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*** 101 フラナガン子爵 *** 

 


 その後、ブリュンハルト商会は全員で話し合いを行い、また全員で見学を終えたあとで、皆でダンジョン村に移住することを決めた。

 ガリルの義弟に当たるサミュエル君も、家族や従業員ともどもこれに加わることになっている。



 しばらくして、大地は会頭に呼ばれた。


「この度は我ら全員の移住を認めて頂いてまことにありがとうございました」


「いやまあ俺が提案したことだからな」


「ですが…… 実は一つだけ心残りがあるのです」


「聞かせてくれ……」


「私共が男爵位を賜るに当たり、大変にご尽力下さったフラナガン子爵閣下という方がいらっしゃいます。

 閣下は先代国王陛下がまだ王子として若かりし頃、准男爵の近衛兵としてお守りしていらっしゃったのですが、あるとき第2王子殿下の放った刺客が殿下を亡き者にせんと襲い掛かって来たのです」


「…………」


「多くの近衛兵が刺客に倒されて行く中、閣下は最後まで殿下を守って戦われました。

 刺客の銅剣で背骨を強打されて立てなくなってからも、地を這いずりながら敵の足を切り落として殿下を救われたのです。

 おかげでその後はご自分の足では歩けなくなってしまわれたのですが……


 その後、先代の国王陛下は第2王子殿下を追放され、王子殿下を正式に立太子されました。

 その際に、もちろんフラナガン閣下も男爵として陞爵され、国王ご崩御の後殿下が国王陛下となられた後は子爵に陞爵されて陛下の相談役となり、長らくお傍におられたのです。


 そして、我がブリュンハルト商会も、閣下が准男爵でおられたころからの付き合いがあったため、なにかと目をかけて頂いていたのです。

 もちろん我が家が男爵に列せられたのも、このフラナガン閣下のご推挙があってのことでございました。


 その閣下も、国王陛下が病に倒れられた後はめっきりと老け込まれました。

 現在では今の王太子さまに疎まれて王宮からも追い出されてしまっております。


 ダイチさまに伏してお願い申し上げます。


 どうか閣下にもダンジョン村のことをお伝えさせて頂けませんでしょうか。

 そして我らと共にダンジョン村に移住させてあげて頂けませんでしょうか。

 このままでは、閣下は次期国王陛下に暗殺されてしまうかもしれないのです」


「わかった。

 まずは俺をその方に会わせて貰えないか。

 その後、会頭さんがダンジョン村のことを告げて、移住を勧誘してみればいいだろう」


「ははぁっ! あ、ありがとうございますぅっ!」



 それで会頭さんがフラナガン子爵に訪問の先触れを出したんだけどさ。

 驚いたことに、子爵がすぐに来るって言ったんだそうだ。



 フラナガン子爵は、4人の老兵に持たせた質素な輿に乗ってやって来た。


「フラナガン子爵閣下、わざわざのお越し誠に相済みません……」


「あーよいよい、生まれた時から知っておるお主のことじゃ。

 そう固くならんでもよろしいぞ。

 たまには外出したくなっただけのことじゃ。

 それで、この若者がお主がわしに会わせたいと言っていた者かの」


「はっ」


「ふむ……」


 それで俺、その爺さんに凝視されちゃったんだけどさ。

 もちろん俺も『鑑定』で爺さんを見てみたんだ。


 ほう、E階梯が3.0もあるじゃねぇか。

 こりゃ大したもんだ。


「子爵閣下、ちょっと失礼して魔法を使わせていただけますか?」


「なんじゃと……」


「治癒系光魔法Lv9……」


 子爵閣下が強い光に包まれた。


「う、うおっ!」


「さて閣下、おみ脚を動かしてみてくださいませ」


「ん?

