*** 104 魅惑の人魚族 ***
また或る日、アルスにて。
(ダイチさま、緊急事態ではございませんが、ご報告させて頂きたいことがございます)
「おおシスくん、どうした?」
(はい、あのダンジョン化した海岸に、大勢のヒューマノイドが集まって来ておりまして、どうやら人魚族のようでございます)
「ほう……」
(それでどうもあの海岸に住みつきたいとのことで、海中に防壁を作ったお方様に挨拶したいと申しております)
「そうか、それじゃあ行ってみよう。
タマちゃんはどうする?」
「もちろん一緒に行くにゃ」
大地が海岸に転移すると、その砂浜には100人ほどの人魚たちがいた。
(へー、人魚族って言っても腰から下が魚じゃないんだ。
足首から下がダイビングの足ひれっぽくなってるだけか。
まあそうだよな、これでも十分速く泳げるだろう。
前から疑問に思ってたんだよ、人魚ってあの魚の下半身でどうやって子作りするんだろうって……
まさか魚みたいに女性が卵生んだ後に男性が精子かけるわけじゃないよな。
それだったら女性に乳房がある意味が無いんだし。
でもこれなら子作りも問題ないんだろう。
あ、首の付け根の両脇に穴が開いてる。
そうか、あそこがエラになってるんか……)
人魚たちの代表らしき女性が大地に近寄って来て跪いた。
それに合わせて人魚たちも全員が跪く。
「こちらの巨大な防塁をお造りになられたお方様とお見受けいたします」
「ああそうだ」
「偉大なお力をお持ちのお方様にお願いがございます。
どうか我々人魚族をこの海岸に住まわせて頂けないでしょうか……」
「もちろん構わんぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「それにしても、どうしてこの場所がいいんだ?」
代表らしき女性は少し悲しそうな顔をした。
「わたしどもは非力な人魚族でございまして、あの巨大な海の魔獣どもには到底敵いません。
それで磯の隙間や岩陰に隠れて暮らしていたのでございますが、それでも食料である魚や貝を獲りに行く際に魔獣に襲われて、毎年犠牲者を出していたのでございます……」
「そうか、ここなら防壁があるから魔獣は入って来られないっていうことか」
「はい、その通りでございます」
「それなら、あのクロノサウルスや陸の魔獣も入って来られないようにするか。
シス」
(はい)
「陸上にも壁を作ってくれ。
そうだな、高さは10メートルでいいだろう。
それからあの岩場を平らにして、シェルターになるドームも作ってくれ。
それなら寝ている間にワイバーンに襲われても大丈夫だろうからな」
(畏まりました)
みるみるうちにその場に壁が出来始めた。
人魚たちは驚きのあまり固まっている。
(ふーん、人魚族って極端に男が少ないんだな……
まさか食料を獲りに行ってみんな殺されちゃったんじゃあ……
いや、元々そういう種族なのかもしらんな。
それにしてもだ。
この人魚たちって、異様に美人さんが多いぞ。
それにスタイルも超絶抜群だし。
髪の色も純白だったりプラチナブロンドだったりストロベリーブロンドだったりするし、目もいろんな色でほんっと綺麗だわ。
ミスユニバースコンテスト参加者が裸足で逃げ出すレベルで全員が美人だ……
そ、その美人さんたちが、子供から大人までみんなマッパなんだよな……
くっ……
ま、またも『(理性を)試される大地!』か……
ああっ! そ、そこっ!
お、お願いだからキミみたいな美人さんが、マッパであぐらをかかないでくれぇっ!
し、色即是空、空即是色……
こ、こんなところで反応なんかしたら、俺の『暗黒歴史』になってしまうぅぅぅっ!)
「こ、こほん。
ところで君たちは食事は十分だったのか?」
「いえ……
魔獣が恐ろしくてあまり海の深いところには行けなかったものですから……」
「それで君らは魚や貝以外のものも食べられるのか?」
「はい、たまに陸に上がって草の実や木の実なども拾って食べていました」
「そうか、シスくん」
(はい)
「モン村のご婦人部隊に依頼して、ここで穀物粥を振舞うように言ってくれ」
(畏まりました)
おそらく既に準備していたのだろう。
大柄な種族を中心に、大きな寸胴を抱えたご婦人たちが現れて、岩地の上にシスくんが作った竈で穀物粥を温め始めている。
さすがモン村婦人部隊は、もうこうした炊き出し仕事には慣れているようで、実に手際が良かった。
「みんなありがとうな。
それに見事な仕事だよ」
ご婦人たちが実に嬉しそうな顔をした。
モンスターたちにとって、大恩人であるマスターダイチに褒められるというのは、大変な栄誉である。
今日は各自自宅に帰ったあとに、家族にドヤ顔で自慢することだろう。
「さあ人魚族諸君、木の実や草の実を煮て作った粥だ。
みんなで喰ってくれ」
その場では大きなバーベキューコンロに炭火が熾され、シスくんが転移させた魚も焼かれ始めている。
人魚たちにとっては久しぶりのご馳走だったのだろう。
みんな旨い旨いと感激しながら食べ始めている。
中には泣いているものもいた。
村長が大地に近づいて来た。
「あ、あの…… い、偉大なるお方様……」
「俺のことはダイチと呼んでくれ」
「そ、それではダイチさま。
本当になんとお礼を申し上げたらよいのか……
住処のみならず食料まで……」
「この食事は日に1回は配れるようにしておこうか」
「あ、あの…… わたくしどもは、どのようにしてこのご恩をお返ししたらよろしいのでしょうか……」
「ところで、人魚族はここにいるだけで全部なのか?」
「いえ、ここにいるのは我々の村の人魚だけで、この辺りの海にはおよそ50ほどの村がありますが……」
(総数5000人か……
そのぐらいならなんとかなるな)
「それなら、ここの海の防壁をもっと大きく広げていこう。
そうしたら、他の村の連中にもこの防壁内で暮らすように伝えてくれないか?
