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学校の怪談

 パリピの一人が4時44分の校長室に凸して生徒指導を受けたりしたが、やってきました夜中の学校へ。

 時間にして深夜1時。親への言い訳だが、普通に「ちょっち肝試し行ってくる」で通る年頃である。


 何せこの辺りはそれっぽいスポットだらけだからな。まさかこの歳で夜の学校に忍び込むなんて考えちゃいなかったろう。


 で、肝心のメンツだが……。


「おー! なかなか雰囲気出てんじゃん! ヤッベパネェ!」

「ぅわマジヤバィんですけどwwwツイートしよwww」

「幽霊! 出ーて来やがれー!」

「アツシ、ステキ……」


 何この個性の化身みたいなドギツい面々は。

 簡易的に現してチャラ男の代名詞みたいのが二人にDQNの失敗作みたいのが一人、ついでにその後ろで俯いてる幸薄そうな男子が一人か。


 いやそれはまだ良い。所詮は男、ピンでもキリでも構わない。

 問題は女子だ。なんで3人居て3人とも盛り髪付けまパンモロスタイルなんだ?


「……おい、話が違うぞ」

「いや、山っちが言ってたもう二人に断られたみたいでな……すまん」


 怒りを込めて三戸部の脇を小突くと、目を逸らしながらそんなことをのたまった。

 まあ今更帰るってのも感じが悪いし言わないけど。


「あれあれ~、草っちビビってるんじゃね?」

「マジ!? ガクブルじゃんキャハハ!」

「ビビってねえわイチャモンつけんなバッキャロウ!」


 誓って言うが俺はビビってないしガクブルもしていない。完全に絡みネタをかましてきやがった。


「でも~、あたし草っち好みかも~」

「は? ユリ冗談キツいってw」

「だってほら~? 逞しいし可愛いしぃ? マジちょっち抱かれたいかも」

「「わかりみ~」」


 彼女居ない歴=年齢の俺にとって、それは初めて女子に好意的な反応をされた瞬間であった。


 しかし何故だろう? 全く嬉しくない。なんとなく女子が男子に注目されて身震いする気持ちが理解できる。


「そ、そうだ鬱田! お前ちょっと切り込み隊長やれよ!」

「え~うつっちマジ勇敢~」


 俺に話題を振るのは面白くないと悟ったチャラ男二人は幸薄そうな鬱田君とやらを弄りだす。

 女子はドギツいし男子はこれだし、最悪だ。俺は肝試し開始前から既にグロッキー状態に突入していた。


「うっ…!…うあ…!」

「ギャハハハハ! 鬱君内股じゃんwww」


 ノリと勢いに強制される形で前から鬱田君→数歩離れてチャラ男&はっちゃけDQN→女子三人→俺と三戸部のペアで学校を進むことになった。


 夜の学校は本当に暗く、スマホの明かりがないと本当に何も見えない。幽霊どうこうより、この暗さで普通に怪我してしまいそうなくらいだ。

 いや、最後尾の俺はまだ楽だ。一人先頭を行かなければならない鬱田君は本当によく頑張ってくれていると思う。何かあったら責任もって帰してやらないといけないな。


「三戸部っち! 最初はどこだっけ?」

「三階の音楽室からだな。そこから順々に回っていこうじゃない」

「ヒュー! 燃えてきたー!」


 そう言いつつ若干上ずった声を出しているところからしてアイツちょっとビビリ入ってるな。

 後ろから見てる分には面白いから言わないでおこう。


「つ、着きました……」

「おっつー切り込み隊長!」


 チャラ男の空元気と女子の猫撫で声を眺めていると、最初のポイントにたどり着いた。

 深夜にピアノが鳴り出すという音楽室である。まあ鳴ってないんだがね。


「よし、じゃあ鬱っち頼んだ」

「ええ!?」

「男気見せろや鬱田ぁ?」

「ええ……」


 なんて半端な野郎どもであろうか、まさかの鬱田君頼みである。

 音楽室なんていつも使っている所だし、音も聞こえないなら怖がる要素もないだろうに。これだからチャラ男なんて呼ばれるんだよ。


「ほら怖くないでちゅよ~? あれあれ~怖気づいちゃったかな~?」

「ぅぅ…」

「……」


 しかし世の中怖がりな奴なんてどこにでも居るものだ。それをわざわざ怖がってない奴の身代わりにする必要なんてないし、正直ウザさが上回ってこれっぽちも楽しくない。


「失礼申す!」

「っておいー!? 我慢できずに草野が先行したー!」


 てな訳でチャラ男を押しのけて俺が入ることにした。勿論茶目っ気は忘れずネタ的にな。

 この場合流れとか滑るとか気にしたほうが負けなのである。ネタ的であれば許されるのだ。


 空気を読んでツッコんでくれた三戸部に感謝だ。明日格安ラムネを奢ってやろう。


「はいドーン!」

「うっわ草っち大胆~www」


 だめ押しにピアノの椅子に腰掛けて見せればもう流れはこっちのもの。チャラ男二人も文句を出せず「パネェパネェ」と騒ぐしかない。


 そして次は三階トイレの花子さんだ。しかしこれも大したことは起きなかったので、DQNが格好付けにトイレに入った瞬間床を踏み鳴らしてやった。


 「ウヒアアア!?」とか叫んで出てきた顔があまりに面白くてつい吹き出してしまった。


「チクショウテメエマジぶっ殺す!!」

「ウヒャヒャヒャヒャ! 憑依だよ憑依! はーなーくゎぁー!」


 幾ら髪型キメてピアス空けたって、トイレでビビって涙目になってちゃ迫力も欠けるってもんよ。

 顔を殴ってくるのも可愛いものだ、さては腰が抜けて力が入ってないな?


