*** 108 金抽出開始 ***
(ダイチさま、以前海中に設置しました『金抽出』の魔道具についてご報告がございます)
「おおシス、どうした?」
(一部の魔道具の金を溜める部分が既に一杯になっておりまして、ストレーさんに依頼して倉庫に転移させています)
「ちょっと待ってくれ。
あの金を溜めるところって、直径20センチだったろ」
(はい)
「それがいっぱいになったということは、体積ベースで4ℓ以上もあるんだぞ。
金の比重を考えれば80キロ以上だ。
金額にして、4億円を超えてるし。
いくらなんでも海水中にそんなに金があるわけないだろうに」
(それが実際に一杯になっております)
「そ、それ、ナンバリングして海岸から100メートルおきに50個施設してあったよな。
そのナンバー別の金収穫量を見せてくれ」
(こちらになります)
「え、海岸に近いほど金の収穫が多いのか……
それも圧倒的に。
5キロ沖合の魔道具だと、日に2キロしか無いか。
地球の海水中の金合有比率は、平均で1トンの海水中に100万分の2グラムだから、5キロ沖合だと地球に比べて約38%の合有量だったか。
うん、これはまあ予想通りだな。
だけど、なんでこんなに海岸付近の合有量が多いんだ?」
(あの、海底の砂地に金が含まれていたのではないでしょうか?)
「あの魔道具は半径100メートルの範囲の金を抽出するから、水深200メートル以下の場所だと、海底の砂地もかなりの部分抽出対象になるのか。
でも待てよ。
なんで海底に金粒子が溜まってるんだ?
そうか!
これきっと、海浜性漂砂鉱床だ!
川から流れて来た砂金と金粒子が、海に出て水流がほぼ無くなったんで、自重で海底に沈み始めたんだろう。
それが緩やかな海流に乗ってゆっくりと広範囲に散らばっていったのか。
ということはこれ、どこかの川に沖積性漂砂鉱床があるな。
その川の上流には金の大鉱床や熱水鉱床もあるかもしれん。
早速調べてみよう」
(あの、それはどのようにして調べられるのでしょうか)
「そうだな、まずは海流の流れて来る西の方向に、大陸に沿って調べて行こう。
だいたいの砂金川の位置が分かればいいから、海岸から50メートルほど沖合の地点を50キロおきに調べるぞ」
(この大陸の東西は約1万2000キロございますので、人魚族のいる海岸から西は6000キロほどです。
それを50キロおきに調べるということは、およそ120個所でございますね)
「そうだ。
そうして、海底の金合有量が非常に多い場所と少ない場所があったら、その間に金の漂砂鉱床を持つ川があるんだろう。
それにしても、この中央大陸ってデカいよなぁ。
面積約9000万平方キロっていえば、地球のアジア大陸の倍近いもんな。
まあ、地球には大きな大陸が6つあるけど、アルスには3つしか無いし、島嶼部も少ないっていうこともあるんだろうけど。
惑星表面に対する陸地の割合は、地球が30%なのに対してアルスはだいたい40%だし」
(あの、ダイチさま。
その調査地点を半径100メートルほどの範囲でダンジョン化するのをお許しいただけませんでしょうか)
「もちろん構わないが?」
(そうさせて頂けるのでしたら、その120個所の調査はわたくしがやらせていただきます)
「おお、俺が行かなくてもシスくん1人で出来るか」
(はい。
すでに海岸沿いは幅1メートルの外部ダンジョンになっておりますので。
そうして、調査個所の大きな生物を遠くに転移させて、『念動』で『抽出の魔道具』を沈め、金を抽出した後はまた『転移』で移動すればいいですから)
「そうか、それじゃあお願いするかな。
でもそんなに急がなくてもいいぞ」
(畏まりました)
「その調査の間に、妖精族に頼んでもっと大型の貯蔵庫のある『金抽出の魔道具』を作ってもらおうか」
翌日。
(ダイチさま。
西側海岸沿いの金合有量調査が終了いたしました』
「早いな!」
(まあダンジョン内のことですので)
「それで結果はどうだった?」
(人魚海岸を1番目の地点としまして、30番目の地点と31番目の地点で金合有量の変化が最も大きかったです。
他にも51番目と52番目、85番目と86番目でも)
「そうか、それで30番目と31番目の間に河口はあるか?」
(かなり大きな河の河口がございました)
「よし、それじゃあ今から大型の『金抽出』魔道具を持って調査に行こう」
(よろしいのですか?
