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戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【第3章】王都編

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第83話:【閑話】賢人リッチモンド

 《閑話》賢人リッチモンド視点


 これはオードル一家がルーダの街を去った後の話である。


 ◇


 オードル一家がルーダの街を去ってから日が経つ。

 学園の中にある研究室に、リッチモンドは籠っていた。


「ここにも無いな……」


 彼が調べていたのは古代文明の文献にについて。

 どうしても気になることがあって、個人的に調べていたのだ。


「“人を操る術”か……どこかで見た気がするだけど」


 リッチモンドが探していたのは、“他人を意のままに操る術”について。

 古代文明の文献で閲覧した記憶があるのだ。


「ルーダ事件の原因か……果たして、この報告は本当なのだろうか?」


 リッチモンドが文献を調べているのには、理由があった。


 今から数ヶ月前、国王によるルーダ事件。

 あの時の事件の裏に、“何者”かの存在があるかもしれないのだ。


 王城に仕える学者仲間から、数日前に届いた手紙。

 その中に意味深な一言があった。

『ルーダ事件の前の国王は、明らかに普通ではなかった。何者かに、操られていた可能性があった』と。


 他人の意思を意のままに操る方法など、今の時代では見つかっていない。

 だが高度な文明を誇った古代になら、存在していた。リッチモンドは文献で、たしかに見かけた記憶があるのだ。


「仮に、もしも国王が何者かに操られていたとしたら、かなり大問題だな。だが今の国王には異常はないという。それも疑問だな?」


 古代の書物と照らし合わせて、推測を立てる。研究しながら様々な仮説を立てるのは、リッチモンドの癖であった。


「さて……どこにあったかな……」


 古代文明の研究に関して、リッチモンドは大陸でも有数の研究者。貴重な文献の中から、情報を整理していく。


 文献によると、古代文明では“力”と呼ばれる超常的な力が発達していた。

 戦士たちが得意とする闘気、あれとは全く違う存在。古代の支配者は神のような術を酷使できたという。


「いや、待て。そもそも何故、国王はルーダ学園に目を付けたんだ? あの愚王では思いつかない策だろう?」


 ふとした疑問が浮かび上がる。

 単に金が欲しいのなら、学園以外にも効率が良い場所がある。

 しかし国王はあくまでもルーダ学園にこだわっていたのだ。


 仮説を立てれば立てるほど、謎は深まっていく。


「ふう……一休みにするか……ん?」


 紅茶でひと息ついた時である。

 リッチモンドは何かに気が付く。


「誰か来たのか?」


 物音が隣の部屋から、聞こえた……ような気がした。

 隣は資料室。

 だが、こんな夜分に学園にいる変人は、自分くらいしかいない。


「ネズミか、それともコソ泥か?」


 リッチモンドは護身用の杖を持って立ち上がる。

 貧弱層に見えて、若い時に杖術は会得していた。


 オードルほどの怪物には歯は立たないが、コソ泥相手なら十分に対応できる自信はあった。


 それに大きな音を出したら、すぐに警備兵が駆けつけてくれる。

 学園の警備はルーダ随一に厳重なのだ。


「さて……と」


 リッチモンドは足音を忍ばせながら、隣の資料室に覗き込む。


「誰も……いないな、と」


 資料室を隈なく見回すが、誰もいない。

 照明を点けて照らしながら、もう一度確認。やはり誰もいない。


「ネズミの方だったかな?」


 それとも自分の思い違いか。

 古代文明のことを調べて、気が高ぶっていたのかもしれない。


「ふう……こんなことではオードルに笑われてしまうな」


 自傷しながら、ふと視線を本棚に向ける。

 そこにあるのは卒業していった生徒の資料だ。


「ん?」



 ふと、本棚の些細な変化に気が付く。

 一冊だけ微妙に動かした形跡があるのだ。


「これは今年の卒業生の?」


 変化があったのは新しい資料。

 思わず手に取り、ペラペラと中身を確認していく。


「ん? おや、おかしいぞ……無い……無くなっているぞ⁉」


 ある部分を確認して、リッチモンドは思わず声を上げる。


「マリアちゃんのページだけ、無くなっている!?」


 自分の目を疑う。

 旧友の娘の学園記録のページが、丸ごと消えていたのだ。


