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*** 122 反社会的勢力 ***

 


 1時間後。


「なあ頭取番頭さんよ、旨ぇ儲け話ってぇのはなんなんだい?」


「ブリュンハルト商会と提携したダンジョン商会とかいう連中が、オークションを開いたということはご存知ですか?」


「ああ、あの莫迦げたごリッパな建物での商売だったな。

 なんでも大手から中小まで王都中の商会を呼んだとかいう」


「さすがですね、既にご存じだったとは。

 それで、その場では大量の貴重な商品が取引されたそうなのですよ。

 塩や砂糖や胡椒までも」


「だがよ、帰りの商会が荷を持ってたら襲わせようとして若いもんに見張らせてたんだが、連中はほとんど荷を持っていなかったぞ。

 しかも護衛までいたし」


「それはですね、ダンジョン商会が建物の中の倉庫を貸してやったそうなのですよ。

 ですから、商品の大半はまだあの倉庫にあるはずなのです」


「そうかい、しかも護衛の大半はブリュンハルト商会に引き上げてたそうだしな……

 新興の商会だと夜間警備も疎かか……」


「ええ、ですから、ダンジョン商会の建物には無防備に大量のお宝が眠っているはずなのです」


「お前ぇ、俺っちにそれを盗んで来いって言いてぇんか?」


「いえいえとんでもない。

 わたしは単にあなた方に情報を差し上げたかっただけですよ」


「おうわかった。

 首尾よくいったらお前ぇも悪いようにはしねぇからな」


「お気になさらずに……」




『黒狼』の本部にて。


「というわけなんでさぁ親分」


「そうかい、お宝は確実にあるんかい」


「ええ、商会共が買った商品も払った代金の金貨も……」


「よしわかった。

 俺の護衛を3人だけ残して、お前ぇは若いもんを全員連れて今晩襲撃をかけろ。

 そうだな、3人ぐれぇずつに分かれて現場に向かえ。

 ヘマすんじゃねぇぞ」


「へい。それで護衛がいたら殺っちまってもいいですかい?」


「当然だ。久々の大仕事だからな。エモノも全部持って行け」


「へいっ!」




(ダイチさま、ご報告事項がございます)


「おおシスくん、どんな報告だ?」


(ゲブルビル商会が盗賊団の幹部を呼んでダンジョン商会への襲撃を使嗾しそう致しまして、今晩侵入が予想されます)


「ブリュンハルト商会の護衛たちは?」


(ダイチさまのご指示により全員ダンジョン村に帰還しております)


「わかった。俺が出向く必要は?」


(とんでもございません。

 塀を乗り越えた段階で、わたくしが全員を捕縛いたします)


「それじゃあ任せるわ。

 テミスに詳細鑑定して貰って、過去の罪状に応じて牢に収監しておいてくれ。

 なにか問題があったら俺に連絡すること」


(あの…… 

 ギムルエル商会の幹部たちと、盗賊団の親玉は如何いたしましょうか。

 奴らも捕縛致しますか?)


「いや、面白そうだから連中はそのままにしておいてくれ」


(畏まりました)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌朝、ギムルエル商会にて。


「おう、会頭を出しな!」


「か、会頭はただいま取り込み中でございまして……」


「そうかい、それじゃあ勝手に入ぇるぜ」


「お、お待ちください」


「うるせぇっ!」


「ぎゃっ!」



「おう、会頭さんよ」


「ひぃっ!」


「お前ぇらに唆されてダンジョン商会に襲撃かけたうちの若ぇもんが、全員帰ぇって来ねぇんだ。

 お前ぇ、まさか奴らとツルんで、俺っち『黒狼』をハメたんじゃねぇだろうな!」


「し、知らんっ!

 わ、わたしは唆したりしていないっ!」


「なんだとぉ、舐めた口ききやがってっ!

 おい、こいつを痛めつけろ! だが殺すんじゃねえぞ」


「「「 へいっ! 」」」


「ぎゃぁぁぁぁ――――っ!」



「それでこの不始末にどう落とし前ぇつけるんだぁ?」


「しょ、しょれは……」


「おいお前ら、この店を家探ししろ。

 それで金貨と金目の商品を洗いざらい分捕って来い!」


「「「 へいっ! 」」」


「しょ、しょんな……」


「おい、命があるだけありがたく思えよ」


「ひぃぃぃぃぃ―――っ!」




「シス」


(はい)


「あとでこの盗賊共も全員捕縛して、奪った資産も全部ストレーの倉庫に入れておいてくれ」


(畏まりました)


