*** 105 刑罰 ***
或る日の幹部会にて。
「それじゃあみんな、何か報告や提案はあるかな?」
良子が手を挙げた。
「良子さんどうぞ」
「あの、フードコートが大変に賑わうようになって来て、みなさん喜んでくださっています。
ですが、サンプル調査の結果、だいぶ栄養に偏りが出来て来てしまっているようなんです。
例えば、やはり肉食獣系の種族の方はあまり野菜類を食べません。
このままではビタミン不足で体調を崩される方も出てくるかもしれないです」
「やはりそうなりましたか。
何かいい解決方法はありませんかね?」
「朝から14時までは定食メニューにするというのはどうでしょうか。
そして、定食には必ず野菜料理か野菜ジュースをつけるとか。
野菜ジュースが苦手な方のためには、砂糖やレモンも入ったものも準備してあげるとよいと思います。
それらを入れると、野菜の匂いや苦みが相当に薄まりますから」
「それじゃあそうしましょう。
村人のほぼ全員が飢えていた経験を持つだけに、彼らは食事を残すことに相当な忌避感があるみたいですからね」
「大地くん、それだけじゃあなくって、アルスには無いけど地球にはある野菜で、栄養価の豊富なものを輸入してみたらどうかな」
「例えばどんなものがありますかね?」
「クレソンなんかどうだろうか」
「クレソン?」
「アメリカのCDC(疾病予防管理センター)の報告で、100g当たりの栄養価スコアが最も高い野菜なんだ。
なんでも『キング・オブ・ベジタブル』って呼ばれてるそうだよ」
「でもあれ、少し苦くありませんでしたか?
それに確か、『外来生物法』で要注意外来生物に指定されていませんでしたっけ」
「確かにあの苦さは日本人の口にはあんまり合わないけどね。
だけど品種改良されて苦みが抑えられたものもあるらしいんだ。
ジュースにしてやっぱり砂糖を入れてみてもいいかもしれないし」
「なるほど」
「それに、確かに強烈な繁殖力を持った植物だけど、水さえあれば育つそうだから、畑みたいな手間も要らないと思うんだ。
だから、ダンジョン前の川の10キロぐらい下流の川辺に植えてみたらどうだろうか」
「そうですね、いざとなったら魔法で駆除出来るでしょうし。
それじゃあ淳さん、地球に行って静田さんに種か苗を用意してもらって頂けませんか?」
「了解」
「ダイチさま、ダンジョン村の住民が増えて来るとともに少々問題も生じて来ているようでございます」
「テミス、どんな問題だ?」
「あの『幻覚の魔道具』の発動回数が増えて参りました」
「そうか、他人を脅して従わせようとする行為が増えて来たか……」
「はい、特に狼人族、獅子人族、豹人族の若者に顕著であります。
中には3回も発動させた者もおりました」
「シス、あれが発動した時に、例えば発動2回目の奴は説教用特別収用房に転移させることって出来るか?」
「はい、『鑑定』のスキルの閲覧項目に、『幻覚の魔道具』発動回数を記載するように設定変更すれば可能です」
「それじゃあ変更しておいてくれ」
「はい」
「大地くん、説教は誰がするんだい?」
「最初は私がしますよ。
でもまあ、そういうDQN連中には説教だけじゃあ分からないかもしれませんね。
なにしろ『弱者が強者の命令に従うのは当然だ』って信じ込んでますから」
「それって、放置しておくとこのダンジョン村が将来ヒト族の国みたいになっちゃうよね。
強い種族が貴族になって、小さくて非力な種族を奴隷にして……」
「ええ、ですから2回発動させた奴には、ある刑罰を与えようと思っているんです」
「ど、どんな刑罰なんだい? 隔離政策かな?」
「いやまあ、実際に服役者が出たらすぐわかりますから」
「あ、ああ……」
「ダイチさま、それは人魚族も対象になるということでよろしいでしょうか」
「ん? 人魚族にもDQN野郎が現れたのか?」
「はい、先ほど300人ほどの集団が移住して来たのですが、その集団の男性村長が、『俺がこの地の王になる! 従わなければ殺す!』と宣言致しまして。
現在側近たちと一緒に激痛を受けながらのたうち回っております」
「そうか、もちろんそいつらも同じだ。
2回発動させた奴は説教用特別房に転移させてくれ」
「畏まりました」
数日後、特別房にて。
「さて、諸君らは暴力を匂わす恫喝で他者を従わせようとした罪で、この説教用特別房に収監されている。
それも1度目に恐ろしい幻覚と激痛という罰を受けたにも関わらず、2度までも同じことをした。
これは、このダンジョン村では大いなる罪と見做される」
「なんでぇなんでぇ!
なんで強ぇ俺たちが弱っちい奴らに命令しちゃあいけねぇんだよ!」
「そうだそうだ! 当たり前のことだろう!」
「畑で働くなんて馬鹿くせえこたぁ、弱っちい奴らにやらせときゃあいいんだよ!
俺たち強者は偉そうに踏ん反り返ってりゃいいんだ!」
「飯喰うのに並べだとぉ!
しかも弱ぇ奴らの後ろにだぁ?
