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捜せば「まあ居る」程度の凡人

 【*注意 冒頭数行は主人公視点ではありません】

 俺の名前は(くれない)空牙(くうが)。どこにでも居る平凡な高校生だ。運動も普通勉強はギリギリ並以下で、彼女居ない歴=年齢というなんとも悲しい人生である。


クソッ、リア充爆発しろ!


「空牙! 何ボーッとしてんのよ? 学校遅れちゃうわよ!」

「ああ、悪い悪い。ん? なんか寒気が……」

「どういう意味よ!」

「痛!?」


 やれやれ、今日も遭遇してしまったか。今俺の頭を殴ってきたのは幼馴染みの橘優香(たちばなゆうか)だ。


 栗色の髪をツインにしている顔だけは美少女なのだが、如何せん乱暴なのがいかんな。


「あ、あたしだって色々考えてるんだからね! 一応、あんたのことは好きダシ……(ゴニョゴニョ)」

「ヘップショイッ!……え、何だ?」

「!!……もう知らない!」


 む、何かヘソを曲げてしまったようだ。彼女の機嫌は複雑怪奇だ、全く読めないな。


「……まあ、気楽に行くか」


 過ぎたことを考えていても仕方がない。俺は慌てず歩を進めていった……。





 ……と、そんな光景を通学中見掛けた俺は草野優一郎(まつのゆういちろう)。私立星雲学園に通う男子高校生だ。


 アイツが小声で漏らしていたように俺も平凡な……いや、自分を卑下するのは良くないって昨日小学生が話していた。


 彼らの意思を継いで言うなら、俺は良くも悪くも肉体派な奴だ。身長170後半の体躯と趣味で鍛えてる肉体で無理を通すのが得意なちょっと個性的な奴だ。

 と言っても驚くほどじゃあない。探せば普通に居るレベルの男だ。


 チャーミングな四白眼は近くの女子を身震いさせ、遠くの女子に噂をさせるナイスガイ。付いたあだ名は「ガン付けヤクザ」

 女子連中のトキメキが背中に刺さるようだ……。ふ、全く悔しくない。


 さて、そんな俺だが、今しがた顔を真っ赤にして走っていった女子や道の真ん中で立ち尽くして首を捻っていた男子のクラスメイトだったりする。


 彼は本当に……なんて表現したらいいか……おかしな奴だ。

 入学式から僅か半月で転校してきたかと思いきや、偶然クラスメイトの一人が昔生き別れた幼馴染みだったり、一事校内最大勢力を誇っていた不良グループのトップのヤンキーに惚れられたりとまるで安いラブコメのような急展開を巻き起こしたなんか凄い奴……それが俺の感想だ。


 最近だと旧校舎の怪奇現象にも首を突っ込んでいるらしい。なんて楽しそうな野郎だろうか。


 「まあ、所詮は他人の色眼鏡か……ん?」


 街の名物「地味に登りがキツい桜並木」を抜け学園の校門にたどり着いた俺は珍しい光景を目の当たりにした。


「おら並べテメェラァ! 通行料だバッグ見せろやワレェ!」

「あ、あのその風紀が……」

「おー? 流石風紀委員の里山さん! 進んで公共福祉に貢献しに来たぞ!」

「え、待って違……すみませんすみません!」


 そこで行われていたのは3年不良鬼瓦先輩主催のかつあげパーリィーだった。


 この高校、別に底辺校とかではないんだが、如何せん立地悪くて地域的にも少子化だから今年の倍率はかなり低くなっちまったからな。妙なのに対する教師の免疫の無さも相まってなかなかカオスな環境が出来上がりつつある。


 何せ俺みたいな「因数分解? ふあ?」な雑魚でも受かるレベルまで落ち込んでたからな。そりゃ変なのが混じっていてもおかしくない。


「うう……かつあげなんて止めたんじゃなかったのかよ……」

「内田先生と豊田先生、出張みたいよ……」

「それか……」


 珍しいと思ったらそういうことか。普段嫌われてる先生が学園の微かな治安を繋いでいたんだな。


 よく見れば校門の向こうで先生方がめっちゃ電話してる。多分相手は内田先生だろう。こりゃ早く行かないとまた俺まで不良扱いされそうだ。


 しかしここで活きるのが我が身我が目付き。俺は入るに入れない人だかりを抜けると、角材担いだ鬼瓦先輩の腰巾着、林崎先輩を見た。


「ああ? 次の勇者様はー……く、草野君かぁ……」


 普段は良いとこなしな俺の見た目だが、不良対策にはかなり都合が良かった。生憎と俺は不良じゃないから人を殴ったり出来ないが、そうしなくても効果は抜群だ。


 林崎先輩は狼狽えを誤魔化すように俺の肩を控えめに叩き「仲良し感」を出しながら通してくれた。お陰で後ろから裏切り者を見るような視線が突き刺さる。いっそ格好良く喧嘩して道を切り開けば良かったのか? 仕返し怖いからやらないぞ。


「おー、幾ら集まったよ相棒」

「へへへっ、見て下さい鬼瓦さん!」


 先生が来るまであそこを通れるのは同じ不良だけか。いや、時間ギリギリになれば皆の紅君が来るからそれまでか。


 何はともあれ頑張れ皆。どうせ盗られた金は戻ってくるから名前書いて財布ごと渡しておくのが賢いやり方だぞ。


「ううっ、寒!」


 急な寒風が背筋を撫でる。もう5月だってのに嫌な風だ。

 不吉なことでも起きそうだ……。しかし、そう感じたことがまさか現実になるなんてこの時の俺は知る由もなかったのである。

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