*** 132 ウィル・オー・ウィスプ族 ***
或る日のダンジョン村幹部会議にて。
「ということでだ。
村の人口も大幅に増えたし、重要な仕事も山ほどあるしで、ここらでまたダンジョンモンスターたちを大勢召喚したいと思う」
「そうじゃの、ダンジョンポイントも大量に手に入っておるし、ここらで将来に向けて大増員しておくべきかもしれん」
「それじゃあイタイ子、全ての種族をまた50人ずつ召喚しておいてくれるか」
「レベルはどうするかの?」
「全員レベル1でいいだろう。
俺がまた鍛えてやるよ」
「お手柔らかにの……」
「はは、最初は俺が攻撃を受けるだけにしてやるから」
「それならよかろう。
それで、既存の種族だけでいいのかの?
新しい種族は要らんか?」
「基本的には今いる種族の族長たちに新人の教育をお願いしたいからな。
あの族長たちなら最高の教師だろうから。
でも、1種族だけ新しく呼んでみたい種族がいるんだ」
「ほう、どのような種族かえ?」
「ウィル・オー・ウィスプ族っているだろ。
魔法生物でリフレクト能力を持つ。
そいつらを50体ほど召喚しておいて欲しいんだ」
「奴らは必ず雌雄がセットになっておるからの。
ひとりだけにしておくと寂しくて死んでしまうそうだし」
(地球のウサギみたい……)
「それでは25組ほど召喚しておくとするかえ」
「よろしく」
翌日。
大地の前には25組50体のウィル・オー・ウィスプ族がいた。
全員が大きな風船のような頭に小さな胴体と手を持ち、滑らかな毛が生えた長いしっぽのようなものをぶら下げて浮かんでいる。
どうやら男の子は青い風船で、女の子は赤い風船のようだ。
そうして、男の子は風船ににこやかなイケメンの顔が、女の子はおなじく優しそうな美少女の顔がついている。
まるで遊園地で売られているキャラクター風船のようだった。
ただ、顔の輪郭がまんま風船なのでちょっと笑えるが。
そのウィル・オー・ウィスプたちが大地に向かって頭を下げた。
「「「 ご召喚いただき、誠にありがとうございますマスターさま 」」」
「これから長い付き合いになると思うがよろしくな」
「「「 こちらこそよろしくお願いいたします 」」」
「それじゃあしばらくの間、モンスター村に慣れるためにもゆっくりしていてくれ。
ところでお前たちは食べ物は食べられるのか?」
「マナだけでも生きていけますが、食物を食べることも出来ます」
「そうか、この村には旨いものがけっこうあるからな。
世話係のゴブリン族のお嬢さんたちが案内してくれるから、楽しみにしていてくれ」
「「「「 ありがとうございます! 」」」」
ウィル・オー・ウィスプたちは、それぞれカップル同士で手を繋ぎ、案内係に連れられてまずは居住区に向かった。
(はは、ほんとに男の子と女の子で仲がいいんだな……)
だが、そこに公園で遊んだ帰りのモン村幼稚園の年少組が通りかかってしまったのである。
「「「 わーい♪ 」」」
子供たちがウィル・オー・ウィスプに殺到した。
そうしてみんなウィル・オー・ウィスプたちのしっぽにぶら下がってしまったのである。
「「「 きゃはははは♪ 」」」
「「「 きゃ―――っ! 」」」
「「「 いやぁ―――ん! 」」」
(うーん、子供たちの気持ちもわからんではないが……
どうもウィル・オー・ウィスプたちは嫌がってるようだな……)
大地は案内係を大幅に増員し、幼稚園の保育士さんたちにも子供たちがウィル・オー・ウィスプにぶら下がらないよう注意を促した。
ウィル・オー・ウィスプたちは、その後モン村やダン村の甘味処で各種スイーツを大いに堪能していたようだ。
女の子が男の子のほっぺについたクリームを拭いてあげている姿は、実に微笑ましかった。
数日後、時間停止収納庫内特別ダンジョンにて。
「さて、今日からお前たちの鍛錬を始めよう。
まずはレベルを上げていくことだな。
それじゃあ戦闘形態になってくれ」
「「「「 はい! 」」」」
ウィル・オー・ウィスプたちの体が大きくなった。
同時に風船のような頭が、激しく燃えるガスの塊のようなものに変化している。
顔も優しそうな顔から凶悪なものに変った。
(これ…… この変化を幼児たちが見たら、まちがいなく大泣きだな……)
「それじゃあ順番に俺を攻撃してみろ。
手加減の必要はないから、思いっきりだ」
「あの、ダイチさま。
ボクたちはほとんど攻撃手段を持っていないので、すみませんがダイチさまから攻撃して頂けませんでしょうか。
ボクらはそれを反射して攻撃に変えますので」
「そうか、確か男の子が物理攻撃反射だったな。
それじゃあ男の子はそこに並んでくれ」
「「「 はい 」」」
「順番に軽く叩いていくぞぉ」
「「「 はい 」」」
ぼん。
「うわ!
