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*** 114 新本店見学会 ***

 


 大地はシスくんの造ったダンジョン商会の建物前に転移した。


 す、すげえなこの塀……

 真っ白な石で出来ててつるつるか。

 あー、光が反射して光ってるし、柱らしき部分と上部にはみっしりと彫刻が施されてるわー。


 お、門は素通しの青銅製なんだな。

 これも蔦やら花やらの彫刻に覆われているのか。


(その門は一見青銅製ですが、芯には鋼鉄が入っておりますので、銅剣や木槌程度で破壊することは無理でしょう)


「そ、そうか……」


(それから、塀や門を超えて侵入して来た者は、自動的に武器を押収してダンジョン村内の牢獄に転移させる仕様になっています)


「さすがだな……」


(ありがとうございます……)



「うっわー、建物のファサードは完全にパルテノン神殿だな。

 門から建物までの道も、大理石で覆ってあるのか。

 はは、広い道の両側にはプランターに入った花が咲いてるぞ。

 あ、ここマナも出てるわ。


 ほう、この左右の小屋は厩なんだろうけど、ここまで大理石造りなんだな……

 この門の後ろの家みたいなのは衛兵の詰所か。


 はは、神殿の柱にもエンタシスが入ってて綺麗だなぁ。

 上部にはガーゴイルの彫刻まであるし。


 10段ほどの緩やかな階段の前には車寄せもあるし、そこには屋根までついとるわ。

 階段を昇るとそこが正面玄関か。


 それにしてもデカい扉だよ。

 これ、左右も高さも8メートルはあるぞ」



 大地が前に立つと、自動で扉が開いた。

 扉の先には30畳ほどの小部屋があり、そこを抜けるとメインロビーになる。


「ははは、このロビーって、完全にパリの文化遺産オテル・ド・スービーズを真似してるよな。

 これ、地球人が見ても驚くわ。


 ロビーの左右にも部屋があるみたいだけど、これは客の護衛たちの待合室だろう。

 ロビーの先には左右にシンデレラ階段もあるのか。

 あれ? あの真ん中に見える鳥かごみたいなやつって……


(はい、客用エレベーターでございます)


 わははは、このエレベーター広さが8畳ぐらいあるぞ。

 床はフカフカの絨毯張りだし、ソファまで置いてあるわ」



(まずは地下の倉庫をご覧いただけますか)


「このエレベーターで行けるのか?」


(はい)


 大地がエレベーターに乗り込むと、微かなチーンという音と共に扉が閉まった。

 すぐにエレベーターがゆっくりと下降を始める。


「うっわー、すげぇなこの倉庫。

 商品がぎっしり詰まってるわ。

 もしこれが全部売れたら、この辺りの国の金貨が全部無くなっちゃうな」


(次は2階の金庫室をご覧いただけますか)


「おう」



(そうか、エレベーターの前面を鳥籠みたいにしてたのは、上昇するエレベーターからメインロビーを見せてやるためだったか……)



 2階で停まったエレベーターから降りると、そこも小さなロビーになっていた。

 その奥には縦3メートル、横4メートルほどの両開きの扉がある。



「はは、鉄製の扉にこれまたみっしりと彫刻が施されてるわ。

 まるでロダンの地獄の門だな。


 おお、音もなく扉が開いたけど、これ厚さが10センチ以上あるぞ。

 アルスの住民からすればとんでもないお宝だろうな。

 扉を潜れば広い廊下の左右に小部屋が30室ずつあるのか。

 ここが金庫室だな。

 あ、金庫の錠が地球のマンションの錠になっとるわ。

 これもびっくりするだろうなぁ……

 うん、金庫の中も綺麗な棚があって、これなら安心して品物を預けられるだろう。


 ここも見事だよシスくん。

 それじゃあ3階のオークションルームに行こうか」


(はい)



 エレベーターが停止してドアが開くと、そこは30畳ほどの控えの間だった。

 その先にはまた巨大で重厚な扉がある。

 扉がまたも自動で開くと、その先にあった部屋は……



「うっわー、ここもオテル・ド・スービーズのメインダイニングみたいだな。

 実物よりも遥かに大きくて綺麗だけど。

 これ、うちの高校の体育館4つ分ぐらいあるぞ。


 あ、白い大理石に金と銀の装飾だけじゃあなくって、壁や柱の彫刻群には鮮やかな色がついてるんだな。

 彫刻は、植物の蔦、骨、貝殻、サンゴ、しぶきをあげる波頭、タツノオトシゴなんかか。

 うん、まさしくロココ調だ。


 ほう、天井にはガラスの板がはめ込んであるせいで、これだけ明るい部屋になっているんだ。

 はは、シャンデリアなんか差し渡し10メートル近いぞ。

 それに灯りの元は魔道具か。

 これなら火事の心配も無いだろう」



 そのオークション会場には、やはり大理石で出来た長テーブルが3列と、豪華な彫刻が施された木製の椅子が120脚ほど置いてあった。



(如何でございますでしょうかダイチさま。

 もし変更が必要であれば、如何様にも直させていただきます)


「いや、見事だよシスくん。

 もうキミはこれほどまでのものが作れるまでに進化していたんだな。

 感心したよ」


(あ、ありがとうございます……

 それで、手直しの必要は……)


「いや、これで充分だ。

 ただ1点だけ、左右の壁の前に大きな低めのテーブルを52個用意して欲しいんだ。

 客が購入した商品の置き場所だな」


(畏まりました。

 すぐにもご用意させていただきます)


