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第78話:国王との再会

 エリザベスの弟に会うためにオレとエリザベスは、宮殿で開催されている舞踏会で参加。

 因縁の国王とオレは再会するのであった。


「兄王陛下、この者がエリザベスの婚約者“ルーオド”でございます」


 エリザベスの実父レイモンド公にオレは紹介される。ルーオドは偽名だ。


「なに⁉ コイツが⁉」


 国王の態度は急に激変した。

 先ほどまでは可愛い姪っ子のエリザベスにデレデレだった。

 だが今は婚約者であるオレに対して、まるで親の仇のような態度なのだ。


「国王陛下、お目にかかれて光栄。我が名はルーオド」


 そんな国王の邪険に構わず、オレは丁寧に挨拶をする。

 片膝をついて貴族としての簡易の礼を行う。


「あん? ルーオドだと⁉ 国王陛下であるワシに対して、言葉使いも成っておらず、しかも、その仮面はなんじゃ⁉ 初対面で無礼にもほどがあるぞ! キサマはどこの貴族の息子か⁉ 家名を名乗れ!」


 だが国王は大声で怒鳴り散らしてきた。難癖を連発してくる。

 可愛い姪っ子を奪われて、よほど頭に血が上がっているのであろう。


(短絡だな……だが、気持ちは分からなくない)


 もしも可愛いマリアが相談もなく、いきなり婚約者を連れてきたら……オレもどんな感情になるか想像もできない。


 娘の結婚。

 父親として本当なら喜ぶべきことなのであろう。

 だが表面上とは別に、内心では喜ぶどころではない。


 想像しただけオレも感情がどうにかなってしまいそう。少しだけ国王に同情する。


「兄上、実はこの者は遠い異国出身。ゆえに大陸共通語の敬語が未熟なのです」


「遠い異国じゃと、フィリップ⁉ どこの国じゃ⁉ まさか憎き帝国や共和国ではあるまいな⁉」


 実の弟であるレイモンド公の言葉にも、国王は収まらない。

 何しろ帝国軍と共和国軍には連敗中で、国王は痛い目に合っていた。

 まさかの異国の婚約者に更に興奮しているのだ。


「いえ、その両国ではありません。兄上は“イシュタル公国”という国をご存知ですか?」


「イシュタル公国じゃと? もちろん知っておる。今から百年以上前に突然滅んでしまったが、大陸一の歴史と伝統があった北方の武国じゃろ? 何を隠そうワシもイシュタル公国には憧れているのじゃ!」


 国王は誇らしげ自分の知識を自慢する。

 そしてこの男は国としての歴史と伝統の格を重んじるのであろう。


「実はこのルーオド殿は、そのイシュタル公国の王族の血筋の者なのです」


「な、な、なんじゃと⁉ あのイシュタル公国の⁉ 誰一人として生き残っていないと聞いていたが……」


「はい、私もそのように学んでいました。ですが偶然にも一人だけ生き残り、こうしてエリザベスと出会ったのです」


 レイモンド公はもっともらしく紹介しているが、これは全て作り話。今日の内に公爵が考えたシナリオなのだ。


「なんと“あのイシュタル公国”の王室の血筋の者じゃったか……うむ、それなら全てに納得がいくぞ! それに、あのイシュタル公国の王室の血筋の者なら、ワシらがエリザベスの婚約者として十二分すぎるほどだ!」


