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第96話:帝国軍の真の目的

 ロキを新たなる仲間にして、マリアたちの待つ馬車と合流する。

 リリィたちにも事情を説明して、次の目的地に向けて移動を再開する。


「さぁ、出発するぞ」


 目的地の盆地までは、急いでも数日かかる。

 オレたち一行は警戒しながら、獣道を進んでいく。


 日が落ちる前に、道中で夜営。

 朝は日が昇る前に出発。

 教皇軍で移動を続けていく。


 そして数日が経つ。

 目的地まであと少しの距離まで近づいてきた。


 ◇


「アニキ。急ぐんなら、こっちの方が近いよ」


「そうか。それなら案内を頼むぞ、ロキ」


 盆地まではロキが案内している。

 隊列は先頭が案内係のロキ。

 後方は細身剣使いのピエールと白魔狼フェン。


 中盤は馬車を担いでいるオレと、愛馬を駆けるエリザベスだ。


「それにしても、数日たっても信じられないな~。あのアニキに、あんな可愛い娘がいたなんて」


 先頭を駆けながら、ロキは独り言を口にしている。

 数日前に初顔合わせをしたマリアのことを、言っているのであろう。


 元々のロキの口調は軽い感じがする。

 だが軽口を叩きながら、周囲の警戒は怠っていない。


 何しろロキは隠密術の達人。

 その技術だけなら、大陸でも三本の指に入る猛者なのだ。


「あっ、でも、そういえば。アニキは昔から女性にモテていたから、実際に娘がいても不思議じゃないかもね」


「えっ⁉ それってどういうこと⁉」


 ロキのひとり言に、エリザベスが反応する。

 彼女が知っているのは、ここ数年のオレだけ。

 出会う前のことが、気になるのであろう。


「あれ、知らなかったの、お姫さん? アニキって昔から最高に強くて、カッコよかったからさ。大陸のどこの国にいっても、美女に囲まれていたんだぜ!」


 一方でロキとは昔からの傭兵仲間。

 オレのことを、誇らしげに口にする。


「び、美女に囲まれていだですって、オードルが⁉」


「ああ、そうだぜ。アニキはいつも美女にモテモテだったね。南国のある王国の窮地を救った時なんて、絶世のセクシー美女の王女様に惚れられちゃって、求婚寸前までいってたんだぜ!」


