられます」


「わたしは陛下に帰国の挨拶をしてこよう」


「それではあちらで手の消毒と白衣の着用をお願いいたします」



 大地は8畳ほどの客室に通された。

 きっと見舞いや付き添いの王族が泊まる部屋なのだろう。

 タイの王室らしく実に簡素な部屋だったが、掃除は行き届いている。


(それにしても、俺みたいなやつが病室に入れるのかな?)


(まあスラくんに任せておくにゃ)



 1時間後、スラくんが大地の部屋に来た。


「付き添いの王子殿下ご夫妻や見舞いの姉妹兄弟方が夕食のために席を外されました。

 その折に国王陛下にダイチさまのことをお話ししましたところ、是非病室においでくださいとのことでございます」


「よく私みたいな外国人でしかも部外者の入室が許されましたね」


 スラくんは微笑んだ。


「陛下は天部の存在を心の底から信じておいでです。

 ダイチさまはその天部よりの御使いさまだと申し上げたところ、大いにお喜びになられていらっしゃいました」


(神界=天部と考えれば間違いとも言えないのか……

 でもどっちかっていうと、天部じゃなくって如来部の薬師如来の使いだと思うんだけどな……)


 大地は自分とタマちゃんに『クリーン』の魔法をかけ、念のために別室で手をアルコール消毒して白衣を着て病室に入った。



 その広い王族用特別病室の中央には、大きなベッドにやせ細った少女が寝ていた。

 生命維持装置や人工呼吸器に囲まれていて、呼吸は浅く速い。

 危篤状態というのは間違いないだろう。


 そのベッドの横には台座があり、その上で60代ほどに見える男性が法衣を着て結跏趺坐の姿勢を取っていた。

 部屋の隅には看護師が座っている。



「陛下、天部の御使いさまであらせられる、ダイチ・ホクトさまをお連れしました」


 陛下と呼ばれた男性が座禅の姿勢を解いた。


「初めましてダイチ・ホクト殿。

 ラーム10世、ワトラー・ロンコーンでございます。

 このたびはようこそお越しくださいました」


「ご丁寧なご挨拶痛み入ります。

 ダイチ・ホクトでございます。

 早速ですが、天部よりシリンスーン姫に妙薬を預かって参りました。

 おかけ申し上げてもよろしいでしょうか」


(いくらなんでも口に入れるのは看護師が許さないだろうけど、エリクサーは体にかけても効くからな……)


 国王は不思議な座り方をした。

 日本式の正座の形から足を横にずらしている。

 敢えて言えばいわゆる『女の子座り』であり、そのまま床に両手をついて頭を下げた。


「よろしくお願い申し上げます」


 部屋の隅の看護師が目を真ん丸にしている。


(あ、これって確かタイの最敬礼だよな。

 日本で言えば土下座に近いか……

 そりゃまあ国王陛下が土下座したら、看護師さんも驚くわ)


(ワトラー・ロンコーン……

 どこかで聞いたことのある名前だにゃあ……)



 大地は姫に近寄り、その首筋から胸の上に『エリクサー』をかけた。

 途端に室内に強烈な光が満ちる。


(エリクサーって、対象者が重篤なほど光るっていうけど、ほんとだったんだな……)



 国王がおもてを上げて目を見開いている。

 看護師は目を真ん丸にしたまま口元のマスクに手を当てていた。


「……ぅん……」


 姫の口から微かな声が漏れた。

 エリクサーの光が収まると、姫がゆっくりと目を開く。

 その顔が少し動き、国王を見たところで止まった。


「陛下……」


 国王陛下は目からぼろぼろと涙を零していた。

 姫が目を開けたのは7日ぶりである。


「シリンや…… 気分はどうかな……」


「なんだかすごく気分がいいの……

 まるでお病気が治ってしまったみたい……」


「そうか…… そうか……」


 国王の目からさらに涙が溢れ出て来た。


「これからもっと良くなっていくよ。

 今はゆっくり眠りなさい」


「はい、陛下」


 少女は安心したように微笑んで、再び目を閉じた。



 国王が看護師を振り返った。


「国王の名に於いて要請する」


「は、はい……」


 看護師の声は震えていた。


「今目にしたことは誰にも言わぬように。

 特にこちらのダイチ・ホクト殿のことは。

 もしも誰かに何か聞かれたならば、国王に直接問いただせと答えなさい」


「はい、陛下……」


「それでは医師を呼んで来なさい。

 シリンの負担にならない範囲で各種バイタルのチェックを」


「か、畏まりました……」





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