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なんとか完結するのじゃ~ ( ;∀;)
「グリュスバイク侯爵令嬢ヒルデガルドさま、お越しにございます」
精緻な彫刻がほどこされた重厚な扉が、黒髪の従者によって開かれると、ヒルダは軽く一礼して室内に歩を進めた。
そこは、落ち着いた色あいの調度が配された上品なサロン――生徒会役員専用の談話室。
彼女を呼び出した男は、部屋の中央に置かれたソファにいた。
隣にひとりの女子生徒をはべらせて。
「忙しいところ、呼び立ててすまない」
ヒルダの婚約者でもあるピンクブロンドの生徒会長は、言葉とは真逆な、まったく悪びれるようすもなく彼女をねぎらった。
「ご用件はなんでしょうか?」
冷淡に切り返すヒルダに、ラインハルトは苦笑を浮かべつつ、
「少々確認したいことがあったのだ。さして時間は取らせないので、とりあえず座ってくれ」と、自分の向かい側のソファを指し示す。
しかたなく着座したヒルダは、眼前に座るふたりを見て、わずかに眉をひそめた。
未婚の、しかもその片方に婚約者がいる異性同士にしては近すぎる距離――しかも、ラインハルトは彼女の腰に腕をまわして密着――は、常識ではありえないものだ。
そういえば、以前、数人の友人が、ラインハルトと一年の女子生徒がたびたび不適切な接触をしていると、教えてくれたことがあった。
おそらく、彼女たちが目撃したのは、まさにこういう光景だったのだろう。
「確認、ですか? では、手短にお願いいたします」
たとえ形ばかりの婚約者とはいえ、このような姿を見せつけられるのは愉快ではない。
この不快な空間に一秒でもいたくないヒルダは、性急に先をうながした。
その硬質な声音に、少女はビクッと体を震わせ、隣の青年にいっそう身をすり寄せる。
あきらかに婚約者である自分に対する無言の挑発だ。
「じつは、こちらの男爵令嬢が、あなたからイジメを受けていると訴えてきたので、その事実確認のためにご足労いただいたのだ」
「はぁ!?」
意外すぎて、侯爵令嬢らしからぬ声が出る。
「だ、だって、いつも睨んでくるし……みんなに命令して、私を仲間はずれにして……ほかにも、足を引っかけたり、ぶつかってきたり、いろいろ意地悪なことをしたじゃないですか!」
「あなたと話すのは、これが初めてですが? なのに、足をかける? ぶつかる? 意地悪? 命令とはいったいなんのことでしょう? そもそもあなたの名前も知りませんが?」
「とぼけないでください! いくら身分が上だからって、やっていいことと悪いことがあります!」
涙目で必死に言いつのるその姿は男子の庇護欲をそそりそうだが、それはあくまで彼女の主張が正しければ、の話だ。
「では、証拠を見せてください。あなたをいじめているという確たる証拠を」
「そ、それは……ヒルダさんはズルいから、人目につかないようにうまくやってるもの……でも、私のお友だちは知ってるわ!」
(ヒルダ、さん?)
さっきラインハルトは、この女子生徒が男爵令嬢だと言っていた。
末端貴族の娘が、臣下中最高位の五大侯爵家令嬢たる自分に対して、許可なく愛称で呼ぶとは!
それも『さま』ではなく、『さん』!?
「友だちとは、あなたがいつも引き連れて歩いているという男子生徒たちのことですか?」
イラつく気持ちを抑えて、できるかぎり平静な態度をつくろう。
「引き連れて? ひどい! いつもそうやって人を貶めて! あの方たちは私を守ってくれているのよ! あなたやその取り巻きたちから!」
「そこまでだ」
冷ややかな制止に、全員の意識が奪われる。
――と、
ラインハルトは席を立ちあがるやいなや、
「捕らえろ」
命令一下、壁際に控えていた数人の男子生徒が一斉に殺到し、少女の華奢な体を縛り上げた。