*** 127 第2回オークション ***
さてと、そろそろ王都で2回目のオークションだな♪
どうなるか楽しみだ……
オークション当日。
王都内の大通りでは、長い隊列がいくつも見られた。
多くの人足が雇われて、小さい割に重そうな荷を担いで歩いている。
帰りに購入した商品を運ぶための馬も多数用意されていた。
その周囲には人足たちが荷である金貨を持ち逃げしないよう、商会の護衛たちがいて目を光らせているようだ。
その隊列のほとんどがダンジョン商会の壮麗な建物に飲み込まれていった。
だが、或る商会だけは……
「申し訳ございませんが、ゴルボール商会さまは入場をお断りさせて頂きます」
「な、なんだと!
き、キサマ、我が商会が王都でも5指に入る大商会だと知らんのか!」
「もちろん存じ上げております」
「ならばなぜわしを入れないのだ!
わしはそのゴルボール商会の会頭ぞ!
こ、ここに招待状もあるっ!」
「これは第1回オークションのご招待状でございますね。
私共からは本日の第2回オークションの招待状はお届けしていなかったはずですが」
「な、なぜだ!
なぜわしだけ呼ばんのだっ!」
「ご存知ありませんでしたか。
前回のオークションにおきまして、ゴルボール商会のベベス番頭さまが会場内で盗みを働いたために、貴商会は出入り禁止処分を受けておられます」
「!!!!」
「ですので、どうかお引き取りくださいませ」
「な、ななな、なにかの間違いだっ!」
「いえいえ、ご参加されていた全ての商会の方が証人でございます」
「あ、あああ、あの突然姿を消した番頭が……」
「左様ですか、きっと会頭さまに盗みが露見するのを恐れて逃げたのでございましょう」
「そ、そうだ。故にわしに落ち度は無いのだ……
だから早くわしを門内に入れろ!」
「いえいえ、雇用者責任でございますよ。
それに、あのとき出入り禁止宣言が為されたのはベベスさまではなく、ゴルボール商会さまでございましたので……」
「な、なんだと……」
「さあ、門前は混雑致しますので、早くお帰りください」
「き、キサマぁ…… こ、後悔するなよっ!」
「ははは、たぶんしないと思います」
「ぐぎぎぎぎぎぎ……」
第2回のオークションでは、大商会が大量の買い付けをして商品を持ち帰ろうとして、人足や従業員を大勢連れて来ており、その総数は500人を超えていた。
もちろんそれだけの人数は控室に収まらなかったのであるが、今回は控室の奥の部屋入り口が『転移の輪』になっており、護衛や人足たちを自動的にダンジョン村の特別フードコートに送り出している。
そこでは、『変化』の魔法でヒト族に扮した各種族たちの手によって、ラーメン、チャーハン、お好み焼き、スパゲティ、焼きそば、サンドイッチ、その他の料理と各種ジュースが大量に振舞われていたのである。
中にはチャーハンや焼きそばをポケットに詰め込んでいる人足までいた。
「なあダイチ、こんなに大勢に大量の料理を振舞ってもったいなくないか?」
「ああガリル、いいんだよ。
そのうちに商業ギルドで大々的に求人募集をかけるからな」
「求人募集?」
「そうだな。
『ダンジョン商会季節従業員募集。
勤務地 :ダンジョン国(現地までの送迎付き)
職務内容:荷運び、農作業、飲食店店員、料理人、その他多数
契約期間:6か月(優秀な従業員には契約更改有)
給 与:6か月で銀貨50枚
勤務時間:日に8時間まで
待 遇:住居、衣服、食事支給(日に2回)、
5日労働ごとに休日2日、家族同伴可 』
っていうカンジで。
今日うちのメシ喰った奴で仕事先に困ってる奴らなら、ほとんどが応募して来るんじゃないかな」
「なんとまあ、今日の振舞い飯は、その撒き餌だっていうことなのか……」
「そういうことだな」
「よくそんなことを思いつくもんだな。
さすがというかなんというか……」
「ははは」
今回のオークション会場では、最前列に大商会の会頭たちが並んだ。
その横には金貨を入れた袋が堆く積み上げられている。
2列目以降もほとんどが会頭たちであり、お供の者も嫡男や頭取番頭ばかりであった。
中堅から小規模の商会もかなりの金貨を用意してオークションに臨んでいる。
