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暗い廊下

「おーい、皆どこ行ったー?」


 お騒がせな巨大ムカデを放してやった俺は、逃げた奴等を追って旧校舎に入っていた。


「!」


 旧校舎に入り込むには正面玄関の外れたガラス扉から入りガードテープを潜らなければならないのだが、そのガードテープが見事に破られている。


 更に奥に進めば、階段にも同様に破かれたガードテープがぶら下がっているのだが、よくもまあここまでやるものである。


「どんだけ怖がってたんだよ……」


 我が同学年ながら中々に肝の小さい連中である。その中に三戸部も入るんだから複雑だ。俺は無意識に頭を掻いてしまった。


 とにかく、連れ戻すには2階に上がらないと行けないみたいだな……。


 暗いし埃っぽいし正直行きたくないが、我慢して階段を登っていく。良い具合に腐敗した建物内を棲みかにしていた蛾やムカデが侵入者に驚いてワサワサと逃げていった。


「気持ち悪い……」


 一応はっきりさせておくが、俺は別に虫好きじゃない。さっきぐらい現実離れした奴が単体で出るだけならまだ不快に感じないが、こんな場所で何匹もワサワサ暴れられたらそりゃ気持ち悪い。


 あー、クソ。たかが虫1匹に全員パニック起こしやがって……。いや逃げろって言ったのは俺だがそれはそれ。

 ムカつくから帰ったら三戸部に静岡産のお高いラムネ買わせてやる。二人分買わせてワサビ味みたいなのだけ飲ましてやる。


「ん……?」

「く、草野!?」

「草っち!?」


 埃が僅かに舞っているのを目印にしていくと、チャラ男その1と付けま女子が抱き合って震えているのを発見した。


「ば、化け物は!?」

「……なんとか倒した。消えてなくなったから安心しろ」


 嘘を交えてそう伝えてやると二人とも見るからに安心した顔つきになった。

 まあ嘘も方便って奴で、女子はともかく男に女子の前で恥をかかせる訳にはいかないから、ちょっと話を盛らしてもらう。


「他の奴等は知らないか?」

「ぜ、全員は分かんねえけど、山っちが上の階に……」

「よし分かった、後は任せろ」


 俺は他の奴等の確認を優先しコイツらには帰ってもらうことにした。見るからに混乱してるし、居ても煩いだけだからな。


 さて、「山っち」ってことは上に居るのはあのDQN野郎か。

 ぶっちゃけムカツク奴だが意外とビビリンだからな、妙な真似をやらかす前にお帰り願おう。


 と、言うことで三階へと足を踏み入れた俺だが、1歩踏み込んだ瞬間言い様のない恐怖感が込み上げてきた。

 それは寒気を伴う視線を四方から浴びせられているような感覚で、理由は分からないがとにかく嫌な感覚だった。


「チッ、なんなんだよ……」


 口で悪態を吐いて見せるが、半分は虚勢だった。得たいの知れないものが闇の中に潜んでいるような錯覚に襲われ、不定形な恐怖と疑心とが辺りを支配していた。


 巨大ムカデの時然り、この辺りはよく分からないことばかりだ。だがここで曲がれ右してトンズラこくのも馬鹿らしい……俺は自らの頬を叩いて勇気を奮い起こすと、闇に包まれた廊下を進み始めた。


 どうにも気持ち悪いのは、虫や鼠の気配もそうだが辺りがあまりに暗すぎることだ。

 よく見ればガラスに何か黒い煤のようなものがこびりついており、それが暗幕のような役割を果たしているようだ。


 いや、それだけじゃない。忘れていたが今日は新月だ。月の明かりを受けられない今日という日はあまりに都合が悪すぎた。


 そも何故アイツらはよりにもよってここに逃げ込んだのか。幽霊にビビって逃げ込むには、曰く付きの廃墟はあまりにも不自然だ。

 そう、まるで"誘い込まれた"ように……。


「ウワアアアアアアアアアアアアア!!」


 突如悲鳴が建物内に響き渡る。この情けない声は間違いない、鬱田君の声だ。

 そして先からはガヤガヤと何か複数の声らしきものが溢れだし、普通に考えても尋常じゃないことが起きているのは明らかだった。


「クソッ!」


 スマホの光を頼りに遮二無二走る。倒れたイスや扉に何度かぶつかるのを無視しひたすらに。


 だが、その時俺の手を掴み捕らえる者が表れた。断続的に聞こえる声は目の前だと言うのに、それは俺を手前の教室に引き摺り込んだ。


「は、離せ……!」

「馬鹿喋るな…黙れ…!」

「!?」


 はっとして声の主を確認すると、それは三戸部だった。


「なんだお前か。脅かしやがって……」

「だから喋るな……! 頼むから喋るな……」


 三戸部は顔を真っ青にしながら、俺に黙るよう懇願した。

 流石にただ事ではないと感じた俺は出来るだけ小さな声で尋ねる。


「何が起きたんだ……?」

「化物が出たんだ……!」

「化け物……?」


 三戸部は疑惑の目を向ける俺に付いてくるようジェスチャーしながら忍び足で1つ奥の教室へと向かう。

 そして、三分の一程開いた扉から中を見るよう促してくる。


「……!!?」


 教室の中は、正に「異常」な光景が広がっていた。


 天井から床までを覆う虫の大群に、その真ん中で腰を抜かしガクガクと震える鬱田君。そして、その奥で一心不乱に何かの"箱"を開けようとしているDQNが居た。


 だが、異常なのはその箱の後ろだ。

 人の形に集まった虫の塊がぼうっと立ち、DQNに何か囁いている。


『サアオ開ケ。サアオ開ケ。君ノ意思デ、君ノ手デ、サアオ開ケ』


「俺の意思で……俺の手で……」


 高い、少女のようなハスキーボイスが不気味に空気を揺らしている。DQNはそれに従うように血にまみれた手で箱を開け放った。


「うっ……」

「ぎっ……!!」


 不意に俺の背中を無数の足が通り、ボトリと目の前に落ちてきた。それは先程見たあの巨大ムカデだった。


 ムカデはサァーと開け放たれた箱に向かうと、その中へと身を押し込める。更に続いて教室内の虫達が一斉にそれに群がった。


 その時だ、科学の実験で見たプラズマのような光が何度も点滅し、視界が塞がれた。


『ウギャアアアアアアアアア!!』


 先程のとは声色の違う、男性的な悲鳴が聞こえる。だが光でその様子を垣間見ることは叶わない。


 あまりに激しい点滅に三戸部は呻きを上げている。

 次に目を開けた時、俺は目の前の光景に目を疑った。


「………」


 そこに居たのは、一人の少女だった。


 鴉の濡れ羽根のような黒髪に、雪のような裸。

 まるで芸術か造形品のような小柄で美しい少女が、裸体のままでただ佇んでいた。


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