「絶世のセクシー美女の王女に⁉」


 移動しながら二人は雑談で盛り上がっていく。


 南国の王国の戦か……随分と懐かしい話だな。

 馬車を担ぎながら、オレは聞き流していた。


「他にも品のある北海の王女様にも、惚れられたこともあったかな。まぁ、だからアンタみたいな青臭くて乱暴なお姫さんは、アニキは女性として見向きもしないかもね?」


「ちょっと、ロキ! 少し口が悪過ぎよ! そういえば、最初に会った時から、嫌味臭いのよ、あんたは!」


「そうだったけ? 忘れちゃったかな、オレッチは。あと、オレッチたち団員は、アニキとは家族みたいな絆で結ばれているんだぜ!」


 そういえば、この二人は似たもの同士だ。


 数年前、エリザベスがオレに会いに、当時の傭兵団を遊びにきた時。

 こうして何かと喧嘩口調で、ぶつかっていたのだ。


 少しうるさいが、見てい飽きない二人だった。


「ふん。あんた、聞いて驚かないでよね! 実は今の私は、本当のオードルの家族なのよ。しかも私は一家の長女、つまりアンタよりもオードルと近しい関係なのよ!」

 オ、オードル一家の長女だって⁉ それ、本当なの、アニキ⁉」


「本当だ、ロキ。オレにとって、お前たちは家族のように大切だ」


 話が飛んできたので答えておく。

 オレにとって大事なのは、血縁だけの関係ではない。

 家族とは信じ合えて、助け合える関係のことなのだ。


「オレッチも家族のように大切……ということは、オレッチの方が、お姫さんより上だね! だって、こっちの方が年上だし、アニキとは昔から出会っているし!」


「そ、それは、そうだけど…………あっ、そうよ! ふっふっふ……聞いて驚かないでちょうだい。実は私とオードルは……こ、こ、こ、婚約者なのよ!」


「こ、婚約者……だって⁉ そんな馬鹿な⁉」


「本当よ! ここに来る前、王都の舞踏会で、婚約者としてルイ国王にも紹介しているんだから!」


 エリザベスが口にしているのは、ルーオド・イシュタルと作り話だ。

 嘘ではないが、本当の話ではない。


 ロキに張り合うために、エリザベスは見栄を張っているのであろう。


「くそっ……油断していた」


「へへーん、今回は私の勝ちよね! じゃあね。負け犬君」


 勝利を確信したエリザベスは、ロキから離れていく。


 どうやら騒がしい二人の会話も、今回はここで終わりなのであろう。

 一方で先頭を駆けながら、ロキは悔しそうにしている。


「くそっ……こうなったら、やっぱり王城を攻め落として、王国を滅ぼすしかないのか……そうなったら、あのお姫さんとアニキの婚約は無効になるからな……」


 ロキは真剣な顔で、何やら危険なことを呟いている。

 こいつは純粋なところもあるので、エリザベスの話を間に受けていたのであろう。


「おい、ロキ。一つ聞いていいか?」


 オレは駆けながら声をかける。


「あっ、アニキ⁉ もちろん! お役に立てるのなら、何でも聞いてちょうだい!」


 ロキはいつもの表情に戻る。

 オレの雰囲気を察して、何かを察したのであろう。


「お前が言っていた“あの女”……“魔女”とは何者だ?」


 聞きたかったのは、“魔女”と呼ばれる者のこと。

 ロキに危険な瘴気の力を与え、裏で操っていた存在だ。


「魔女か……ここだけの話、あの女が何者か、このオレッチでも調べられなかったんだ……」


「何だと、お前でもか?」


 これにはオレも驚く。

 何しろロキの隠密衆として情報収集の能力は、異様なくらい高い。


 たとえ厳重な警備の城でも、ロキなら難なく潜入できる。

 これほどの男が調べきれないとは、魔女と一体何者なのだろう。


「あの“魔女”はさ……ちょっと普通じゃないんだよね。気配も何もない場所に、いきなり現れて、いきなり消えるんだ。だから尾行しようにも、調べようがないんだ」


 なるほど、そういうことか。

 数日前のロキの瘴気の使った瞬間移動。

 あれに近い力を……いや、もっと強力な移動の術を、魔女は使うのであろう。


「あと“魔女”は相手の心を操る何かの力があるんだ、アニキ。オレッチがおかしくなったみたいに……」


「原因は、あの黒い瘴気か?」


「あれも、そうだけど、それ以外にも、なんか魔女と話しているだけで、相手に誘導されちゃうんだよね。催眠術よりももっと強力な感じで……」


 話をしているだけで、相手の意思を操る。

 そんな強力な力まで、魔女にはあるのか。


 オレも闘気術の応用で、簡単な催眠術のようなことはできる。

 だがロキの話では、魔女の力は段違い。

 洗脳に近いのであろう。


「ロキ、率直に聞く。何者なんだ……“魔女”とは?」


「うーん、分からないんだ、アニキ。オレッチは力を貰っただけだからね……あっ! そういえば、調査隊を指揮していた人なら、何か魔女について知っているかも?」


 ロキは盆地の遺跡にも滞在していた。

 だから調査隊のことも知っているという。


「リッチモンドが?」


「そう、その人! その人が盆地の遺跡を調査しながら、何やら“魔女”についてブツブツ呟いていたんだ!」


 なるほど、そういうことか。

 リッチモンドは大陸でも有数の賢人で、専門は古代文明。


 もしかしたら“魔女”とは、何か古代文明に関係した存在なのかもしれない。


「そうか、ロキ。それならリッチモンドを救出した後にでも、魔女のことを聞いてみるか」


 古代文明について、オレは知らないことばかり。

 魔女の正体には、専門家である旧友との再会にかけるしかない。


「あと、アニキ。これはオレッチの推測なんだけども、帝国の皇帝も……もしかしたら魔女に会っているかも」



「なんだと、あの皇帝が?」


「うん。皇帝の決断も、少し変なところがあるんだ。その証拠に、実は今回の王国侵攻は、バーモンド領の盆地の遺跡が本命。だから帝国軍の本隊も、全部陽動なんだ」


「つまり皇帝が何かの目的で、盆地の遺跡を狙っているのか。その裏に魔女がいる可能性もあると?」


「そう、アニキの読み通りだと思う。オレッチも瘴気の力に飲み込まれていたから、あんまり皇帝の調査はできなかったけど」


 なるほど皇帝の裏にも、魔女が暗躍している可能性があるのか。

 とにかく今回の帝国軍の王国進軍には、不思議なところが多かった。


 オレの一番の疑問は、旨味の少ないバーモンド領を、最初に狙ったこと


 だが皇帝の真の狙いが、バーモンド領の盆地の遺跡にあった。

 そう考えると全ての辻褄つじつまが合うのだ。


 つまり帝国の本隊と、オードル傭兵団の動きは全て陽動。

 皇帝の真の狙いは、この先の盆地の遺跡にあるのだ。


 つまり……。


「止まれ、みんな」


 オレは全員に、停止の指示を出す。


「どうしたの、アニキ?」


 先頭のロキが、首を傾げるのも無理はない。

 何しろ目的地までは、もう少し距離があるのだ。


「作戦変更する。馬車はここで待機。ピエールとフェンは護衛をしてくれ。オレはすぐに戻ってくる」


 どうしても目立つ馬車は、ここで待機。

 マリアとも、しばしの別れだ。


「ロキとエリザベスは、オレに付いて来い」


 足の速い三人で、先行偵察に向かうことにした。

 この先に、どうして嫌な予感がするのだ。


 古代遺跡がある場所に、三人で気配を消して近づいていく。


「あれ、この気配の多さは? 前は、こんなに多くなかったのに?」


 案内係りのロキが、眉をひそめる。

 明らかに前とは段違いの数の武装集団が、この先にいるのだ。


 そして、古代遺跡を目視できる場所に、オレたちは到着する。


「アニキ、あれは……」


「オードル……あれって……」


 遠目の光景に、二人は言葉を失っていた。

 信じられない事があったのだ。


「やはり、そうか」


 オレだけは予想はしていたが、改めて確認にする。


 遺跡の周囲に展開していたのは大規模な兵の陣。

 辺境の盆地には、場違いな兵数。

 そこに掲げられていた軍旗に、オレは見覚えがあった。


「あれは皇帝旗……やはり皇帝自らが、進軍してきていたのか」


 予想の中でも最悪な状況だった。

 皇帝率いる帝国軍の本隊が、既に古代遺跡を占領していたのだ。


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