「よ、よ~し! じゃあ次行ってみよ~!」

「「「おー!」」」


DQNの意外な1面を知れたところで、俺達は残りのポイントを回っていった。

 しかし、やはりと言うか変わったことは起きず、最後の廊下辺りではもう誰も怖がってないという平和加減だった。


「あー、つまんねえな。何も起きねえじゃんよ」

「マジ余裕ってか? 肩使いって感じ?」

「山っちそれ肩透かしだから」


 トイレの一件以降不機嫌だったDQNも今じゃこの余裕顔だ。

 そうだそうだ、飽きてきたところでもう帰ろう。何事も長引くと萎えてくるからな。


「よぅし、じゃあメインディッシュの旧校舎だぜ!」


 しかしそう都合よく帰らしてはくれなさそうだ。別にもういいだろと思うが彼らは何故かやる気満々だ。

 何が彼らを駆り立てるのか? 俺の疑問を予想していたように三戸部が話してくれた。


「ほら、最近の噂があったろ? 紅達が旧校舎の幽霊に会ったって奴」

「ああ…そう言えばそんなのあったな」


 言われてみれば確かについ最近その話で盛り上がったばかりだった。

 なんでも女子が一人行方不明になって、それを紅が助けた話だな。


 それで、退院してきた女子が「大きな蛇を見た」とか「凄く綺麗な女の子が居た」とか言い出して一気に噂が広まったんだよな。


 で、真に受けた男子がコンドーム片手に忍び込んだら口が利けなくなって帰ってきたとかなんとか……詳しいことは忘れたが。


「はあ、マジかよ」


 幽霊云々以前にやばそうな臭いがプンプンしてくるようだ。しかし皆ウキウキしてんだもんな、行かないわけにはいかないか。

 俺はスマホの電池残量を確認してから連中の後を付いていった。今までの人生で感じたことのない不気味な寒気を感じながら……。



「何か見える~?」

「駄目だ、何も見えねえ」


 旧校舎の目の前にはプールがあり、掃除したばかりの水が風で波打っていた。

 ここでの目撃談は……確か……。


「下半身だっけ?」

「海坊主だよ! 土日に警備員のおっちゃんが水面を進む黒と赤の何かを見た話だ」


 ああそれだ間違いない。でもここも異常はなさそうだな。消毒液臭いのを除けば居心地が良いくらいだ。


「……!?」

「え、どうしたいきなり?」

「い、いや……」


 その時、俺は凄まじい悪寒が背中を駆け抜けるのを感じた。

 理由なんて分からないし知りたくもないが、とにかく俺はここから一刻も早く逃げ出したい衝動に駆られた。


「お、おいもう帰ろうぜ」

「どこのブルーベリーだよ。今度はロッカーにでも入る気か」

「次ふざけたらマジ殺すからな……」


 駄目だ、なんか俺の知らないネタと勘違いされて本気にされない。だがその時だ、俺は水面から僅かに競り上がる黒い蛇のような影を確かに見た。


「うわっ!? 何あれ!?」

「え嘘!? は!?」

「なんか近付いてきてねえか!?」


