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戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【第3章】王都編

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第65話:屋敷跡

 ダジル商店で働き始めてから、数日が経つ。

 オレは仕事をこなしながら、順調な日々を過ごしていた。


「ダジル、迷い猫を見つけてきたぞ」


 今日もダジルから依頼を受注。

 金持ちの貴族が飼っていた迷い猫を、街外れで捕まえてきた。


「なんじゃと、オードル⁉ もう、見つけてきたのか?」

「ああ、簡単な仕事だった。またあった、頼むぞ」


 ダジル商店に依頼がくる仕事は、王都内での雑務が多い。こうした困りごとがほとんどだ。


「相変わらず凄い奴じゃのう。また、頼むぞ、オードル」


 法に反した依頼や、仁義に反した依頼を、ダジルは断っている。その人柄と仕事の確実性で、口コミで仕事が舞い込んでくる。

 だからマリアの父親として、オレも誇りを持って出来る仕事だ。


「ダジル、この依頼なんだけど、どうすればいいの?」


 店の奥から金髪の少女が顔を出してきた。同じく働き始めたエリザベスだ。


「その手の依頼は、下町の職人に頼む」

「なるほどね。じゃあ、行ってくるわ」


 エリザベスの仕事はダジルの手伝い。事務補助といったところであろう。


 最初はダジルの手助けをしながら仕事を覚えていく。慣れてきた店番も行う予定だ。


「ふう……仕事をするって、楽しいわね、オードル!」

「そうだな、悪くはないな」


 庶民の労働の楽しさに、エリザベスは充実感を覚えている。

 公爵令嬢として育ってきた彼女にとって、こうした市民の仕事は新鮮に感じるのであろう。

 無職でいたルーダの時より、何倍も楽しそうに日々を過ごしている。


「さて、それじゃ、少し出かける」


 今日の仕事が終わったので、あとは自由時間。

 店のことはダジルとエリザベスに任せて、オレは外出することにした。


「あっ、オードル様!」


 商店を出たところで。リリィに声をかけられる。偶然オレを見つけて、嬉しそうにしていた。


「リリィ、仕事は順調か?」

「はい、お陰様です」


 彼女はダジルの紹介で、近所のパン屋で働き始めた。

 好きなパンの仕事に携われて、今日も楽しそうに働いている。


「そうか。じゃあ、出かけてくる」

「お気をつけて、オードル様」


 リリィの警護は、エリザベスに任せておいた。

 ダジル商店とパン屋は目と鼻の先。

 リリィに何か危険があったとして、直感の鋭いエリザベスなら気がつける距離だ。

 だからオレは安心して出かけられる。


(マリアの勉強も順調そうだし……ありがたいことだな)


 マリアは学園に毎朝、通学馬車で通学している。

 よほど学園での勉強が楽しいのであろう。家に帰ってきたら、教わったことを楽しそうに話してくる。


 あとマリアの護衛はフェンに一任。

 たまにオレが抜き打ち検査をしても、フェンは完璧に対応してくれた。

 ルーダの街にいた時に比べて、フェンも頼もしく成長していたのだ。


 お蔭で王都ではオレも自由に過ごせる。


「さて、今日は“あそこ”に行ってみるかな……」


 王都での生活も安定してきた。

 せっかくなので、ずっと気になる場所に、向かうことにする。


「オレの屋敷…いや、元屋敷は、さて、どうなっているのやら……」


 向かう先は王都の自分の屋敷跡。

 一年前に焼き討ちされた事件の場所へ、オレは一人で向かうのであった。


 ◇


 王都の上級市街地の区画にやってきた。


「よし。どうやら、周囲は大丈夫そうだな?」


 屋敷跡に近づく前に、周囲を索敵して安全を確認する。

 何しろここから先は、顔見知りに合う確率が高い。オレにとって警戒空域なのだ。


「さてと……」


 安全を確認できたところで、屋敷跡に近づいていく。

 周囲には他の屋敷の塀もあるので、遮蔽物も多い。

 万が一に何かあった時は、身を隠すのに最適だ。


「ん……これは?」


 屋敷を囲む塀の正門前にたどり着く。予想外に光景に思わず声をあげる。


「花……だと?」


 オレの屋敷の正門前には、花が添えられていた。それも一つではなく何個も。

 花の新鮮な感じから、添えられて新しいものだ。


 いったい誰がこの花を?


