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*** 102 文化祭でのエキジビション *** 

 


 そして青嵐高校文化祭当日。


 校庭の隅には、25メートル四方のマットの三方を囲む収容人数1000名を誇る巨大な観客席が鎮座していた。

 そのマットも、繋目などは見られない本格的な格闘技用のものである。

 太陽光線が反射しない観客席南側には巨大なスクリーンまで用意されていた。



 そのスタンドは、エキジビション開始まで2時間もあるというのに既に埋まり始めている。

 もちろん地元テレビ局のテレビカメラも入っており、開始30分前になると来賓席も埋まり始めた。



 中央に座っているのはもちろん防衛大臣の青島嵐児である。


 偶然にも嵐児の長女の嵐子はこの青嵐高校の1年生だった。

 もちろん青島家の財力があれば、成績の良かった嵐子は東京のいかなるお嬢様学校にも入学出来たことだろう。

 だが、やはり高校の同窓生という地縁は政治家にとって非常に重要であったため、嵐子は地元青嵐高校に入学していた。

 たとえ娘が政治家向きの性格をしていなかったとしても、将来の伴侶が立候補する際には、その妻は後援会の婦人部を纏めなければならないからである。



 嵐児の隣には米海軍横須賀基地の司令官である少将が座り、さらに隣は米海軍特殊部隊指揮官である大佐が座っている。

 米海軍の上級士官たちも大勢いたが、伴堂師範の旧友もいたらしく、皆で久闊を叙しているようだ。

 反対側には、自衛隊陸上幕僚長、その隣には同じく陸自青嵐駐屯地の司令官が座っていた。


 英語が得意ではない校長と県教育長は隅の方で小さくなっている。

 もちろん英語の堪能な嵐児は、米軍の司令官たちとも楽し気に会話していた。


 そして、来賓席の端には、佐伯弁護士、須藤夫妻、静田社長、淳にスラくんはもちろん、何故かイタイ子、シスくん、ストレーくんとテミスちゃんの分位体まで座っていた。

 どうやら良子が連れて来たらしい。


 また、一般観客席には演劇用の衣装を着けた高校生や、何故かフリフリのメイド服を着た女子高生もいる。

 メイド喫茶の休息時間に見に来ているらしかった。



 エキジビションの開始時刻になった。

 観客席は無論超満員である。

 はみ出た観客は中央のマットを十重二十重に取り囲んで座り、観客席の無いグラウンド側も黒山の人だかりになっていた。



 地元テレビの人気キャスターが胸元のピンマイクのスイッチを入れて軽く叩く。

 ディレクターがOKを出した。


「みなさま大変長らくお待たせいたしました!

 ただいまより青嵐高校MMA部のエキジビションを行います!」


「「「「 うおおおぉぉぉぉ―――っ!! 」」」」


 大歓声が沸き起こった。


(何故だ…… 何故こんなに盛り上がっているんだ……)


 忙しくてテレビを見ていない大地は内心で首を傾げた。


(でもまあ、ここまで盛り上がってるならしょうがないな。

『身体強化』も『時間加速』も使うか……

 タマちゃんが治癒系光魔法Lv8を常時展開してくれてるから大丈夫だろう……)




「それでは最初に、本日使用される防具のご紹介をさせて頂きましょう!」


 マットの中央にマネキン人形に防具を着せたものが運び込まれた。

 そのマネキンの後ろにはMMA部員の高校生が2人いて支えている。


「この防具は米軍のクロース・クォーター・コンバット、いわゆる近接格闘訓練で使用されているものであります。

 素材はなんと、防弾ベストにも使われているケブラー繊維でありまして、至近距離で.22口径の銃弾を受けても死なずに済むそうです。

 この場で試せないのが残念であります!


 また、このソフトメットですが、やはりケブラー製で、鼻骨も保護されていますね。

 しかも、後頭部もかなり下に伸びていて、強化プラスチックの板が鱗のように入ってるため、たとえ首の後ろにキックが入っても大丈夫だそうです。


 また、みなさんCMでもご覧になった通り、この防具には、頭部、胸部、腹部、そしてレバー部分とキドニー部分にパッドが入っておりまして、それら急所が攻撃されると、音が発せられて色も変わります。

 それでは軽く叩いてみましょう!」


 ぱん! 「プ」


 叩かれたパッドが薄いピンク色になった。


「このように軽く叩かれますと、音が出てパッドの色が変わります。

 それではもう少し強く叩いてみましょう」


 ばん! 「プァー!」


 パッドが赤くなった。


「これは或る程度ダメージが入ったという判定です。

 それじゃあ思いっきり叩いてみますね」


 どん! 「アウトォー!」


 パッドが濃い赤になった。


「これは行動不能になるほどのダメージが入ったという判定ですね。

 実は私は学生時代には空手部だったんですが、その私が思い切り叩いてもこの反応が限界です。

 まあ、いくらケブラーベストの上からでも、この判定が出た時は実際に体にもかなりのダメージは入っているそうですが。

 それでは北斗師範代、模範演技をお願いします!」


「はぁ……」


(なんか俺、完全に見世物にされとる……)



 競技用トランクスにシンガードとオープンフィンガーグローブをつけた大地が前に出て来た。

 マネキンの2メートルほど前で軽いデトロイトスタイルを取る。



 ドキャっ! 「ギャ―――!」 「DEATH!」 ぴこんぴこん……



 マネキンとそれを支えていた部員が吹き飛んだ。


「「「 うおぉぉぉぉぉ――――っ! 」」」


 続けて大歓声が沸き起こる。

 観客たちは大喜びだ。

 来賓席のアメリカ人たちも全員が拍手をしている。


 だが…… 観客席にいたかなりの数の格闘家や格闘技ファンたちは目を剥いて硬直していた。

 彼らには、大地がマネキンまでの2メートルの距離を詰めたのも、ストレートを放ったのも全く見えなかったからである。


 佐伯が用意した特別参加申し込み用紙にサインして、控え席でこれを見ていた腕自慢たちの半数が居なくなった。

 まあ懸命な判断だろう。



「凄まじいパンチでしたね!

