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*** 110 進む採掘 ***

 


「それにしてもさ、アルスって金属資源が少ないんだろ。

 なんでこんなに金が採れるんだ?

 地球の海水中には50億トンの金があるっていうから、アルスにはその10分の1しか無いとして5億トンだろ。

 それがこの川だけで5万トンあったら、ちょっとおかしくないか?」


(あの、『地球の海水中には50億トンの金が含まれている』というのは事実でございましょう。

 ですが、それはあくまで『海水中』なのです)


「そうか!

 海底泥や川砂にはもっと含まれているっていうことか!

 金の比重は水の20倍以上あるんだから、長い年月の間には沈んで底に溜まってるはずだからな」


(はい。

 わたくしの試算では、地球の海底も含めれば地表から100メートル以内の土砂には、優に5000億トンの金が含まれておりましょう。

 ですが、金は精錬するのが最も難しい鉱物のひとつですから、現在の地球の技術力では年間3000トン程度の金しか採掘出来ていないのでしょうね)


「すべては魔法のおかげだったっていうことか……」


(実際に採掘した自然金を調べましたところ、直径1ミリ以上のいわゆる砂金は、重量比で1%程度に過ぎませんでした。

 ですが、マイクロメートル(10-6)レベルの金は20%、そして残りはナノメートル(10-9)レベルの本当の微粒子でございます。

 ここまでの微粒子を集める技術は、現代地球にもございませんので)


「なるほどな」


(それに加えて時間の要素もございます)


「時間?」


(はい。

 この川の上流にある火成岩山脈は、およそ1億5000万年前から8000万年前にかけて大噴火を繰り返して来た結果形成されたものと思われます。

 幸いなことに、現在では完全に休火山になっておりますが。

 そうして8000万年前の大噴火でカルデラ湖が出来て、それが決壊して河川が生まれて。

 その川の水が8000万年かけて火成岩を削って、大渓谷を形作るとともに火成岩中の有用鉱物を削り出して。

 そうして、やはり8000万年もの時間をかけて、この大沖積鉱床が形作られたのでございましょう)


「そうか、俺たちはその8000万年の成果を採掘させてもらっているということか……

 そうだよな、確かにたった1時間で2トンもの金を採らせてもらったけど、これって同じ場所で魔道具を使っても、2回目の採掘量はゼロだろうからな」


(はい)


「はは、同じだけ採掘しようと思ったら、また8000万年待たなきゃなんないのか」


(仰る通りです)


「それじゃあ、なおさらこの金は大事に使わせてもらおう。

 妖精族が100台の魔道具を作ってくれたら、そのうち80台で金を採掘して、残り20台のうち10台ずつで銀と銅も採掘しておいてくれるか」


(ということは、それらを『錬成』で融合させて、この世界の金貨もお作りになるということでしょうか)


「そのつもりだ。

 ガリルに貰った金貨は1枚約40グラムだったけど、そのうちの金の合有量は約60%で、残りは銀が20%で銅が20%だったからな。

 まあ、アルスの精錬技術ではそんなもんなんだろう」


(それではわたくしが金貨を作っておきますが、何枚作りましょうか)


「そうだな、1000万枚ほど作っておいてくれ」


(畏まりました)




「にゃあダイチ、にゃんだか凄いことになりそうにゃ」


「でもちょっと困ったこともあるんだわ」


「うにゃ?」


「まずは何と言っても、この金を地球で通貨に換金する方法だね。

 脱税やマネロンの疑いをかけられずにどうやって現金にするか。

 それに、これはあくまでアルスで採掘したアルスの資産だから、地球で所得税とか払いたくないし」


「まあそのうちいい方法が見つかるかもしれにゃいにゃ」


「だといいんだけど。

 それからさ、静田さんに用意して貰った地球の商品をアルスで売り出そうとしてたよね。

 それで儲けたおカネで、最初は主に子供奴隷を買ってダンジョン村に連れて来て開放するって。

 そのためにブリュンハルト商会のみんなにはダンジョン村に移住してもらったし。

 でも、こうやって金貨が作れるようになったから、あのひとたちの仕事が半分無くなっちゃったんだよ。

 なんて説明しようか……」


「これはあちしのカンなんにゃけど……

 彼らは移住したことに十分満足してると思うんにゃ。

 だからそんなことは気にしないんにゃないかにゃ」


「そうだといいんだけど……

 あれ? でも待てよ。

 ひょっとしたら、彼らに商売で儲けて貰う必要(・・・・・・・)は無くなったけど、商売をしてもらう必要(・・・・・・・)はまだ十分残ってるのかもしれないな」


「うにゃ?」


「まあ、ある程度金貨が溜まったら、商会のみんなに相談してみるよ……」


「それがいいにゃあ」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 青嵐高校の夏休みまであと2週間になった。