 国王の態度が更に急変する。

 何しろ国王は国として歴史と格を重んじる。

 イシュタル公国は彼の中で最上位ランクに位置される。故に上機嫌なのであろう。


 これも兄の性格を知り尽くしていたレイモンド公が予想していた展開だった。

 よし。改めて挨拶するなら、このタイミングだな。


「改めてルーオド・イシュタルだ。よろしく頼む、国王陛下」


「おお、ルーオド・イシュタル殿、頭を上げてくだされ! あの偉大な公国の公子殿に、そのような態度はいけません。言葉使いも不自由さてしまい、失礼したのじゃ!」


 オレに対する態度を、国王は一変させる。

 まるで格上の身分の者のように、急に下から接してきた。

 ここまでコロコロ変わると、接しているオレですら感心してしまう。


「有りがたい、国王陛下。この仮面も祖国のことがあって、このような公の場では外せない」


「仮面はどうぞお付けになったままで! 何しろあのイシュタル公国の忘れ形見ですからのう」


 レイモンド公の作戦は上手くいっていた。

 これでオレの顔がバレる心配もない。大手を振って舞踏会に参加できるのだ。


「姉上! エリザベスお姉様はどこですか⁉」


 その時ある。

 更に誰か近づいてきた。


「チャールズ、ここよ!」

「エリザベスお姉様!」


 駆けてきたのは一人の金髪の少年。

 エリザベスの実の弟であるチャールズだった。


「お姉様!」


 チャールズは勢いのままにエリザベスに抱きつく。

 年齢はまだ九歳だという。十七歳のエリザベスと身長差は大きい。


「エリザベスお姉様……本当に会いたかったです……再会できて本当に嬉しい……」


 抱き合いながらチャールズは涙を流していた。

 何しろ唯一の姉弟であるエリザベスは、一年以上前に突然家出。

 何の音沙汰もなく月日が流れ、寂しい想いをしていたのであろう。


「私は元気だから、そんなに泣かないでちょうだい。大きくなっても、相変わらず泣き虫なのね、チャールズは」


 そう言いながらエリザベスも目に涙を浮べていた。

 家出した彼女にとって、家族は切り離した存在。

 だが内心では年の離れた弟のことを、大事に思っていたのであろう。


「エリザベスよ……お前の気持ちは分かるが、そろそろ控えなさい。チャールズ様は今や皇太子殿下であられる」


「お父様……そうでした。じゃあ、チャールズ……いえ、チャールズ殿下、失礼いたしました」


 父親にたしなめられて、エリザベスは弟をそっと離れる。

 目上の者用への挨拶をして、口調も変える。

 猫を被っているとはいえ、彼女も本心をぐっとこらえているのであろう。


「そ、そんな……お姉様……」


 一方でチャールズは悲しそうな顔をしている。

 まだ九歳ということもあり、急変した身分の差を受け入れなでないのであろう。


「まぁまぁ、二人とも、そこまでかしこまらずともよいぞ。今宵は実の姉弟として、ゆっくり話がよい。なぁ、良いだろう、フィリップ?」


「はっ。兄王陛下がそこまで仰るのなら。それなら展望席を使わせて頂いてよろしいですか?」


「もちろんじゃ、フィリップ。よし、エリザベスとチャールズ。お前たちはあそこの展望席に行くとよい。舞踏会中あそこなら王室の者しか近づけぬ。姉弟水入らずで、ゆっくりと昔話でもするがよい」


 公爵の提案を受けて、国王はチャールズたちのために気を遣う。

 会場の二階席を指差して、席を設けてやる。

 部下には不遜な態度をとる愚王だが、姪っ子たちには甘いのであろう。


「いこう、お姉様!」

「そうね、チャールズ」


 二人の姉弟は手を取り合って展望席へ駆けてゆく。

 引き離れた姉弟だが、これで今宵はゆっくり話が出来るであろう。


(よし、これで作戦は上手くいきそうだな)


 エリザベスたちを見送り安堵する。

 今回、宮殿に来たのはチャールズの情報を仕入れるため。


 あとは姉弟二人きりでエリザベスが、色々と聞きだしてくれるであろう。

 後から彼女から話を聞いて、今後のチャールズについては作戦を関上げていけば良い。


(さて、舞踏会での茶番も終わりだな)


