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107/410

*** 107 増大するダンジョン人口 ***

 


 豪勢な服を着た男が馬を止めた。


「ほう、なかなかに立派な馬ではないか。

 それに馬車まであるとは。

 おい領兵長、あの馬と馬車を献上させてこい」


「ははっ!」



「おいそこの商人。

 喜べ、子爵閣下がその馬と馬車をご所望だ。

 すぐに献上せよ」


「はぁ」


「後で邸に来ればカネを下賜してやろう」


「お断りします」


「な、なんだと……」


「貴族って、そう言って献上させても後でお金払ってくれないんでしょ。

 お前なんか知らないって言って。

 見かけは立派な服を着ていても、貴族って盗賊とおんなじですよね」


「き、ききき、キサマぁっ!

 者どもこやつを処刑せよっ! 不敬罪だっ!」


 領兵たちが全員抜刀した。


(ギルティ!)(転移!)



「な……」


 領兵たちが全員消えた。

 残っているのは乗り手を失った2頭の馬と、騎乗している子爵らしき男だけである。


 子爵閣下は慌てて馬に鞭を入れて逃げようとした。


「そこな馬ども、動くな!」


 ノワール族長の一喝で馬たちが停止した。

 子爵閣下が喚こうが鞭で叩こうが動かない。


「馬どもよ。お前たちに罪は無い。

 だが、もしもこのような盗賊まがいの男の下にいるのが不満ならば、我が仲間の暮らす村に来ぬか?」


「ヒヒヒヒィン! (さぞかし名のある親分さんとお見受けしやした!)」


「単なるブラックホース族の族長だ」


「ヒヒヒヒンヒン! (やっぱり!)」


「ヒンヒンヒヒン! (それで族長さま、その村には食べ物はたくさんあるんですかい?)」


「もちろんあるぞ。

 仕事さえするならば、食事は無制限だ」


「ヒヒンヒヒン! (そいつはすげぇ! 是非俺たちも連れてってくだせぇ!)」


「了解した。

 シス殿、こいつらも転移させてやって下さらんか」


(はい)



 馬たちが消えた。


「ぐあっ!」


 子爵閣下は、落馬して強かに尻を打っている。


(あなたには強盗教唆の罪がありますし、過去の殺人教唆の数も94件もありますので、終身刑を申し渡します)


「な、なななな……」


 子爵閣下も消えた。



「大漁でしたね♪」


「うむ、我が一族の仲間も増えたしの」




 またしばらくの後。


(前方5キロに盗賊らしき集団。数は7名です)


「「 了解! 」」



「おおーっ! こいつぁすげえ♪」


「馬に荷に荷車かよ。久々に大儲けだな」


「おい小僧、馬も荷もなにもかも全部置いていけ」


「ぎゃははは、それとも死にてぇか?」


(ギルティ!)(収納!)




 またしばらくの後。


「あ、塀が見える。どうやら街みたいですね。

 テミスさん、街に入りますか?」


(いいえ、ダイチさまのご指示は街道を掃除せよとのことでした。

 そのうち街にも入るかもしれませんが、今日は止めておきましょう)


「はい!」



「おいそこのガキ、止まれ」


「なにか御用ですか?」


「何故街に入ろうとしない!」


「この街に用はありませんので」


「なんだと…… 衛兵様に生意気な口をきいた罰だ。

 積み荷を半分置いていけ」


「お断りします。

 この街には門の前にも盗賊がいるんですね」


「おい、お前らこいつを痛めつけろ。

 殺しても構わん」



「「「 へいっ! 」」」


(ギルティ!)(収納!)



「ノワールさん、先に行きましょうか」


「うむ」



 しばらくすると後ろから衛兵たちが10人ほど走って来た。


「そこの者止まれえっ!」


「のうテミスさんや、わしちょっと走りたいんじゃが、かまわんかの」


(ふふ、衛兵との距離を保って走ってみてください)


「はは、心得たわ」



「ま、待てっ! に、逃げるとは怪しいやつ!

 お、おとなしく捕縛されろ!」


「お断りしまーす!」


「な、なんだと!

 ええいお前たち、もっと早く走らんかっ!」


「「「 ぜいぜいはぁはぁ 」」」


「た、隊長、俺たち鍛錬なんかしたこと無いっすから……」


「はぁはぁ。

 よ、よし! 弓兵は矢を射よ!

 殺しても構わんっ!」


(ギルティ!)(収納!)



「鍛錬したことがないんですって。

 それでよく兵なんかやってますね」


「それも盗賊と同じだのう……」




「あ、こんどはみすぼらしい柵に囲まれた村のようですね。

 衛兵らしきひとも2人いる。

 でもまあ通り過ぎますか」



「おいお前、行商人のようだがこの村に寄らないつもりか」


「はい。寄りません」


「なんだとゴラ!」


「よーし、俺がお前ぇの荷を全部買ってやろうじゃねぇか。

 荷と馬と荷車全部ひっくるめて銅貨1枚でな」


「ぎゃははは!

 おいガキ、よかったな。大儲けじゃねぇか!」


「あなたたちの相手をしている暇はありませんので、失礼しますね」


「このガキ…… 

 生意気な口きいてっと痛い目に遭うぞ……

 荷を全部置いていけば許してやる」


「ここにも盗賊がいましたか……」


「おい、こいつをぶち殺せ……

 なぁに、後で穴掘って埋めりゃあ誰にもわからねぇ」


「へい坊ちゃん」


「これは、恐喝や強盗という立派な犯罪行為ですよ」


「わははは、つまんねぇこと言ってんじゃねぇ!