 自慢ではないが記憶力には自信がある。消えていたページは間違いマリアだけの記録だった。


「盗まれた……いた、これはページごと消失しているのか⁉」


 詳しく調べて、改めて驚愕の声を上げる。

 ページが刃物などで切れたのではない。

 マリアのページだけ“消失”していたのだ。


「こんな信じられない現象が起きるなんて……いや、待てよ? そういえば古代には……」


 その時、脳裏にある仮説が浮かび上がる。

 こんな状況ですら仮説を立ててしまうのが、リッチモンドとい男なのだ。


「ん? 誰だ⁉」


 その時である。リッチモンドは後ろを振り向く。

 先ほどと同じように“何モノ”かの気配を感じたのだ。


「誰もいない? やはりボクの勘違いなのか? いや、違う……ボクには見えていないけど、そこには存在しているのか⁉ つまり……」


 何かを察したリッチモンドは、資料室の本棚に手をかける。


「すまない、本たち!」


 そして本棚を一気に引き倒す。

 数百冊の書物が、凄まじい轟音を立てて崩れ落ちていく。


 直後、資料室に大量の埃が舞い上がる。


「ボクの仮説が正しければ……いた!」


 リッチモンドの狙いは埃を立たせることだった。

 予測的中、資料室の片隅に異様な空間を見つける。


 そこだけは埃が舞い上がらず、何か人型の空間を形成していたのだ。


『……私の術に気がついた?』


 空間から女性の声がする。

 美しい声だが、どこか機械的で無機質な声だ。


『もしかしたら古代の血が濃い個体なのかしら?』


 直後、現れたのは美しい女。

 歳は若い乙女にも見えるが、大人の女性にも見える。


 薄いローブの上からでも分かる、妖艶な身体つき。

 珍しい黒髪が印象的な女だ。


「くっ……動けない……」


 気がつくとリッチモンドの全身は、凍りつくように固まっていた。

 辛うじて口を動かすことは出来るが、指一本動かせない。

 女を見てしまってから、何かの術にかかっているのだ。


「これは古代の術⁉ 使い手の女……魔女なのか、お前は⁉」


 身体は動かせないままに、頭脳をフル回転させ。

 この異様な女が先ほど、マリアの記録を消し去った侵入者なのかもしれない。


『魔女? 面白い呼び方。でも、今の私にはお似合いかも』


 魔女と呼ばれながらも、女の表情は変わることはない。

 まるで自分の身体を、他人事のように見ていた。


「古代の術の魔女……もしかしたら、お前が国王を裏で操っていた存在なのか?」


 リッチモンドはその仮説を口に出す。。

 今は危険な魔女に捕らわれている。

 だが研究者としてサガで、質問せずにはいられないのだ。


「お前の目的は何だ? この学園に固執する理由は? 仮に国王すら意のままに操れるなら、もっと別の方法があるだろう? そして何故マリアちゃん……オードルの娘の記録を消したんだ?」


 リッチモンドは矢継ぎ早に質問をしていく。

 自分に死が近づいているのは理解している。

 だからこそ後悔のないように質問せずにはいられなかったのだ。


『……お前に興味はない。消えてもらうわ』


 魔女は表情一つ変えずに宣言する。

 右手を上げて何かつぶやく。



「古代語? いや、呪文なのか?」


『消えなさい』


 リッチモンドの疑問の答えが具現化する。

 魔女の右手に、漆黒の槍が形成されたのだ。


 見ているだけ、魂を吸い取られそうになる漆黒の槍だった。

 魔女の手から放たれ、喉元に迫ってくる。


「くっ……ここまでか……」


 リッチモンドは目を閉じて、死を覚悟した。

 このまま自分が死んでしまうことを。


 だが……いつまで経っても死は訪れない。


「こ、これは……」


 おそるおそる目を開けて、リッチモンドは驚く。

 何故なら漆黒の槍は、リッチモンドの寸前で防がれていたのだ。


「間一髪でしたね」


 防いでくれたのは一人の剣士。

 口調は丁寧だが、尋常ではない闘気を放っている。


「あ、あなたは……?」


 剣士はリッチモンドが知らない顔。

 学園の警備兵でも見たことがない。


『ガラハッド……どうして、ここに?』


 魔女は少しだけ驚いている。

 おそらく顔見知りなのであろう。


「ガラハッド……だって?」


 “ガラハッド”という凄腕の剣士の名を、リッチモンドは一人だけ知っていた。


「ガラハッド卿⁉ あの剣聖の⁉」


「たしかに、私はそのようにも呼ばれています」


 リッチモンドの推測は的中した。

 だが、なぜ剣聖がこんな場所に? 