あーびっくりした。
そうか、今俺は俺に殴られたのか。
っていうことは、ウィル・オー・ウィスプは無事なのかな。
あれ?」
その場に青いウィル・オー・ウィスプが倒れていて、レベルアップチャイムが連続して鳴っている。
慌ててパートナーの上に屈み込んだ女の子が、安心したように微笑んで大地の方を向いた。
「ご安心くださいダイチさま、カレは攻撃されて倒れたのではなく、自分のレベルを遥かに超越する絶対強者さまの攻撃を反射したことで、レベルが一気に8も上がりました。
それでレベルアップ酔いを起こしているだけのようです」
「そうか、攻撃を反射して相手にダメージを与えたことが攻撃と見做されるんだな」
「はい」
「それじゃあ男の子たちへの物理攻撃を続けよう」
「「「 はい! 」」」
ぼん、ぼん、ぼん、ぼん……
(こ、これさ、俺へのダメージもそれなりに入ってるぞ。
まあ、いい鍛錬だと思ってがんばろう……)
男の子たちが25体、その場に横たわっている。
「次は女の子たちだな。
それじゃあ順番に魔法を撃つぞ」
「「「 はい! 」」」
どしゅ、どしゅ、どしゅ、どしゅ……
大地がエアバレットを25発撃ち終わると、やはりレベルアップ酔いを起こした女の子たちが横たわっていた。
もちろん彼女たちに大地の魔法攻撃によるダメージは無い。
「ふう、俺のHPが2%も減ってるわ。
俺が放った魔法攻撃は俺にはダメージを与えないはずだけど、魔法反射型のウィル・オー・ウィスプが反射した魔法は俺にダメージを与えるのか……
それがやっぱり俺への攻撃と見做されて、激しくレベルアップしたんだな。
よし、もう少ししてみんなが回復したら、もう1ラウンド鍛錬をしてみようか」
「「「 は、はい…… 」」」
こうしてこの日、レベル1で召喚されたウィル・オー・ウィスプたちは、全員が一気にレベル12まで上がったのである。
通常形態に戻ったあとの顔も、少し大人っぽくなっていた。
そして翌日。
「「「 わははははは♪ 」」」
「「「 おほほほほほ♪ 」」」
そのしっぽに大量の幼児たちをぶらさげて、意気揚々と飛び回っているウィル・オー・ウィスプたちの姿が見られたのである。
大地「………………」
こうしてウィル・オー・ウィスプたちの日中のお仕事は、スラ太と同じくモン村幼稚園やダン村幼稚園でのお遊び担当になったのだった……
もちろんこのお遊びは、子供たちの腕の力を強くするだけでなく、上位者を引っ張って攻撃していると見做されて子供たちのレベルをも上げる優良お遊びになった。
数日後、特別鍛錬室には実に1600体のモンスターたちの姿があった。
「召喚されたばかりのモンスター諸君、これより鍛錬を始める。
最初、俺は反撃しないから安心して俺を攻撃せよ」
「「「 はい! 」」」
「それでは鍛錬始め!」
新たに召喚されたレベル1のモンスターたちが、一斉に大地に攻撃を仕掛けて来たが、10分後にはその場には足の踏み場も無いほどにモンスターたちが転がっていた。
もちろん全員がレベルアップ酔いを起こしていたためであり、族長を始めとする先輩モンスターたちが、全員を後方に運んでいる。
「それじゃあ先輩たちの鍛錬を続けようか」
「「「 おう! 」」」
大地と先輩モンスターたちはいつもの鍛錬に入った。
最初はモンスターたちが大地への攻撃を行い、大地はいつものようにそれらを全て受ける。
大地のレベルが53にもなっているせいで、そのHPをゼロにするためには、3巡もの攻撃が必要になっていた。
大地がリポップを10回繰り返したころになると、新人モンスターたちもレベルアップ酔いから回復している。
「それじゃあ今度は俺から攻撃するぞぉ。
もちろんいつも通り反撃してもいいからなー」
「「「 おう! 」」」
「よーし、それじゃあ『サンダーレイン』!」
「「「「「 ぎゃぁ―――っ! 」」」」」
「ぐわぁぁぁ―――っ!」
そう……
大地はうっかり忘れていたのである……
モンスターたちの中に、魔法反射型ウィル・オー・ウィスプが25体もいたことを……
