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*** 109 膨大な金 ***

 


 その日の夜、ストレーくんの収納庫で食事と睡眠を終えた大地は、いつものように地球に転移し、高校とジムに行ったあとは再びアルスに戻って来た。


 そして、その場にはシスくんの分位体がいて、大地に頭を下げていたのである。


「ダイチさま、誠に申し訳ないご報告がございます」


「シスくんどうした!」


「あの『金抽出の魔道具』を破損してしまいました……」


「お、お前に怪我は無いのか!」


「あ、はい。

 わたくしの本体はダンジョンの中にございますし、あの河口付近は既にダンジョン化してありますので、分位体もダンジョン内から魔道具を操作しておりましたから」


「そ、そういやあそうだったか……

 それで、なんで魔道具が破損したんだ?」


「あの川は、川底のかなり下まで金が含まれておりましたので、深度別に金合有量を調査していたのです。

 そうしましたら、川から巨大なワニが突然飛び上がって来まして……」


「そうか、あの巨体なら素の跳躍力はほとんど無いんだろうが、水中を高速で泳いでその勢いで跳ねたんだろうな。

 魔道具を鳥か何かと思ったんだろう」


「貴重な魔道具を壊してしまって済みませんでした……」


「いや、深度別に金の合有量を調べてくれって言ったのは俺だしな。

 まあお前が無事でよかったよ」


「あ、ありがとうございます。

 いくらあの地域がダンジョン化されているとはいえ、ダイチさまもお気を付けくださいませ」


「そうだな、だとすると高度30メートル以下には下がらない方が良さそうだな」


「海底30メートル以下にもかなりの砂金が堆積しておりましたが……」


「それじゃあ妖精族に、下方だけ半径300メートルの有効範囲を持つ『抽出の魔道具』を作ってもらおうか。

 ついでに『転移の魔道具』も搭載して、抽出した金をそのままストレーの倉庫に転移させよう。

 そうだな、『重力の魔道具』もつけた橇型にして、動かしやすいようにもするか。

 その魔道具が出来るまで採掘は休んで、今日は上流域の調査を続けよう」


「はい」




 さて、いよいよ上流の山岳地帯か。

 それにしても、標高は大したことはないけど、火成岩質の随分と険しい山々が続いてるなぁ。


 その谷間を縫って激流が流れてるのか。

 まるで北アルプスの黒部峡谷下廊下(しものろうか)みたいだ。

 険しい山肌から滝のように流れ落ちる支流もいっぱいあるし。

 あ、あそこ東西からの支流が同じ場所で本流に合流して渦巻いてる……

 はは、黒部峡谷の十字峡みたいだな……


 お、その十字峡部分の岩肌に金色の縞模様が見えるわ。

『鑑定』……


『火成岩、金合有率3.2%、(以下略)……』



 お、自然金の鉱脈があるわ。

 それに上流には水蒸気が盛大に上がってるのも見えるし。

 あれきっと熱水鉱床だな。



 そうか、なんとなく分かって来たぞ。

 この山脈は、元々大昔の火山の大噴火で噴出した溶岩台地だったんだろう。

 それも二酸化珪素が少なくって粘性の低い溶岩で。

 それで、広大な範囲に溶岩台地が出来て行ったんだろうな。

 地球のウラル山脈の東側にも、東西1500キロに及ぶ巨大な溶岩台地があるけど、あれと似たようなものか。


 この火山も何回か大噴火を繰り返したんだろうけど、最後の噴火で台地の中央部を吹き飛ばして巨大なカルデラを作って、そのカルデラ湖があるとき決壊して川を作ったんだろうな。

 そのときに、北側には流れずに全て南側に流れたせいで、そこから数千万年かけてこの大渓谷が出来上がっていったんじゃないかな。

 そして、その大渓谷が火成岩に含まれていた自然金の鉱床を露出させて、川の下流に金粒子や砂金や銀や銅なんかの沖積鉱床を作ったんだろう。


 だから大渓谷の周囲の山々の標高がこんなに同じぐらいなんだな。

 もともとは一つの台地だったんだから。


 そういえば、日本アルプスでも同じようなことが起こっていたっていう説があるそうだ。

 日本アルプスにある山は、火山性の山は少なくって、ほとんどが褶曲山脈なんだけど、不思議なことにその主要峰はみんな標高2800メートルから3200メートル弱の間に集中してるんだよ。

