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思いつきで不得意なものに手を出してはいけないと、深く反省しています。

ホントです。 (*_*;



「なっ、なによ! 放して! ラインハルトさまー!」


 すばやく離脱したラインハルトは、助けを求める少女――さっきまで親しげに密着していた女生徒を、冷然と見下ろした。


「罪状は、讒言(ざんげん)による誣告罪(ぶこくざい)および高位貴族への侮辱罪。よって、おまえを拘禁する。おまえの身柄はこのまま近衛騎士団預かりとなり、そこで背後関係を徹底的に洗う。おまえがどの国から送られた諜者か明らかにしてやるから覚悟しろ」


 粛々と告げられる罪状に、女ははげしくあらがう。


「諜者!? ちがう! 私はそんな――」


「侮られたものだな。同じ手が何度も通用すると思われているとは」


 ゾッとするような冷笑に、抵抗していた少女は動きを止めた。


「お嬢さま、こちらに」


 状況についていけず、固まったままのヒルダを、聞きなれたテノールが導く。


「クラウス……これはいったい?」


 ソファの後ろに誘導されながら、ヒルダは傍らの従者を見上げた。


「巻きこんでしまって、申しわけありません。お嬢さまに同席していただければ、相手も簡単にボロを出すのではと思いまして。とにかく、大事になる前に、手っ取り早く、現行犯で捕まえたかったのです」


「現行犯?」


「すまなかった、ヒルデガルド嬢。協力に感謝する」


 ラインハルトも、さきほどとは打って変わった穏やかな表情で頭を下げる。

 こんな殊勝な態度は、婚約して以来初めてのこと。


「協力とは?」

  

「おそらくこの女は、どこかの国から送り込まれた間諜だろう。その証拠に、俺や高位貴族の子弟、果てはクラウスにまでまとわりついて、籠絡しようと試みていた。二十年ほど前のあの事件のように」


「二十年前?」


 そう聞き返すと、にわかに彼の顔が陰った。


「あなたはご両親から聞いていないのか? かつてこの学園の卒業記念パーティで起きた事件を?」

 

 それからラインハルトは、十九年前の顛末を淡々と話した。苦渋に満ちた面もちで。


「その当時は、陛下はじめ誰ひとり、あれが他国の謀略だとは気づかなかった。父たちがやったあの茶番劇は、恋に浮かされた愚かな若者の暴走だと、みな思いこんでいたのだ。しかし、それから六年ほど経って、あの一連の騒動がわが国と隣の帝国との関係を割こうとする、某国の陰謀だったと判明したのだ」


「そんなこと、私は知らない! 縄を解いて!」


 グルグル巻きにされた物体が、床の上から抗議の声を上げる。


「ほぅ。あくまでシラを切る気か?」


 昏い目をしたラインハルトは、少女を鋭く見すえ、


「父たちが隣国皇帝の在位十周年記念式典に来賓として招かれた時、その使節の中に、なぜか俺を産んだ女がまぎれこんでいた。出産後、戒律の厳しい修道院に入れられ、生涯そこから出られないはずの女が、ただの男爵令嬢だった女が、どうしてそんなマネができたのだ?」


「修道院!? ウソ……そんなシナリオは……」


 どこかで聞いたことがある怪しい単語を口にする少女は、本当に困惑しているように見えた。


「その女は、帝都に入るとすぐ姿を消し、次に見つかったのは皇妃のプライベートガーデンだった。皇帝が注進を受けて駆けつけてみると、あの女は庭の花を踏みにじり、枝を折り、周囲をめちゃくちゃにしていたそうだ」


「他国の皇妃の庭を荒らした!?」


 ヒルダは目を見開いた。

 もし親善使節のひとりがそんなことをしたら、敵対行為と見なされて、下手をしたら戦争にまで発展しかねない。

 子どものころから、ずっと王妃のもとに通っていたヒルダにとって、それは信じがたい話だった。


「女はその場で取り押さえられたので、まちがいない、ところで、その現場を押さえられた時、あの女はなんと言ったと思う? おまえにならわかるだろう?」


 芋虫のように転がる少女に、ラインハルトは真夏の太陽でさえ凍りつきそうな眼光を浴びせかけた。


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