 それは俺だけにしか見えない現象ではなく、他の全員にも見えているらしい。

 途端に騒がしく女子が悲鳴を上げるが、何故か皆その場から動こうとしない。いや違う、動きたくても動けなかったのだ。


……ズル……ズル……


 長い体をうねらせて水を掻き分けるそれは、奇妙な音を僅かに出しながら迫ってくる。

 そして誰も動けない。プールと此方側にはフェンスがあるが、きっとそれも役に立たないだろう。それは蛇のように細く長い体でフェンスを潜り此方側に近付いてきた。


「ギエエエエエ!!」


 女子の一人がそれの正体を理解してしまい、奇声を上げて旧校舎の方へ逃げ出した。

 それも仕方ない、フェンスから出てきたのは、長さ1メートル半は下らない巨大ムカデだったのだから。


「ヒッ……!」


 誰かが小さく悲鳴を上げたのが分かった。だが悲鳴を上げたいのは俺だってそうだ。何せ今目の前でそれと向かい合っているのは俺なんだから。


「う、うお……」


 否、ちょっと声を出してしまった。

 平たい頭を囲うように配置された牙がギチギチと咬み合わさり、品定めをするように俺を観測している。


「き、キモ……」

「!」


 ふと、チャラ男がそんなことを言った瞬間、ムカデの注意がチャラ男に移った。「しまった」という顔をするチャラ男に、ムカデの牙が開かれる。


 「このままでは殺される!」俺は反射的に叫んだ。


「逃げろォ!」


 その瞬間、止まった時が動き出したように全員が散り散りに逃げ出した。

 そして変わりに牙を向けられた俺は堪らずムカデの頭を掴みその場に叩き落とした。


「ギャッ!!」


 トドメに石で潰してやろうとしたが、どこからかくぐもった呻きが聞こえ、思わず動きを止めてしまう。


 だが、別にムカデからの反撃はなかった。落とされたムカデはただ丸くなり植え込みの下を掘ろうとするばかりだ。


「……アホか……」 


 ようやく冷静さが戻ってきた。考えてみれば大したことじゃなかったんだ。ただちょっとでかすぎるムカデが出たってだけで驚きすぎだ。


 一体俺はどうしてこれをそんなに怖がっていたのだろう?


 虫がどれだけでかくなれるかは分からないが、きっと何かしらの突然変異でこうなった訳で、別にヤバイ心霊現象が起きたわけじゃなし。


 寧ろ悪いことをした気分だ、ここまででかいと犬猫を虐待したみたいに感じて罪悪感が出てくる。


「悪かったよ、じゃあな」


 縮こまるムカデに土を軽く被せてやり、俺はその場を後にする。馬鹿みたいな理由で逃げた奴等を連れ戻してやらないといけないからな。


「…………」


 だが、見逃してやった筈のムカデがジリジリと尾行してくるのに俺は全く気が付かなかった。

 それがどんな暗い意思の基に行われる行為かなど、それこそ知るよしもなかったのである。

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