 俺ぁ村長の3男だぞ。誰が俺を掴まえるっていうんだぁ?」


「ふう、こんなちっぽけな村の、たかが村長の息子とかいう小さな小さな権力で、ここまで偉そうに出来るんですね。

 ああそうか、あなた頭もあんまり良くないんでしょう」


「て、ててて、手前ぇっ!

 は、早くこいつを殺せぇっ!」


「しかも自分の手は汚さないんですか。

 見下げ果てた根性ですねぇ……

 すみませんテミスさん。お願いがあります」


(なんでしょうか)


「ボクをこいつらと戦わせて頂けませんでしょうか」


(許可します。

 今結界も張りましたし音声遮断の魔法もかけました)


「ありがとうございます。

 さあ、かかってきなさい」


「こ、このガキ、なにブツブツ言ってやがる!」


「それとも脅すことは出来ても戦うことは出来ないんですか?」


「い、言わせておけばっ!

 うおおおおおお――――っ!」


 バキ!

「ぐべらぼっ!」

 どさっ。


「さあ坊ちゃん、次はあなたの番ですよ」


「な……

 お、おーいおーいおーい!

 み、みんな出合え出合えっ! 狼藉者だぁっ!」


「はは、ここまで情けないとはむしろ大したもんですね。

 テミスさん、こいつの罪状と刑罰は?」


(強盗の現行犯以外にも、過去に殺人教唆が8件ありますので終身刑ですね。

 そちらの伸びている男も、戦場外や正当防衛以外の殺人が12件ありますから、やはり終身刑です)


「それではシスさん、転移をお願いします」


(戦わなくっていいのかい?)


「ええ、こんな奴、殴っただけで手が汚れそうですから」


(了解、2人とも『転移』)



「ノワールさん、すみませんお待たせして」


「それでは行くとするかの。

 それにしてもゴブ郎もなかなかやるではないか。

 レベルはいくつになったんだ?」


「先日22になりました」


「ほう、その若さで大したものだの」


「ありがとうございます。

 でも、ダイチさまのお役に立つためには、もっともっと頑張らないと……」




 その日の夕方。


(ダイチさま。

 ノワール・ゴブ郎組、ただいま帰投いたしました)


(おお、シス、テミス、お前たちもごくろうさん。

 それでどうだった?)


(はい、6回の遭遇で、ヒト族73名を捕獲、投獄致しました)


「ほう、かなりの戦果だな。

 ゴブ郎たちはどうだったかな」


(まだ慣れぬところはあるものの、極めて優秀です。

 闘争本能に流されることなく、自分を抑えることを知っていました)


「そうか、ウチには戦える人材は多いが、そういう冷静な人材は貴重だな。

 これからもよく指導してやってくれ」


(( はい ))


「ところで、この掃除部隊はどんどん増やしていきたいと思っているんだが、お前たちの負担は大丈夫か?」


(わたしは以前賜ったバージョンアップで並列処理機能がかなり拡充されておりますので、まだまだ大丈夫です)


(わたしも元は神界にて創られた者ですので、処理能力にはかなり余裕がございます)


「そうか、それじゃあお前たちにこの掃除部隊の指揮を任せよう。

 増員や任命も任せる。

 なにか問題があったときは俺に連絡すればいい。

 この国の掃除がある程度終わったら、隣国にも手を広げておいてくれ」


(( 畏まりました ))




<現在のダンジョン村の人口>

 1万2530人


<犯罪者収容数>

 235人(内貴族家当主1人)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「のうマスターダイチ、今ちょっとよいかえ?」


「ああイタイ子、もちろん構わんぞ」


「お主が連れて来たあのブリュンハルト商会一行なのだがの。

 200人ほどがストレーの特別ダンジョンに籠って、凄まじい勢いで鍛錬をしておるようなのじゃ」


「そうか、引っ越しも無事終わって本格的に鍛錬を始めたか」


「それにしても、日々入るダンジョンポイントからすると、外部時間で3日、ダンジョン内の体感時間で50日は籠っておるの。

 まあ、食事は今のところ外に出て来て取っておるようじゃが、それも食料の持ち込みが増えて外での食事は減って来ておる」


「そうか」


「あ奴らは、マスターダイチの計画では重要な役割を果たすのであろう」


「その予定だ」


「ならばそろそろモンスターも投入してやるとするかの。

 さすればスキルスクロールもドロップしてやれるし」


「そうだな。

 それじゃあ、レベル1から15までのモンスターを投入してやってくれるか。

 彼らのレベルに合わせて、勝率が5割前後になるように加減して。

 あんまりモンスターに負けて殺され続けると、萎縮してしまうだろうからな」


「心得たわ。

 スキルスクロールはどのようなものにするかの」


「まずは『身体強化』を多目にして、次は『敏捷』で、その次は『動体視力』にしよう。

 そうだな、『念話』や『暗算』のスキルも頼む。

 レベル1の生活魔法もときどき混ぜてくれ」


「身体強化などのスキルの上限はどうするかの」


「うーん、取り敢えずレベル5までは全員に取ってもらおうか。

 その先はそのときに考えるということで」


「了解じゃ」



「ストレー」


(はい)


「彼らは時間停止ダンジョン内でどうやって寝てるんだ?」


(野営道具を持ち込んで寝ております。

 さすがに食事を作ることはせずに、外部に出て食べているようですが)


「それじゃあ、特別ダンジョン内に宿泊施設を作ってやってくれ。

 ベッドや寝具も人数分入れて。

 もちろん風呂もだ。

 そうだ、レストランって作れるか?」


(はい)


「それじゃあ、栄養バランスを考えて、『定食屋』を作ってやってくれるか。

 日替わり定食ならそう店の負担にもならないだろう。

 たまに甘味も出してやるとしよう」


(畏まりました)





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