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大百足

「へ、へへへ…やった……」


 DQNが不気味な笑い声を出して立ち上がる。だが、その手が少女に触れる前に彼女の目は見開かれ、口が裂けるように大きく開いた。


『ギアオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 放たれた怒号。俺の後ろに居た三戸部は尻餅を突き、目の前で聞いたDQNはたたらを踏んで仰向けに倒れる。




…………




 静寂が続く。それは10分か15分か……体感的には永遠にも感じられるような時間が過ぎていく中、ゆっくりと少女がその手を動かした。


「…………」


 少女は、自分の手をまじまじと見つめ何度か開閉させ、首を軽く回し、ピョンピョンとその場でジャンプを繰り返す。


「い、ろ、は、に、ほ、へ、と、ち、り、ぬ、る、を」


 よく通る声で、一言一言区切りながら"いろは唄"が木霊する。


 ひとしきり歌い終わると、含みのある暗い笑顔を浮かべた。


「あーあ、やっちゃった。本当都合が良いね、今の人間って」


 "喋った" 安直だが、俺の率直な感想はそれだった。

 それは三戸部も同じらしく俺達は無言で顔を見合わせた。


 一体なんだこれは。あれが箱を開けたら、ムカデが入って、気付いたら女の子になっていた? まるで意味が分からない……。俺は不可解過ぎて頭を抱えた。


「妙なのに投げられた時は終わったって思ったけど、まさかこんな都合良くいくとは驚きだよ。ふはっ、あーはははははははっ!」


 少女は狼狽するDQNを指差し心底愉快といった様子で笑い転げる。更に気を良くしたのか、あらぬことを口走り始めた。


「あのクソトカゲは簡単に堕落して役目をサボるし、僕はこうして苦労なく呪物を取り込めた! こんな奇跡はないよ、ああ、この運命と神様に感謝しないといけないね」


 クソトカゲ? 役目をサボる? 何の話だろうか、分からないがきっと録なことじゃないだろう。


「ああ、君にも感謝しないとだね。君のお友達、"譲ってくれて"ありがとう」


 ……は?


 意味が分からなかった。友達を"譲る"ってなんだ?

 アイツは何をしたんだ? いや、それよりも……


 "残りの男と女子はどこに居る?"