「ん?」


 その時である。誰かが近づいてくる気配がする。

 感じから一般市民であろう。それなら特に問題は無い。

 オレは通行人のフリをして、花を見つめている。


「あら? 旅の方ですか?」


 通行人は老婆であった。立ち止まっていたオレに、声をかけてきた。


「ああ、そうだ。この場所が何なのか見ていた」


 何も知らないふりをして話を合わせる。

 だが実際に屋敷と花を見ていたのは事実。嘘は言っていない。


「ここはオードル様の屋敷跡です……その花はオードル様の死を嘆いた市民が、捧げている献花です」

「献花……だと?」


 まさか市民が添えた花だとは思わなかった。

 それにしても何故、一般市民がオレに対して花を?

 謎はますます深まる。


「オードル様は私たち市民にとっても英雄でした。あの御方がいたお蔭で、戦が減って、私たちの暮らしも良くなりました……」


 なるほど。そういうことか。

 たしかに王国に仕えてから、オレは連戦連勝だった。


 他国からの賠償金で王都は栄えて、市民の暮らしも豊かになった。

 最終的には1年前の帝国の停戦条約を結んで、王都の暮らしは安定していた。


「でも、この方が火事で亡くなってしまってから、王国はおかしくなりました……隣国との戦を再開して、また私たちの暮らしは苦しくなりました……」


 今の国王は欲が深い。

 戦争を続けていくのには大量の金と食料が必要となる。

 そのしわ寄せは一般市民にくる。

 貴族や王家の生活は、よほどのことが無い限り悪くはならない世界なのだ。


「ですから私たち市民は、こうしてオードル様に献花を捧げてお祈りしていたのです」

「そうか。話を聞かせてくれて感謝する」


 話を終えて老婆は、そのまま立ち去っていく。周囲には他には人の気配はない。


(まさか、死後のオレが、そんな風になっていたとはな……)


 自分でも想定していなかった状況だった。

 何しろオレが行ってきたのは戦をすることだけ。

 まさか一般市民に英雄扱いされていたとは、思わなかったのだ。


(それだけ今の王政が破綻しているということか……)


 今の国王は無能ではないが、私欲にまみれた男。

 周りの家臣のサポートが無ければ、ズルズル悪い方に進んでしまう。

 先日のルーダ学園の課税のように、私利私欲に走ってしまうのだ。


(まあ、今のオレには、あまり関係ないことだ。さて、中に入り込むとするか……)


 周囲に人の気配がないことを確認して、行動を起こす。

 屋敷の塀を飛び越えて、中に侵入していく。

 隠密術で気配と音を完全に消している。誰にもバレる心配もない。


 屋敷の庭を進みながら、焼け落ちた屋敷跡に忍び足で向かう。


(自分の屋敷に忍び込むとは……よく考えたら滑稽だな……)