 ルーダに住んでいると噂は聞いたこともない。


「とりあえず魔女と距離を取ります、つかまっていてください」


「なっ⁉」


 ガラハッドは漆黒の槍を払いのける。

 そのまま強引にリッチモンドを抱きかかえて、廊下に飛び出す。


「痛てて……次はもう少し丁寧に、運んでもらえると助かるんだが」


 着地の拍子に廊下に膝を強くぶつけた。さすりながら、リッチモンドは毒づく。

 だが悪いことばかりではない。今ので魔女の束縛が解けていたのだ。


「よし、こうなったら、とにかく避難を……ん? 廊下の様子が?」


 自由の身となったリッチモンドは、周囲の異変に気が付く。

 廊下の雰囲気がおかしいのだ。


「あの騒ぎでも警備兵が来ない……だと?」


 本棚を倒してから、時間が経つ。

 普通ならあれほどの轟音が立てば、警備兵が飛んでくるはず。


 だが自分たちの周囲は、不気味なほどの静寂に包まれている。

 何かがおかしいのだ。


「これも魔女の仕業なのか?」


「おそらく。“人除け”の類の術なのでしょう。あの女は不思議な術を無数に使います。あまり姿を直視しないようにして下さい」


 剣聖は魔女に対して詳しかった。前にも対峙したことがあるのであろうか。

 資料室にいる魔女と間合い計り、かなり警戒している。


『ガラハッド、その男を渡しなさい。その方が互いの利害に一致するわ』


 魔女は術を唱え、再び漆黒の槍を作り出す。

 今度は二つも。

 槍先をこちらに向けて強迫してくる。


「たしかに、そうかもしれません。ですがその前に、私がここに来た理由を、説明しましょう」


 ガラハッドは剣を収めて語り出す。

 何もこんな時に……と思いながら、リッチモンドも内容は気になる。


「私は疑問に思っていました。貴女は国王をそそのかし、ルーダ学園に進軍をさせた。そして私にオードルさんの情報を与えて、彼と戦わせた。それは一体なんのために? これほどの術を使えながら、一体どうして、そんな遠まわしなことをしているのか?」


 剣聖が口にしたのは、衝撃の事実の数々だった。


 なんと、この剣聖とオードルが戦っていたのだ。

 そして、予想通り、魔女が裏で暗躍していたのだ。


「そして、やっぱり国王は操られていたのか……そして学園の侵攻も……」


 リッチモンドの知りたかった内容だった。

 そして脳裏に、別の仮説が浮かぶ。


「そうか! つまり……この学園に魔女の本当の目的があった……のか⁉」


「私も同じ見解にたどり着きました。つまり貴女の本当の狙いは、ルーダ学園にあった。そのことに気が付いた私は、オードルさんから受けた傷を治してから、この学園を見張っていたのです」