「み、三戸部……」

「し、知らねえ……何も聞いてねえ……!」

「し、知らないって何だよ……何が起きたんだよ……!」


 体を揺すっても三戸部は答えない。だが、その顔色と震え方を見るに相当なことが起きたのは間違いない……。


「お、おい……約束だぞ……。俺に服従するんだろ……」

「う~ん、確かにそういう契約だ。でもまだ足りないなあ? 君は力がないんだから、もっともっと贄を与えてくれないといけないな」


 俺が動けないでいる間に、DQNと少女は会話を進めていた。しかし内容が頭に入ってこない。アイツらは何を言っているんだ。


「だから、あれもやるよ。さっさとしろよ」

「ヘェェ……!?」


 DQNが示したのは鬱田君だ。彼は眼前で立て続けに起きる異常で完全に萎縮し、未だ動けないでいた。


「おー、用意がいいね。ふんふん、むっ! これは正直者の臭いだ、嬉しいな! ねえじゃあもう一度言ってみて? "この子をあげる"って」

「好きにしろよ。さっさとやれ」

「えへへ、本当欲望の塊だね。じゃあ遠慮なく……」


ビキッ ベキッ

ギギギギギギ……


「……ッ!……!」


 それは悪夢のような出来事だった。

 可愛らしい少女の顔が変形し、ムカデの体が首から生えたのだ。


 その大きさたるやプールの時とは段違いだ。蛇腹の間接が増えるごとにその長さは上書きされていき、太さは彼女の肩幅程にまで肥大していく。


 それが動けない鬱田君に歩み寄るのだ。最早人の腕など簡単に千切ってしまいそうな程巨大な牙を剥き出しにして。


「嫌だ! 嫌だ嫌だ……助けて……! 許して……!」

『ああ、ごめんよ。別に怒ってないんだ。ただ譲ってもらった御馳走を食べたいだけなんだ。許せなくてごめんよ……殺しちゃうけど、ごめんよ』

「嫌だ嫌だ……嫌だ……! 嫌だぁ……!」


 暗い教室に鬱田君の悲鳴が虚しく響く。だが同級生が百足の化け物に襲われていると言うのに、アイツも、三戸部も、俺も、動けない。


 あんな化け物に反抗しようなんてまともな人間は考えないし、考えようがない。

 出て行っても死体が増えるだけ……もしかしたらただ取って食われるより恐ろしい未来が待っているかもしれない。


『いただきま~す』

「嫌だ! イヤダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」








「待てよ百足野郎ォォ!!」

『ゴブエッ!?』


 あああああああああああああ俺の馬鹿! 阿保! 間抜け!

