*** 113 本店建設 ***
翌日。
「なあシス、俺ってお前の見ている光景をそのまま見ることって出来るかな?」
(『念話』のスキルで、音声だけでなく映像も届けるのですね)
「そうだ」
(ダイチさまは『念話』のスキルをレベル8までお持ちですので可能です)
「それじゃあ試しにダンジョン村の様子を見せてくれるか?」
(はい)
「おおーっ、けっこう鮮明に見えるな」
(ラジオ放送がテレビ放送に代わったようなものですね)
「そ、それじゃあさ、多元放送って出来るかな。
2個所同時中継とか」
(やってみましょう)
「あー、これなんか映像が重なっててよくわからんわ。
この映像を2つに分けられないかな」
(申し訳ありません、それはどちらかというと送信側の問題ではなく、受信側の問題ではないかと……)
「つまり俺の処理能力の問題っていうことか。
それじゃあちょっと頑張ってみよう」
(お願いいたします)
「要は頭の中にテレビが2台あると思えばいいんだな。
お、なんとなく画像が分かれ始めたぞ……
ふう、集中すればなんとかなりそうだ。
これから暇なときは練習してみるからよろしくな」
(畏まりました)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ブリュンハルト商会幹部会にて。
「さて会頭さん、早速商売の準備を始めたいと思う。
まずはここ王都での本店の建築だな。
あの従業員村の跡地を使わせてもらって構わないか?」
「もちろん構いませぬが、あの倉庫と住居は王都を囲む城壁の外にあります。
それでは店としての格が少々落ちてしまうかと」
「その分だけ豪勢な建物を造ろう。
誰が見ても驚くほどのな」
「はい」
「それからガリル、ご苦労だけど、護衛たちを連れて各地に行って土地を用意してもらいたいんだ。
そうだな、まずはこの国の中で2つの侯爵領都と4つの伯爵領都と8つの子爵領都に商会の支店を作ろう。
それが終わったら、周辺3か国の辺境伯爵領6つとその寄子の子爵領12箇所だな」
「それには移動の時間がかなりかかるぞ。
全部で3か月は必要だろう」
「いや、その辺りは既にダンジョン領域にしてあるんだ。
誰もいない場所から場所へ転移の輪で移動出来るから、そんなに時間はかからないだろう」
「さすがだな。購入する土地の広さはどうする?」
「大通りに面している必要は無いが広い土地がいいな。
最低でも30メートル四方は欲しい。
出来れば更地がいいが、建物があっても構わないし、城壁の外でもいい」
「わかった。そこにもやはり豪勢な店を作るのか?」
「その予定だ。
もちろん今までやっていた行商を続けてくれても構わないぞ。
あれは村人たちのためにもなることだし。
そうだな、それぞれの村に少し土地を買っておいてもいいだろう。
そこにも営業所を作っておけば商品を転移で運ぶことも出来るし」
「はは、便利になるな」
「それに、将来はその村の営業所を拠点にして、ダンジョン村への移住者を募ろうと思っているんだ。
そのために、村営業所には駐在員を1名配置出来るように準備してもらいたい。
駐在員の交代も応援も転移の輪で出来るから1人でいいだろう」
「了解。村の孤児奴隷はどうする?」
「もし買えるなら無理しない範囲で買っておいてくれ」
「わかった」
「判断に困るようなことがあれば、シスを通じて俺に連絡してくれ。
もう全員が『念話』を使えるようになっているだろうから。
「了解」
「シス」
(はい)
「ブリュンハルト商会の一行を、街から街へ転移させるサポートをよろしくな」
(畏まりました)
「それからな、これからのブリュンハルト商会の行商以外の商売について、俺から提案があるんだ」
「是非お聞かせくださいませ」
「この商会には、これから『卸売り』になって欲しい」
「『卸売り』…… でございますか」
「そう、今までのように一般客を相手に小売りの商売をするのではなく、他の商店に商品を卸してやる商売だ」
「貴族相手の商いは如何いたしますか?」
「それも止めよう。
貴族に商品を持ち込むのは、俺たちから商品を買った商店に任せればいいだろうからな。
貴族たちに商品を渡しても、『これは献上品なのだろう』とか言って代金は払わないだろうから」
「はは、貴族と商いをする危険性を、すべて他の商店に押し付けてしまうということなのですな」
「その通りだ」
「それで、どのようにして卸売りを始めましょうかの」
「最初は例えば王都の中の主だった商会を呼んで、商品の内覧会を行おう。
その際には、商品を買いたい連中にはオークションに参加してもらうつもりだ」
「つまり、各商会に値を付けさせて、そのなかで最も高い値をつけた者に買わせると……」
「まあ、最も高い値をつけた者だけじゃあなくって、我々が設定した最低価格を超えた値を示した商会には全員買わせてやろうか」
「その際の卸価格はどうなりますか?
