*** 11 魅惑の『各教科理解』スキル ***
大地は山小屋に戻ってまた手記を読み始めた。
(へー、ダンジョンのモンスターって外のモンスターとは違うんだ)
『ダンジョンモンスターは、普段は通常形態で暮らし、ダンジョン内で挑戦者と戦うときには戦闘形態になる。
戦闘形態はその名の通り戦闘に適した形態で、元になった動物などがより強く大きくなったものが多い。
これに対して通常形態は、かなりヒト型に近づいた形になる。
例えばフォレストウルフは通常形態では2足歩行のワーウルフになる』
(ふーん、便利なんだねぇ。
あ、ダンジョンモンスターたちにはけっこうな知性もあって、いつもは通常形態でモンスター専用階層で暮らしてるのか。
え、奥さんもいて子供もいたりするんだ……
そのモンスター村の暮らし、楽しそうだな……
それで挑戦者が来たら戦闘隊形に変身してダンジョン内にポップして戦うのか。
でも挑戦者に殺されちゃったら可哀そう……
ああそうか、そのときはリポップされるんだ。
体力も全快するのか。
だからダンジョンスタッフであるモンスターも、そこまで数は必要ないんだな。
南大陸ダンジョンのモンスターは、120種3000体か。
あ、最初は20種200体しかいなかったんだ。
自転車操業だったんだねぇ。
それにダンジョンポイントさえあれば、新しいモンスターも召喚出来るわけね。
うわっ!
最強のエンシェント・ドラゴンの召喚には100万ダンジョンポイントも必要なのか……
やっぱり強い奴ほど高いんだ。
あー、でもモンスターも冒険者を倒せばレベルが上がって進化出来るんだな。
10ダンジョンポイントで召喚出来るレベル1の平ゴブリンも、最終的にレベル70のゴブリン・エンペラーまで行けるのか。
それにしてもいろんな種類のモンスターがいるよなぁ。
一般的なのから聞いたこともないやつまで。
あー、魔法を使えるモンスターも多いんだ。
なんだこれ、リフレクト・ウィル・オー・ウィスプだって……
物理反射型と魔法反射型がいるんだ。
へー、物理型は物理攻撃を反射して、魔法型は魔法攻撃を反射するのか。
これ厄介そうなモンスターだなぁ。
ん? 待てよ。
最初に軽く殴るか初級魔法を当てればいいのか。
それでどっちのタイプか見極めてから本格的に戦えばいいのね。
なぁんだー、簡単だぁー。
あ…… 妖精族だって。
『彼女らは闘争能力は皆無だが、ドロップ品となる魔道具製造に秀でている』
そうか、この妖精たちが魔道具を作ってくれるんだ。
なになに。
『魔道具作りには材料と付与する魔法の実演と魔力が欠かせないが、甘い食べ物を与えるとその作業効率が大幅にアップする。
おかげでわたしも地球の菓子店に何度通ったことか……』だって。
『だが、一度間違えて『激辛まんじゅう』を買っていったときには、妖精たちが皆タラコのような唇になり、1週間使い物にならなくなった。要注意』だってさ。
わはははは。
じいちゃんも苦労してたんだなぁ。
それじゃあ次はスキル一覧でも見てみよう。
ふーん、じいちゃんが新しく作ったスキルには*マークがついてるわけね。
あ、★マークもあるのか。
『非常に有用でありLv10まで取得するのが望ましいものには★★★★マークを付けておいた。
★★★は出来ればLv10まで取得しておきたいもの。
★★は出来ればLv5まで取得しておきたいもの。
★は有用と思われるのでゴールドに余裕があったら取得しておきたいものである』
こりゃまるで『攻略本』だわ。
さすがのじいちゃんもちょっと過保護になったか。
いや……
ひょっとしたらこれ、俺が南大陸以外のダンジョンマスターになるためのものかもしれないな……
それにしても、スキルも魔法もいっぱいあるなぁ。
あれ?
スキル『時間加速』(A:アクティブ)だって。
なんだこれ? 時間を加速させてなんか意味があるのか?
『これは自分の時間を加速させるものである。
言い換えれば、自分だけ思考速度、反応速度、筋肉稼働速度が速くなる』
な、なんかすげぇ……
ん?
なんだこれ?
『*数学理解Lv1~Lv10(P:パッシブ)』だって……
Lv1で小学校算数完全理解、Lv2で中学校数学完全理解、Lv3で高校数学完全理解か……
Lv4で大学、Lv5で大学院生レベルね。
はは、Lv6で微分方程式完全理解、LV7で数学オリンピック国代表レベルだって。
うわー、Lv8になるとフィールズ賞受賞者と同レベル、Lv9になるとフェルマーの最終定理の証明論文を理解出来るレベル、Lv10は数学未解決問題を複数解けるレベルか……
『異言語理解Lv1~10(P:パッシブ)』ももちろんあるのね。
これなかったら、現地の住民が何言ってるか分からなくて、ニーズを汲み取れないもんな。
へー、Lv3以上だとモンスターの言葉も分かるのか。
こりゃ便利だわ。
内容は……
Lv1で初級会話、Lv2は中級会話、Lv3で上級会話(含むモンスターとの会話)、Lv4で読み書き。
あー、Lv5だと古典も含めた完全理解か。
そういえばアルスに本ってあるのかね?
