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*** 131 王国の終焉 ***

 


 東西と北での周辺国による侵攻が伝わるにつれ、カルマフィリア王国中央部でも民たちの不安は増大していった。

 そのほとんどは、上位貴族領都にあるダンジョン商会や商業ギルドの求人広告を見て、ダンジョン村に避難して行っている。


 だが、少数の裕福な者ほど王都に向かい、そこでも近衛兵や衛兵が大量に行方不明になっている事実を知って、絶望することになる。


 そのうち、ダンジョン国への避難民には、商会の従業員たちはもちろん、貴族邸や王宮の侍従や侍女たちも加わるようになった。

 そのうちに商会長や貴族一族や貴族本人までもが……




「あなたは元子爵だったのですねゲブリオールさん」


「き、気安く名を呼ぶなこの平民風情が!」


「このダンジョン国には貴族制度はありませんので、今はあなたも平民ですよ」


「な、なんだと!」


「せっかくダンジョン国に避難されて来られたようですが、残念なお知らせがあります。

 あなたは殺人教唆が86件もあるために、この国では一般国民として受け入れることが出来ません」


「な、なんだとキサマっ!

 不敬罪で無礼打ちにするぞ!」


「剣もお持ちでないのにどうやってですか?」


「ぶ、部下に命じてだ!」


「その部下の方はどこにいらっしゃるんですか?」


「がぎぐぐぐぐ……」


「あなたには選択肢が2つあります。

 ひとつめはこのまま元居た地にお戻りいただくことですね。

 もうひとつは、この国の刑務所に終身刑囚として服役して頂くことです。

 どちらになさいますか?」


「こ、こここ、この無礼者めが!」


「そういう無礼とかの問題ではなく、これはこの国のルールですから。

 移住の際に説明を受けたはずですよ」


「…………」


「どちらがいいかこの場で決めてください。

 お決めになられない場合は元いた場所にお帰り頂くことになります」


「…………ぁぅ…………」




「あなたは男爵家の2男だったんですねボンゾワールさん」


「ああ」


「その割には殺人も無く殺人教唆も無しですか」


「幼少のころから病弱で、滅多に邸から出たことは無かったからの。

 だが、不思議な力で病を治してもらった今は、生まれ変わった気分である」


「それで、あなたはどのような仕事が出来そうですか?」


「男爵なら出来るぞ。

 一応兄上に万が一のことが有った場合には我が後を継ぐことになるので、貴族教育は受けていたからの」


「いえ、この国には貴族はいないんです」


「な、ならば徴税人とか……」


「いえ、税もありませんから」


「な、なんと……

 それでは王族はどうやって暮らしているというのだ」


「王もいません」


「!!!」


「そ、それでは我はどうしたらいいというのだ……」


「職業紹介所の仕事紹介をお読みになって、ご自分で考えてみられたら如何でしょうか。

 念のため申し添えますが、これから6か月の間、あなたの働きぶりはチェックされます。

 そうして、7日のうち5日は仕事をする日と定められているのですが、仕事をする日の平均労働時間が5時間を下回ると、6か月後に元居た場所に送還されてしまいますので」


「わ、わかった。

 それでは真剣に考えてみるとしよう……」




 さらに……


「ガルビルさん、あなたはこの国でどのような仕事に就かれたいですか」


「無礼者め!

 わしは王都最大のガルビル商会の会頭ぞ!

 もそっと敬意をもって応対せよ!」


「でも今は単なる避難民ですよね」


「ぐうっ!」


「それでこの場はあなたの再就職の相談の場なんです。

 あなたはどのような仕事が出来ますか。

 またどのような仕事に就きたいですか?」


「そんなもの、大商会の会頭に決まっておろうが!」


「あの、参考までに教えてください。

 大商会の会頭さんって何をするひとなんですか?」


「そんなことも知らんのか!

 配下の番頭など従業員に指図して金を儲けさせるのだ!

 わしの決めたノルマは必ず達成させる!」


「それでは会頭さん自身は仕事はしないんですか?」


「な、なんだと!

 か、会頭の仕事というのは商会の舵取りであるぞっ!」


「それではこの国では会頭の仕事は出来ませんね」


「な、なぜだ!」


「この国には商会がありませんから」


「!!」


「ですから商会の舵を取る方も必要ないんです」


「だ、ダンジョン商会はどうした!

 あれはこの国の商会であろう!」


「あの商会はダイチさまが作られた対外商売用の商会でして、このダンジョン国内では一切の商業活動を行っていないんです」


「!!!」


「ですから残念ながら『会頭』という仕事は無いんですよ」


「そ、それならば今から商会を作ればよい!

 わしに任せておけば莫大な金貨を稼いでやるぞ!」


「あの……

 この国には貨幣が無いんで、金貨も要らないです」


「な、なんだと……

 な、ならばどのようにして日々の糧を得ているのだ!」


「主に農業と漁業ですね、ですからあなたにも農作業か魚加工工場でのお仕事をお勧めします」


「そ、そのような下賤な仕事が出来るかっ!」


「仕事に貴賤の差はありませんよ?」


「だ、だがこの国にはダンジョン商会があるだろうに!

 それであのダイチとかいう生意気な若造が浅ましく金貨を稼いでおっただろうに!」


「あははは、ダイチさまは既に金貨1000万枚をお持ちです。

 さらにその10万倍の金塊も。

 ですからダイチさまは、あなた方相手に儲ける必要は全く無かったのですよ」


「な、なんだと……

 そ、それではなぜあのような商売を……」


「あれは王都の商会や王侯貴族の強欲を刺激して、商会を襲わせるためのダイチさまの計略だったのです。

 おかげで大量の貴族や近衛軍や衛兵を捕らえることが出来ました」


「な ん だ と ……

 あ、あれはあ奴の罠だったというのか!」


「はい♪」


「がぎぐぐぐぐぐ……」


「そういう意味で、あなた方が王宮に泣きつくのも予定通りだったのですね」


「だ、だがそれでは民の暮らしが豊かにならんだろう!

