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第32話:入学の受付

 入学の手続きのために、オレたちは街の中心地にある学園に向かう。

 そして厳重な警備の学園の正門に到着する。


「ここは随分と厳重な警備なのだな、オードル?」

「そうだな、エリザベス。ここは王国内の金持ちの子が入学する、特殊な場所だからな。その分だけ厳重なのさ」


 この街の学園は少し特殊な創設だと聞いたことがある。

 なんでも、ここは元々、古代文明を研究するための場所であった。


 だが、いつの間にか勉強を学びたい若者が集まるようになった。

 しかし学問には金がかかる。

 そのため金持ちの子で、なおかつ学のある子どもが増えていく。


 だから今では、貴族か大商人の子どもが、この街の学園で勉強しているのだ。


「そういえばエリザベスは、ここに入学していないのか?」


 エリザベスは腐っても公爵家の大令嬢である。

 その割には、この街の学園のことに詳しくない。


「わ、私は勉学よりも、剣の方が好んだ。だから、勉強は家庭教師から学んだ」


 なるほど、そういうことか。

 エリザベスらしい幼少期だな。


 それでも彼女と同じように、学園に通わない貴族の子も多い。

 ここが“本当に勉強が好きな子ども”だけが入学する場所なのだ。


「さて、入学の受付の場所があったぞ」


 学園の正門の奥に、目的の建物が見つかった。

 “ルーダ学園、新入生受付場所”と看板がある。


「エリザベスたちは、少しここで待っていろ。マリアと入学の手続きをしてくる」


 今回入学するのはマリアだけ。

 エリザベスとリリィ、フェンの三人は外で待ってもらう。


 ここは警備も厳重である。

 それに何かあったらフェンの念話がある。

 置いていっても、大丈夫であろう。


「さあ、いくぞ、マリア」

「うん、パパ。楽しみだね!」


 こうしてオレとマリアは入学の手続きに向かうのであった。


 ◇


 建物の中に入り、オレは受付の担当者に声をかける。


「ん? 失礼だが……入学を希望するのは、その女の子か? 当学園の初等科は、基本的に7歳から入学だぞ?」


 担当者の反応は、あまり良いものではなかった。

 まだ幼いマリアを見て、驚いている。

 むしろ冷ややかな目で見てきた。


「たしかに、この子は5歳だ。だが聞いた話では、学力があれば、幼い子でも入学できるはずだ、このルーダ学園は?」


 そんな担当者の冷ややかな視線を気にせず、オレは反論する。


 何しろオレは前にこの街に住んでいたことがある。

 その時、この学園に勤めていた旧友がいた。


 そいつから前に聞いた話では、この学園は才能ある者を尊重すると。

 学力さえあれば、6歳以下でも入学できるはずなのだ。


「まあ、一応はそうですが……じゃあ、この問題を解いてもらいます。全問正解なら、入学を許可します」


 担当者は面倒くさそうに、紙を取り出す。

 マリアに渡して、受付の横のテーブルを指差す。


 なるほど。

 あそこで問題と解け……ということであろう。


「ところでお嬢ちゃん。字の読み書きはできるのかい?」

「うん! 字を書くの、マリア好き! テストも好き!」


 男の皮肉も、純粋なマリアには通じない。

 マリアは嬉しそうにテーブルに駆けていく。

 そして笑顔で問題に挑戦しはじめるのであった。


「とろで、あんたが保護者さん? 紹介状とかあるの?」

「紹介状だと? そんな物が必要なのか? 聞いたことがないぞ?」

「貴族以外には必要なのさ。何しろ当学園は由緒正しいからね」


 そう言いながな、担当者はイヤラシイ笑みを浮べていた。

 みすぼらしい格好のオレとマリアを、明らかに見下した目つきをしている。


 ちなみにオレも平時は覇気や殺気はゼロにしている。

 だから一般人に思われているのであろう。


(やれやれ……どこの場所にも、こういうヤツはいるんだな……)


 この程度の小物にいちいち反応していては、傭兵などやっていられない。

 男の皮肉の視線もサラリと流しておく。


(だが紹介状か。これは困ったぞ……)


