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第63話:上位学園へ

王都に到着した翌朝になる。

新しい家の大まかな掃除は、昨日の内に終わらせていた。


「では、上位学園に行ってくる。二人とも、後は頼んだぞ」


今日はマリアと学園に向かう日。

留守番のエリザベスとリリィに、家の整頓と掃除を任せていく。


「後のことはお任せください、オードル様」

「オードルも気をつけてね」


細かい部分の掃除と、調理器具や食材。家具の買い出しなど、新居で準備することは多い。

ルーダの引っ越しの時も、二人は頑張ってくれた。ある程度のことは任せても大丈夫。

お蔭でオレは安心して、入学の手続きに行ける。


「マリア、準備はいいか?」

「うん、パパ。今度の学園も楽しみだね!」


マリアの顔は希望に満ちていた。

新しい学び舎、上位学園でどんなことを学ぶことが出来るのか。どんなクラスメイトと仲良くなれるのか。

今から楽しみにしているのであろう。いい笑顔だ。


「それでは行ってくる」


こうしてオレたち親子は上位学園へと向かうのであった。



裏路地にある家を出発して、大通りに出る。

通りの流れにそって歩き、そのまま学園のある上級市街地へ向かう。


「まずは、あの城門で手続きをして、上級市街地へと入るぞ、マリア」


街の境目に第二城壁が見えてきた。その向こう側が上級市街の区画だ。


「街の中に、また城壁があるの、パパ?」

「ああ、そうだ。普通の市民は、気軽には向こうには行けない」


王都の街は何重かの城壁によって、堅牢に囲まれている。

一番外側の城壁の内側が、中級市民街と下級街。

これから向かう第二城壁の内側が、上級市街地となる。

王都の上位学園は上級市街地の一角にあるのだ。


「なるほど。でも学園に通うのも大変そうだね、パパ?」

「大丈夫だ、マリア。この通行書があれば問題ない」


昨日の内にダジルに、通行書を用意してもらった。

ここだけの話、上級市街地への通行書は、金さえ払えば入手できる。

不審な市民を規制すると当時に、税金として王家が発行しているのだ。

金儲けが好きな国王の考えたシステムなのであろう。


「そっか! よかった!」

「入学が決まったら通学用の乗り合い馬車もある。だから通学も問題ない」


王都の面積は広大。そのため上位学園は専用の通学用の馬車を走らせている。

馬車は有料だが安全のためには、便利な制度であろう。


「さあ、ここから学園はもうすぐだ」


通行証を見せて第二門を、無事に通過していく。

警備兵の中に顔見知りがいたが、オレに気がついた者はいない。


(ん? あいつは……)


また上級市街地を歩きながら、顔見知りの騎士たちとすれ違う。

以前と風貌が違うために、誰も戦鬼オードルだと気がつかない。


火事も1年以上前のことなので、人々の記憶も風化しているのかもしれない。

人の記憶というものは案外いい加減なものなのだ。


それにしても、顔見知りに気がつかれない……か。

個人的には少し寂しい気がする。


だがこれで王都での確信ももてる。

特に顔を隠さなくとも上級市街地でも、大手を振って歩くことが出来るであろう。


「さあ、あそこが上位学園だ」


第二城門を抜けて進んでいくと、大きな建物が見えてきた。

今日の目的地である王都上位学園だ。


「すごい、大きいね、パパ!」

「ああ、そうだな。大陸でも一二を争う規模の学園だ」


歴史ある王国では、上位階級の教育にも力を入れている。そのため学園もルーダの何倍もの規模があるのだ。


「さて、事務局は……あそこだな。申し込みにいくぞ、マリア」

「うん、パパ! マリア、頑張るね!」


リッチモンドの話では上位学園に入学するためには、簡単な試験があるという。

試験を受けると聞いて、マリアは嬉しそうな顔をしている。


娘はこの数ヶ月間は、村での自習が続いていた。かなり寂しい思いをしていたのかもしれない。

だからこそ自分の知らない知識と出会うことに、マリアは今から興奮しているのだ。


(相変わらず元気だな。さて、どうなることやら)