「なるほど……だから剣聖が来たという訳か!」


 一つの疑問が解決して、リッチモンドは思わず声を上げる。


『そんな仮説だけで、ここに張り込みしていたというのかしら?』


「いえ、仮説ではありません。必ず貴女がここに現れるという“勘”を信じていたのです」


『“勘”だけを信じて? らしくないわね』


「最強を目指すためには、“自分らしさ”など邪魔な概念。それに強者から学ぶことは多いです」


 剣聖はメモ帳を取り出し、不敵な笑みを浮かべる。

 そのメモ帳に何が書いてあるのか、リッチモンドは気になる。だが今は確認している場合ではない。


『矮小な種から学ぶことなど不要。それと私を待ち伏せして、何が目的なのかしら?』


「貴女に会いに来た理由は一つです……」


 剣聖の闘気が高まっていく。素人であるリッチモンドでも肌で分かる程に強力だ。

 今まで丁寧だったガラハッドの口調が、段々と強まっていく。


「貴女は邪魔です……私とオードルさんにとって!」


 剣聖は叫ぶ。

 同時に魔女に斬りかかる。


 あまりの速さにリッチモンドの目には見えなかった。


『やはり野蛮な下等種』


 だが魔女は即座に反応した。

 余裕の態度で左手を前にかざす。


 だが剣聖の剣は、魔女の直前で止まってしまう。


「くっ……これも術の力ですか⁉」


 必殺の一撃を防がれ、戸惑うガラハッド。

 脱出しように動けずにいた。


『使える駒だから殺さないでおいたけど、もう不要ね』


 漆黒の槍を更に出現させ、魔女は冷徹な表所を浮べる。


「くっ……身体が……」


 マズイ状況だ。

 剣聖はまだ動けない。


 見えない力で、全身の自由を奪われている。明らかに危険な状況だ。


「彼を助けないと! でも……」


 動けずにいたリッチモンドは、頭をフル回転させる。

 だが自分にはオードルのような武力はない。


「魔女……古代文明の術……」


 しかし古代文明の知識だけは、誰にも負けない自負があった。

 今まで読み漁った知識を思い出していく。


「術の阻害……そうだ!」


 リッチモンドは何かに気が付き、思わず叫ぶ。


「ご先祖様の文献が、確かなら……」


 懐から小さな指輪を取り出す。これは古代から家に伝わる家宝。

 “災厄から身を守る時に、使え”と言い伝えがあるのだ。


「イチかバチかだ!」


 研究者として“運”に頼るのは愚策。

 だが神を信じて、リッチモンドは指輪を放り投げる。


 狙うは剣聖と魔女の中間。


「光った⁉」


 直後、想定しなかったことが起きる。

 投げた指輪が強烈な光を放ち、爆発するように光が広がったのだ。


『くっ⁉ これは“術崩しの宝玉”? なぜ、この時代に⁉』


 予想以上の効果があった。

 魔女は苦しみ、漆黒の槍が消えていく。


 ガラハッドも拘束の力から脱出できたのだ。


「今です、剣聖!」

「ええ、感謝します!」


 自由を取り戻し、一気に魔女に斬りかかるガラハッド。

 この間合いでは絶対に回避は不可能。


ざん!」


 剣聖の一撃が魔女を斬り裂く。


『まさか……この術を使うことになるとは……』


 だが魔女は死んではいなかった。

 かすみの様にその姿が消えていく。


 もしかしたら事前に、何か脱出の術をかけていたのかもしれない。



『この私を敵に回したことを、後悔するといいわ……』


 そして消えながら魔女は宣戦してきた。

 次に会った時には命はないと。


「崇高な存在を自称する魔女も、そのような陳腐な台詞を使うのですね! ざん!」


 ガラハッドは皮肉の言葉と共に、再び魔女を斬り裂く。

 魔女の姿は完璧にかき消される。


「これで、終わり……なのか?」


 一呼吸おいてリッチモンドは安堵する。

 一気に緊張感が解けて、その場に座り込んでしまう。


「いえ。あの魔女は普通ではありませんが、これでしばらくは大丈夫かと思います。今までの感じだと、魔女は大きな術は連発できないでしょう」


「なるほど……つまり魔女の使う術にも、何か消費するエネルギーが必要なのか? もしくは発動させるための外部的な条件が?」


 ガラハッドの説明を聞きながら、リッチモンドは新たなる仮説を立てていく。

 とにかく今宵は事件と発見が多すぎた。


 特に魔女と剣聖とのやり取りは、研究者である男にはたまらない刺激だったのだ。


「面白い方ですね。それと、先ほどは助太刀ありがとうございました。お蔭で助かりました」