 そんな大層な物は用意していない。

 昔、学園関係者の旧友から聞いた時も、そんな話はなかったはずだ。


(ん……そうだ)


 そんな時。

 オレはあることを思い出した。


 昔の旧友……この学園関係者から貰った記念品が、手元にあったのだ。


(たしか、ここに入っていたよな……あった、これだ)


 オレは懐の財布から、小さなメダルを取り出す。

 これはこの都市で世話した旧友から貰った、友好の証。


 たしかアイツは学園でも偉い地位にあったはず。

 これなら何かの紹介状になるかもしれない。


「このメダルが紹介状にならないか?」

「あん? メダルだと?」


 担当者の態度は、もはや悪態に変わっていた。

 もうオレたちのことを受け付ける、気持ちはないのであろう。


 だが、そんな態度に構っている暇はない。


「ああ、そうだ。この学園にいるはずの、リッチモンドという男から貰ったメダルだ」

「リッチモンド副学園長だと? そんなバカな話はあるか……あっ⁉ 本当だ……副理事長の刻印がある⁉」


 担当者の態度が一変する。

 オレの出したメダルを確認して、飛び上がって驚愕していた。


 目を見開き驚き、次に顔を真っ青にしていく。


(リッチモンドの奴……副学園長だと? 出世したのか、あいつ?)


 旧友がそれほど昇進していたとは、オレも予想していなかった。

 昔は普通の真面目な研究員だったような気がする。


「パパ、おわったよ!」


 そんな時である。

 テストをしていたマリアが声を、元気よく上げる。

 渡されていたテストを、全部解き終えたのだ。


「先生、できたよ!」

「ああ……そうかい、お嬢ちゃん。随分と早かったな……なっ……なんだと、全問正解だと⁉」


 放心状態にあった男は、マリアの解答用紙を見て更に驚く。

 口をパクパクさせて、魚のように驚愕していた。


「そ、そんな……これは10歳用の難問だったのに……そんな……こんな小さな子が、この短時間で……」


 男は誰にも聞かれないように、そう呟いていた。

 だが五感の鋭いオレには、丸聞こえである。


 なるほど、そういうことか。

 この男は初めからマリアのことを、受け付けるつもりはなかったのであろう。

 まだ5歳であり、平民の子として差別していた。


 そこで新入生には絶対に解けない、10歳用テストを渡していたのだ。

 だが、マリアはまさかの短時間での全問正解。

 だからここまで担当者は、度肝を抜かれていたのだ。


「さて、どうする? 念のために、この解答用紙に、メダルで刻印のハンコを押しておいてやる」


 形勢逆転である。

 オレはメダルをハンコ代わりに、刻印をバンと押す。

 これで男も証拠隠滅はできないはず。

 何かあれば詐称になってしまうのだ。


「これでリッチモンドの奴に確認してこい!」


 そして最後の部分で、闘気を少しだけ発する。


 担当者だけにブツける指向性の闘気術。

 少しだけ強迫性もあるヤツだ。


「は、はい! わ、分かりました! 入学テストは合格です! 明日の朝に、この場所に行ってください。そこで説明があります! あと、来週に入学の儀があります!」


 オレの強い言葉に、担当者は震えあがる。

 担当の男は一気に態度を改め、急に敬語になった。


 丁寧に態度で、紙を渡してきた。

 これからの学園生活に必要な内容が、書かれているものだ。


「そうか。それではウチの娘が世話になるぞ」

「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いいたします!」


 こうなったら担当者も不正な行為はしないであろう。

 安心してオレも任せられる。


「マリア、合格おめでとう」

「ありがとう、パパ! 入学、楽しみだね!」


 マリアはルーダ学園に無事合格。

 こうして学園生活が始まるのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いやぁ~、今回のチンピラ職員はリッチモンドさんにチクって懲戒して貰った方が…と思ったが、そうするとリッチモンド経由でオードルが生きているのがバレてしまう可能性があるのか… まぁ、もし今後…
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