 この防具は、本当に強烈なクリティカルヒットを受けると、このような反応になるそうなんです。

 それではいよいよ高校生諸君によるエキジビションマッチを始めましょう!」



 防具を着けた高校生たちがぞろぞろと10人も出て来た。


「須崎ファイトォ―――っ!」

「安藤クン頑張ってぇ―――っ!」


 高校生たちからの声援も沸き起こっている。



 MMA部員たちは、マット中央の大地から5メートルほどの距離を取って、その周囲を取り囲んだ。

 いつものように5方向を塞いで、前列の5人のすぐ後ろに後列の5人が立っている。


 この鍛錬を初めて見る観客たちは、いくらなんでもこれは戦いにならないだろうとはらはらしているようだ。



「それではわたくしが試技開始の合図をさせて頂きます!

 みなさん準備はよろしいですかぁ!」


 全員がファイティングポーズを取った。

 大地は中央で自然体のまま立っている。

 だが、格闘技上級者たちの目には、大地の体から激しい戦闘オーラが立ち上っているのが見えたことだろう。


「試技始めっ!」


 ドガバキグシャボクバキョドゴドグベキドコビキベゴボゴン!


「ギャーッ!」「ギャーッ!」「ギャーッ!」「ギャーッ!」「ギャーッ!」「ギャーッ!」「ギャーッ!」「ギャーッ!」「ギャーッ!」

「「「「「 ギギギャャャャーーーッッッッ!!!! 」」」」」


「DEATH!」「DEATH!」「DEATH!」「DEATH!」「DEATH!」「DEATH!」「DEATH!」「DEATH!」

「「「「「 DDDDEEEEAAAATTTTHHHH!!!! 」」」」」


 ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!

 ピピピピココココンンンンン!!!!!



「始め」の合図から20秒後……

 その場に10人の高校生たちが倒れていた。

 やはり、防具の上からでも相当なダメージがあったらしい。

 全員が防具を紫色に光らせ、ピコンピコンという警報音が実に煩い。


 またも大歓声が沸き起こったが、先ほどと音量があまり変わらない。

 声を上げている者はさっきより大きな声を出しているが、あまりのことにフリーズしている者が増えたせいだろう。



「そ、それではスローVTRを見てみましょう」


 観客席上部の大画面に、今の様子がスロ―再生され始めた。

 画面の隅には1/2という速度表示が見えている。

 だが、それでも誰にも大地の手足が見えなかったのだ。


 ディレクターが慌てて指示して画面表示が1/5になり、そこでようやく観客の目に大地の手足が微かに見えるようになった。


 その画面には、全てのガードを掻い潜って急所にクリティカルを入れているらしき大地の姿が映っていた。

 ガードされた攻撃すらひとつも無かったようだ。


 観客席で満面の笑みを湛えているのは、助役たちと青島嵐児と伴堂師範だけである。



「す、すごい試技でした……

 それでは次の試技に移ります。

 これは実はMMAや修斗とは関係の無い鍛錬なのですが、このMMA部の皆さんは、クロース・クォーターズ・コンバット、すなわち近接格闘術の訓練も受けていらっしゃいます。

 これは、主に市街地での対テロリスト戦を想定したもので、ナイフや警棒などを使用した米軍や自衛隊の特殊部隊の訓練と同じものになります。


 本日は特別にその訓練も披露して下さるとのことですので、みなさんお楽しみに!

 それではその訓練に使用させる模擬戦用ナイフをご紹介させて頂きます!」



 競技用トランクス1枚になった高校生が出て来た。

 その部員は水泳のときに使うようなゴーグルも装着している。

 だが、水泳用とは違って半球形かつ完全に無色透明なもので、視界を遮る要素は無い。


「このナイフは、刃の部分がフェルトペンになっておりまして、刃が相手に触れると赤い線が引かれます」


 もう一人の部員が模擬専用ナイフをゆっくりとモデルの体に滑らせた。

 その体には鮮やかな赤い線が引かれている。


「また、ナイフを相手に刺しますと、もちろんナイフの刃は柄の中に引っ込み、先端からは赤インクが出て来ます」


 部員がモデルの体にナイフの先端を当てると、刃が引っ込んだ。

 代わりに微かなプシュっという音と共にインクが出て来て、モデルの体に直径5センチほどの赤丸が付いている。



「このように安全な模擬ナイフを使って訓練が出来るのです。

 それでは試技を始めましょう!

 時間は1分間ですのでみなさん瞬きしているヒマはありませんよ!

 MMA部員の皆さんよろしくお願します!」



 またもや高校生たちが10人出て来て大地を取り囲んだ。

 大地も含めて全員がナイフを持っている。


「始めっ!」



 今度は観客の目にも大地が走り回っているのが微かに見えていた。

 そうして……

 高校生たちの体がみるみる真っ赤になっていくのだ。

 額や胸、腹などがどんどん赤線と赤丸で埋まっていっている。


「止めっ!」



 MMA部員たちは、真っ赤になった体のまま大きく肩で息をしていた。

 対照的に大地は綺麗な体のままで端然と立っている。


「いや、今回も実に見事な北斗師範代の試技でした!

 それでは次はいよいよ特別参加の猛者さんたちとの対戦です!

 みなさん盛大な拍手でお迎えください!」





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