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戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【第3章】王都編

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第57話:新たなる日常

 ルーダの街から村へ戻ってから、2ヶ月が経つ。

 オレたち一家は前と変わらず、村で平和に暮らしていた。


 体力系担当のオレと女騎士エリザベスは、村の農作業や開墾作業に手伝う。

 マリアも元気に村の友だちと遊び学んでいた。


 新しい住人である聖女リリィも、村人に歓迎されていた。

 村に一人だけいるパン職人に教わりながら、毎日のようにパンを焼いていた。


 最後に白魔狼のフェン。

 前と同じように村の周囲の哨戒しょうかいを頑張っていた。


 この2ヶ月間、みんなで一緒に村でゆっくりと過ごしているのだ。


 ◇


 そんな生活の中。

 今日は朝早くから、エリザベスとフェンの三人で“ある場所”に挑んでいた。


 場所は村から少し離れた深い森。その外れにある石造りの遺跡。

 つまり三人で古代遺跡の探査に挑んでいたのだ。


 ルーダの街から帰郷してから、オレは古代遺跡の探索を積極的に行っていた。

 今回でもう数度目の遺跡探索となる。


 目的は旧友リッチモンドのための古代品を探すこと。

 あとはオレの腕が鈍らないようにするため。ついでにエリザベスとフェンの鍛錬も兼ねている。


「フェン、右だ!」

『わかったワン、エリザベス!』


 今もちょうど、フェンとエリザベスが、巨大な獣と激戦を繰り広げている。

 今回見守り役のオレは、手を出さない約束。


 相手は鋭く尖った牙をもった、巨大な虎の魔獣……赤大虎あかおおとらだ。

 こいつは炎のように真っ赤な体毛をもつ、森の強者である。


 そんな赤大虎との戦いは激しく続いていた。

 だがついに決着の時が来ようとしていた。


『よし! 捕えたワン!』


 赤大虎の喉元を、フェンの鋭い犬歯が捕える。

 何度もアタックして、ようやく掴んだ好機だ。


『エリザベス!』

「ああ、でかしたぞ、フェン!」


 好機を逃す二人ではない。そのまま一気にエリザベスが斬りかかる。

 鋭い斬撃で、首元を一刀両断。見事に赤大虎を倒したのだ。


 頭部を失った赤大虎の胴体は、大きな音を立てて遺跡の床に倒れ落ちる。


『ナイスだワン、エリザベス!』

「フェンも見事な飛び込みだったぞ」


 危険な魔獣との戦いを終えて、二人は勝利に深い息を吐く。

 今まで戦いの疲れが、一気に込み上げてきたのだ。


(ん?)