「まったくなぁ……

 地球でもアルスでも、反社会的勢力と関わりを持つと碌なことがないなぁ……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌日にはブリュンハルト商会の護衛たちによって、昨日オークションに参加した商会に落札価格を記した『オークション品一覧カタログ』が届けられていた。


 そして、カタログを受け取った者は、その絵の美しさにため息をつき、次回のオークションには出来る限りの金を持って参加しようと心に誓ったのである。


 だが……

 大手と呼ばれるほとんどの商会では、番頭たちの手によってカタログは隠されていた。

 もちろん商会会頭さまのお目に触れさせて、万が一にもそのご宸襟を乱されてはいけないという配慮のためである。




 だが数日後、ある大手商会にて。


「それでは週に一度の定期報告会を開催します。

 手代たちは全員ここ1週間の商売の状況を会頭さまに報告しなさい。

 まずは塩の担当者から」


「は、はい……

 そろそろ各レストランや食堂の在庫が減って来たと思いまして、売り込みをかけに行ったのですが、まったく売れませんでした……」


「なんだと! なぜ売れなかったのだ!」


「そ、それが……

 どのレストランや食堂も、中小の商会から800グラムで銀貨8枚から10枚の塩を購入していまして、同じ値段にしないと買わないと言われてしまったのです……

 しかも、中小商会は800グラム買った客に対して真っ白な美しい塩壺をサービスしていまして、お前のところも同じものを持って来いと言われてしまいました……」


「ど、どうせ粗悪な塩だろうに!」


「い、いえ、実際に見せて貰ったのですが、見たことも無いほど真っ白で綺麗な塩でございました」


「どこだ…… どこからそんな塩を仕入れたというのだ!」


「あの、どうもダンジョン商会とかいう商会から仕入れたものだそうです」


「あ、あのオークションを開いた新興商会か!」


「は、はい……」


「それならよかろう、どうせ中小商会なら碌に金を持っておらんからな。

 あと3月もすれば食堂の塩も無くなるだろう。

 そのときにまた売り込めばよい!」


「はい……」

(どの食堂も安いうちにって何年分も塩を買い込んでたっていうのは、言わない方が良さそうだな……)


「それでは羊皮紙担当手代、報告しなさい」


「あ、あの…… 売れたのは30枚だけでした……」


「なんだと! いつもの10分の1以下ではないか!

 お前は何をやっていたのだ!」


「そ、それが……

 どうもダンジョン国産の植物性の紙が大量に出回っているそうでして、値段も100枚で銀貨12枚だったものですから、到底太刀打出来ませんでした」


「そ、その植物性の紙というものは手に入れたのか!」


「はい、こちらに……」


「なんだこの薄っぺらい紙は!

 気品もなにも無いではないか!」


「そ、それが、薄いために場所を取らず、また匂いもしないためにギルドや食料品店などでは大変に評判がいいそうで……」


「な、なんだと……」


「そ、それから、その紙を100枚買うと、こちらの『さいんぺん』というものがサービスで貰えるそうなんです。

 2本持っていた店の主に銀貨を渡して貰って来ました」


「な、なんだこの羽ペンは……

 羽もついておらず実にみすぼらしいではないか!」


「それはインクを付ける必要も無く、紙50枚にぎっしり字が書けるそうなんです」


「!!!」


「それで……

 お前の店も羊皮紙を買ってほしければ、値段を下げた上でこの『さいんぺん』を持ってこいと言われてしまいました……」


「ま、まさかこの紙もさいんぺんも……」


「どうやら、いろいろな商会があのダンジョン商会から仕入れたもののようです」


「し、子爵閣下と伯爵閣下の王都邸はどうだったのだ!」


「全く同じです、塩や紙の購入は断られました」


「それどころか、伯爵さまのお邸では、白磁のティーセットや砂糖を特別献上しなければ、取引を打ち切ると言われてしまいまして……」


「そ、それもダンジョン商会の品か!」


「どうやらそのようです。

 それらの商品をダンジョン商会から仕入れた中小の商会が、貴族家に売り込みをかけているようです」


「ぐぬぬぬぬ…… だ、ダンジョン商会めぇ……」


(まーた始まったよ……)

(うちの会頭、なんかマズイことがあるとすーぐ人のせいにするからな)

(自分はオークションに行かずに、カネも持たせずに3番番頭さんを行かせたのは会頭さんなのにな)

(この商会も長くないかも)

(商業ギルドでいい働き口が無いか毎日チェックしよう……)