 俺は何をトチ狂ったか自分でも分らぬまま飛び出していた。


 ほとんどヤケッパチで大きく開かれた口に瓦礫を押し込み、それを思い切り蹴り押す。


「ば、馬鹿野郎! 草野ォォォォォォォォォ!!」

「……やっちった……」


 無謀という言葉が相応しい奇行に三戸部が絶叫するものの、こうなっては後の祭りだ。

 俺はこの巨大な百足女に一人で対峙しなくてはならなくなってしまった。


『ガッ!ゴボッ!』


 ヤケな一撃でもコンクリは効いたらしい。百足女は口に刺さった瓦礫を取り除くのに苦労しており、多少なりともダメージを与えられていたのは確かだった。


『オ、オェェ! だ、誰かと思えばまた君か……。とんだ個体が混じってたものだね』

「うるせえ、何好き勝手に鬱田君食おうとしてやがんだ。頼むから帰れ」

『好き勝手じゃないもん、ちゃんと契約して譲ってもらったんだ。帰さないし、帰らない』

「もういい! そいつも食え! 譲ってやる!!」


 DQNの言葉に呼応するように百足部分の鎌首が持ち上げられ、押し潰すような動きで迫ってきた。

 堪らず横に逃げる俺の足に突起が引っ掛かり教卓へと吹き飛ばされてしまう。


『落ちぶれたとはいえ、僕はかの大妖怪大百足の末裔! そう簡単に御せると思わないことだね』


 倒れたところに鋭い突きが次々繰り出され床に穴を開けていく。これに当たる訳には行かない。


「この野郎!!」

『痛っ! 痛い! イテテテ!』

「うるさいくたばれ! 頼むから!」


 素早く起き上がり、身近にあるものを片端から投げつける。

 火事場の馬鹿力って奴なのだろうか? 椅子でも机でも思い切り投げられる。


「グゥッ!?」


 流れ弾でDQNが昏倒してしまった。まあいいかコラテラルだ。

 「しまった」とでも言いたげに首を後ろに向ける百足の頭を脇に抱え込み、コンクリートブロックで強か殴りまくる。


 長い体をよじり拘束から抜けるときには、緑色の液体をドクドクと流していた。


『こ、この姿じゃ君相手に不利すぎる! 悪いけど搦め手でいかして貰うよ!』

「うわっ!」


 映画の閃光弾のような光の点滅が視界を塞ぐ。

 目くらましから立ち直った瞬間、人間の姿に戻った百足女に襲い掛かられ組み伏せられてしまった。


「どうだ! 完全じゃないが、これなら一方的に殴られやしないよ!」

「ああそうかい!」


 確かに小さくなった分つけ入る隙がなくなり、凄まじい力から逃れることが出来ない。


 だがその分威圧感も恐怖もなくなった。要は巨大百足の怪物が怪力女になっただけのこと。

 俺はその無防備な横腹に蹴りを叩き込んでやった。


「うぁっ…!? ぐっ……!!」


 首と右腕を掴む力が弱まった隙を逃さず体制を入れ替え遮二無二殴りつける。


 毒液のような紫色の液体を顔目掛けて吐かれたが、紙一重でなんとか避ける。反対にその辺りに落ちていた椅子の脚で頭を殴る。


 と、次第に攻撃も抵抗もほぼ無くなった。毒を吐く気配もない。俺は僅かな罪悪感を押し殺し押さえつけた手を維持する。


「おい……」

「や、やめて……」


 振り上げた拳が、行き場もなくさ迷う。

 怪物は俺を見て震えていた。さも普通の少女のように怯え体を丸めていた。


 これでは殴りようがない。俺は体を離し鬱田君と三戸部の安全を確認してから怪物に向き直った。


「他の奴等はどこへやった?」

「と、取り込んだ……」


 怪物少女はさも当然のことのようにそう話す。「馬鹿にするな」と言う衝動を我慢して深呼吸をする。


「返せ、それで許してやる」

「で、でも今返したら本当にもう力が……」

「力がなんだ。大妖怪?なら自前の力で勝負しろ」

「そんなぁ……」


 強い口調で捲し立てられ、彼女は遂に観念したようだ。

 なにぶん見た目が見た目だから、半泣きされては少し胸にくる。


 だがそれはそれ。取り込んだとかいう人間を返却出来るならして貰おうではないか。


 話からしてコイツにはコイツの事情がありそうだが、元よりその力は他人から奪ったものだ。

 泥棒したものを取り返しても罰は当たるまい。


「分かったよ、返すよ。返すからその後酷いことしないでね」

「誰がするか。お化けムカデとの縁なんて持ちたくないわ」

「うん、それでだけど……もう一度復唱して欲しい」


 どうやらコイツにとってこの「相手に同じ約束を2度言わせる」行為は1種の決まり事みたいなものらしい。破ればどうなるかは知らないが、俺は別にこの百足娘をどうこうしようとかは考えていない。


 だから手短にもう一度「攻撃的なことはしない」と約束してやった。


 俺が約束したのを見て少女は僅かに緊張を解き、そして何か短く呟いた。

 そして、一瞬だけ視界が遮られたと思えば、チャラ男と女子二人が床に転がっていた。 


 俺はすぐ三人に駆け寄り、ちょっと迷ってから首筋に手を押し当てた。


「脈も息もある……良かった」


 全くとんでもない捜索劇だった。胆試しではぐれた仲間を取り戻す為、立ち入り禁止の廃墟をさ迷い封じられし妖怪と戦う……出来の悪い短編小説ぐらい書けそうな内容だ。


 まあその妖怪様も、今やピクリとも動けず倒れ込んでいるんだが。


「おいおい、マジで何も出来なくなるんだな」


 俺がそう言うと百足の……いや、最早立ち上がる力もない少女は悔しそうに睨みつけてきた。


「こんな人間が居るなんて聞いてない。ズルい、何時の時代の人間だよ」

「俺の台詞だ、こんな怪物が居るなんて聞いてなかった」

「ぐぬぬ……無念だ、凄く無念だ」

「そう言うなよ。ほら、これ掛けてろ」


 制服の上を脱ぎ体を隠してやる。顔だけムカデ状態ならともかく、今の状態で裸で居られるのは憚られる。


「……人間が僕に情けを掛けるのか?」

「別に恩を感じろなんて言ってない、目のやり場に困るから隠せって話だよ。正直健全な高校生には刺激が強い」

「分からない、分かりやすく言って」

「つまり……ハレンチ……いや違うな、ふしだらって意味だ」


 彼女が合点がいったようで、掛けた制服を抱き締めると髪の毛を2本触覚のように分離させ世話しなく動かした。


「……良い匂いがする」

「……それは"旨そう"って意味か?」

「深い意味を交えて言うなら、まあ」


 含みのある言い方で彼女は軽くはにかんだ。

 そして少し考える素振りを見せてから、不意に水を得たように飛び起きた。


「そうだ! それなら君が僕を服従させてよ」


 でもって、訳の分からない世迷い言を口にし出した。


「何が"それなら"なのかは分からねえけど、受け入れるとでも?」


 詰め寄る少女の顔から目を逸らすようにして拒否のジェスチャーをする。しかしその手を掴まれ更に近寄られた。吐息がヤバイ。


「大丈夫、不都合ないようにするから。それに何か盗ったりもしない、ただ僕の力が戻るまで守ってもらって、僕の存在を行程してくれればそれでいいの」


 今まで人を食い殺そうとしていた奴が何を言い出すかと思えば。全く笑えない、絶対録でもないことを企んでいる。


「……力が戻ったら何をする気だよ」

「生意気なトカゲをけちょんけちょんにボコる! ついでにトカゲ共から統治権を簒奪して天下取る!」

「却下」


 なんと野望溢れる妖怪であろうか。トカゲが何を意味するかは分からないが、きっと大それたことをしようとしているのは確かだろう。今時の学生も見習って欲しいくらいの野心家だ。