この粥が喰いたければもっと用意するからここに来るようにも言ってくれ」
「はい…… 必ずや……」
(ダイチさま、防塁の範囲はどういたしましょうか)
「そうだな、東西方向は100キロでいいだろう」
(その範囲ですと3本ほど河川もございますが、如何いたしましょうか)
「陸の防塁が川と接する部分には幅30センチほどのスリットをたくさん開けておいてくれ。
母川回帰性の魚もいるかもしれないから」
(畏まりました)
「そうそう族長、ここの海の中には、ロープで重りや浮きに繋がった物がたくさんあるんだ。
人魚たちに、それにはあまり近づかないように言っておいてくれるか」
「はい、仰せの通りに」
「それじゃあ、人魚族はこの海岸で楽しく暮らしてくれ」
「あ、ありがとうございます……」
あー、村長さん、泣いちゃったよー。
「それから、あそこに作った家には自由に住んでいいからな。
それに普段はああいう家の中にいた方がいいかもしらん。
空を飛ぶ魔獣もたまにいるからな。
気をつけてくれ」
(シスくん、この辺りにも早期警戒用のダンジョン網と、もっとたくさんの家も頼む)
(はい)
「それじゃあ俺はこれで失礼するぞ。
なにかあったら大声で俺を呼ぶように」
「はい…… 本当にありがとうございました……」
「「「「 ありがとうございました! 」」」」
(それじゃあタマちゃん帰ろうか)
(にゃ、あちしはもう少しここにいるにゃ)
(そう、それじゃあ俺は先に帰って戦闘訓練を始めてるね)
(にゃっ)
タマちゃんは『隠蔽』で気配を消したまま『聴覚強化』で聞き耳を立てていた。
「ねえねえ村長、ダイチさまって素敵な方でしたね♪」
「なんかあたし、ダイチさまを見てるだけで赤くなっちゃいました……」
「あたしなんか子宮が熱くなっちゃったもん♡」
「それにあのダイチさまも、やっぱり男の子みたいだったんで安心しました♪」
「そうね、まるで発情期のうちの男の子たちとおなじように、わたしたちの胸やおしりをチラ見しては目を逸らしていらっしゃったわね♪」
「うふふ、わたしたちの胸やおしりを見て下さってたなんて……」
「ねえ村長、今度の春のわたしたちの発情期には、みんなに子種を頂けないかダイチさまに頼んでみませんか?」
「そうね、そうしましょうか。
たとえご遠慮なされても、みんなで押し倒してご奉仕すれば子種を下さるかもしれないわ♡」
「そうしましょう♪」
「「「 わぁ――――い♡ 」」」
(うにゅにゅにゅにゅにゅ――――っ!
あ、あちしの未来の旦那様になんてことをっ!
も、もし本当にそんなことしようとしたにゃら、こ、こんな村、焼き滅ぼしてやるにゃ――――っ!)
(タマちゃん、タマちゃん……)
(あ、ツバサさま……)
(もしよかったら、今わたしの執務室に転移して来て下さらないかしら)
(すぐ行きますにゃ)
「来てくださってありがとう、タマちゃん」
「どういたしましてにゃ」
「あのねタマちゃん……
もしあなたがよかったら、そして、もしこのままアルス中央大陸の状況が改善していったら……
わたしもいつか、ダイチさんに子種を頂きたいって思ってるのよ……」
「やっぱりツバサさまもそう思ってたかにゃ……」
「だって、ダイチさんって、強いし優しいし頭もいいしカッコいいし。
それにみんなにもすっごく慕われているもの。
女として、そんなひとの子供を生みたいって思うのは当然のことだと思うの。
だから、タマちゃんが第1夫人で私が第2夫人でいいから、わたしにも大地さんの子供を生ませてもらえないかしら……」
「うーん、いくらにゃんでも天使様を差し置いてあちしが第1夫人になるのもにゃあ。
それじゃあ、2人とも第1夫人ということでどうですかにゃ?」
ツバサが微笑んだ。
「どうもありがとう♡
それからね。
わたしたちがそう思うぐらいなんだから、いろんな種族の女性たちが同じように思うのも当然なのよ。
だから、他のひとたちにもダイチさんの子供を生ませてあげたらどうかしら」
「他の種族の女性もダイチの子を生めるんですかにゃ?」
「ええもちろん。
だって、他の種族を設計したのも天界だもの。
さすがに卵生の種族やスライム族との交配は無理だけど」
「そういえばそうでしたにゃ。
ところで、そのときは子供の種族はどうにゃるんですかにゃあ」
「子供の種族は母方の種族とおなじになるわ」
「それは、ずいぶん賑やかになりそうですにゃ」
「それに、ダイチさんの血を受け継ぐ子たちが大勢いたら、この中央大陸ですら平和に出来るかもしれないし」
「それもそう言われてみればそうですにゃ。
それじゃあ側妃は第100妃ぐらいまではOKにしましょうかにゃ。
あちしたちが正妻ということで」
「そうね、それぐらいは希望者が出るでしょうね……」
「もちろん先に生むのはあちしたちにゃから、ツバサさまとあちしの子には少なくとも100人の弟や妹が出来るんにゃね♪」
「そうね、一大軍団になるわ♪」
だ、大地っ!
た、たいへんだぁっ!
い、今神界で、き、君のおキンタマがバーンナウトしそうな恐ろしい密約が為されているぞっ!