調査でしたらわたくしがやっておきますが)
「いやまあ、俺も現場を見た方がいいんじゃないかって思ってな。
それになにしろ金が採れるんだから面白そうだろ♪」
(は、はあ……)
「タマちゃんはどうする?」
「にゃ、あちしは病院で治療を手伝ってるにゃ。
まだ患者さんが多いんで、イタイ子たちに頼まれたんにゃ」
「よろしくね」
「うにゃ」
「ということで、人魚村まで南へ約3000キロ、そこから西へこれまた1500キロ。
遥々やってきたのはいいんだけどさ……
なんだよこの河口付近、ワニだらけじゃねぇか……
それも丸々と太った2メートルぐらいの奴から、10メートル超えの馬鹿デカいのまで……
300メートル近い幅の河口の両側の砂地にうじゃうじゃいるわ。
これ、数万はいるんじゃねぇか」
(ここはワニの一大生息地だったんですね……
ところで、このワニはどうも地球に近縁種が見当たりません。
敢えて探せばデイノスクスの復元図にそっくりかと)
「うえっ!
あの8000万年前に棲息してたっていうワニ型恐竜かよ」
(はい)
「あ、この川、1キロほど緩やな砂地が続いた先は、海岸段丘があってそれなりに急流になってるのか。
ん? な、なんか上流から小っこいワニが流れて来たぞ。
お、あそこで10メートル級のデカいワニが急流を昇って行ってるわ。
そうか、デカいのは川底を這って川を遡れるのか。
っていうことは、上流に繁殖地でもあるのかもしれないな。
そこならクロノサウルスや大ダコや大イカも来られないだろうから。
それに、いくらあのクロノサウルスでも、こんなところに来たらワニの大群に襲われて喰われちまうだろうし」
(ところでダイチさま、この河口付近の砂地の色なのですが……
どうも人魚海岸の砂の色と違うような……)
「ん? 言われてみればそうだな。
なんか、黄土色っていうか赤っぽい金色っていうか。
なんか少しキラキラ光ってるようにも見えるが……
ま、まさか……
『鑑定Lv9』……」
『火成岩質の砂。酸化鉄5%、銅2.8%、金2.4%、銀2.1%、亜鉛1.9%、スズ1.4%、ニッケル0.9%を含む。
その他微量元素あり』
「な ん だ と ……
こ、この色やっぱり金の色かよ!
それも砂に占める金合有量が2.4%だと!
そ、それ地球の最高品位金鉱石並みじゃん!
よ、よし!
ちょっと上流を調査してみよう!」
(はい)
「あー、海岸段丘を越えると平原地帯なのか。
なんか幅の広い河がゆったり流れてるわ。
河の両岸は相変わらず黄土色っぽい砂地だし。
よし、それじゃあスピードを上げてもっと上流に行くぞ」
大地はところどころに転移用マーカーを打って、川の上流に進んで行った。
なんか、どこまで遡っても両岸は砂地とワニだらけだな……
もうかれこれ500キロ以上は来てるのに。
それにしても、なんかだんだんワニがデカくなって来ているよ。
お、なんか地面の傾斜が大きくなって来たぞ。
なるほど、遠くに山地が見えて来たし、ここは扇状地になってるのか……
(ダイチさま、あと1時間ほどでモンスターたちとの鍛錬の時間になりますが、如何いたしましょうか。
本日の鍛錬は中止いたしますか?)