 しかし十中八九面倒なことなのは想像に難くない。百足の次はトカゲの化け物とまで戦うのは勘弁願いたい。


「ねえお願い! 君くらい強い生者が味方してくれたら今度こそ勝てるの。いやもう最悪守ってくれるだけでいいから。守ってくれよぉ何でも言うこと聞くよ? 汚れ仕事から濡れ仕事までなんでもするよ? ねえお願い!」

「う~ん……」


 そう言われても決断しかねるのが正直なところだ。


 未知との遭遇したばかりの存在に「守ってくれ」とか言われても困る。誰が食費とか生活費を賄うと思ってんだ、この場合俺の母ちゃん父ちゃんだぞ。


 それに家の婆さんは無駄に信心深い。悪の枢軸みたいな人喰いお化けなんか連れていったら絶対怒られる、間違いない。


「……因みに、断ったら?」

「次の新月にはサボりトカゲが巡回してきて挽き肉からの修羅道墜ちじゃないかな。まあその前にここいらの餓鬼の"食べれる玩具"になるだろうけど」

「……挽き肉ってお前な……」


 つまり、断ったら間接的に見殺しになるってことか。合理的に考えれば厄介ごとを背負いこまず証拠も消え去るっていう風にも受け止められるけど、それを実行に移してしまったらこっちが悪人だ。


「……」


 とはいえこれは犬猫を保護するのとは訳が違う。妖怪の里親なんて捜せないし、中途半端に元気にして適当な神社とかに捨てたらこれの場合何しでかすか分からない。


 生半可な気持ちでは判断を下してはいけない案件なのだ。それこそ時間を掛けて最善の妥協点を見つけないといけない。


「く、草野! ううう後ろ!」


 顎に手をかけ悩んでいると三戸部が叫び、徐に振り向く。


 そこには爛れた皮膚に裂けた口を持つ醜い小人が居るではないか。俺はその醜さと異常さに顔を引き吊らせ固まってしまった。


「それが餓鬼だよ。捨てられた場所には必ず現れる、永遠に満ちることのない飢餓道に堕ちた思念の塊……強きに媚び弱きを嬲る素敵な連中だ」

「それって、まさか……」

「そう、狙いは僕だ。もう他の連中にも知られたろう、今夜は……ッ!!」


 少女が言い終わる前に、小人が少女の太腿に噛み付いた。少女の表情が苦悶に染まる。


「止めろ!!」

『グブブッ!』


 一瞬頭が沸騰して思わずそれを掴む。小人は短くくぐもった声と共に黒い靄となって霧散してしまった。


 それから数秒置いて、周囲がガヤガヤと騒がしくなってきた。俺と数人を置いて誰も居ないはずなのに、休み時間の教室のように何人もの気配がする。


「……あー、恩知らずな連中だ。結局先輩方達は、未来の大義より目先の雌肉ってことか」

「………」


 おどろおどろしい笑い声が教室を満たす中、俺は小刻みに震える腕を抑えながら考える。

 

