表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【第2章】学園都市編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/130

第56話:第二部エピローグ

本日2話目の連続の更新となります。

 ルーダの街を旅立つオードル一行の姿を、“遠く”から見ていた者がいた。

 美しい顔の女である。


 だが能面のように表情が、その美しさに怪しさをかもし出していた。


 歳は二十代のなかば位であろうか?

 若くも見えるが、大人の女性にも見える。薄いローブの上からでも分かる、妖艶な身体つきだ。


『マリア……』


 女がじっと見ていたのは、一行の中の銀髪の幼女であった。

 旅路に興奮しているマリアの姿を、静かに見つめている。


『街を離れるのね……』


 一行は街を離れて、これから村に戻る。

 だが女の計画に支障はない。マリアが住む場所は、それほど重要ではないのだ。


『あの戦鬼さえ側にいれば、問題はない……』


 女にとって重要なのは、マリアの側に“戦鬼”と呼ばれる男がいることなのだ。


『マリア、私の期待の通りに、成長してちょうだい……』


 女にとってマリアは観察対象であった。

 今のところ自分の手で、観察に介入するつもりはない。運命の歯車に委ねて、成長を見守っているのだ。


『ん? 笑った?』


 そんな時、マリアが笑った。

 戦鬼に高く抱きかかえられて、マリアはひときわ笑顔になったのだ。

 この世の全ての幸せを集めたような表情だった。


『こんな嬉しそうな顔は、初めて見たわ……』


 女は無意識的に眉をひそめる。

 嬉しそうに顔をしているマリアを見て、不思議な感情が込み上げてきたのだ。


 自分には見せてくれなかった顔を、マリアは戦鬼に見せた。そのことに対して自分の感情が、微かに揺れていたのだ。


『この感情は何?』


 高度な知能をもつ女でも、知らない自らの感情の変化。それは“母性”という親の感情である。


『マリア……私の娘……』


 女にとってマリアは“娘”にあたる存在だった。

 六年前に自分で産んだにも関わらず、未だに女には実感がない。母性という感情が理解できないのだ。


『戦鬼……マリアの父親……』


 同じく“夫婦の愛情”いう感情も理解できない。女にとって戦鬼は、利用しただけの存在なのだ。


『ん? こちらに気がついた……だと?』


 その時、女は驚愕した。

 戦鬼が鋭い眼光で、こちらを睨んできた。自分の存在に気がついたのだ。


 こちらの正体には気が付いてはいないであろう。

 だが“誰かに見られている”ことに戦鬼は勘付いたのだ。


『あり得ないことだ……』


 女が驚くのも無理はない。

 ここから戦鬼一行がいる場所は、遠く離れている。

 山脈を何個も越えた先。向こうから肉眼で、感知されるはずはないのだ。


『戦鬼……やはり危険な存在。今の月の位置では、ここまでにしておくか……』


 女は嫌な汗をかきながら、“遠見の術”を解除する。これ以上の観察は危険だと、判断したのだ。


『戦鬼……人族最強の戦士……』


 改めて驚愕する存在。

 普通ではない勘の良さ。尋常ではない強靭な肉体と魂。


 だからこそマリアを生み出すために、利用したのだが。


『戦鬼……オードルとマリア……か』


 家族と呼べる者たちの名を、女は最後につぶやく。失った自分の感情が、甦ることを期待して。


『無駄だったか……』


 だが何の感情も、込み上げてこなかった。

 失った自分の感情は、もう二度と戻らないのだ。


『さて、そろそろ戻らないと……』


 女は能面のような表情に戻る。


 そして暗い闇の奥へと、音もなく消えていくのであった。


















これにて第二部『ルーダ学園編』は終わりとなります。


少し時間をいただいてから、第三部『王都凱旋編』をスタートします。


オードルとマリアを取り巻くストーリーが、一気に進展していきます。お楽しみでお待ちください。





ここまでの感想と評価をいただけ、作者である私も凄く嬉しいです。

お気軽にどうぞです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ついにマリアの母親が登場かー セリフからすると純粋な人間族ではない感じかね。 ここからオードル家族にどう絡んでくるのか楽しみ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