俺たち強ぇ奴がちっこいカス共を蹴散らして何が悪いんだ!」
「やはり理解出来ないようだな。
DQNは頭も悪いっていうのは本当かもな。
いやむしろ、頭が悪いという劣等感を補償するためにDQNになるのかもしらんが……」
「だいたいだな!
お前ぇだっておんなじじゃねぇか!」
「そうだそうだ!
俺たちが弱ぇ奴らをちょっと脅しただけで、あんなに痛ぇ目に遭わせたじゃねぇかよ!」
「あれは俺がお前らを痛い目に遭わせたんじゃない。
単にお前らが、今までに一番恐ろしかった経験と、一番痛かった経験を魔法で思い出しただけだ」
「な、なんだと!」
「王たる余に対する数々の不敬!
お前は縛り首にしてくれるわ!」
「まあいい、所詮馬鹿には口で言ってもわからんだろう。
いいか、お前たちがまた他者を脅して従わせようとしたときには、『変身刑5年』の刑罰が与えられるからな」
「な、なんだよ!
やっぱり俺たちを痛ぇ目に遭わせて従わせようとしてるじゃねぇか!」
「いや、安心しろ。
この『変身刑』に全く痛みはないぞ」
「ははん! そんなもん怖かねぇな!」
「言うこと聞かせたけりゃぶん殴るしかねぇのによ!」
「はは、脳みその足りないお前たちにもよくわかるような刑罰だからな。
結果が楽しみだ」
釈放されたDQNたちは、大地に説諭された腹いせもあって、すぐにまた罪を犯した。
だが、今度は痛みや幻覚を与えられることなく、すぐに特別収用房で『変身刑』を受けたのである。
そして翌日……
「うわー、可愛いっ!」
「ねぇねぇ、キミ犬人族の赤ちゃんだよね♪」
「ちょっと撫でてもいいかな?」
「これから保育園に行くの?」
「う、うるせえっ!
お、俺様は狼人族だ!
しかももう18歳の成人だぁっ!」
「あはははは、うっそだぁ」
「狼人族にそんな小さいひとはいないよ。
みんなすっごく大きくて強そうだもん」
「ねえねえ、ママはどこ行ったの?
迷子になっちゃったの?」
「う、ううう、うるせぇ――――っ!」
「あ、走ってどっか行っちゃった……」
「それにしても、口は乱暴だったけど、見た目は可愛かったね♪」
「うん、身長30センチの狼人族の大人なんかいるわけないから、きっと口の悪い赤ちゃんなんだろうね……」
「あ、猫人族の赤ちゃんだ!」
「ち、違うっ! 俺は虎人族の成人だっ!」
「またまたー、そんな小さな虎人族なんているはずないよ」
「生まれたばっかりの子でももっと大きいよ」
「さあ、お姉さんが猫人族の集落まで連れてってあげる♪
手を繋ぎましょ♪」
「あうぅぅぅぅ――――っ!」
「あ、いなくなっちゃった……」
「それにしても、変わった毛の模様の猫人族の子だったわね」
「うん、虎人族の赤ちゃんみたいだったけど、虎人族さんは生まれた時から大きいし、あんな身長が30センチぐらいしかない赤ちゃんは、まだ歩けるはずないのよね」
「早くママに会えるといいわねぇ……」
海岸では、もちろんDQN人魚たちが固まって震えていた。
「あ、王様たちがあんなに小っちゃくなってる!」
「あー、あたしたちの膝ぐらいの大きさになっちゃってまぁ……」
「や、やかましい!
不敬罪で痛い目に遭わせるぞ!」
「「「 どうやって? 」」」
「「「 あうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ…… 」」」
ひょっとしたら……
このDQNたちも、そのうちにひとりぐらいは気づくかもしれない……
非力で矮小な自分を誰も脅さず、命令しようとしないことに……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
或る日大地は、大量のネックレスを持って妖精族を訪ねた。
「やあみんな、すまないがまた仕事を頼みたいんだ」
「「「 喜んで♪ 」」」
(お、俺はもちろん行ったことないけど、噂に聞くどっかの居酒屋みたい……)
「あ、あのな、今から『変身』の魔法を見せるからさ。
それで、このネックレスを100個ほど『変身の魔道具』にして欲しいんだ。
変身後は身長160センチぐらいの小柄なヒト族になるように。
あ、あと普通の馬に見えるようになるやつも」
妖精族が頬を染めて服を脱ぎ始めた。
「いよいよわたくしたちに夜伽をさせて頂けるんですね♡」
「い、いやいやいやいや違うから!
これは任務に使うものだから!」
「「「 残念です…… 」」」
「だ、大事な任務だからな。
それから、今度は『隠蔽』の魔法を見せるからさ。
これも200個ぐらい魔道具にして欲しいんだ。
頼んだぞ」
「「「 はい 」」」
(ねえ族長、あれって、『小柄なヒト族に変化して、他の種族に気づかれないよう『隠蔽』を纏って俺の寝所に忍んで来い』っていうことなんでしょうか……)
(うふふ、今回は違うようですけど、いつかそういう使い方が出来るといいわね♪)
((( はい♡ )))
(それじゃあ、わたしたちの分も人数分作っておきましょう♪)
((( はぁーい♡ )))
え、エロ妖精80人の襲撃……
あな恐ろしや……