「会頭さま、よい方法がございます」


「な、なんだ」


「多少費用はかかりますが、護衛を雇って侯爵領や伯爵領に行き、多少の値引きをしてでも在庫を全て売り払ってしまいましょう。

 場合によっては隣国の子爵領や辺境伯領に足を延ばしても良いでしょうし。

 そうして、次のオークションには会頭さま御自らお出ましになられて、在庫を売ったカネで塩や紙を買い占めてしまわればいいのですよ」


「そ、そうか!」


「ダンジョン商会はかなりの遠方にあるとの噂ですから、さほどの在庫は持っていないでしょう。

 ですから買い占めるのは簡単でございます」


「よ、よし! 次のオークションはいつだ!」


「まだ日時は未定だそうですが、あれだけの建物を用意したのですからまた開催することは間違いないでしょう」


「それでは、それまでに隊商を組織して在庫を全て売り払って来い!」


「畏まりました。

 それでは急ぎ準備を致しますので、5日ほどのご猶予をくださいませ」


「ま、任せたぞ!」




 嗚呼、彼らがそれらの貴族領に行商に行っても、既にブリュンハルト商会がオークションを開催しているとは思いもしなかったかったのでしょう……

 3か月後に、ほとんど売れなかった荷を持って疲れ切って帰ってくるとは気の毒に……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌日、大地とブリュンハルト一行はベヘモリール侯爵領領都に飛んだ。

 そして、その地に用意されたやはり超豪華な支店に於いて、30軒の招待商会を前に同様なオークションを開催したのである。

 翌日は、ブルマイルト侯爵領都に於いてオークションが開催される予定になっていた。


 両侯爵領都でのオークションが終了すると、護衛分隊長8名と配下の護衛隊員たちは、王都のダンジョン商会支店に於いて練習会を始めた。

 これは、第1分隊が模擬オークションを開催する際には第2から第8までの分隊が客に扮し、第2分隊が主催する際にはそれ以外の分隊が客に扮するというものである。


 すでに3回のオークションを経験していた彼らは、これによって充分な経験を積んでいったのであった。




 そして翌日。


 ガルビル商会の会頭ガルビルは、ベヘモリール侯爵の王都邸へ出頭するようにとの命令を受けた。


 因みにカルマフィリア王国では、上級貴族家ほど当主は王都の邸で暮らしている。

 これはもちろん自らの派閥の結束を図り、併せて王族との関係を維持するための方策であった。

 それ故、領地経営は嫡男やそれ以外の一族に任せていることが多かったのだ。



 侯爵邸の応接室に踏ん反り返るベヘモリール侯爵の前で、ガルビルは椅子も与えられずに跪いており、ガルビルの目の前のテーブルには、白磁の6客ティーセットと紅茶の箱、それから砂糖とサブレの入った箱が置かれていた。


「このティーセットと赤い茶は、ある中堅商会が献上して来たものだ。

 また、別の商会は砂糖とこの『さぶれ』なるたいへん美味な焼き菓子を献上して来おった。

 いずれの商会も、我が侯爵家の出入り業者になることを希望しているそうだ。

 家令が問いただしたところによれば、これらの品はさる卸売り専門商会が、ここ王都で全ての商会を集めて開催したオークションにて販売したとのことである」


 侯爵の口調は静かだったが、額には青筋が浮いていた。


「お前の商会は我が侯爵家のメイン商会であろう。

 なぜこうした品をわしに献上しないのだ」


「そ、それは、ダンジョン商会なる新参の商会が、招待状を持たぬからと当商会の番頭を無礼にも追い返したからでございまして……」


「見苦しい言い訳は聞かぬ。

 なぜこのような珍品をわしに献上しなかったのだと聞いておるのだ」


「そ、それは……」


「よいか、3日以内にこれらの品を献上せよ。

 特に焼き菓子を多目にな。

 さもなくば貴様の商会は今後出入り禁止とする」


「そ、そんな……」


「よいか、しかと申し渡したぞ。下がれ」


「はっ、はは―――っ!」



 もちろん、同様の会話は、王都のほぼすべての上級貴族邸で繰り広げられていたのである。


 おかげで、大手商会は小僧や手代に金を持たせ、王都中の中小商会を回らせて献上品を仕入れるハメになったのであった。



 そしてその日以降、王国内の2つの侯爵領都、4つの伯爵領都、8つの子爵領都でも同じようなことが繰り返されることになる。

 もちろん、領地の留守を預かる貴族嫡男や一族たちも、同様の要求を領内の大手商会にしていたからだった。


 こうして大地は、大商会からのヘイトをますます集めていったのである……





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