 だから大昔には、日本アルプスもやっぱり標高3000メートル前後の高原だったんじゃないかっていうんだ。

 それがその後、安部川や大井川や黒部川なんかに削られて今の山脈の形になっていったんじゃないかって。

 その削り取られた土砂が平野部を作ってくれていたおかげで、原始人たちは農業を始められたんじゃないかってな。



 お、そんなこと考えてるうちにカルデラ湖が見えて来たぞ。

 はは、やっぱり湖から北側に流れ出してる川は無いのか。

 もし有ったら、大陸北部のヒト族たちも、もう少し金属資源を得られていたかもしれないのにな。


 それに、どうやら大森林北部には多くのヒト族の国があっても、南部には少ない理由も見えて来たよ。

 これ、間違いなくあのワニたちのせいだわ。

 古代文明って必ず川の近くで発生するけど、あのワニだらけの川沿いにヒト族が村なんか作れるはずはないもんな。

 でも大陸北部に河口を持つ川では、寒すぎて爬虫類たちは生きて行くことが出来なかったんだろう。


 ということはだ。

 俺たちの村の横を流れるあの川も、もう少し調査した方がいいな。

 多分、途中に大きな滝があって、ワニが登って来られないようになっているんだろうけど。

 川の全域をダンジョン化して、シスに見張らせよう。


 あ、ということは、あの人魚海岸の防備ももっと考えた方がいいなぁ。

 あのワニたちって、クロノサウルスや大ダコや大イカのいない川沿いで繁殖して、それである程度大きくなってから河口付近に降りて来て魚を獲って食べているんだろうけど、今の防塁だとちょっとマズイかもだ。

 人魚たちが入って来られるように、東西部分に直径50センチの穴が開いてるから、小さい子ワニだったら入り込んでくるかもしらん。


 うーん、どうするかな。

 穴の直径を20センチぐらいに狭めるか。

 それで大陸南側の海岸を、幅100メートルぐらいの規模でダンジョン化して、移住を希望する人魚族が見つかったら転移の輪で連れて来ることにしよう。

 漁場は別に作って、人魚族には大きな魚を分けてやって。

 そうだな、そうしよう。


 さて、そろそろ帰るか。

 明日からは金の採掘が出来るから楽しみだ……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌朝。


「おおー、これが新型魔道具かぁ。

 なんかすげぇな。

 バケットシートに四点支持のシートベルトまで付いとるわ」


「これなんにゃ?」


「これは竜鋤のボディ部分に『資源抽出』と『重力操作』と『転移』の魔道具を組み込んだものなんだ。

 そうだな、『複合魔道具』とでも呼ぼうか。

 砂金なんかの自然金が採れる場所の上空を飛ぶと、金を抽出してストレーくんの収納庫に自動で送ってくれる優れものなんだぜ。

 あ、高度が50メートル以下にならないようにセーフティーまで付いてる!

 資源抽出も、単発モードと連続モードがあるのか。

 こりゃ便利そうだなぁ」


「今日は面白そうだからついてくにゃ♪」


「はは、どうぞどうぞ」




「さて、ワニ海岸についたよ」


「大っきなワニがたくさんいるにゃあ……」


「このワニがいるおかげで、この川の流域にはヒト族が住んでいないんだよ。

 もしワニが居なかったら、とっくに砂金も全部採掘されちゃってたろうね」


「それにゃらワニたちを狩り尽くすのは勘弁してやるにゃ♪」


「はは、別に金の守護者じゃなくっても、生態系を壊すのは良くないぞ」


「まあそれもそうかにゃ」


「さて、それじゃあさっそく魔道具を試してみよう。

 抽出物は金(Au)で、まずは単発でいってみるか」


 ごうん。


「な、なんか魔道具が揺れたぞ……」


(ダイチさま、どうやら採掘された金の重量分が一瞬魔道具にかかり、その後ストレーさんの収納庫に転移されてまた減少したために揺れたようです)


「そ、そうか。

 まあこの魔道具は宙に浮いてるから、少ない質量変化でも揺れたんだろうな。

 なあストレーくん、今の1回でどれぐらいの金が倉庫に入ったかわかるか?」


「およそ2キロでございますね」


「な に ……

 に、2キロだと……

 そ、それって1グラム5000円としたって、1000万円だぞ……」


(まあ、体積ベースでは約100cc弱に過ぎないのですが)


