第61話;:王都到着
村から出発して日が経つ。
街道沿いの長旅していたオレたち一行は、目的地の王都に到着した。
「さて、中に入るとするか」
目の前に広がるのは、王都を取り囲む巨大な城門。
入口の一つである北門で、オレたちは入場の手続きをしていく。
身分証はルーダの街で作っておいた王国市民証。
入場の検問でも問題はなかった。
「ふう、ようやく到着したか」
入場の手続きを終えて、王都の城壁内に入り、オレはひと息つく。
村からここまでの道のりは、前回よりも長い期間の旅だった。
特に大きな事件はなかったが、やはり街の中は落ち着くのだ。
「すごい……すごい、大きい街だね、パパ!」
王都の街並みを目の前にして、マリアは歓声を上げている。
ここはルーダに比べて何倍もの規模の大きさ。更に文化的な建物も多い。大陸屈指の都市なのだ。
「見て、パパ! 大通りに馬車が、何台も並んで走ってるよ!」
王都は大通りや上下水道が完備された都。マリは生まれて見たのだから、仕方がない反応であろう。
街並みを眺めながらマリアは、笑顔で目を輝かせている。
「これが王都ですか。こうして訪れるのは私も初めて、驚いています」
リリィも王都の街並みを見て、深く感動していた。
彼女は幼い頃に、田舎の村からこの王都に連れてこられた。
だが大聖堂は王都の中でも特別な場所。
隔離された空間に閉じ込められていたリリィは、大聖堂の中だけで、隠されて暮らしてきた。
「でも、何となく懐かしい香りはします。大聖堂の私の小さな窓から流れてきた、この街の香りが……」
リリィは王都の賑わいを大変するのは初めて。
だが10年以上暮らしていた街の空気に、何ともいえない感慨にふけている。
閉じ込められていたとはいえ、リリィにとって王都は第二の故郷とも言えるのだ。
「ふう……やっぱり王都は相変わらず賑やかね。ルーダも情緒があってよかったけど、私はやっぱり王都のこの賑やかさの方が好きかも」
エリザベスも懐かしそうに、街並みを眺めている。
彼女は王家の一族である公爵家の令嬢。本家は公爵領地にあるが、幼い時から王都を訪れていた。
また王国騎士となってからは、王都に長く滞在していた。
だからエリザベスにとっても王都は、第二の故郷とも言える場所なのだ。
「それにしても北門の警備兵は、私のことに気がつかなかったわね?」
先ほどオレたち一行は、入場のための検問を受けた。
本来ならばオレたち一行は、お尋ね者ばかり。
だが誰ひとり怪しまれずに、無事に通過できたのだ。
「私はこれでも王国の重要人物なのに? ねえ、オードル?」
警備兵にスルーされて、エリザベスは逆に心外だったのであろう。
少しだけ不満そうにしていた。
「末端の兵士や騎士は、公爵令嬢の顔などは覚えていないからな。それにリッチモンドの用意してくれた、この王国市民証のお蔭だな」
今回使った王国市民証は、リッチモンドが用意してくれたもの。
ルーダの街で地位ある人物の紹介状なら、王都の検問も顔パスに近いのであろう。
「それにエリザベスは、だいぶ雰囲気が変わったからな。それで誰も気がつかないのだろう」
今のエリザベスは一年間と、かなり雰囲気が違っている。
公爵令嬢というよりは、流れの女傭兵に見える。
「えっ? 私、そんなに変わったの、オードル?」
自分の変化は自分では分からないものだ。
指摘されてエリザベスは驚いていた。自分の腕や足を見ながら、変化した部分を探そうとしている。
「ああ、そうだな。上手く説明できないが、かなり“庶民的”になってきたな」
王都にいた時は、エリザベスは近寄り難い空気を発していた。“剣姫”と呼ばれ、剣の道に生きてきた。
だが今は以前とは違う。
当時と比べて、一般的な雰囲気が身についている。
髪型や顔立ちは変わらない。上手く説明できないが、パッと見の雰囲気が柔らかくなっていたのだ。
「えっ、私が庶民的?」
以外な指摘に、エリザベスは更に驚いていた。
少し不安そうな顔をしている。年頃の乙女としては、微妙な褒めこばなのであろう。
「マリア、今のエリザベスお姉ちゃんも好きだよ! 優しくて、元気なお姉ちゃんが!」
「私もです。今のエリザベス様には、穏やかな大地女神のような温かさもあります」
不安そうにしていたエリザベスに、マリアとリリィがフォローする。
以前の女騎士エリザベスも勇ましいが、“今のエリザベス”の方が格段に魅力的だと。
なるほど。そう言って褒めればいいのか。
さすがは女子同士は言い方が上手いな。
「そうかしら……」
「オレも今もエリザベスは嫌いではない。これからも頼りにしているぞ」
「オードルまで⁉ わ、わかったわ! これからも頑張るから!」
謎の落ち込みからエリザベスは復帰する。
いつもの頼もしい笑みを浮べて胸を叩く。
相変わらず元気な奴だな。
だが前向きで何事に対しても回復が早いのが、エリザベスの長所。
『ワンワン!』
腹が減ったのであろう。タイミングよくフェンが鳴き声を上げてくれた。
さあ、雑談もここまで。早く先に進むぞ。
「オードル様、今回も先に学園に向かうのですか?」
これからの行く先について、リリィに尋ねられる。
前回のルーダの時は、入学の手続きにむかったのだ。
「いや、今回はリッチモンドの紹介状がある。学園の方は後からでも大丈夫。だから今回は先に家探しを行う」
上位学園への手続きは、明日以降でも問題ない。
長旅の疲れを癒すために、まずは寝床探しをするとしよう。特に今回は前回よりも長い道のりだったからな。
「それなら今回も屋敷を買うの?」
「いや、エリザベス。今回は屋敷は止めておく。見つかる危険があるからな」
庭付きの屋敷は上級市街地に多い。
この一行は王都には顔見知りが多い。
だから今回は屋敷を買うのは愚策なのだ。
「それならどうするのですか、オードル様?」
「長期型の貸家にする。オレにアテがある」
王都には長いこと住んでいた。
だから逆に土地勘もある。顔見知りに見つからないために、考えがあるのだ。
「さあ、いくぞ」
こうしてオレたちは滞在先を探すために、中級市民街に向かうのであった。
 




