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*** 115 オークション準備 ***

 


 皆がまたエレベーターに乗り込み、3階に上がった。

 そこにも青銅製の巨大な扉があり、一行が近づくとまたも自動でオークションルームの扉が開く。


 そこでは、今度こそ全員がフリーズして動かなくなった。


 たっぷり3分近い硬直の後、かろうじてガリルが口を開く。


「こ、こここ、この室内装飾は……」


「これはロココ調って言って、地球でも文化遺産クラスの豪華な装飾なんだ。

 綺麗だろ」


「壁や天井の全てが色とりどりの彫刻で覆われている……

 直線や平面部分の方が少ないぐらいだ……

 こ、これほどのものをたった3日で造ったのか……」


「うちのスタッフは優秀だからな」


(えへへへ……)



「さあ、それじゃあそこの椅子に座って打ち合わせを始めよう。

 ストレー、紅茶を頼む」


(畏まりました)



 ブリュンハルト商会一行は、紅茶を口にしてやや落ち着いたようだ。


「それにしても……

 この部屋は王宮の謁見の間よりも遥かに美しいな……」


「そうだの。

 この部屋を見た後では、謁見の間もみすぼらしい倉庫にしか思えんわい……」


「さて、それじゃあ俺が書いた案内状を見て貰おうか」


「な、なんだこれは…… 羊皮紙じゃないのか……」


「これは植物性の紙でな。

 俺の母国では一般的なものなんだよ」


「金銀の装飾まで入ってるじゃないか……」


「この招待状を同じく豪華な封筒に入れて送ったら、さすがにみんな無視は出来ないんじゃないか」


「あ、ああ、そうだろうな……」


「それじゃあみんな、中身を読んでみてくれ。

 その間に招待予定客のリストを見せてくれるか」


「これがリストだ。

 この王都では全部で52の商会をリストアップしてある。

 それ以外の侯爵領や伯爵領など14個所の領都では合計で360の商会になる。

 近隣3国の我が国に隣接した地では、18の領都で合計410の商会だな」


「ありがとう」


(こういうときに、中身をすぐ覚えられるスキル『暗記』は便利だよなぁ)



 ブリュンハルト商会の幹部たちは夢中で招待状を読み始めた。


「すごいな……

 こんなことを本気でやるつもりかい?」


「もちろん本気だ」


「そうか、これなら大商会ほど慌てるだろうね」


「それで慌てた結果、ご用達先の貴族家に駆け込んでくれればいいんだがな」


「そうなれば、その日の夜から当分の間、貴族兵という名の強盗たちが押し寄せて来るだろう」


「のう、ダイチ殿。

 上位貴族家や王太子がこの建物をよこせと言って来たらどうなさるかの。

 奴らの発想ならば、自分のものよりも豪華な建物に住んでいる者を不敬罪と称して召し上げようとするかもしれませぬぞ」


「はは、そのときは、召し上げに来た近衛兵や貴族兵に全員行方不明になってもらいましょうか」


「はははは、それはさぞかし慌てることでしょうの」



「ダイチ殿、ひとつご提案を申し上げてもよろしいでしょうか」


「会頭さん、なんでも言ってくれ」


「ここでの御商売は何度か行われるおつもりですかの」


「まあ2~3回は行おうと思っているが」


「でしたら、ダイチ殿にもある程度の格が必要かと思いまして」


「…………」


「たとえばそうですな。

 ダイチ殿はダンジョン国の通商代表であり、このカルマフィリア王国との通商の権限を全て与えられてこの国に来ているとの設定はいかがでしょうか。

 さらにダンジョン商会の会頭であるというのは」


「なるほど、ここで売る商品は、全てその通商大臣が持ち込んだダンジョン国からの輸入品とするのか」


「はい」


「そうしておけば、王太子辺りがダンジョン王国の在処を詮索し始めるかもしれないし、その在処が分かるまでは商売の妨害も控えるだろうということだな。

 もしも、王都内の商会たちにブリュンハルト商会との取引を禁止したりすれば、俺が別の国との取引を始めると言えばいいのか」


「さすがのご明察でございます」


「そうして街道沿いに偽の商隊を動かせば、大量の貴族軍や国軍が襲って来てくれるかもしれないと。

 ついでにそのうち残りの兵力をかき集めてダンジョンに侵攻して来れば、それこそ一網打尽にして全員を捕縛出来るか……」


「そういう選択肢もございましょう」


「まあそうだな、それも国内の大貴族領都や周辺3か国でも取引を始めてからの選択肢か……」


「はい」


「なるほど。

 実に的確な助言をありがとう」


「いえいえ。

 それではその文言を加えた招待状を作成しておきますので、よろしければこの『かみ』というものを頂戴出来ませんでしょうか」


「いや、合計700通以上もの招待状を書くのはたいへんだろう。

 1部作ってくれれば俺が地球で印刷してくるよ」


「『いんさつ』でございますか?」


「そうだ、同じ内容ならいくらでも複製が作れるんだ。

 まあ、封筒の宛名は書いてもらわなきゃならないが」


「は、はい」


「案内状は字の綺麗なひとに清書されておいてくれ」


「畏まりました。

 それにしても『かみ』というものは素晴らしいですな。

 これも十分に売り物になると思いますぞ」


「そうか、それじゃあ商品目録に紙も追加しておいてくれるかな」


「はい……」




 打ち合わせが一段落すると、他の商会のメンバーがようやく3階に上がって来始めたが、やはりその場で盛大にフリーズしていた。


(やっぱりちょっとやり過ぎたか……)