 そんな時、絶命したはずの赤大虎の前足が、ピクリと動く。


「油断するな、お前たち!」


 監督していたオレは、エリザベスの槍で赤大虎の魔核を貫く。

 これで完全に止めは刺した。

 もう大丈夫であろう。


『なんと……まだ死んでいなかったのかワン⁉』

「凄まじい生命力だな」


 赤大虎の生命力の強さに、二人も驚いていた。

 何しろ首を切断しても、まだ攻撃を仕掛けようとしてきたのだ。

 普通の獣では有り得ない生命力である。


「魔獣の中には、しぶとい個体もいる。覚えておけ、お前たち」


 魔獣は普通の生き物とは違うことわりの中で、存在している。

 首を斬り落とそうが、心の臓を貫こうが油断はできない。


 唯一の弱点である魔核を破壊するまでは、絶対に油断してはいけないのだ。


『わかったワン、オードル! 気をつけるワン!』

「私も肝に銘じておこう」


 フェンとエリザベスは反省しながら、心に止めてくれた。

 二人は戦闘の才能があるが、未熟な部分も多い。


 だが他人のアドバイスを聞く、素直な心を持っている。

 経験さえ積んでいけば、今後はもっと腕を上げていくであろう。


「さあ、魔獣を倒したことだし、遺跡に探索に行くぞ」


 ここに来た本来の目的は、魔獣討伐が半分。

 残りの半分は古代遺跡に探索が目的であった。


 オレたち三人は、森の中の遺跡を調べていく。


『今回もお宝は無さそうだね、オードル』


 先行して危険を探知してフェンが愚痴る。

 見つかるのは古代に書かれた書物ばかり。金銀の財宝は皆無なのだ。


「そうだな。古代遺跡とは、そういうものだからな」


 この大陸には今から昔に、栄えていた文明があった。

 ほとんどの文明が失われているが、辛うじて残っているのが古代遺跡。


 大陸の各地に残る遺跡の奥には、こうして古代書物が発見されることもあるのだ。


「古代遺跡というから最初はお宝を期待していたけど、残念ね、オードル」


 エリザベスが落胆するように、古代遺跡からは財宝が発見されることは無い。

 見つかるのは解読難解な書物だけなのだ。


「古代文明では金銀財宝は価値が無かったとされている。だから残っていない。まあ、これもリッチモンド受け売りだがな」


 大陸各地の遺跡は、今でも手つかずに放置されている場所が多い。

 理由は魔獣が巣くっている確率が高いからだ。

 そのため一般人は発見しても近づくことはない。


 また金目当ての傭兵や探索者も、遺跡を調査することは少ない。

 何しろ魔獣に食い殺される危険に比べて、入手できるのは価値の少ない書物ばかり。


 つまり古代遺跡を探索する者は、古代書コレクターだけなのだ。


「よし、ここにある古代書はこれで全部だな」


 遺跡を一周して、探索は全て終わった。

 一般的な遺跡には罠などは仕掛けられていない。魔獣さえ倒してしまえば、危険は少ないのだ。


「さあ、入り口に戻るぞ」


 これ以上は内部に滞在する意味はない。オレたちは戻ることにした。

 見つけた書物はエリザベスの愛馬に乗せておく。

 書物はリッチモンドに寄付する予定。ある程度、数が溜まってからルーダの街に持っていく。


 古代文明を研究している旧友にとっては、最高のプレゼントになるであろう。


「よし、あとは、この赤大虎もオレの荷台に積むぞ」


 倒しておいた赤大虎は、血抜きだけはしておいた。

 かなりの重量があるので馬では不可能。村までオレが引っ張っていく。


 魔獣の素材は街に持っていけば、かなりの高額で買い取ってもらえる。

 危険な遺跡探索の中でも、唯一の報奨金となるのだ。


 まあ、それでも一般の探索者にとっては、命には釣り合わないが。


「さて、今回の魔核は、どうするかな……」


 赤大虎の体内から、怪しげに光る宝玉を取り出す。

 これは魔獣の生命エネルギの源である魔核。魔獣の強さに比例して大きさが違う。


 魔核も街に持っていけば、商人や貴族に高額で買い取ってもらえる。

 今回の炎大虎はまずまずの大きさ。

 市場価格にして、大きな屋敷が買えるくらいの価値はあるであろう。


「私は金には興味がない。だから、フェンに譲っていいぞ、オードル」


 今回の赤大虎は、エリザベスとフェンだけで倒した。

 半分の所有権があるエリザベスは、辞退してくる。エリザベスはあまり金銭に興味がないのだ。


 よし。それならフェンに食わせてやるか。


「フェン、口を開けてくれ」

『待ってましたワン!』


 上位魔獣は、他の魔獣の魔核を食らうことができる。

 白魔狼のフェンも同様。

 口を大きく開けて、魔核を飲み込んでいく。


 大きな魔核を飲み込んで、フェンはゲフッとゲップする。

 この大きさを一気に飲み込みとは、相変わらず食いしん坊っぷりだな。


『うう……おお……』


 しばらくしてからフェンに変化がある。

 飲み込んだ魔核が、体内に吸収されたのだ。

 前よりも強い力が、フェンの身体から感じられる。


 これで白魔狼フェンは前よりもパワーアップしたのだ。


「さて、終わったらところで、村に帰るぞ。マリアとリリィが晩ご飯を作ってくれているはずだ」


 マリアとリリィは戦闘力が低い。

 だから古代遺跡の探索には二人は連れてきていない。

 村の家で留守番をしてもらっているのだ。


『晩ご飯! 今日は何か、楽しみだワン!』


 夕飯のことを聞いて、フェンは誰よりも早く駆けだす。

 たった今、あんなに大きな魔核を食べたばかりなのに、何という食欲の強さ。


 もしかしたら魔核と食欲は、別の体内器官なのかもしれない。

 いつかリッチモンドに教えておいてやろう。学会で発表したら大発見になるかもしれない。


「それじゃ、私たちも行きましょう、オードル」

「ああ、そうだな」


 魔獣の戦利品を持って、村に帰還。

 これがここ2ヶ月のオレたちの日々の暮らし方であった。



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