まあ金属製品じゃないから少しはあるだろ。
はは、『*物理学理解(P)』のLv9は大統一理論(GUT)構築、Lv10で統一場理論の構築に重大な貢献だってさ。
あー、『*化学理解(P)』のLv10は、『望んだ機能を持つ有機化合物の設計・合成可能能力』だって。
『*法学理解(P)』のLv10は、世界各国の法制度を理念も含めて完全に理解出来るのか……
でもさ、これって相当に総合レベルが高くてゴールドもたくさん持ってないと獲得出来ないスキルなんだろうなぁ。
うわっ! どのスキルもレベル8で既に10万ゴールドも要るのか!
レベル10だと98万ゴールド以上だってさ。
それってモンスター何体倒せばいいんだよ。
1万体や2万体じゃぜんぜん足りないだろうに……
それにしてもじいちゃんよくこんなスキル作ったよなぁ。
まあ神界の持つ知識を借りたんだろうけど。
ん?
ま、まさかこれ、俺用のスキルか?
大学受験や大学で勉強してる時間があったら、アルスでダンジョンマスターの仕事がんばれって……
じいちゃん、いくらなんでもやりすぎだってば……
それ以外にもパッシブの知識系スキルがけっこうあるわ。
『*医学』『*薬学』『*植物学』『*栄養学』『*植物学』『*昆虫学』『*モンスター学』に『*鉱山学』『*冶金学』『*精錬学』ね……
ふーん、これらは全部レベル5までしか無いんだな。
まあそりゃそうか、レベル10の知識なんか得られたら、今の地球でもオーパーツ級の知識になっちゃうから許可されなかったんだろう。
うっわー、魔法も山ほどあるわ。
それもほとんどじいちゃんが作ったもんばっかし。
よくこんなもん作らせてくれたよなぁ。
でも現地の一般人はダンジョンの外ではレベル1の魔法しか使えないのか。
これは戦争抑止のためだったな。
でも頑張れば生活魔法は使えるのね。
あー、魔道具の数もものすごいわー。
はは、じいちゃんが開発したのはほとんど家電製品もどきばっかしか。
こたつの魔道具まであるし。
よういやあよく家電量販店に行ってたみたいだったけど、魔道具のヒント探しだったんだろうなぁ。
これ楽しそうだわー。
それじゃあ【第7巻 南大陸ダンジョン繁栄記】は封印して8巻を読もう。
うーん、北大陸は自然環境が厳しいのか……
面積は8000万平方キロあるけど、北部は永久凍土帯な上に凶悪な外部モンスターが徘徊する土地。
かろうじて南側に知的生命体がいるけど、人口はたったの300万人しかいないんだ……
南側って言っても、緯度は北海道の稚内より遥かに北なのね。
それじゃあ冬は流氷に覆われて漁も出来ないじゃないか。
ヒューマノイドの死因の第1は凍死で第2位が餓死……
酷ぇ土地だわ。
春から秋にかけてちょっと不作だっただけで、冬に人口が1割減るって……
おかげで戦争は少ないのね。そりゃそうだ。
こんな土地でダンジョンに入って強くなっても意味無いよなぁ。
暖房の魔道具があっても断熱性のある家が無けりゃ意味無いし。
木が少ない上に大工道具が無けりゃ家も建てられないし。
そういえばさ、地球だって原始人たちはよく生き延びて来たよ。
知性を貰ってから現在までの5万年の間には氷期もあっただろうに、原始人のお父さんたちは、家族を守るのに必死だったんだろうなぁ……
こうして冬山にいたりすると、その大変さがよくわかるわ。
あるのは倒した獲物の毛皮だけで、テントもコンロも無くって焚火だけだっただろうから。
よくラノベなんかには洞窟見つけてそこで暮らす様子が書かれてるけど、実際の自然の中では洞窟なんかほとんど無いからなぁ。
あっても火山性の風穴みたいなもんじゃないと、すぐに崩落して埋まっちゃうし。
1万年近くに渡る日本の縄文時代にヒトの暮らしを支えてたのは、温暖な気候と海の幸と当時大量にあった栗林だったそうだけど。
どれかが無くても縄文人口は半減してたそうだし。
この北大陸のヒューマノイドをダンジョンが救うのも大変そうだわ。
大陸の間にある海洋には超大型のモンスターが山ほどいて、とてもじゃないけど遠洋航海とか出来ないのね。
だから漁業資源の豊富な北大陸でも、かろうじて沿岸漁業が出来るだけなのか……