「なあ北斗師範代、師範代のおかげでMMA部のボクササイズ班に30人も女子部員が入ってくれるようになったんだけど……」


 因みにもちろん、彼女たちのお目当ては99%大地である。

 残りの1%はダイエットらしいが。


「その女子部員から、夏合宿をやろうって声が上がってるんだ」


「そうですか」


「まあ、MMAの鍛錬やボクササイズはジムでも出来るけどさ。

 やろうと思えば毎日行けるし。

 でも、部としての合宿もやりたいって言うんだ。

 それで……」



 さらにもちろん、彼女たちの目的は、『憧れのダイチくんと一緒にお泊りで出かけること♡』である。

 たとえ男女別に宿舎が分かれていたとしても、キャッキャウフフのチャンスはあるかもしれないのだ。



「まあ高校の部活動ですから、夏合宿ぐらいはやって当然ですか。

 ですけど、今から合宿する場所なんか確保出来ますかね?

 それに確か、顧問の先生の同行が必要だったんじゃ……」


「竜岡先生は8月5日からの3泊4日だったらOKだそうだ。

 それから、1年生部員の青島嵐子さんから聞いたんだけど、青嵐ニュータウンの上の方に、大きな合宿施設が出来たって言うんだ。

 野球場やサッカー場やテニスコートだけじゃなくって、MMA用のマットを敷いた体育館まであるっていうんだよ。

 標高1000メートルから1100メートルの場所にあって、軽井沢並みの気候の中で合宿が出来るんだって」


「へー」


「今年出来たばっかりなんで、けっこう空いてるからまだ予約が取れるそうなんだ。

 それになにしろオーナーは青島さんの家だから、合宿費は相当に安くしてくれるそうだし」



 青島嵐児は、もちろん自分の後継者候補として大地を狙っていた。

 そのため、運動はあまり得意ではない長女の嵐子を説得してMMA部に入部させている。

 もし2人がくっついてくれれば、いやそこまで行かずとも知り合いになっていてくれれば、将来大地を婿養子に迎えるチャンスが増えるというのだろう。

 もちろん娘の部屋に大地のポスターが貼ってあるのを見たからだが。


 また、MMAやボクササイズ用の体育館も、5つある体育館のうちのひとつを急遽改造して作っていた。

 政治家の深謀遠慮にはさすがのものがある。


 因みに、青島家がこうした学生用の合宿施設を作ったのは、なにも学生たち相手に儲けようとしたわけではない。

 昔から政治家にとっての大きな課題は青年層の浮動票の取り込みであった。

 特に最近では投票権が18歳以上になったため、高校3年生や大学生の票が重要になって来ている。


 つまり、青嵐ニュータウン青少年合宿施設とは、利潤目的ではなく、こうした青年層の票の取り込みを目的としていた。

 このため、かなりのカネをかけた豪華な施設であるにも関わらず、利用料金は非常に安く設定されていたのである。



「俺も8月5日からの3泊4日なら大丈夫です。

 それじゃあ夏合宿をやりましょうか」


「あ、ありがとう!」



 それからのMMA&ボクササイズ部の行動は早かった。

 合宿の打ち合わせには、大いに喜んだ青島嵐児の指示で、合宿施設のマネージャーまでもが派遣されて来ている。



 その結果、MMA&ボクササイズ部夏合宿の日程が決まった。

 集合は青嵐高校の校庭、そこから送迎バスによって合宿施設に行き、3泊4日の合宿に入る。

 そこでは3年生に配慮して、1日3時間、市内の予備校から講師を招いての受験用特別授業まで日程に盛り込まれたのである。

 費用は、送迎費や宿泊費、食費など全て込みで、ひとりたったの5000円だった……


 また、7月20日の終業式までに部員になった者は、合宿に参加出来ることになったため、MMA&ボクササイズ部の部員数は、瞬く間に120人に膨れ上がったのである。



 因みに……

 その合宿の最後の夜。

 女子部員からの強い要望で、広場ではキャンプファイヤーとフォークダンスが行われることになった。

 キャンプファイヤーはともかく、今どきの高校生とってフォークダンスなど無用と思われたのだが、なにしろ女子部員からの要望だったので仕方が無い。


