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*** 106 街道の掃除 ***

 


 或る日のモンスター種族族長会にて。


「淳さん、お願いしてました馬車はどんな具合でしょうか?」


「今3台出来てるよ。

 ベアリングも車軸も鋼鉄製だけどちゃんと木部で隠してあるし、FRP製の板バネもチューブレスのゴムタイヤも付いてるからね。

 転がり抵抗は最小限になってるし、乗り心地も最高かな。

 折り畳み式の簡単な幌もついてるけど、でも本当に箱型馬車にしなくってもいいのかい?」


「ええ、荷を運んでるのが良く見えるようにしようかと思いまして」


「それじゃあ引き続き作るけど、まあ箱型でも乗用でも、必要になったら言ってね」


「ありがとうございます。

 無理を言ってすみません」


「いや、もう既に一流って言っていい職人さんたちが育って来てるからね。

 それに、彼らは大地くんからの依頼だって言うとすっごく喜ぶんだよ」


「それじゃあ今度、なにかお礼でもしますかね」


「いやいや、依頼が褒美だと思うよ」


「それはありがたいことです。

 シスくん」


「はい」


「カルマフィリア王国内の街道整備は終わったかな」


(それにしても酷ぇ国名だよな。

 直訳すりゃあ『罪業好き♪』だもんな……)


「はい、街や村を結ぶ街道を全てダンジョン化致しましたので、除草と整地は終わっております」


「ごくろうさん」


「いえいえ」


「それじゃあ族長たち。

 お前たちに頼みたい仕事があるんだ」


「「「「 おお! 」」」」


「だ、ダイチさまよりの直接のご用命でございますか!」


「こ、これは気合が入りますの!」


「い、いやそこまでの仕事じゃあないんだけどさ。

 でも若干の危険が伴うんだよ」


「「「 お聞かせくださいませ! 」」」


「まずはブラックホース族」


「うはははぁっ!」


「お前たちには戦闘形態になった上で、この『変化へんげ』の魔道具をつけてもらい、通常の馬の姿になってもらいたいんだ。

 それで淳さんの作ってくれた馬車を曳いてもらいたいんだが、頼めるか?」


「もちろんでございますっ!」


「ありがとうな。

 それから、ゴブリン族とオーク族」


「「 ははぁっ! 」」


「お前たちも『変化へんげ』の魔道具を付けて、小柄なヒト族に化けて

 御者をしてもらいたいんだ。

 いいかな?」


「「 もちろんですとも! 」」


「それでな、お前たちの馬車には、この国の街道を歩き回ってもらって盗賊たちをおびき寄せてもらいたいんだよ。

 そうして、盗賊がお前たちを脅して荷を奪おうとしたら、テミスの判断でシスくんには盗賊を牢屋に転移させて欲しいんだ。

 つまりまあ、盗賊狩りだな」


「あ、あの、ダイチさま……

 我らは何をすればよろしいのでしょうか……」


「他の皆には、この『隠蔽の魔道具』をつけてもらって、密かに護衛をして欲しい。

 万が一にも相手が大きな盗賊団だったり、移動中の貴族軍だったりしたときには戦闘になるかもしれないからな。

 戦闘を始めるかどうかの判断はテミスに任せる」


(はい)