モンスターたちに降り注いだ数千もの雷撃のうち、実に50本近くが大地に向けて反射された。
もちろんモンスターの8割近くが光のエフェクトになって消えていっていたが、そこにはボロボロになった大地もいたのである。
(((( か、勝てるかもしれん! ))))
残ったモンスターたちが猛然と襲い掛かって来た。
大地は歯を喰いしばって『爆裂大火球Lv9』を放ち、またしても反射された爆風と高熱を耐える。
そうして、残った族長クラスのモンスターたちと、25体の魔法反射型ウィル・オー・ウィスプを物理攻撃で倒していったのだ。
モンスターたちが全員リポップされると、大地の『心の平穏』の魔法が降り注ぐ。
(お、この『心の平穏』まで俺に反射されて来てるわ……
ということは、ウィル・オー・ウィスプの女の子たちには届いてないっていうことか。
そうか、それじゃあこれからは彼女たちはあまり戦闘訓練には参加させないようにしよう……)
そうして鍛錬が終わると、ウィル・オー・ウィスプたちは、笑顔の先輩モンスターたちに囲まれたのである。
「いや今日はそなたたちのおかげで、もう少しでダイチさまを倒せるかもしれないところまで行けた」
「感謝するぞウィル・オー・ウィスプ族よ」
「実に素晴らしいモンスター族が仲間になってくれたものよの」
こうして、新参のモンスターたちも、一気にモン村の仲間として認められたのである……
さらに……
「のうマスターダイチよ、今日ダンジョンポイントが一気に2億ポイントも増えたのじゃ。
なんぞ心当たりはあるかの?」
「ああそうか、今日新しく召喚したモンスターも含めて5回の鍛錬をしたんだよ。
新人召喚後のモンスターたち全体の平均レベルって約16だったろ。
それを全滅させたんで、16(レベル)×1600(人数)×1600(モンスターハウスボーナス)で約4000万ダンジョンポイントになるんだ。
それを5回繰り返したから2億ポイントも稼げたんだろうね」
「そうか……
それではモンスターたちをあと1000体ほど召喚してはどうかの♪」
「………………」
「さすれば日に10回の鍛錬で10億ポイントも稼げるぞよ♪」
(お前も鍛錬メンバーに入れちゃうぞ……)
泣きながら地面をじょびじょばで濡らし、逃げ惑うイタイ子の姿を想像して、大地は歪んだ笑みを浮かべた。
それを見たイタイ子は……
「ま、まあモンスター大増員は、そ、そのうちまた考えるとしようかの……(汗)」
こうして、新たに召喚された1000体ものモンスターたちは短期間でそのレベルを16まで上げられたのである。
レベルの上がった新人モンスターたちは、大森林内の種族たちへの移住・避難勧誘団や街道沿いの悪党駆除部隊にもOJTとして配属され、一般種族やヒト族のことを学んで行くようになる。
こうして、ダンジョン村の人口はますます増えていったが、そのために必要なダンジョンポイントもまた稼げるようになっていたのであった。
そうしたある日。
(ダイチさま)
「おおシスくん、どうした?」
(どうもダンジョンポイントで買えるものの中に、新たな商品が追加されたようでございます)
「ほう、どんな商品だ?」
(非常に高額なのですが、ダンジョンの作業能力を大幅に拡充するハイパーバージョンアップツールのようですね)
「いくらだ?」
(それが、1000万ポイントもするのです)
「けっこう高いな。
でもそれって、例えばドワーフの鉱山街に城壁を作ったりした作業がもっと大規模に出来るようになるんだろ」
(はい)
「それじゃあそれ買って、ダンジョンをバージョンアップさせておいてくれ」
(畏まりました)
「テミス」
(はい)
「なんで神界はこんなものを買えるようにしてくれたのかな?」
(どうやら、あらゆる点でダイチさまの活動をサポートしてくださろうとしているようです)
「そうなんか……
まあ、ありがたいこったな」
(はい)
ダンジョン:
(ふおおおぉぉぉ――――っ!
な、なんだこの力はっ!
力が……力が漲ってくるっ!
ええいっ!
城壁建設の100や200、いくらでも持って来いやぁっ!)