 隠密で進みながら苦笑いする。

 ダジルの話では、この屋敷は火事のまま現場保存されているという。

 屋敷の所有権は国王が没収したのだ。


「ん? 火事跡か……ずいぶんと盛大に燃え落ちたものだな」


 屋敷跡に到着した。

 当時オレが住んでいた屋敷は、跡形もなく消失していた。

 残っているのは基礎の石の部分だけ。焦げ臭いだけで建物の面影は、どこにもなかった。


「だいぶ調査された後はあるな……」


 気配を消しながら、焼け跡を調べていく。


 おそらく火事が収まった後に、黒羊騎士団あたりに調査されたのであろう。

 火事をあくまでも事故に見せかけるために。


「私物は、残っていないか? 当たり前か」


 屋敷に置いていったオレの私物は、全てが焼け崩れていた。

 辛うじて残った物も、証拠品として徴収されていったのであろう。

 国王の手先がやりそうなことだ。


「さて、問題はこっちの方だな」


 火事跡から少し離れた方に向かう。

 そこは薄暗い屋敷の裏庭。なんの変哲もない岩の裏を調べる。


「脱出口は……調査された跡はないな」


 ここは非常用の脱出経路。火事当日もここから密かに脱出したのだ。


 特に人の手が加わった後はない。

 完璧に偽装しておいた経路なので、調査兵も見逃していたのであろう。


「さて、いくか」


 周囲に人の気配がないことを確認。オレは脱出口へと入っていく。

 中は真っ暗な通路となっている。


「ここも潰しておくか」


 脱出口を内側から潰しておく。

 これで裏庭からは二度と開かないであろう。

 誰かが再調査しても、この洞窟は見つかる心配は消えた。


 これで戦鬼オードルが生きていた証拠は、また一つ消えたのであった。


「さて……家に戻るとするか」


 脱出経路を消す……今回の目的を終えて、オレは通路内を進んでいく。

 かなり薄暗いが、夜目の効くオレには問題ない。


 このまま進んで王都の下水道へ抜ける。そちら側の合流経路も潰しておけば、この通路には誰に入れなくなる。

 証拠隠滅しょうこいんめつは完璧だ。


「念には念を入れよ……だな」


 少しやり過ぎかもしれないが、オレは慎重な男。

 マリアが上位学園を卒業するためには、王都では事件を起こさず平穏に暮らしたいのだ。


「ん?」


 洞窟内を進んでいた時である。

 オレは前方に微かな気配を察知する。


「人……ではないな?」


 気配の感じは人には似ているが、人ではない。

 下水道側から入り込んだ獣であろうか?


 大モグラや大鼠、大蛇なら入り込む可能性もある。

 特に危険はないので、そのまま進んでしまおう。


「いや……人……か?」


 オレが近づいた瞬間。相手の気配が変わる。

 獣ではない。

 明らかに“人”に近い気配に、急に変化したのだ。


「むっ⁉」


 直後、危険を察知する。

 前方から殺気が飛んできたのだ。


っ!」


 飛んできた殺気は衝撃波だった。

 オレは気合の腕の一振りで相殺し、かき消す。


「斬撃か?」


 かなりの威力の衝撃波だった。

 闘気術をまとった右腕が、軽く痺れている。


「何者だ?」


 奥から衝撃波を放ってきた相手に、尋ねる。

 相手は人の存在ではないかもしれない。


 だが今の攻撃は明らかに、人の放った技。

 魔獣や獣は人の技を、普通は使えないであろう。


「こっちにこないで……」


 薄暗い奥から聞こえてきたのは、女の声だった。

 まだかなり幼いであろう声の質だ。


「こないで……」


 かなり怯えて感じの声である。


 オレは警戒しながら声の元へ、歩み寄っていく。

 通路のくぼみに、その声の主は隠れていた。


(女の子……だと?)


 怯えて隠れていたのは人族の幼女であった。

 6歳のマリアより幼く見える。


「ひっ⁉」


 怯えた幼女の顔が、こちらに向いてきた。


「まさか……」


 幼女の顔を見て、オレは思わず声をあげる。

 何故なら自分の知る者に、よく似た顔をしていたのだ。


「マリア……だと?」


 斬撃を放ってきた謎の幼女は、マリアと酷似していた。

 髪の毛の色は違うが、まったく同じ顔をしている。


「こっちに……こないで……」


 こうしてオレは焼け跡の地下で、マリアと酷似した幼女に出会うのであった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] マリアの妹か!? オードルさん、どんだけマリアの母親とヤッてんねん さすがにオードルが何も覚えていないのは不自然になって来たな…記憶を操作されたのかな?
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