「あっ、あっ……草野……」

「ああ、分かってる」


 いや、嘘だ。本音は何も分かってない。どうすればいいか、何が最善か、考えるほどに迷いが増えていく。


 分かっているのは、ここを今すぐ離れなかった奴は、大なり小なり酷い目に遭うってことと、見捨てれば生きたまま体を食い散らされる奴が居るってことだけだ。


「……はっ! 馬鹿か俺は」


 まだ嘘をついていた。迷うことなんてなかった。俺の心はもう、答えを出していた。


「うわっ!? な、何するの!?」

「うるさい黙れ、助けてやるって言うんだよ感謝しろ!」


 そう、全員連れて脱出すればいいだけのこと。

 俺は少女と気絶した鬱田君を担ぎ上げて、気絶した三人の頬をゲシゲシと蹴りつけた。


「な、何!? あたしは!?」

「え? え? どこここ!? なんで!?」

「まじもう無理…ツイートしよ……」

「お、起きてる! 起きてるから蹴らないで下さい!!」

「よし全員起きたな!! それじゃあ今から肝試し最終フェイズだ!! 旧校舎から脱出せよー!!」


 叩き起こされた三人は口々に呑気なことを言い出したが、後ろから怒鳴りたてて教室から強引に追い出した。

 三人は教室前で待機していた三戸部に誘導される形で廊下を疾走していく。


「よし、俺たちも行くぞ!」

『ハハハハハハハハハハハッハアハッハハハハハハ!!』

「うるさいどけ馬鹿!! 怖いんだよバーカ!!」


 通せんぼする形で立ち塞がる顔が歪んだ男を蹴り飛ばし俺も逃げる。

 虚勢を張る声はもう恐怖と疲労で震えまくっていた。


「お、おい待て! 俺を助けろよ!」


 さあ脱出だと言う時後ろから嫌な声が聞こえた。

 DQNは周りの異常さにすくんで動けないようだ。

 ヤバイな、ナチュラルに存在を忘れていた。



「悪いけど君との契約は無効だよ。君は彼から僕を守ってはくれなかった。自力でどうにかしてくれ」

「ふ、ふざけんな! そうだ、おい草野! トイレでのことは許してやる! 俺を助けろ!」

「君、あれは流石にどうでもいいだろ。早く決断してくれ」


 DQNは尊大な態度ながらも必死に俺に訴えてくる。

 反対に少女は早く逃げるよう促してくる。

 そして俺は可能な限り人死には避けたいと思っている。


 だが今の俺は片腕に鬱田君、もう片腕に怪物少女を抱えている。追加で筋肉質の男を抱える力はない。

 気乗りはしない。だが不可能なことは不可能だ。不愉快だが彼女の言う通りここは非情の決断もやむを得ない場面と言えるだろう。


可哀想だが、俺には救えない。

 


「俺が逃げ道を確保してやる! 後ろから続け! 走るんだ!」

「ま、待て! 待てよチクショォォォォ!!」


 俺に出来ることは精々、廊下に沸き出た化物どもをなるべく多く蹴散らしてやることだけだ。


 走る、とにかく走る。足元に纏わりついてくる小人を蹴り飛ばしながら。




「ああああああああああ抜けたぞゴラアアアアアアアアアア!!」


 幾度かの妨害を突破して、俺はようやく旧校舎からの脱出に成功した。

 外には健気にも三戸部が「逃げ出したいオーラ」を全開にしながら一人待ってくれていた。


「草野、山口は!?」

「あ、アイツは……来れなかったか」


 俺の後ろには誰も居なかった。

 腹の底から後悔が沸き上がる。


 しかし今は悠長に後悔している暇はない。二階から黒い胴長の影がヤモリのように壁に貼りつきながら降りてきていた。


「草野、大変そうだけど走れるか!?」

「おうとも走るんだよ!」


 こうして俺達は旧校舎から逃げおおせたのである。

 気絶した鬱田君は三戸部の案内で彼の実家に運んでおいたが不審に思われることはなく、逆に「息子を助けてくれてありがとう」と感謝された。彼は俗に言ういじめられっ子だったらしい。


 で、俺は家に帰るなり婆さんに塩をぶちまけられた。

 言い訳をする暇もなく風呂に入らさせ、そんで怒られた。


 婆さん曰く「不浄な気を家に持ってくるな」ということらしい。まああれだけ変なモノを見てたら何かしら憑いててもおかしくなかったし、素直に平謝りしておいた。


 肝心の少女はというと、そんな俺を見てニヤニヤと笑っていた。塩まかれて思いっきり弾かれたクセに面の皮が厚い奴である。


 でもまあ、五体満足で帰ってくることが出来てよかった。

 今はただそう思い感謝することにした。

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