「それでは俺はこれで失礼するが、みんなは見学を続けてくれ。

 転移の輪はこの建物の1階に設置しておくから」


「なあダイチ、ここの夜間警備はどうするんだ」


「問題ないな。

 夜盗が忍び込もうとしても、塀を超えた瞬間にダンジョン村の牢に転移させるから。

 だから全員村に帰ってゆっくり休めるぞ」


「はは、それは楽だな」


「それじゃあまた」


 大地が消えた。




 ブリュンハルト商会の幹部たちはしばらく大地が消えた跡を見つめていた。


「親父殿、今日のダイチ殿は少し雰囲気が違いましたな」


「ふむ、どう違ったかの」


「何というか…… 

 まるで大戦おおいくさを前にした将軍のような気合を感じましたよ」


「そうだの、あれは武人の覇気だったかもしれぬの……」





「シス」


(はい)


「各貴族領の支店用にもっと小さいものをいくつか建てて、ストレーの倉庫に収納しておいてくれ。

 そうすれば、用地買収が終わったら、すぐにも支店での商売が出来るようになるだろう」


(( 畏まりました ))




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 日本での案内状5000部の印刷が終わった。

 静田物産の関連会社に極秘で依頼し、金銀の箔押しがついた最高級の紙に写真印刷されたものであり、もちろん揃いの封筒も用意されている。


 また、大地がデジカメで写したオークション出品商品のカラーカタログも準備され、後はオークションでの落札価格を手作業で記入するだけになっていた。




「やあガリル、案内状の準備が出来たんで見てくれるかな。

 もちろん日付や場所は毎回違うから、書き込まなきゃなんないけど」


「すごいなこれは、どの案内状も寸分違わぬ字が書いてあるじゃないか。

 これが『いんさつ』か……」


「そうだな」


「ということは、例えば本なんかをいくらでも複製出来るっていうことか」


「はは、将来的にはそういう商売もいいかもしれないぞ」


「あ、ああ……」


「ところで、予定の各地に土地を用意して、全ての商会に案内状を出すのにどれぐらいかかるかな」


「そうだな、昨日実験してみたんだけど、シスさんに念話して頼むとすぐに転移させてもらえるから、みんなで手分けすれば2週間もかからないんじゃないか」


「そうか、だったら余裕を見て、王都での最初のオークションは3週間後にしよう」


「ところでダイチ、この周辺国も含めて32個所の領地でのオークションは、全部ダイチが執り行うのかい?」


「最初の3回ほどは俺が司会をする。

 その後はみんなに任せたいんで、少なくとも分隊長さん以上にはオークションをよく見学するように言っておいてくれよ」


「わかった」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 数日後、ある大手商会にて。


「会頭さま、ブリュンハルト商会よりオークションの招待状が届いております」


「あの成り上がり者のブリュンハルトめか。

 構わん、無視しろ」


「はっ」


「まあ書状ぐらいは見てやるか。

 その封書を開けて中身を読み上げろ」


「はっ」


「待て! その封書を見せろ!」


「は、はい」


「な、なんだこれは…… 羊皮紙ではないのか……」


「不思議な材質でございます。

 しかも金銀の箔押しまで……」


「ふんっ! 中身を読め」


「はい。

 貴商会に於かれましては時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

 さて、私共ブリュンハルト商会は、この度村々への行商以外は他の商会さまへの卸売業に特化させて頂くことと致しました。

 また、ダンジョン国のダンジョン商会さまと提携致しまして、かの国の産物を取り扱わせて頂く契約を締結しております。

 ダンジョン商会さまはこの国で商品卸を始められるに当たり、その商品の価値を測られるために、オークションの開催をご希望されています。

 このため、ダンジョン商会カルマフィリア王国支店に於きまして、皆さまをお招きしてオークションを開催させて頂くこととなりました。


<オークション内容>


 日時 : 〇月〇日、正午の鐘より

 場所 : ダンジョン商会カルマフィリア支店(同封の地図をご覧ください)

 内容 : 会場にて御覧に入れる商品につきまして、購入希望金額を募らせて頂きます。

 応札された金額のうち、ダンジョン商会さまが設定された最低落札価格よりも高い価格を提示された商会さま全てに落札権利が発生いたしますが、その際の販売価格は落札権利発生価格のうち、最も安い価格にて皆さまにお買い頂けるダッチ方式とさせて頂きます。


<ご招待させて頂く方>


 私共が選ばせて頂きました王都内52の商会さまにこのご案内状を送付させて頂いておりますが、当日オークション会場にご入室頂けるのは、会頭さま並びに御嫡男さま、もしくは頭取番頭さまのみとなっておりますので、予めご了承くださいませ。


 尚、護衛の方は何人ご同行されても構いませんが、オークション会場にご同伴頂けるのは護衛1名様のみとさせて頂きます。

 その他の護衛の方は1階待機室にてお待ちください。


<販売予定商品>


 ・白磁のティーセット(6客)

 ・紅茶 (100グラム箱入り)

 ・焼き菓子(20枚入り)

 ・塩  (800グラム壺入り)

 ・白砂糖(80グラム袋入り)

 ・胡椒 (80グラム袋入り)

 ・紙  (100枚入り)

 ・熱の魔道具(魔石3年分付き)

 ・水の魔道具(魔石3年分付き)



「待て!」


「は、はい」


「砂糖に胡椒だと……

 それに魔道具とは……

 ま、まさか、ダンジョン国とはあの伝説の……」


「会頭さま、それ以外にも『鉄貨』や雑貨なども売ると書いてございます」


「ブリュンハルトめが生意気な……

 よし、オークションには5番番頭を出席させろ!

 出品された商品を報告させるのだ!」


「あ、あの……

 まだ注意事項を読み上げておりませんが……」


「もういい! 下がれ!」


「ははっ!」





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