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*** 124 王侯貴族の本質 ***

 


「それならあんたに2つ聞きたいことがある」


「な、なんだ」


「そのおっさんが王家に認められて伯爵に叙せられたのはよしとしよう。

 それじゃあ、なんでその9代もあとのお前ぇも伯爵とかヌカして踏ん反り返ってるんだ?」


「そ、それはもちろんわしが初代さまの高貴な血を引いてるからだ!」


「わははは、ケンカが強ぇのが高貴なんか。

 それじゃあお前ぇもさぞかしケンカが強ぇんだろうな」


「ぐっ……」


「よく考えてみ、お前ぇが祖先から引き継いだのは、ケンカの強さじゃねぇだろ」


「…………」


「お前ぇが引き継いだのは、唯一、家臣団っていう暴力集団なんだよ。

 まあ、その暴力集団も今となっては弱っちい雑兵に成り下がってるが」


「そ、そのようなことはないっ!」


「あれ?

 さっきその家臣団は俺の魔法で全滅したばっかりだろ。

 ここが戦場だったらお前ら皆殺しだぞ?」


「ま、魔法だと……」


「そんなこたぁどうでもいい。

 次の質問は、205年前にお前ぇの祖先を子爵に叙していたのは誰だっていうことだ」


「そ、それはもちろん、当時のミドランド王家だ!」


「それじゃあ聞くがよ。

 その王家は500年前の建国戦争で出来上がった王家だよな。

 あの金貨の表面に彫られてる、ほっぺにでっかい笑窪のあるお茶目なおっさんが作った国だろ」


「お、おっさん……」


「そのおっさんは505年前には何をしていたんだ?」


「そ、そのような昔のことは伝わっておらん!」


「いや違うな。

 それは伝わっていないんじゃあなくって、伝えていないんだよ。

 だってそのおっさんが、505年前にはそこらの百姓だったってバレちまったらカッコ悪いからな」


「!!!!」


「つまりだ。

 500年前の建国王もケンカが強かったんだよ。

 んでもって、やっぱりケンカが強ぇ部下と、周りで真っ当に暮らしてた百姓たちを殺しまくって国を作ったんだ」


「…………」


「それでな、『俺は元農民の支配者だ!』って言うのが恥ずかしかったんで、『俺は偉いんだ!』って言い出したんだよ。

 俺の母国では、そういう野郎共のことをヒャッハー野郎っていうんだけどさ。

 その500年前の建国王も、そういうケンカが強くって他人を殺しまくったヒャッハー野郎だったわけだ」


「……………………」


「それでな、どうもそういうヒャッハー共って、威張ってる理由がケンカが強いだけっていうのが恥ずかしいらしいんだ。

 特に歳とってジジイになると、何故かヒト族はみんなに尊敬して貰いたがるようになるし。

 まあたぶん、歳喰ってケンカが弱くなったのを補おうとしてるんだろうけど。

 俺が元居た世界でも、『年寄りは無条件で若者より偉い』とかいうとんでもねぇ道徳があったわ。

 今でもそれを信じてるジジイも多いし」


「……………………」



 因みにだが、現代日本の読者諸兄は不思議に思われたことはないだろうか。

 日本の祝日には実にさまざまなものがある。

『勤労感謝の日』『こどもの日』『海の日』『文化の日』など、日本の祝日の数は世界一とも言われている。

 だが、その中で実に不可思議な名称の祝日が1つある。

 お分かりだろうか。

 それは『敬老の日』である。

 なぜあの祝日は『老(人を)敬(う)日』なのだろうか?

 なぜ『老人の日』や『老人感謝の日』ではないのだろうか?