どうやら、前回仕入れた品がほとんど売り切れて大きな儲けを手にしたために、その利益を丸ごと今回の仕入れに充てるつもりらしい。
(王都でのオークションもこれを最後にするかな。
これから貴族家や王都の住民がどんどん減って行く中で、小さな商会に過剰在庫を持たせて倒産させるのも気の毒だし。
その分今日は頑張って大商会に憎まれてやろう。
はは、稼ぐのは金貨じゃなくってヘイトか……)
大商会の会頭たちは、表情には出さなかったものの、内心の驚愕に押しつぶされそうになっていた。
建物の外見も大きさも内装も、彼らの想像を絶していたからである。
王城にも何度も出入りしたことがある会頭たちだったが、その彼らをしてもここまでの豪華な建物を用意したダンジョン商会に驚嘆していたのだ。
だが……
そうした驚愕が収まって来ると、その驚愕が徐々に嫉妬に転嫁され始めた。
さらに、王都最大、もしくは王都で〇番目という自分の商会が圧倒されてしまったことが、嫉妬を憎しみに変化させて行ったのである。
加えて、このダンジョン商会のオークションこそが、自分たちの商会の売り上げを大幅に減少させた元凶である。
彼らの心中は怒りに煮え滾っていた。
もちろん、大地がこのような建物を用意したのは集客のためでもあったが、同時に大商会からのヘイトを集め、それが王侯貴族からのヘイトに波及していくことを狙ったものである。
こうした意味で、大地の狙いは見事に当たったと言えるだろう。
「本日は多数の方にお集まり頂き、誠にありがとうございます」
「能書きはいいから早くオークションを始めろ!」
「我々の貴重な時間をこれ以上無駄にするな!」
(おほ! しょっぱなからヘイト全開♪)
「それでは早速オークションを始めさせて頂きたいと思います♪
最初は6客ティーセットからでございますね」
前回と同じティーセットがワゴンに乗せられて各テーブルの周囲を回った。
だが、ほとんど誰も吟味しようとはしない。
中堅から小規模商会にとっては既に前回仕入れた品である。
また、大商会にとっては、この品のせいで貴族家に咎められ、献上するために中小商会から仕入れるハメになって屈辱を味わった因縁の品である。
見たくもなかったのだろう。
「早く入札とやらを始めろ!」
「それではみなさんお手元の紙にご希望価格をご記入くださいませ」
大商会の会頭たちは腕組みをしたまま同行の頭取番頭に数字を言い、頭取たちがその数字を書き込んでいる。
「それでは落札価格を発表させていただきます!
この6客ティーセットの価格は、ひとつ銀貨55枚になりました!
それではみなさま、購入のご希望数量をご記入ください」
どうやら皆確実に落札したいと思ったようで、前回の落札価格よりは若干高い。
「うちは300セット買ってやろう」
「うちは500セットだ!」
会頭が数量を言うと、頭取たちはその数を紙に記入し、同時に金貨の入った袋をテーブルに乗せている。
そのとき、会場正面左右の開口部から巨大な棚が現れた。
縦横5メートル×8メートル、高さはやはり8メートルに達するその棚は、誰も持っていないのに空中をふわふわと飛び、会場脇の大商会たちのスペースに収まった。
棚にはティーセットがぎっしりと納められている。
中小商会のテーブルにもかなりの数のティーセットが積み上げられていた。
大商会の会頭たちは、ここで初めて動揺を顔に出した。
「な、なぜ棚が浮いているのだ……」
「単なる魔法ですのでお気になさらずに」
「そ、そうか……」
「それでは皆さまお急ぎのようですので、ティーセットの数量確認はお供の方にお任せするとして、次の商品に参りましょう。
前回と同じ紅茶100グラムでございます。
御試飲を希望される方はいらっしゃいますか?」
中小の商会ではほとんど全員が手を挙げたが、大商会の会頭は誰も手を挙げなかった。
「それでは希望価格をご記入ください」
「お待たせしました。
落札価格は1箱銀貨6枚でございます!」
「うちは1000箱だ」
「うちは2000箱!」
ここに来て、中小商会の連中はようやく気付き始めた。