「本当によく作ってくれたな。ありがとう」


(お、おおお、お褒めいただいて、き、恐縮でございます……)


(はは、ハイパーAIコンピュータでも動揺すると噛むのか……

 いや、ハイパーAIだからこそか……

 記憶力と思考や作業速度が超越してるだけで、あとは人間と変らんな……)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「やあガリル、ブリュンハルト商会の新本店が完成したんで見に行かないか」


「もう出来たのか!」


「魔法を使ったからな。

 それでどうする、なんだったら全員で見学しても構わんぞ」


「ありがとう、それじゃあ明日の昼頃みんなに集まってもらおう」




 翌日の昼。


「やあ全員集まってるかな」


「ああ、みんな楽しみにしてるよ」


 その場にはもちろんガリルの家族たちもいたが、何故か長女は母親のスカートの後ろに隠れて頬を赤くし、ときおり大地をチラ見している。

 髪には大地があげた髪飾りをつけていた。


「おお、髪飾りをつけてくれてるんだね。

 よく似合ってるよ」


 少女の顔がさらに真っ赤になった。



「ねえねえダイチさん!

 ボク、独楽を回せるようになったよ!

 ほら見て!」


 ガリルの長男がその場で見事に独楽を回した。


「すごいじゃないか、随分練習したんだな」


「えへへへへ、でもまだダイチさんみたいに手のひらでは回せないんだけど……」


「すぐに出来るようになるさ」


「うん!」



「アリオはダイチから独楽を貰って以来、ずっと持ち歩いていてな。

 寝るときも一緒なものだから、ミッシェルが袋を縫ってやってその袋に入れているんだ」


「ははは、それはそれは。

 そのうち他のおもちゃも持って行こう」


「ありがとう!」



「それじゃあみんなそこの輪を潜ってくれ。

 新本店の門の前に転移出来るから」


「ああ」



 ん?

 なんで転移出来なくなってるんだ?

 あー、これ出口側でつっかえてるな。

 仕方ない、俺が転移して交通整理するか……



「おーいみんな、そんなところで立ち止まってると、後の連中が転移して来られないぞー」


「す、すまんダイチ……

 だ、だが、この建物があまりにも……」


「まあ気持ちは分からんでもないが、このままだと見学出来ないからな。

 護衛隊に言って、順番に輪を潜れるようにしてくれよ」


「わ、わかった……」



 それでどうにかこうにかみんな門の中に入ったんだけどさ。

 なんか半数以上がその場で腰を抜かしているんだよ。

 いや比喩表現じゃあなくって物理的に。


「しょうがないな。

 それじゃあ動ける人たちに最初に見学してもらおうか。

 分隊長さん、座り込んでるひとたちが落ち着いたら連れて来てくれ」


「は、はい」


「それじゃあガリル、先に進もうか」


「お、おう……」



「ここが建物の正面入り口だ」


 大地がそう言うと、巨大な扉が音もなく開く。

 そうして、玄関内の小部屋を通ってロビーに入った者たちは、そこでまた半数が腰を抜かした。


「あー、その左右のドアの向こうは護衛の控室になっているからさ。

 そこに行って休んで、動けるようになったらあの階段を上がって来てくれ」


 はは、さすがは子爵閣下や大商会の会頭さんだ。

 かなりびびってるみたいだけど、まだ立ってるじゃないか。


「それじゃあ先に進もう。

 まずは2階の金庫室を見てもらおうか。

 あの鳥籠みたいなものに入ってくれ」


「こ、この箱はなんなんだ?」


「これはエレベーターって言って、階段を昇らなくっても上の階に行ける魔道具なんだよ」


「そ、そうか……」


 幹部一同がエレベーターに乗り込むと、大地がドアを閉めた。

 同時にエレベーターがゆっくりと上昇を始める。

 昇るにつれて、ロビーの室内装飾がよく見渡せるようになっていき、会頭が堪らずにソファに腰を降ろした。


 まもなくチーンという音と共にエレベーターが2階に到着し、ドアが開く。

 ロビーに出ると、またしても全員がフリーズしている。


「な、なんだあの扉は……」

「ま、まさか鉄製……」


「そうだ、客が買った物を預かっておく金庫室の入り口だから、頑丈な方がいいだろ」


「な、なあ、これって木の扉に鉄板を張り付けたのか?」


「いや、芯まで全部鉄だぞ」


「こ、この扉だけで国が買える……」


「はは、たとえ買えたとしても、そんなもん要らないけどな。

 さあ、中に入ってくれ」



 鉄製の扉が音もなく開くと、何人かがびくっとしたが、なんとか歩き続けて金庫室には入って貰えた。


「廊下の左右に30個ずつ扉があるだろ。

 ここに客が買ったものを入れておいてもらって、後日取りに来てもらおうと思ってな。

 代わりに預かり証と鍵を渡して、ドアに封蝋か封印をしておけばいいだろう」


「よくもまあこんな部屋まで作ったもんだ……」


「はは、この部屋があれば、護衛を連れて来なかった商会もたくさん買ってくれるんじゃないかって思ったんだよ。

 そうだな、ある程度買ってくれたら帰りは護衛付きのサービスをしてやってもいいか」


「まさか、ここを用意したのはサミュエルのためか?」


「そうだ。

 彼にはたっぷり買って貰いたいけど、夜中に店が襲撃されたら気の毒だからな」


「なんとまあ…… そのためだけにこんな部屋まで……」


「何事も準備が大事だからさ。

 さあ、それじゃあメインのオークションルームに行こうか」





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