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*** 10 ピーマンに嫌われたタマちゃん ***

 


 大地は祖父の残した手記を読み続けた。



『ダンジョンの仕様変更について。


 当初神界によって用意されたダンジョンは5階層に渡っている。


 それぞれの階層の広さはおおよそ500メートル四方で、最低1か所は下層に降りる階段がある。


 階層の追加には1000ダンジョンポイントが必要とされ、追加された階層もほぼ500メートル四方の広さになる。


 また、このダンジョン階層は、通常の3次元の物理空間を掘り進む形と、新たに隣接した3.01次元の空間のどちらにも作ることが出来る。


 つまり、入り口が小さな岩山にあるようなダンジョンでも、作ろうと思えば100平方キロのダンジョン空間が作れるようになっている』


(へぇ~、すごいな……)



『このとき、3.01次元空間の階層は人の感覚では離れた場所にあったとしても、『連結』が可能になる。

 つまり、各階層から第1階層に飛べる転移装置や、転移の罠などが設置出来るようになっている』



(なるほどね。

 いつもラノベ読んでて思ってたんだけど、地下50階のダンジョンとか、酸欠で挑戦者もモンスターもみんな死んじゃうよな。

 でもこうやって他次元も使えるなら空調の問題も解決するわけだ)



『この階層を拡張して広くする際の基本ポイントは、延べ床面積1ヘクタールにつき100ポイント。

 階層の種別によっては、これに掛け目がかかる。


 例えば通常の洞窟型であれば1、石畳と石壁であれば2、神殿風であれば5、そしてオープンフィールドであれば掛け目は20になる。


 つまり、1ヘクタールの拡張に際し、それが洞窟型であれば100ポイント、石畳・石壁であれば200ポイント、神殿風であれば500ポイント、オープンフィールド型であれば2000ポイントのダンジョンポイントが必要になる。


 オプションとして、階段追加は50ポイント、水場1か所につき50ポイント、森1か所につき50ポイント、また大中小の家屋も手に入れることが出来るが、これはそれぞれ大きさに応じてポイントがかかる。


 また、特にオープンフィールド型階層に於いては、追加で1000ポイント払うことにより1日1回程度の降雨や1日12時間の日照を得ることも出来る。


 その他のオプションについては、その都度ダンジョンシステムに問い合わせればコストを教えてもらえることになっており、ダンジョンマスターになればこのダンジョンシステムとの念話が可能になる』



(なんか工務店でオーダーメード住宅の見積もり貰うみたい……

 あ、拡張するダンジョンの形には特に制限は無いんだ。

 丸型でも星型でもOKで必要なダンジョンポイントは延べ床面積に比例するんだな。

 でもそれって……)




『また、神界にダンジョンマスターとして任命された者は、ダンジョンに赴く際に初期費用として2万ポイントのダンジョンポイントを受け取れる。

 もちろんこのポイントは、慎重に考えた上で適切に使わなければならない』


(へー、準備金みたいなもんか……)




 そのときタマちゃんがむっくりと起き上がった。


「ダイチ! お腹減ったにゃ!」


「お腹減ったって…… さっきご飯食べたばっかりじゃないか」


「うんにゃ、あれから5時間も経ってるにゃ!

 時計を見るにゃ!」


「ほ、ほんとだ…… 

 じいちゃんの手記、夢中で読んでてもう5時間も経ってたんだ……」


「早くご飯食べるにゃよ!」




 ダイチは頭の上に飛び乗って来たタマちゃんを連れて収納部屋に戻り、食糧倉庫に入った。


「うっわー、すっごい量の食料があるわー。


 あ、パック寿司もある!

 しかもこれトロもウニも入ってる980円の高いやつだ!


 ねぇタマちゃん。

 タマちゃんは食べられないものってあるのかな。

 猫だからタマネギはダメとか……」


「うんにゃ、地球のヒト族の食べ物であちしに毒になるようなものは無いし、あっても完全異常耐性持ってるから平気にゃ」


「さっきはネコ缶食べてたから、ダメなものもあるのかと思ってたんだけど……」


「ネコ缶は主食にゃ。

 それ以外の地球の食べ物は副食物かおやつにゃのよ」


「そうか。じゃあ嫌いなものってあるの?」


「……あるにゃ……」


「なにが嫌いなの?」


「タマネギにゃ……」


(子供か…… あ、子猫だったわ)


「あと、あちしはピーマンさんに嫌われてりゅの……」


「嫌われてる?」


「だってピーマンさん、ニガい味を出してあちしにいじわるするんだもにょ」


(いじわるて……)



「そうそう、俺はこの寿司と、それだけじゃ足りないからカップラーメン食べるけど、タマちゃんはどうする?」


「あちしもお寿司がいいにゃあ。

 あと、ラーメンの麺も少し欲しいにゃ」


「けっこう熱くなるよ」


「魔法で冷やすからへーきにゃ」


「はいはい。

 あ、この別パックになってるガリはどうする?」


「いらないにゃ」


「ワサビは? 塗ってあげようか?」


「ワサビは魔人の食べ物にゃ……」


「はは、辛いのはダメなのか」


「にゃ……」



「それにしても便利だよ時間停止収納庫って。

 このお寿司なんか賞味期限が1年前なのに、さっき買って来たばかりに見えるし。

 もしこれ普及させたら、廃棄弁当とか無くなるんだろうなぁ。


 あ、もうお湯が沸いたのか。


 あれ?