 そして……

 もちろんそのダンスは男女が手を繋ぐという古典的なものだったのだが、なぜか女子部員は全員最後に大地と手を繋いで踊るというものになっていた。

 彼女たちの多くはポケットにウエットティッシュを忍ばせ、大地と踊る前にはそれで手を拭いていたらしい。

 このことが男子部員に知られたら全員血涙を流したことだったろうが、幸いにも誰も気づかなかったそうだ。


 そして翌朝には、女子部員も男子部員も、顔を洗う際になぜか皆ビニール手袋を手に嵌めていたそうである……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 採掘開始から20日後。

 ようやく一通りの金の採掘が終了した。

 大地に褒められたのを大いに喜んだ妖精族が、複合魔道具を計200台も作ってくれたために、他にも沖積鉱床のある河川2個所の探索も終わっている。



「それでストレー、全部でどのぐらいの金が採れたんだ?」


(合計でおよそ20万トンになります)


「マジか……

 それグラム5000円で売れたとして1000兆円だぞ……

 日本のGDPの2年分だぞ……

 日本の株式時価総額を遥かに超えちまってるぞ……」


(ダイチさま。お指図通り、そのうちの金600トンに、銀200トン、銅200トンを加えた金貨1000万枚も製造が終わりました)


「シスくんもお疲れさま」


(いえいえ、わたくしの本体には疲れるという認識はそもそもございませんので。

 CPU周辺の温度が1度ほど上がりましたが、現在では元通りになっていますし)


「それでも2人ともありがとうな。

 おかげで莫大な資金が手に入ったわ。

 問題はどうやってそれで食料なんかを買うかっていうことなんだけど」


(地球で通貨に換金困難だとしても、これだけの金貨があればアルスでは相当に食料が購入出来るのではないですか?)


「いや、それはマズイんだ。

 そんなことをしたら、食料価格が高騰して、ただでさえ不作に困ってる住民たちが餓死しかねないからな。

 しかも最終的に税を食料で集めてる貴族共を喜ばせるだけだし」


(失礼いたしました)


「まあ気にするな。

 だから、うちの村の農業生産が十分になるまでは、出来れば食料は地球で買いたいんだよ。

 今どうしたらいいか考え中だけど。

 地球で金が売れたとしても、慎重に売らないと金価格が暴落するだろうし、それがきっかけで世界的な大不況を引き起こしても困るからな。

 それにやっぱりアルスほどではないにせよ、食料価格が高騰して餓死者が出るかもしれないから、食料購入も相当慎重にやらないといけないし」


(なるほど)


「まあそれは置いといて、ガリルたちと相談してみるからさ。

 その金貨を土魔法で作った樽にでも詰めておいてくれ。

 シスくんはその金を精錬して純度を上げる事って出来るか?」


(粒の大きな砂金を細かくしてから、再度『抽出の魔道具』に通せばいいので可能です。

 どれぐらいの純度が必要でしょうか)


「そうだな、ナインナイン(99.9999999%と、9が9つ並ぶ純度のこと)って可能かな」


(それぐらいでしたら十分可能です)


「それじゃあ急がないから、純度を上げてあとは5キロぐらいずつのインゴットにもしておいて欲しいんだ」


(はい)


「それからさ、人魚海岸から東方向にある川にも沖積鉱床があるかもしれないよな。

 急がないから、そっちも調べておいてくれるか?」


(はい。

 ところで抽出するのは金、銀、銅だけでよろしいのでしょうか)


「そういえばそうだな……」


(もしよろしければ、同じ場所で一気に採取してしまった方が効率がいいので、レアアースなども抽出しておきましょうか?)


「おお、さすがだな」


(お褒めに与り恐縮です)


「それじゃあ、レアアースも頼むわ」


(畏まりました)





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