例えば我々が最低価格を銀貨80枚と設定していた茶器セットについて、銀貨100枚と90枚と80枚を提示した3者がいたとして」
「そのケースで、それぞれの商会が提示した価格通りで売ってやることをコンベンショナル方式って言うんだ。
その方式以外にも、全員に最低提示価格の80枚で売ってやることをダッチ方式っていうんだけど。
会頭さんはどっちの方式がいいと思う?」
「そうですな、本来のオークションであればコンベンショナル方式なのでしょうが……
これは各商会に商品を見せつけるためのオークションでございますね」
「もちろん」
「それではダッチ方式の方が望ましいでしょう」
「わかった。
そうそう、このオークションには商会の会頭もしくは嫡男か頭取番頭だけを招待しよう。
それから、当日の取引はすべてその場での現金決済にして」
「それでは招待に応じない商会も出て来るかと思われますが」
「はは、商品の内容を知ったら、次のオークションから会頭たちが押し寄せて来るんじゃないか?」
「それもそうでございました」
「それ以外にも、オークションの中身については俺が案内状を書こう。
会頭さんたちは、その招待状をどの商会に送るかの送付先リストを作っておいてくれないか。
王都も含めた国内15個所だけではなく、周辺各国の18個所の商会も含めて。
それから、大商会だけじゃあなくって、リストには中小の商会も入れておいてくれ。
出来ればその商会の特徴や噂話の記載もお願いしたい。
特に資金繰りについては詳しく」
「畏まりました」
「それからガリル」
「おう」
「義弟の経営するサミュエル商会もリストに入れておいてくれ。
ついでにこの金貨100枚を貸してやって欲しいんだ。
もちろん無利子無期限で貸すが、彼が商売に失敗して返済出来なくなっても構わん」
「つまり、サミュエルには盛大に落札して欲しいと」
「はは、もちろんその通りだ」
「わかった。
よく言っておくよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それじゃあシスくん、ご苦労だけど、まずはブリュンハルト商会の倉庫跡地に豪華な店舗を作ってくれないか」
(どのような建物にいたしましょうか)
「あの土地って結構広かったよな」
(はい、幅80メートル、奥行き150メートルほどの土地でございます)
「それじゃあまず、門から70メートルほどを庭園にしてもらおうかな。
幅の広い石の道も作って。
それで、その地下を大きな倉庫にしておいて欲しいんだ。
そうだな、天井高8メートルほどで。
もちろん柱はたくさんあっていいぞ。
それで、その倉庫には棚をたくさん作って、商品を並べておいてくれ」
(はい)
「建物はその庭園の奥で幅80メートル、奥行きも80メートルだな。
裏には荷物搬出のための裏口も頼む。
1階はロビーと護衛の待合室で、2階は大きな金庫室にしてくれ。
中に広さ8畳ほどの小金庫室を60室ほど作って。
そうして3階はオークションルームだ。
荷物運搬用のエレベーターは出来るかな」
(『念動』と『重力』の複合魔道具で出来ます。
建物の外観イメージはどういたしましょうか)
「そうだな、ファサードのイメージはパルテノン神殿かな。
ロビーとオークションルームには、ロココ調みたいな室内装飾も頼む」
(建物や塀の色はどういたしましょうか。
最近白大理石の採れる場所を見つけまして、地表ダンジョン化しておりますが)
「それじゃあその白大理石を錬成して造ってくれ」
(はい)
「1階のロビーは待合室も兼ねるから、隅にちょっと豪華なソファを置いておくか」
(金庫室の扉の材質はどうしましょうか)
「そうだな、メインの入り口の扉は鉄製にして、個々の金庫は6畳ほどのものを60室作って扉は青銅製にしよう。
あ、でも重すぎてまずいかな」
(地球の書物で構造力学も学びましたので大丈夫ですが、念のためダイチさまお手持ちの鉄を使ってH型鋼を作ってよろしいでしょうか)
「もちろんいいぞ。
あ、ところで、そうやって造った施設なんだけどさ。
それって地下室ごとストレーが収納したり、シスが転移させたり出来るのか?」
(( 出来ます ))
「お前たちは本当にすごいな……」
(( えへへへへ…… ))
「それから、ついでに直径30メートルぐらいで厚さ1メートルぐらいの円盤も作ってくれ。
周囲には手摺もつけて。
客を乗せて俺が『念動』で動かそう」
(はい)
「それじゃあ頼んだぞ」
(畏まりました)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
3日後。
(ダイチさま、ブリュンハルト商会の新本店が完成いたしましたので、ご検分をお願い出来ませんでしょうか)
「おおシスくん、もう出来たのか!」
(はい、リョーコさまに地球の書籍やDVDをたくさん買って頂いていましたので、それを参考に造りました。
まあ、錬成と念動の魔法で造れますのでそれほどの手間ではございません)
「それじゃあさっそく見に行ってみよう」
(ありがとうございます……)