「そうして、最初は1台の馬車で歩き回って、皆が慣れたら馬車を増やしていきたいんだ。

 最終的には、この大陸の盗賊を全て駆除したいと思ってるんで、かなり大変な仕事になるが、頼めるか?」


「「「 もちろんです!!! 」」」


「いきなり矢を射かけてくる盗賊もいるかもしれないから、必ず『身体強化』もかけておくようにな」


「「「 はい! 」」」


「それから、こういう仕事をしてもらうためにも、もっとモンスター種族を増やしたいとも思ってるんだ。

 お前たちには、他にも大森林の村に避難や移住の勧誘をする仕事をしてもらっているしな。

 それでイタイ子」


「またモンスターを召喚すればいいのじゃの」


「そうだ。1種族につき10人ぐらいずつ頼む。

 そのうちにもっともっと増やしていこう」


「心得たわ。

 そうして皆が盗賊共を掴まえて牢獄に入れれば、その分またダンジョンポイントが増えるのじゃな♪」


「もちろんだ」


「それは楽しみじゃの♪」




 数日後、王国内の街道を進む1台の馬車があった。


「ノワール族長さん本当にすみません……」


「ん? ゴブ郎よ、なぜ詫びる?」


「だって族長さんに馬車を曳かせて、オイラがそれに乗ってるなんて……」


「ははは、お前は少々思い違いをしておるようだの」


「え?」


「この任務は、ダイチさま直々のご依頼なのだぞ。

 そして、わしが馬車を曳くのもお前が馬車に乗るのも、ダイチさまのお言いつけなのだ。

 それをわしが不満に思うようではダイチさまへの反逆も同じ。

 そのようなことがあるわけがなかろう」


「は、はい」


「わしはもう嬉しゅうての。

 このまま全速力で走り出したいほどじゃぞ。

 この馬車も実に軽いしの」


「はは、ノワールさんが全速で走られたら、盗賊どころか誰もついて来られませんよ」


「うむ、じゃからこうして抑えておる」


「それにしても、なにも族長さんがこのような仕事をされなくても……」


「そうだの、そなたもこの仕事に抜擢されたということは、次の次の族長候補ぐらいにはなることだろう。

 それではゴブ太郎族長殿に代わってわしがそなたに教えて進ぜよう。

 ゴブ郎よ、族長の条件とは何だと思う?」


「えっ……

 や、やっぱり強いことですか?」


「それは少し違うの。

 族長の条件とはの、まず何よりも種族を危険に晒さないこと、次に種族を飢えさせないことなのじゃ。

 その2つを為すためには、強いに越したことはないがの」


「はい……」


「じゃから、わしら族長たちは、ダイチさまが来られるまでの間、族長失格だったのじゃよ。

 一族の者を飢えさせてしまったからの」


「で、でもそれは誰が族長だったとしても同じことだったんじゃ……」


「だが、あのダイチさまは違ったのじゃ。

 あのお方さまは、我らと戦うことで凄まじいまでの強者になられたが、同時にわしらも実に強くしてくださった。

 ご自分のみが強くなるためであれば、我らモンスターたちの攻撃を一身に受けて何度もリポップを繰り返す必要はなかろう」


「はい……」


「おかげでもはや、ダンジョン村に如何なる敵が来ようとも撃退するのは容易になった。

 一族を守るために、一族そのものを強くするなどという方法があったとはのう」


「僕も驚きました」


「その上で、あのお方様は我らが飢える心配を無くされた。

 つまり、ダンジョンの全てのモンスターの上に立つにふさわしい大族長であることを証明なされたのじゃ。

 かくなる上は、われらはモンスター族の一員として、大族長であるダイチさまに従うのみである。

 そこに族長だのなんだのという区別はいらん」


「よくわかりました。

 ご教授ありがとうございます」




(ノワールさん、ゴブ郎さん、前方5000メートルに盗賊団らしき反応があります。

 護衛の方々も一緒にゆっくり近づいて行ってください)


「シスさんありがとう」



(盗賊は8人ですね、木の上に1人、道に4人、林の中に3人です。

 みなさん『身体強化』を確認してください)


「うん、強化してるよ」


「わしもしておるぞ」


「「「 わしらもしておるぞ 」」」



(まもなく接敵です)



「おおおー、久しぶりの獲物だぜぇ♪」


「なんか知らねぇ間に道が綺麗になってっからよ。

 商人が動き出すんじゃねぇかって思ったから張ってたら、すぐにカモがやって来たか……」


「それにしても馬鹿なガキだよな。

 護衛もつけずにこんなところをノコノコ通るとはよ」


「まるで俺たちに献上品持って来たみてぇじゃねぇか」


「ぎゃははは、俺たちお貴族サマみてぇだな!」


「それにしてもいい馬だな。

 銀貨50枚は下らねぇとして……

 どれ、まずは俺様が乗ってみるか……」



 メキ……



 馬車の繋具を外そうとした頭目らしき男の顔面に、ノワール族長の前足蹴りがクリーンヒットした。

 頭蓋骨前面を粉砕されてその場に崩れ落ちる男。


「お、親分っ!」


「汚らしい手で触るでない!」


「う、馬が喋った……」


「お、親分の仇だっ!

 こ、このガキと馬をぶち殺せっ!」


(ギルティ!)(転移させます!)


 盗賊たちが全員掻き消えた。



(ノワール族長さん。

 攻撃されたり攻撃の指示が出る前に先に手を出したのはまずかったですね)


「わ、わし、出したのは前足だったんじゃけど……」


(「手を出す」というのは「攻撃する」ということの比喩表現です)


「はい……」


(このようなことが続くと、ダイチさまがお怒りになられるかもしれませんよ)


「わ、わかった! 以後気をつけるわい。

 ダイチさまのお怒りに触れて、この名誉ある仕事をバッファロー族と交代させられては堪らんからの……」



 1時間後。


(前方5キロに貴族軍らしき隊列がこちらに向かっています。

 騎乗の兵3名、徒士12名です。

 潜在敵の姿が見えたら、道端に避けて停止してください)


「「 了解! 」」


(おほ、今度は貴族軍か!)

(うむ、相手にとって不足なし!)


(護衛のみなさん、シスさんの転移がありますのでたぶん戦闘にはなりませんよ。

 先に手を出した方はダイチさまに報告させていただきます。

 戦闘がしたければダンジョンでしてください)


(わ、分かり申したテミスさん)


(みなさんは護衛でもありますが、今後こうした盗賊捕獲隊を増やす際の要員候補でもあるのです。

 戦うことばかりが仕事ではないのですから、よく状況を見ていてください)


((( はい…… )))



「潜在敵を視認しました。

 道端に停止します」


(ゴブ郎さん。

 相手をじろじろ見たりせずに、馬車から降りて片膝をつき、地面を見ていてください)


「はい!」


「わしもか?」


(ノワール族長さんは自然体で、道端の草でも食べていてください。

 いくらなんでも、馬が片膝ついて頭を下げたらみんな驚きます)


「この草、あまり旨そうじゃあないんだがのう……」


(でも片膝ついて恭しくお辞儀してる馬……

 ヒト族の反応を見てみたい気もしますね……)


「なんぞ仰られたかの?」


(い、いえいえなんでもありません)


「そうかの……」





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