 婚約者役として舞踏会に潜入したオレの役割も、これで終わった。

 後は適当に会場の端で静かにして、エリザベスが帰宅するまで待てばいい。

 何も波風を立てる必要はない。


「ところで……ルーオド・イシュタル殿?」

「なんだ、陛下?」


 だが国王はオレの側を離れなかった。

 それどころか近づいて話しかけてくる。

 あまり関わりたくないので、適当に返事をしておく。


「それにしてもルーオド殿は見事な体躯たいくですな! もしや武芸の稽古も?」


「ああ。オレの目的は大陸各地に散った、祖国イシュタルの文化品の探すこと。そのために危険な旅する必要があるからな」


「なるほど。イシュタル公国の文化品。いつか是非とも、ワシも見させてくだされ」


「ああ、いつかな」


 もちろん、そんな文化品は所持していない。

 舞踏会の後でレイモンド公に誤魔化してもらおう。


「それにしても見事な体躯……ワシも“あの男”のことを思い出してしまう……」


「“あの男”だと?」


 国王の小声の呟きに、思わず反応してしまう。

 何やら予感がしたのだ。


「おっと、聞かれてしまいましたか。実は、恥ずかしながら、このワシの天敵……目の上のたんこぶとも言える男に、ルーオド殿の体格が似ているのじゃ」


「ほほう? ルイ陛下ほどの賢王に、それほどの存在がいたとは?」


「まさかの賢王とは有りがたい言葉!」


 今宵のオレはルーオド・イシュタルという存在。

 厄介な国王を持ち上げて、情報を引き出す。


「実は我が国には……“戦鬼”と呼ばれる傭兵がおりまして、その男に似た体躯だと、ワシが思ってしまったじゃ」


 予想通りオレの異名が出てきた。

 似ているも何も、ルーオド・イシュタルは戦鬼オードル。

 似ていて当たり前なのだ。


「その名はオレも聞いたころがある。だが、なぜ賢王ルイ陛下ほどの方が、一介の傭兵ごときを気にするのか?」


 あえて国王の会話に乗ってやることにした。

 何故なら近年の国王は、オレのことを異様なまでに憎んでいた。

 数年前に王国に雇われた当初は、普通の態度でオレに接してきた。

 何が原因で国王の恨みを買ったか、それを知りたかったのだ。


「実はルーオド殿……ワシは怖かったのじゃ……あの傭兵の人気の高さが……」


「人気だと?」


「そうですぞ。あの男は我が国で数々の戦果を上げて、王国の発展に寄与していた……国民の人気はもちろん、騎士と家臣団からも絶大な人気を誇るようになっていった……国王である、このワシすら超える人気を……」


 国王は神妙な顔で語り出す。

 この男がこんな表情をするのは初めて見る。


「だからワシは怖かったんじゃ……このままでいけばワシは国王の座を追われるのではないかと⁉ だから……」


 なるほど、そういうことだったのか。

 オレは特に事件を起こして、国王の恨みを買っていたのではなかった。


 国王が勝手に負の感情を抱いて、その積み重なっていった。

 そして王都での焼き討ちの事件を起こさせたのであろう。


「おっと。せっかくの宴で、このような辛気臭い話をして申し訳ない! 異国のルーオド殿だからこそ、思わず話してしまいました」


「いや、こちらこそ為になる話を聞けてよかった。あとルイ陛下に少しだけ進言する」


「ワシに進言ですと?」


「ああ、そうだ。オレの故郷に『覆水盆ふくすいぼんに返らず』という言葉がある」


「ふくすいぼんに……?」


「『一度起きてしまったことは二度と元には戻らない』という意味だ。だからルイ陛下も過去の男を気にせずに、前を向いて生きるべきだ」


 ここだけの話、オレはこの国王に対して何の恨みもない。

 たしかにこの男は器量が小さく、王国の君主たる器ではないのであろう。

 何しろ一介の傭兵団長だったオレにまで嫉妬して、暗殺を仕掛けてくるほどの器量の小ささだ。


「『一度起きてしまったことは二度と元には戻らない』ですか……たしかに……たしかに、そうかもしれん……」


 だが国王という地位には、常人が計り知れない重圧がある。

 ルイというこの男は世襲の王。

 生まれた時から国王になる運命に繋がれていた。

 本人に王としての才能の有無に関係なく、運命に強制的に人生を決められていたのだ。


「ルイ陛下、そんな暗い顔をするな。せっかくの舞踏会だぞ?」


「おお、そうでしたな! はっはっは……辛気臭くなってしまい、失礼しまいました、ルーオド殿! では、舞踏会を楽しんでくだされ はっはっは!」

「それでは、また」


 知りたかった話を、国王から聞きだせた。

 挨拶をして国王と離れていく。


「さて、あとはどうするか?」


 うるさい国王が去って静かになる。

 とりあえず会場の端に移動して、ひと息つく。


 舞踏会はまだ真っ最中。

 一段と賑やかになった舞踏会の様子を眺めていく。


 一緒にきたエリザベスは弟のチャールズと、まだ展望席で楽しそうに話をしている。

 レイモンド公爵も他の貴族たちと何やら雑談をしていた。


 オレだけ一人きり。このままでは時間を持て余してしまう。

 仕方がないので誰もいないこの柱の陰で、時間を潰すとするか。


「ん?」


 その時であった。

 一人の男がこちらに近づいてくる。覚えがある気配だ。


「お久しぶりです。オードルさん。いや、今はルーオド・イシュタルさんでしたか?」


 やって来たのは鋭い目つきの長身の剣士。


「ガラハッドか……」


 こうして危険な剣聖ガラハッドと、まさかの場所で再会するのであった。


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