「いえ、こちらこそ。あなたが助けに来てくれなかったら、ボクは今ごろ漆黒の槍の餌食になっていたよ」


 リッチモンドを助け起こしながら、ガラハッドは感謝の言葉を述べる。

 一方で起き上がったリッチモンドも、頭を下げて感謝した。


「そういえば貴殿の名は?」


「ボクはリッチモンド……この学園では副学園長と、古代文明の研究をしている」


「なるほど、それで先ほどの。私の名はガラハッド。剣聖とも呼ばれています。」


 ガラハッドは強者以外には、興味を持たない男。

 こうして名乗り合うのは、相手の強さを認めた時だけ。普通ではあり得ないことだった。


「あと、気づいているかもしれないが、ボクはオードルとは昔から腐れ縁の仲だ」


「そうでしたか。先ほどの勇敢さも、あの戦鬼のお墨付きという訳ですね」


 魔女の威圧感は尋常ではない。

 屈強な騎士ですら、恐怖で足がすくんでしまう。


 だがリッチモンドは危険を顧みず、魔女に立ち向かった。

 そんな内面的な強さを、ガラハッドは認めていたのだ。


「ところでオードルさんに会いたいのですが、居場所は分かりますか?」


「残念ながら彼の故郷は、ボクも知らない」


 オードルは故郷の場所を、友にすら極秘にしていた。

 リッチモンドの方からも訊ねたことは一度もない。


「そうでしたか。それは残念です」


「でも彼ら一家が訪れる場所は予測できる」


「本当ですか? それはどこですか?」


 ガラハッドは思わず声を上げる。

 今よりも更に剣の腕を上げて、オードルとの再戦を臨んでいるのだ。


「王国の首都……王都だ。マリアちゃんを上位学園に入学さるために、あいつは必ず王都に向かうはずだ」


「なるほど。王都ですか。予想も出来ない場所でした。まさにオードルさんらしい大胆さですね」


 ガラハッドは苦笑する。

 何故なら戦鬼オードルは、王都で一度暗殺されそうになっている。

 それなのに家族総出で王都に戻るとは。普通の肝の太さでは実行できないのだ。


「ボクの予想では……マリアちゃんの向上心と、オードルの性格を考えて……三ヶ月以内には王都に引っ越すと予測する」


「三ヶ月後……ですか。楽しみですね」


 その間、オードルは更に腕を上げているであろう。

 再戦を思い浮かべ、ガラハッドは不敵な笑みを浮かべる。


「それでは、失礼します、リッチモンドさん」


 そう言い残して立ち去っていく。

 研究棟は嵐の後のように、一気に静かになる。


「魔女と剣聖か……本当に騒がしい夜だったな」


 乱雑に散らばった資料室を見つめながら、リッチモンドは深いため息を出す。

 片付けのこと考えただけ頭がいたくなる。


「魔女かて……」


 だが今は高揚感で興奮していた。

 何しろ本当に古代の術を使う者に出会えたのだ。


「もう少し調べてから、オードルには報告しないとな……」


 魔女の本当の狙いは掴めていない。

 解明するまで旧友を無駄に不安にさせる必要はない。


 それにオードルは大陸でも最強の男。

 たとえ魔女であろうとも簡単には手出しできない。


「よし。古代文明のことを一から調べ直しだな……」


 古代の文献を更に調べていけば、魔女の正体にもたどり着けるであろう。

 その本当の目的にも。


「さて、今日から忙しくなるぞ!」


 こうして学者としてのリッチモンドの、忙しい数ヶ月が幕を上げるのであった。


 ◇


 それから数ヶ月後。

 ルーダ学園の研究室に籠っていたリッチモンドの元に、朗報が舞い込む。


「何だって⁉ 手つかずの遺跡が出現しただって⁉」


 王都の友人からの連絡鳥の手紙。

 王国内のバーモンド領に、未知なる古代の遺跡が発見されたという。


 今まで遺跡とは全く違う状態。

 そこで専門家であるリッチモンドに、お呼びがかかったのだ。


「未知なる遺跡か。もしかしたら魔女の手がかりが見つかるかもな……」


 早速、リッチモンドは出発の準備に取り掛かる。



「どんな遺跡だろうか……」


 どんな歴史的な大発見があるのか。人生最大急に心を躍らせていた


 だがこの時、本人は知る由もなかった。


 バーモンド領の遺跡を調査開始の直後、帝国軍が侵攻してくることを。


 ◇


 こうして時間の流れは、王都を出発したオードル一家と繋がるのであった。








次話から本編に戻り、最終章がスタートします。


よろしくお願いします。


作者ハーーナ

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