七割被る学校の七不思議
「あ~、酷い目に遭ったぜ全くよ~」
「お疲れさん」
生まれ持っての強面(ガワだけ)を駆使して難事を切り抜けた俺は、もろに被害を被ったらしい友人に労いの言葉を掛けた。
やんちゃな先輩方は紅君と元ヤンの女子によって無事撃退されたらしい。さっき女子がキャアキャア噂をしていた。
「お前、見捨てやがったな?」
「ハッハッハ、何のことやら」
「チクショー一発殴らせろ! 一人だけ悠々と通過していきやがって!」
あの時チラリと目が合いながらガン無視したのがよほどウザかったらしい。我が友人は軽くなった財布を突き出しながら俺の肩を叩いてくる。
「デメリットを有効活用しただけよ。悔しかったらお前も俺のような面になれ! 俺の名前を言ってみろォ!」
「貴様には地獄すら生ぬるい…! アタタタタタタタタタァ!!」
「ホアタァ!!」
俺の十八番のジャ○ネタに絡めて百○拳を撃ってきたから〆に肩パン返しをしてやった。友人はその場で一回転し崩れ落ちる。
「グフッ」とか聞こえた気がしたが気にしない。きっと彼はまた立ち上がるから。
因みにこいつの名前は三戸部隼人。キザっぽい髪形してるがただのオタクでついでに学校のミーハー男だ。間違っても一子相伝暗殺拳法の伝承者ではない。そしてモテない。
「なんか馬鹿にされた気がしたが気のせいか?」
「ああそうだモテないの」
「うっせ同類! あ、救世主のご登場だぜ」
「あん?」
三戸部が指差す方を見ればすぐに納得いった。
少し長めの黒髪を伸ばしている無害そうな男、今日のMVP紅だった。
「格好良かったわよ空牙!」
「流石あたしが惚れた男だな」
「大したことはしていない」
左にクラスのマドンナ橘さんに、右に美しすぎるヤンキーこと矢倉さん。両手に花とはかくあるべきか。
迷惑そうな顔をしているがきっと内心喜んでいるに違いない、二の腕を女子の胸に埋められて喜ばない男子なんか居るもんか。
逆に考えればそこにモテ男への鍵があるのだろう。
秘訣を吸収すれば俺にも青春が訪れるのではあるまいか。
「いやお前が見たって参考にならないだろ」
「西斗邪狼撃!」
「アデュバッ!?」
やれやれ困った奴だ。俺だってガチればあれくらい出来る。
それがいつかは考えてないだけだ。そうだそうに決まってる。
「そんな草野君に相談だけど、男を上げる気はないかね?」
「は? 何それ」
手刀的な一撃を腹に食らった三戸部はプルプルと震えながらそんなことを聞いてきた。
何をさせるつもりか分からないが、大体コイツがこういうことを言い出すときは決まって金か情報が掛かった場合しかない。
まあ三戸部のポリシー的にどっちかが不利益しか起こり得ない提案はしないから安易に断るのも難しいし、話だけなら聞いてやるか。
「何する気だ?」
「お、乗ってきたな? 学校の七不思議って知ってるよな?」
「七不思議? そりゃまあ知ってはいるけど」
三戸部が言い出したのはなんてことはない、件の怪談話についてだった。
確か内容は……。
壱.音楽室から聞こえてくるオルガンの音
弐.理科室の動く骨格模型
参.三階トイレ三番目個室の花子さん
肆.四時四十四分の笑う歴代校長の写真
伍.廊下を徘徊する下半身
陸.新月のプールで泳ぐ海坊主
漆.旧校舎の悪霊
「だぜ!」
「ああ、メモ帳ありがとさん」
そうそう、確かこんな感じだった。どこの学校でもよくある類の安い奴だ。言ってしまえば一番から四番までは小学校んときの怪談と丸被りしている。
「それで、これがどうしたんだ? 肝試しでもしようっての?」
「オフコース!! 不安だから着いてきてくれ」
三戸部は清々しいサムズアップをして見せた。成る程成る程、トイレ行ってこよ。
「まあ待て待て待て。何もむさ苦しい男子だけでやろうってんじゃない、今回は女子付きのパーリィだぜ」
「よし分かった予定を空けよう。何時どこ集合だ早くしなさい」
「そう言ってくれると思ったぜ相棒」
こんなの了承するしかないだろそうだろう。女子と肝試しとか……青春かよこのヤロー。
「……確認するが、紅連中じゃないだろうな?」
「まさか。ちゃんとそれ以外の奴らのお呼ばれだよ。まあパリピ連中なんだが、数合わせにパッとしない男子が後1人欲しいって話があったのは事実だ」
なるへそ、要はそのパリピ連中の当て馬探しに便乗しようって腹か。
まあ自慢じゃないが俺霊感ゼロに加え心霊系ほぼ大丈夫な奴だからな。呼んだカモが思うようにビビらないで格好つけられない男子の顔が今から楽しみだ。
これからを考えてストックは小出しにするべきか……わかんないや!
とりあえず間を取って次話は明日投稿してみます。