 わ、わしに商会を任せれば、部下を恫喝して働かせ、あの茶や焼き菓子を大量に民に齎してやれるぞ!」


「あの……

 この村では、既にあの紅茶や焼き菓子は皆毎日飲んで食べられますよ?

 それ以外にももっと美味しいものも。

 つまり、あのみすぼらしい国よりも圧倒的に豊かなのです。

 その国の人に、豊かにしてやると言われても……」


「!!!!!」


「ですから商会など不要なのです。

 あなたも自分が出来る仕事を考えてくださいね。

 もしも仕事に就かないと、元居た場所に戻されてしまいますよ」


「……ぁぅ……」





 因みに……

 今から20年と少し前に、日本では当時4大證券の一角と言われていた山一證券という会社が倒産したことがある。

 その際に数千人もの従業員の再就職先を斡旋するために組織が作られ、多くの転職斡旋会社がその再就職を手伝っていた。

 後にその転職斡旋の担当者が述懐したところによると……


 担当「それであなたはどのようなお仕事が出来ますか」

 部長「部長が出来ます」

 担当「あ、あの……

  部長の仕事とは具体的にどのようなものだったんでしょうか……」

 部長「部下に課したノルマは必ず守らせますっ!」

 担当「……………」



 嗚呼…… 現代日本もアルスも同じだったのだ……





<現在のダンジョン村の人口>

 2万4324人


<犯罪者収容数>

 2732人(内元貴族家当主83人)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 カルマフィリア王国内での仕事を終えたブリュンハルト商会は、その仕事を徐々に周辺3国に広げている。

 まずは下級貴族領から始めて、次第に上級貴族領に移ってオークションを開催していった。

 既にその仕事に習熟していた彼らは、問題なく同時に10か所での開催も可能になっていたのである。


 また、ガリル男爵に率いられた別動隊も、領都の奴隷商や教会、各村々などを回り、乳幼児や子供を保護し、村人も着々と避難させていっていた。



 そうした中でも周辺3国はカルマフィリア王国への侵攻を続けていた。

 本国の中枢部がより広い領土を欲したために、続けざるを得なかったのである。


 もちろん3国とも広大な領土を手にしたが、その地に民はいなかったし、食料も財も無かった。

 おかげで税を徴収するどころか、本国は侵攻軍に常に食料を送ってやらねばならなかったようだ。



 3カ国の侵攻軍は疲れ果てながらも侵攻を続け、ついには王都外周で相見えた。

 全く得るものも無い侵攻に倦んでいた司令官たちは、すぐに停戦協議を行い、休息に入ることになる。

 そうして、王城内の財物を山分けすることに合意し、3カ国の軍は共同歩調を取って入城して行ったのだ。


 だがそこにあった物は……

 いやあった物ではなく、物はなにも無かったのだ。

 宝物庫も食糧庫も完全に空だった。

 さらに城内の装飾品も什器すらも……

 どうやらみな侍女や侍従たちに持ち逃げされたらしい。

(因みに、この時点で水の魔道具はすでにタダの箱にされていた)


 ただ……

 最上階にある2つの大きな部屋で、干からびた死体と奇怪な生き物が発見された。

 まず1つ目の部屋にあった死体の方は、ガリガリに痩せたかなりの高齢者であり、その様子から数週間前に餓死したものと思われた。

 また、2つ目の部屋で発見された生き物は、まるで超肥満体のヒトが強制的にダイエットをさせられたかのようにぶよぶよの皮膚で覆われ、糞尿に塗れて虫の息状態になっている。

 そうして、微かな声で「焼き菓子を持て……」と呟き続けていたのである。

 どうやら、忠義の侍女が最近まで吸い飲みで水だけは与えていたらしく、かろうじて生きていられたようだ。


 そうして、それらの人物が身に着けていた衣装などから、どうやらこの国の国王と王太子であると断定されたのである。



 3カ国の侵攻軍司令官たちは、協議の結果、やはりこの王太子を斬首することに決めたようだ。

 どうも戦果は無くとも軍功は欲しかったらしい。


 だが、処刑人が今まさに斧を振り下ろそうとしたとき、王太子殿下もまた消えたのであった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ブリュンハルト商会は、ついに周辺3カ国の王都でのオークションも行った。

 次の目標は、さらにその外側5カ国での仕事である。


 こうした業容をさらに拡大するために、ダンジョン国ではヒト族を中心に護衛見習いの募集も行われた。


 だがしかし、2千人を超える応募者のうち、採用基準であるE階梯2.0を超えるものは数人しかいなかったのである。


 もちろん、モン村のダンジョンモンスターたちは、ほぼ全員が2.0以上のE階梯を持っていたが、彼らはまだ数が少ない上に、大森林の種族たちの移住・避難勧誘やヒト族の国の街道や街の『悪党駆除』などの重要な仕事に就いている。

 そのために、商会の仕事は依頼出来なかったのだ。


 また、大森林から移住・避難して来ているヒト族以外の種族を護衛見習いとする案も検討されたが、ヒト族の言葉遣いや習俗を学ばせるのには相当な日数が必要であると見込まれた。

 やはり人材育成には近道はなく、既にE階梯が高く現在ダン村の学校で懸命に勉強している孤児たちが成人するのを待って、護衛見習いに勧誘して行くことになったのである。





<現在のダンジョン村の人口>

 3万2324人


<犯罪者収容数>

 4135人(内元貴族家当主205人)





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