 事程左様にジジイとは尊敬して貰いたがる生物なのである。


 閑話休題。

 


「それでな、そうしたヒャッハー野郎共は周囲の民を殺しまくって国を宣言したあとは、自分を王って言い出したり、部下たちにも侯爵だの伯爵だのってご大層な地位を勝手に作って叙してやったわけだな。

 王なんだから、貴族なんだから尊敬しろとか言い出して。


 それでその地位に伴う特権は、『威張っていい』っていうことと、『生き残った農民を脅して作物を分捕っていい』と『生意気な奴や逆らう奴は殺していい』っていうことだったんだよ。

 まあ、これも俺の世界の歴史とまったく一緒だわ。

 つまり、貴族だの王族だの皇族だの天皇だのって威張ってたやつほど祖先が大量殺人者だったってぇこったし、その子孫もずっと周囲に尊敬を強要して税や献上品を強奪して民を殺し続けて来たわけだ」


「な、なんだと……」


「それで連中は、その特権的な地位を守るために、やっぱりケンカが強そうな奴を集めて『家臣団』とか言うもんを作り、それが延々500年も続いて今に至ってるっていうこった。

 それでさ、こういう王族だの貴族だのの本質を聞いて、お前ぇはどう思うか聞いてみたかったんだよ」


「ぶ、無礼者め……

 我が祖先のみならず、祖王までも侮辱するとは……」


「ほらそれだ。

 そういう単なるヒャッハー崩れの武力集団が最も嫌がるのはナメられることなんだよ。

 だから、無礼者とか言って殺すわけだ。

 大勢殺すほど祖先のヒャッハーみたいになれるとも思ってるし」


「な、なんだと……」


「だって戦場で大勢殺すほど貴族位も上がるんだろうに。

 お前らヒャッハー族の本質は500年前から全く変わってないんだよ」


「な…………」


「それでな、ここまで聞いたら、いくらアホなお前ぇでももう気づいてるだろ。

 こうした武力を背景に威張り散らして他人からモノを奪いまくってる集団って、他にもあるよな。

 ナメられると激怒するところも一緒だぁな」


「…………………」


「ようやく気付いたか。

 そう、お前ら王侯貴族とかいう制度も考え方も、盗賊団となんら違いは無いんだ。

 この国も単に規模が大きいだけの盗賊団に過ぎなかったんだよ。

 だからまあ、国同士の戦争も、単に盗賊団同士の勢力争いだわ。

 俺の世界の歴史も、まんま盗賊団たちの歴史だし」


「こ、この無礼者め……」


「お前ぇさっき『このギラオ会頭を人質にするから商品をよこせ』『お前は俺に無礼な口を利いたから殺す』って言ったよな。

 それって完全に盗賊のセリフと同じだってわからんか?」


「………………」


「だから俺は、天界に頼まれて、貴族という名の大規模な盗賊団を潰していってるだけなんだけどな。

 さっきお前の部下を捕らえたのも、単に盗賊団の手下を捕縛するのと変わりはないんだ」


「な、なに……」


「それでお前はこの国の貴族であることについて、どう思うんだ?

 伯爵っていう名の盗賊団の親玉であることについて」


「……………………」



「まあもういいや、ヒャッハー野郎の子孫である莫迦には理解出来ねぇか。

 牢獄で一生反省しな」


 伯爵も消えた。




「なあテミス、これって慰謝料貰ってもいいよな」


(なにしろ罪状は恐喝に殺人教唆に殺人未遂ですからね。当然です)


「それじゃあストレー、この邸の金目の物全部収納な。

 うちの村民の食料を買うために使わせてもらおう」


(はい)


「それじゃあ会頭さん、俺たちも帰ろうか」


「は、はい……」


 その場からテーブルセットも消えた。




「やあ門番くん、ご苦労さん」


「も、もうお帰りですか?」


「ああ、用事は全部終わったんでな」


「お、お疲れ様でした……」



 しばらくの後、執事や侍女の何人かが邸内に伯爵閣下や衛兵全員がいないことに気づいたが、何をどうしたらいいのか皆目わからずに、とりあえず門番に頼んで領地の嫡男に早馬を出してもらっていたらしい。



 また、その日モン村では、体長3メートルから5メートルの狼たちに囲まれて、涙目になってきゅんきゅん鳴きながら腹を見せていた黒い犬がいたそうだ……




<現在のダンジョン村の人口>

 1万8525人


<犯罪者収容数>

 485人(内貴族家当主2人)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ブリュンハルト商会護衛部隊による各貴族領でのオークションが開催され始めた。