「まあ体積だとそんなもんか……」


「それでもお金持ちにゃ♪

 あちしにはお刺身いっぱいと、猫系種族には高級ネコ缶いっぱい買ってやってにゃ♪」


「これはアルスの資金であって、俺たちのカネじゃあないんだけどね。

 でもまあネコ缶ぐらいだったら構わないか」


「獅子人族や豹人族や猫人族の子供たちが喜ぶにゃぁ♪」


「はは、それなら犬人族や狼人族用に高級ドッグフードも買ってあげよう」


「それがいいにゃ」


「それじゃあ、抽出を連続モードにして、1時間ほどこの海岸を飛び回ってみようか」


「うにゃ」



 ごうんごうんごうんごうんごうんごうんごうんごうん……


「お、なんかあんまり揺れなくなった。

 連続して金を採取してるからかな」


「ダイチダイチ! 下を見てみるにゃ!」


「うっわー、なんか金色の霧が海から立ち上って来てるよぉ。

 これが全部金なのかぁ……

 すっごい光景だなぁ」


「もっとゆっくり移動した方がいいんにゃないかにゃ?」


「そうだね、あんまり速いとせっかく上って来た金がまた落ちちゃうか。

 それじゃあ時速10キロぐらいにしてみよう」




「なんかのどかだねぇ。音は少しうるさいけど」


「大儲けしてるんにゃから音は気にならないにゃ♪」


「それもそうか」


(あの、ダイチさま。

 ダンジョン村の妖精族から、魔道具の使い勝手は如何かという問い合わせが来ておりますが)


「このままで充分だと思うんだけど。

 あ、そういえば、シスくんはこの魔道具をいっぺんに何台ぐらい動かせるかな」


(そうですね、現在のCPUの稼働率からして、一度に1万台ぐらいまでは特に問題はないかと)


「そ、そこまで頑張ってもらわなくっても十分だぞ。

 キミには他にもたくさん仕事があるんだから。

 そうだな、妖精族には、『最高の魔道具を作ってくれてありがとう。急がなくていいから、出来ればあと100台ほど作ってくれないか』って伝えてくれ。

 俺も後で妖精族の集落に行ってお礼を言うから」


(畏まりました)


「お、そろそろ1時間経ったか。

 なあストレー、金はどのぐらい溜まったかな」


(現時点で約2トンになります)


「す、すげぇ……

 それ1グラム5000円で売れたら100億円だぞ……

 この魔道具1台を1日8時間稼働させて800億円かよ……」


(ダイチさま、魔道具はわたくしの本体が動かせますので、1日24時間の稼働が可能でございます)


「そういえばそうだったか。

 とすると1日2400億円か……

 100台を稼働させて24兆円……

 日本の国家予算の3か月分かよ……

 な、なあシスくん、この川や河口周辺を100台の魔道具でスイープするとしたら、どれぐらいの日数がかかるかな?」


(おおよそ20日程度と思われます)


「とすると、単純計算で約10万トンの金が採れて、総額約500兆円か……

 まあ、砂金や金粒子の濃度はこの河口付近が一番高いだろうから、話半分として5万トンで250兆円……

 それでもとんでもない金額だわ」


「すっごいにゃぁ♪」


「なあシスくん、地球の金採掘量って年間どれぐらいだったっけ」


(2017年は3150トンでございました)


「やっぱりそんなもんだよな。

 なのになんでこの川ではそんなに金が採れるんだろう?」


(わたくしの推測を申し上げてもよろしいでしょうか)


「もちろん」


(地球での金の採掘は、なによりもまず精錬コストとの闘いになります。

 それも、近年では環境に配慮してますますコストが上昇する傾向にありますし。

 ですから、金鉱山などでは最低でも1トンの岩石中に0.5グラム以上の金が無いとコスト割れするそうです。

 しかも、仮に1トン中0.5グラムの金があったとしても、実際に精錬して取り出せる金は、せいぜい半分だそうなのです。


 ところが、ダイチさまの場合、『抽出』の魔法のおかげで、精錬コストは全く問題になりません。

 もちろん環境にもなんの悪影響もございません。

 しかも、1トンの海砂に1グラムの金が含まれていた場合、抽出可能な金は1グラムですので、抽出率は100%ということになります)





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