 お…… う、動く…… わ、わしの脚が動くぞ!」


「「「 閣下! 」」」


「す、すまんがのお前たち、ちょっと肩を貸してくれるか……」


「「「 は、はい…… 」」」


「ははは、あ、脚が動くわい……」


 爺さんは泣きながら従僕の肩に掴まってゆっくり歩いてたよ。




 歩き疲れた爺さんが会頭さんの前に戻って来て座った。


「そなた…… ほんにあれは魔法だったのか?」


「ええ」


「そうか……

 ありがとうな。

 40年ぶりに脚が動かせたわい……

 それで、貴殿は神の使いか?」


「はい」


「そうか……

 畏れ多いことよの……」


「それで閣下、我々はこちらのダイチさまの造られた国に居を移そうかと思いまして……

 商会は今まで通り続けるつもりでおりますが、家族は安全な地に住まわせようかと」


「その国は遠いのか?」


「遠いことは遠いのですが、ダイチさまの魔法で運んでいただけますので……」


「のう、ガリオルンや」


「はい」


「わしらも連れていってもらえんかの……

 いや、いまさら惜しい命でもないが、このまま陛下が崩御なされればあの性悪皇太子めが、わしの僅かな財を狙って刺客を差し向けるであろう。

 わしはともかく、尽くしてくれた家臣たちが不憫での。

 財はすべて差し出すので、家臣4名、侍女たち4名をその地に連れていってやってくれんか。

 ダイチ殿にも心よりお願い申す。

 これこのとおりじゃ」


 子爵が深く頭を下げた。


(こんな貴族もいたんだな。

 いや、貴族というよりは武人か……)


「頭をお上げください子爵閣下。

 何人でも歓迎させていただきますよ」


「そうか! ありがとうありがとう……

 こんな老骨でも、なにか貴殿のお役に立てるかもしれまいて」


「わたくしからも深く御礼申し上げますダイチさま」


「ところで子爵閣下、陛下のご病気も治しましょうか?」


「ダイチ殿、対外的には陛下はご病気ということになっておるがの。

 あれは病気ではなく単なる『老衰』なのじゃよ。

 もはやわしの顔もわからなくなっておるしの」


「そうだったんですか」


「いくら貴殿の魔法でも『老衰』は治せまい」


「はい」


「そうじゃろう、それは天の摂理に反するじゃろうからの……」



「それじゃあ会頭さん、閣下のお引越しの準備も併せてよろしくお願いいたします」


「畏まりました……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その日、夜になると大地はストレー君の収納庫に移動し、食事を取った後は地球に転移した。


 青嵐高校の文化祭まであと2週間ほどに迫っていおり、その日の放課後、伴堂ジムの屋外鍛錬場にはMMA部全員が集まっている。


 その日は何故か、スタンドや鍛錬場の隅に大型ビデオカメラを抱えたプロっぽい連中も大勢いた。




 ニシジマ軍曹が全員を並べて話し始めた。


「よーし、お前たちもだいぶ多対1戦闘に慣れて来たな。

 それじゃあいよいよダイチ師範代と高校生諸君の模擬戦練習を始めるぞ。

 各自防具の留め金はちゃんと締めてあるか確認してくれ」


「「「「 はい! 」」」」



「最初は10名のレギュラー陣からだ。

 その後は交代で模擬戦を行うぞ。

 それでは最初の組、模擬戦始めっ!」



 大地は5方向をMMA部員に囲まれた。

 その後ろにはやはり5人ずつが立っている。


(まずは囲みを突破しないとな……)


 縮地で1人に迫った大地はフリッカーも入ったミドルを放った。

 高校生にはほとんど見えない速度で足がガードを掻い潜り、レバーに突き刺さっている。


 バグンっ!


「ギャ―――!」 「DEATH!」 ぴこんぴこん……


 防具のレバー部分が絶叫し、突然紫色の光を放ちながら点滅し始めた。



【ニシジマ軍曹】


(な、なんだこの反応は!

 教官の俺でも初めて見るぞ……

 マニュアルにも書いてなかったし……

 ま、まさか、本当に激しいクリティカルヒットが入るとこうなる隠れ仕様か!)