 最初はやはり練習ということで、子爵領都8箇所で8つの分隊がオークションを順番に開催している。


 もちろん彼らも、行商の護衛の際に各村で販売の補助を行っていたこともあって、商売については素人ではない。

 だが、貴族領都で、それも大勢の商人たちを相手にオークションを開くなどということは初めての経験である。

 当然のことながら皆緊張していた。


 それでも、これからはアルス中央大陸にある2000近い数の国で、同様の仕事を熟していかなければならないのだ。

 番頭という地位も与えられた各分隊長たちは、新しい仕事に決意を新たにして頑張ったのである。


 もちろん、既に『念話』のスキルを持っていた彼らには、シスくんの懇切丁寧なサポートがついた。

 さらに、オークションの様子はダンジョン村本部にいる大地が『念話&映像』でモニターしており、場合によっては転移で駆けつけてくれるという安心感もあって、慣れないながらもなんとか全員が熟していったのである。




 アルスが夜になると、大地はダンジョン村で食事を摂り、時間停止収納庫で充分に睡眠を取った後は地球に戻る。

 そうして、いつものように物資の調達やジムでの指導を終えるとまたアルスに転移した。



「それじゃあシスくん、昨日オークションが開催された子爵領について報告してくれ」


(はい、昨晩は噂を聞いた商業ギルド長がその配下に指示して盗賊を雇い、6名ほどが夜間に支店に侵入して来ましたので、全員を転移させて拘束しております。

 テミスさんの鑑定によって、全員終身刑となりました)



 翌日。


(昨晩は、一昨日オークションを開催した子爵領に於きまして、子爵配下の領兵が16名やって参りました。

 映像をご覧になりますか)


「ああ頼む」


 子爵領支店の門前には領兵たちが集結していた。


「開門! 開門せよ!」


 門横のスピーカーからシスくんの声が聞こえる。


「どちらさまですか?」


「な、なんだこれは! 貴様どこにいる!」


「これは音声を届ける魔道具です。

 わたしは建物の中におります」


「ま、魔道具だと……

 ええい、早く開門せよ!」


「ご用件を伺います」


「な、なんだと!

 貴様領兵隊に逆らう気か!」


「ご用件をお伺いしているだけでございます。

 逆らっているわけではございません」


「ええい!

 この建物内でご禁制品を取引していたとの通報があった!

 倉庫を改めるので開門せよ!

 速やかに開門せねば全員を捕縛するぞ!」


「禁制品改めとか仰りながら、荷を運ぶ馬や背負子を大量にご用意されていますね。

 単なる盗人ですか……」


「な、ななな、なんだとぉっ!

 も、者共っ! 門を打ち壊せっ!」


 ガチンガチン、ドカンドカン。


「領兵長殿! この門は異常に丈夫でありまして、まったく破壊出来ません!」


「塀に丸太をかけて乗り越えろ!

 内側から門を開けると同時に建物に踏み込めっ!」


「あはははは、昨日来た盗賊団とまったくおなじ行動ですね」


「なっ……

 た、建物内にいる商会員は全員捕縛せよ!

 殺しても構わんっ!」


 まもなく領兵全員が、何故か鍵のかかっていなかった建物に雪崩れ込んだが、それきり物音は途絶えた。

 すぐにゆっくりと門も閉まって行く。




(以上が昨夜の収穫でございまして、領兵16名のうち、殺人履歴のある者15名を終身刑者用刑務所に収容しております)


「残りの1名は?」


(まだ若い領兵で、殺人履歴がございませんでしたので、禁固1年の判決が下されました)


「なるほど」


(また、昨日オークションを開催した別の子爵領では、夜中に盗賊らしき者たちが8人ほど侵入して参りましたが、これも全員収監いたしております)


「お疲れさん」



 また翌日。


(昨夜の収穫をご報告申し上げます。

 まずは、『行方不明領兵の捜索をする』が1件18名、『禁制品改めをする』が1件16名、商業ギルドと傭兵ギルドの盗賊行為がそれぞれ1件ずつで、合計52名を収監致しました。

 内、終身刑は49名、禁固15年が3名でございます)


「お疲れさん」



 さらに翌日。


(昨夜は、『領主邸より豪華な建物を建てた不敬罪』と『行方不明領兵の捜索』と『禁制品改め』がそれぞれ2件ずつ、また単純な盗賊行為が5件でございまして、計123名を収監致しました)


「ははは、領兵の盗賊行為にもいろんな言い訳があるんだな」





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