「いや、鍛錬は予定通り行おう。
緊急事態が起きてるわけじゃないからな。
中止なんかしたら、みんな心配するだろうし。
あの山地の麓の辺りにマーカーを設置して俺は帰るわ」
(それでは『抽出の魔道具』をお借りして、わたくしは河口付近の砂金を採掘しております)
「おお、頼んだわ。
魔道具を水の中に入れるとワニに齧られちまうだろうから、空中から調べてくれ。
あんまり無理して金を集めなくってもいいから、場所とか深さ別に砂金の量を調査してもらいたい」
(畏まりました)
ストレーくんの特別収納庫内に転移した大地は、ブリュンハルト商会一行を訪ねてみた。
「バルガス隊長さん、お久しぶり。
あ、ガリルもいたのか」
「おお、ダイチ! 久しぶりだね」
「村の生活はどうかな」
「控えめに言っても最高だね。
夜盗や襲撃を警戒しなくていい生活がこれほど楽だとは。
親父殿も母上も俺の家族もみんな喜んでいたよ。
おかげで夜間の警備体制も最小限に出来て、みんなでここに籠って鍛錬が出来るようになったんだ。
それに、ストレーさんが宿舎や食堂まで作ってくれたからな。
みんなで、盛大に食べてたっぷり寝て、そして大いに鍛錬しているんだよ」
「それでガリルも鍛錬に加わったのか」
「こんな機会は滅多に無いからなぁ」
「バルガス隊長、鍛錬の調子はどうかな」
「いやこれも最高の環境ですね。
モンスター殿たちとの戦闘も、我々が半分以上勝てるようになると、すぐさらに強いモンスターが出て来てくださいますし。
あれはダンジョンコア殿のご配慮なのでしょうか」
「そうだな、ほぼ互角の相手と戦うのが最も効率がいいから、そうなるようにセッティングしてもらってるんだ」
「おかげで、皆みるみるとレベルが上がっております。
最低でも2回は上がっておりますし、護衛見習いの中には4回も上がった者もおりまする」
「まあ、レベルが低いうちの方が上がりやすいからな。
隊長さんはどのぐらいのレベルになったんだい?」
「昨日レベル12の声を聞きました」
「それはそれは。
この中央大陸のヒト族の最高はレベル11だったから、今や隊長さんがヒト族では大陸最強だな」
「すべてはダイチ殿のおかげでございます」
「いやまあ、いくら俺がお膳立てしても、結局は本人が努力しないとレベルは上がらないからなあ。
隊長さんがそれだけ頑張ったっていうことだよ」
「それでも御礼申し上げさせて下さいませ」
「はは、まああんまり気にしないでくれ。
それじゃあ俺はこれからモンスターたちとの鍛錬があるから」
「あの、また我らにも見学させて頂けませんでしょうか。
ほとんどの者はまだ拝見させていただいたことが無いものですから」
「もちろん構わないぞ。
それじゃあ、この前の観客席にいてくれ。
また俺が結界を張っておくから」
「ありがとうございます」
鍛錬終了後。
「た、隊長殿…… あ、あれがアルス最強の男だったんですね……」
「お、俺、震えが止まらなかったっす……」
「あんな強烈なモンスター600体を相手にして、攻撃を全部受け止めるなんて……」
「しかもそのモンスターをたった3回の攻撃で全滅させるなんて……」
「あ、あの方のレベルはいったいくらなんでしょうか?」
「最近53になられたそうだ」
「そ、それってどれぐらい……」
「レベルが1上の奴と対等に戦うには、倍の人数が必要だっていうことは教えたな」
「は、はい…… だからレベルが2上の相手と戦うには、4倍必要だって……」
「ということはだ、あのお方様と互角に戦うには、俺が2兆人必要だということだ」
「あの…… 『ちょう』ってなんですか?」
「この大陸の人口は約2500万人なんだそうだがな、それを4倍すると『億』っていう桁になるんだ。
それを更に1万倍したものが『兆』だ……」
「「「「「 !!!! 」」」」
「まさに天の御使いさまにふさわしいお力だの……」