 これカップラーメンにお湯入れても、時間停止されてるから変化しないんじゃない?」


「そこに冷蔵庫みたいな大きな箱があるにゃ。

 その中に入れて扉を閉めれば時間が経過するにゃよ。

 扉に経過時間指定用のタイマーもついてるにゃ」


「はは、なんか便利な部屋でも不便はあるんだね。

 それじゃあ先にお寿司を食べ始めよう」


「にゃ、それじゃあまたワーキャットになるにゃ」


 微かなポンという音と共に、またワーキャット幼女が現れた。


(このポンっていう音……

 タマちゃんの毛が茶色でしっぽがもう少し太かったら、タヌキの変身効果音みたい……)



「なんかまた失礼なこと考えてない?」


「ソ、ソンナコトナイデスヨ……

 と、とりあえず、食べようか……」


「いただきます♪」


(お、タマちゃんはまずギョクから食べるのか。

 それにしても……)



「なぁタマさんや」


「なぁに?」


「上の玉子焼きだけ食べて、酢飯は食べないのかね」


「うん、後で余裕があったら食べる。

 もしよかったらダイチも手伝ってね♪」


「はいはい」


(まあ、どう見ても5歳ぐらいの体だから全部食べるのは無理か……

 ちょっとお行儀悪いけど仕方ないよな……)



「ああ、玉子焼き美味しい……

 ねえダイチ、よかったらその……」


「はは、じゃあ俺の玉子焼きも食べていいぞ」


「ありがとう♪ 代わりにこれあげる」


「はいはい、イカと交換ね」


(等価交換とは言い難い交換だのう……

 これどう見てもモンゴウイカだし)



「それにしてもダイチはずいぶんと熱心にコーノスケの手記を読んでたわね」


「やっぱりフィクションじゃなくってノンフィクションだからなぁ。

 すっごい臨場感があって面白いんだよ。


 それにしてもさ。

 まだ半分も読んでないんだけど、じいちゃんはよくあんな酷い世界に恩恵をもたらせられたよねぇ」


「そうね、あの発想は凄かったわね」


「待って! まだ言わないで!

 第7巻の【南大陸ダンジョン繁栄記】は読まないで、じいちゃんはどうやってあの大陸の戦争を激減させて、80年で人口を1000万人も増やせたのか考えてみたいんだ」


「ふふ、それも面白いかもしれないわね」


「うん、なんか壮大な思考実験みたいでわくわくするよ。

 しかもリアルだからなぁ」



(この分ならダイチはダンジョンマスターになってくれそうね……

 それにしてもこのひと、E階梯だけじゃあなくって思考能力レベルも5.2もあるのよね。

 努力する才能だってレベル5.5だし、行動力なんかレベル6.0だし……

 本当にすごい素質だわ……)



「あ、3分経ったわよ」


「それじゃあ麺を少し皿に移すよ」


「ありがと」



 タマちゃんはなにやら麺に手をかざしている。

 どうやら魔法で冷ましてから食べるようだ。


「ねえ、麺、もう少し頂いてもいいかしら……」


「はいはい」


「あの、良ければもう少し」


「スープはどうする?」


「このスープ、ちょっと胡椒が効き過ぎてるからいらない……」


「はいはい」


「あの、もう少しだけ……

 だってとっても美味しいんだもの」



「タマさんや。

 こちらはもうほとんど麺が無くなって、スープだけになってるんですけど……」


「ご、ごめんなさい……」


「まあいいや、はいどうぞ」


「あ、ありがとう♪」



(さて、それじゃあ俺は残ったタマちゃんの酢飯とスープを食べるか。

 お、これはこれで……

 そうか、これがじいちゃんがまだ若くてカネが無かったころよく食べてたっていう『ラーメンライス』だな……)




「ふー、さすがにお腹いっぱいだ。

 ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした♪」



「俺はまた手記を読むけど、タマちゃんはどうする?」


「わたしはまた猫形態になって、少し外を散歩してくるわ」


「気をつけてね」


「だいじょうぶよ。

 この空間にはわたしたちの害になるような生物はいないし、それにイザとなったらわたしけっこう強いのよ」


「そうか、それじゃあ俺はまた山小屋に戻って、日本時間で朝6時になったらまたこの収納庫に戻って寝るよ。

 そうして起きたら外のテントを撤収して下山しよう」


「ねえ、ほんとにいいの?

 今すぐにでも麓の家や街の家に転移出来るわよ?」


「やっぱり山に登ったからには自分の足で下山しないとね。

 それに登りは有酸素運動で下りは筋トレだからさ。

 最近受験勉強ばっかりしてて体が鈍ってるから、少し筋トレもしないと」


「ふーん」


「それに、登りの時は足元ばっかり見てるからあんまり景色を楽しめないんだけど、下りではかなり遠くまでの景色が見えるからねぇ。

 晴れてれば富士山なんかも見えることがあるんだぜ」


「そういえばコーノスケもそんなこと言ってたわ。

 ダンジョンマスターになって最初の頃は、アルスが心配で転移を多用して時間を節約してたけど、南大陸ダンジョンが軌道に乗り始めてからは、冬はよくこの山を歩いてたし。


 南大陸は険しい山岳地帯以外ではほとんど雪は降らないから、こうした里の冬山ハイキングは楽しかったんですって」


「はは、俺も山はじいちゃんに教わったからな。

 ところでタマちゃんはどうする?

 先に街の家に転移してるかい?」


「わたしも一緒に行くわ」


「寒いよ?」


「『完全状態異常耐性』持ってるから平気だってば」


「便利だねぇ」


「あら、コーノスケも持ってたし、ダンジョンマスターになれば、ダイチもそのうち持てるようになるわよ」


「そうか……」





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