【大地】


(へー、クリティカルを入れるとこんな反応をするんだ……

 甲高い声で「ギャ―――!」って言った後は、重々しい声で「DEATH!」の判定かぁ。

 それにしてもさすがはアメリカ製だよ。

「DEATH!」のTHの発音が[ s ]じゃあなくって、ちゃんと[ θ ]になってら♪) 




 一瞬フリーズしていた高校生たちが、ようやく動き始めた。

 だが……



 バグンっ! 「ギャ―――!」 「DEATH!」 ぴこんぴこん……

 ドグンっ! 「ギャ―――!」 「DEATH!」 ぴこんぴこん……

 バキンっ! 「ギャ―――!」 「DEATH!」 ぴこんぴこん……

 ドキャっ! 「ギャ―――!」 「DEATH!」 ぴこんぴこん……

 ビキンっ! 「ギャ―――!」 「DEATH!」 ぴこんぴこん……

 ・

 ・

 ・


(お、面白いぞこれ!

 なんかモグラ叩きみたいだ♪)



 高校生がいくら鍛えていたとしても、突如古いアーケードゲームに目覚めてしまったダイチの敵ではなかったのである……




 そして文化祭1週間前。


 地方都市の伝統校らしく、無駄に広い校庭を持つ県立青嵐高校では、その校庭の一画で工事が始まっていた。

 大勢の作業員が入った観客席設営のための突貫工事である。

 資材の量や工事の規模を見れば、その観客席はかなりの大きさを持つと推測された。


「お、おい、あれまさか文化祭のための観客席かな……」


「そういえば、新しく出来たMMA部が校庭でエキジビションやるって言ってたぞ……」


「そんなもんのために、観客席まで作るんか……」



 そして当のMMA部員たちは……


「ま、マジかよ……」


「あんなもんまで作って、ぜんぜんお客さんが見に来なかったら大恥だぞ……」


「それにしても、よく観客席なんか造る予算があったよな……」


「ああ……」



(まさかあれ、静田さんたちが……)



 もちろんそうだよ大地くん。

 彼ら以外にあんなもの造るひとがいるわけないじゃないか。




 そして文化祭5日前。


 大地は見ていなかったのだが、高校生たちは夕食時のゴールデンタイムに地元テレビを見てフリーズした。


『視聴者の皆さまにご連絡申し上げます。

 来たる7月〇日日曜日、県立青嵐高校にて文化祭が開催されます。

 高校生たちが皆で工夫して、演劇あり研究発表あり模擬店ありと、毎年好評を頂いている文化祭ですが、今年は特に新設されたMMA部のエキジビションマッチに注目が集まっております』


 画面が切り替わって、伴堂ジムでの鍛錬の様子になった。



 バキンっ! 「ギャ―――!」 「DEATH!」 ぴこんぴこん……

 ドキャっ! 「ギャ―――!」 「DEATH!」 ぴこんぴこん……

 ビキンっ! 「ギャ―――!」 「DEATH!」 ぴこんぴこん……

 ・

 ・

 ・


『このように、米軍も使用する最新鋭の防具を着けた高校生諸君が、毎日鍛錬を重ねている様子を間近で見る事が出来るでしょう。

 特にこの中央で格闘の実践指導をしている高校1年生の北斗師範代は、米軍の格闘技訓練教官の方が仰るところでは、もしも修斗などの大会に出ていれば世界ランカークラスになるのは間違いない実力者だそうです。


 本物の格闘技をご覧になりたい方は、是非7月〇日日曜日の12時から始まるこのエキジビションにご参集くださいませ。


 また、当日は飛び入り参加も歓迎しております。

 世界ランカークラスと戦ってみられたい猛者の方も、是非ご参加ください』



 その後はテーマ音楽の流れる中、テロップも出始めた。


『7月〇日、○○県立青嵐高校文化祭開催。

 主催:青嵐高校文化祭実行委員会

 協賛:青島嵐児衆議院議員事務所、静田物産株式会社』


(尚、当日は高校周辺に駐車場はございませんので、最寄りのJR青嵐駅をご利用くださいませ……)



 このCMは、これ以降文化祭開催日の朝まで繰り返し流されたのであった……




 大地くん、なんだかエライことになってるぞ……





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