こうしてオレたちは上位学園の事務局へ入っていくのであった。



事務局の受付嬢にリッチモンドの紹介状を渡して、申し込みをしていく。

さて、今回はスムーズに進んでくれといいのだが。


「えっ……こちらは、ルーダ学園の副学園長……あのリッチモンド様の紹介状⁉」


紹介状の中身を確認して、受付嬢は驚いていた。

王国の学園の世界では、リッチモンドはかなり名が知られているのであろう。かなり驚いている。

奥から事務局長らしき、お偉いさんも確認のためにやってきた。紹介状を何度も確認している。


「問題はないか?」

「はい、お待たせしました、オードルさま。紹介状は特に問題はありませんでした。それで入学希望のマリアさんという方は、どちらに?」


受付嬢はカウンターの向こう側から、オレの周りを見回している。

紹介状はあっても受験者当人がこの場にいないと、入学試験は受けられないのだ。


「マリアは、ここだよ!」


まだ背の低いマリアは元気な声で自己紹介する。背伸びをしながらカウンターの下から、ようやく顔を見せている。


「えっ⁉ この子がマリアさん⁉ オードルさん、失礼ですがお嬢様の年齢は……」

「マリアは六歳だ」


五歳だったマリアはルーダの街にいた時に、六歳の誕生日を迎えていた。

マリアの誕生日は、本人も知らなかった。

だから家族と相談して、“ある日”を誕生日に決定。みんなルーダの家で盛大にお祝い会をしたのだ。


まあ、マリアの誕生の話は、また別の機会に詳しくしよう。

今はとにかくマリアの入学手続きを優先だ。


「えっ……ろ、六歳ですか……?」


受付嬢は混乱していた。

何しろ上位学園は通常十二歳でなければ入学できない。状況が把握できていないのだ。


やれやれ、一から説明してやらないとな。


「娘は六歳だが、既定の学力は修士してきた。そのリッチモンドの紹介状にも書いてあるだろう? 問題はないはずだ」


ルーダ学園と同じく、上位学園の入学にも年齢は関係ない。

初等学園の全ての学科を修めた学力があれば、誰でも上位学園の入学の資格があるのだ。


「は、はい……たしに、そうですね。大変失礼いたしました。始めてのケースだったので混乱してしまいました。では、そちらの席で、入学試験を受けてもらいます」


混乱から立ち直った受付嬢は、試験の準備を始める。

びっしりと問題が書かれた用紙を、事務局の端の席にもっていく。かなり難しそうな問題ばかり。

今回もマリアは入学試験を受けるのだ


「じゃあ、パパ。いってくるね!」

「ああ。いつものように楽しんで勉強するんだぞ、マリア」


入学試験を受けるためにマリアは、試験席に向かう。

担当の教官らしき男が立ち合い、さっそく試験がスタートする。


さて、ここから先は親が手伝うことはできない。

受験者当人の力だけで、試験に合格しなければいけないのだ。


「では、オードルさん。一応ですが、こちらが合格した場合の、入学の手続きの用紙です……」


冷静に戻った受付嬢は、事務的に説明をしてくる。

まずは試験を受けてもらう。

その後に採点をして、合格なら入学できると。

万が一不合格な時は、一ヶ月後に再試験を受けることができるのだ。


「あと、合格した場合ですが……」


合格した時は、今日中に入学の手続きを行うという。

入学金を支払って、書類に親がサインしていく。


制服は近くの洋服店が特約店になっているので、すぐに作ってくれるという。


「当学園は特に入学の儀はないので、制服が完成次第、授業を受けることができます。説明は以上です」


受付嬢の説明を聞き終える。

なるほど、そういうことか。


ルーダ学園とは違い、ここは専門的な勉学をする場所。

学校行事はほとんど無く、あくまでも上質な勉強を生徒が学んでいく制度なのだ。


学校行事が少ないのは、父親として少し寂しい気がする。できれば運動会などで、またマリアの勇姿が見たかった。


だが集中して上質の教育を受けられるのは有り難い。勉強好きなマリアにはピッタリな環境だ。


それにクラスメイトと仲良くするのは、明るいマリアの得意技。

学校行事が無くても心配はないであろう。


「パパ、終わったよ!」


説明を聞き終えたタイミングで、マリアが戻ってきた。

よほどテストが楽しかったのであろう。いつも以上に満面の笑みだ。


「えっ⁉ もう……ですか⁉」


マリアのあまりの早すぎる終了に、受付嬢はまた驚く。今まで一番ビックリした顔だ。

試験官の方に顔を向けて、採点の結果を尋ねる。


「ご、合格です……全問正解の満点で、見事に合格です……」


試験官も言葉を失いながら、受付嬢に伝えてきた。

王都の上位学園は大陸の中でもハイレベル。

普通の入学希望者は満点と取ることは出来ない。


だが、たった六歳の幼女が、あっとう間に解き進んでいく。そして完璧な回答で満点をとった。


試験官も信じられないのであろう。


「すごい……この学園創立以来の才女かもしれな……」


あまりのことに試験官は興奮しだす。

はっと我に返り、オレの方に駆けてくる。


「オードルさん、よかったお嬢様を……マリアさんを、ぜひ特別クラスに入学させてみませんか⁉ 入学金と学費は全て無料になります! そして、普通の生徒では受けられない、上級な授業を受けることができます!」


試験官は興奮しながら説明してきた。

受け嬢に急いで用紙を持ってこさせる。


「こちらが詳しい特待生の制度です!」


なるほど。

学力が特別に高い生徒だけが入ることができる特待生のコース。

こんな特別なクラスもあったのか。


用紙を細かくチェックしていくが、特に怪しいこともない。

あとは、マリア本人の意思しだいだな。


「どうする、マリア?」

「うん、パパ! マリアはいっぱい勉強したい!」

「そうか、それなら決まりだな」


本人の意思の確認もできた。

では特進コースへと入学させてもらうことにするか。

何よりマリアの意志が最終戦だ。


「ありがとうございます、オードル様。では、手続きの方はこちらで全て行っておくので、制服が完成しだい、この事務局にいらしてください。授業にご案内します」


最初に比べて試験官は、かなり丁寧な対応になってきた。

予想以上にスムーズに入学が出来そうだな。


「じゃあ、マリア。これで決まりだな」


入学試験は無事におわる。

特に大きな問題は起きなかった。

むしろ特待生として特別待遇で入学することになったのだ。


「うん、パパ。マリア、授業が楽しみ!」


こうして王都でのマリアの学園生活がスタートするのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] マリアちゃんヤバいくらいの天才だな やはり謎多き母親の血筋が要因か? これでオードルの運動能力まで遺伝しているとなれば完璧超人過ぎる
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