大商会の目的は『買占め』であると。
今まで誰もその国名を聞いたことが無かったために、相当な遠方にあると噂されるダンジョン国からは、そう多くの品を持って来られたはずが無い。
したがって、ここで大量に買い占めておけば、のちのちそれらの商品の販売価格は大商会たちの意のままに操れることだろう。
販売力では大商会に太刀打ち出来ない中小商会の会頭たちは、以後の応札は控えめにしようと思った。
次の焼き菓子は、やはり若干高めの価格でさらに大量に売れた。
次の塩も砂糖も胡椒も紙も。
特に腐る心配の無い塩と砂糖と紙は超大量に売れている。
もはや大商会用のスペースはいっぱいになり、会場後方にも棚が設置されて頭取番頭が必死になって数量の確認をしていた。
次の熱の魔道具は、金貨12枚で50セットも売れた。
どうやら薪を主に扱う商会が多めに買ったようである。
「さて、次はいよいよ『水の魔道具』です。
みなさまご希望価格をご記入ください」
「いくらだ!」
「お前の販売希望価格を言ってみろ!」
「そうですか、これはオークションなのですが、本日はみなさま大量にお買い上げ頂いたことでもございますし、ここから先は私共の希望卸売り価格をご提示させて頂くことと致しましょうか。
この『水の魔道具』の提示価格は金貨2000枚(≒20億円)でございます」
後方の席からは盛大にため息が上がった。
だが、最前列の5人の大商会会頭たちは互いに目配せして頷きあっている。
「それでは我ら5大商会が共同で1台買おう」
「よもや共同購入は認めないなどとは言うまいな」
「もちろん構いませんとも。
お買い上げ誠にありがとうございます。
それでは次は皆さまお待ちかねの『鉄貨』のご披露でございます」
またもやバックヤードから台座に乗った鉄貨が出て来た。
だが……
今度の鉄貨は、直径が1.2メートル、厚さが12センチもあったのだ。
会場全体がフリーズした。
「こちらの鉄貨の重量は約1000Kgございます。
ですから5倍の重さの金貨と交換するとしたら、金貨13万3000枚との交換になるのですが……
本日は特別に金貨10万枚(≒1000憶円)でのご提供になります。
ご希望の方はいらっしゃいますでしょうか?」
(はは、これだけの大きさと重さなら、薪なんかじゃ到底溶かせないし、だいたい入れられる炉も出し入れする方法も無いだろうねぇ♪)
大商会の会頭たちも、額に脂汗を浮かべながら無言でいた。
「どうやらご購入希望の方はいらっしゃらないようでございますね。
残念です。
それでは、やはり本日の大量購入の御礼として、以降は我が商会が誇る特別商品をご紹介させて頂きましょう。
まずは真珠のネックレスです」
「し、真珠だと……」
ワゴンに乗ったガラスケースが出て来た。
その中には小型ライトの光を浴びて光る大粒の真珠のネックレスが鎮座している。
大地が地球で仕入れた300万円の品であった。
「な、ななな、なんだと……」
「真珠が50個近く使ってあるではないか……」
「つ、粒の大きさが徐々に大きくなっていって、また小さくなっていっている……
こ、こんなに綺麗に並べるためには、いったいいくつの真珠貝を見つけたというのだ……」
「この大陸全体でも、年に数個見つかればいい方だというのに……」
「お、おい!
このネックレスをケースから出せ!
本当に真珠なのかどうか吟味するっ!」
「お断りさせて頂きます」
「な、なんだと……」
「これほどまでの宝物を身に着けることが出来るのは、大国の王族の方のみでございましょう。
そうしたご淑女が、見知らぬ男の触ったネックレスを身に着けられるとお思いですか?
場合によってはその男は打ち首になりますよ」
「あぅ……」
「まあ実際に王族の方に転売された後に偽物だとわかれば、代金の倍額をお支払いしても構いませんが。
ところで皆さまは真珠が本物かどうか見分ける方法をお持ちなのですか?」
「「「「「 …………… 」」」」」
「それではわたくしどもの販売希望価格を申し上げましょう。
こちらのネックレスは金貨5万枚(≒500憶円)でのご提供になります」
「「「「「 ……………………… 」」」」」