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第31話:学園都市ルーダ

 聖女リリィを助けた日の午後。

 オレたち一行は目的地の街に到着した。


 ◇


 王国第三都市“ルーダ”。

 国内で一番大きな学園があるために“学園都市”とも呼ばれる街。


 自分の子どもを学園に通わせるために、昔から貴族や金持ちは街に別宅を建ててきた。

 その関係者に対して、商品を売る商人や職人が、どんどん増えていく。


 その商人や職人を相手に、更に商売をする者たちも住み着いていった。

 こうして独自の発展を遂げているのが、ここ学園都市ルーダなのだ。


 ◇


 そんなルーダの街は、堅牢な城壁に囲まれていた。

 オレたち正面にある城門で、通行税を払い街の中に入る。


「すごい! すごい、大きい街だね、パパ!」


 街の中の入りマリアは周りをキョロキョしながら、大はしゃぎだった。

 生まれて初めて大きな街にやってきたから、仕方がない反応であろう。

 笑顔で目を輝かせている。


「これが街……ですか。街はこんなにも、賑やかなものなのですね、オードル様」


 リリィも街並みを見て、深く感動していた。

 彼女は幼い頃に、田舎の村から大聖堂に連れていかれた。

 それ以来は大聖堂の中だけで、隠されて暮らしてきたという。


 だから、リリィも大きな街を見るのは初体験。

 こんなにも感動しているのだ。


 ちなみにリリィは変装のために、聖女の衣を脱ぎ捨てていた。

 今はエリザベスの私服を着ている。

 これなら誰も聖女だとは思わないであろう。


「ここが第三都市ルーダか? なかなかの街だな。でも、王都の方が栄えているぞ、オードル?」


 女騎士エリザベスはレイモンド公爵家の令嬢である。

 だから大きな都市には慣れていた。

 冷静に街並みを観察している。


「ん? オードル、あれはなんだ⁉ 大きな塔があるぞ! あんなに変わった建築物は、王都にもなかったぞ!」


 だがエリザベスもまだ若い16歳の少女。

 初めて訪れた都市の文化に、大興奮しはじめる。


「あれは学園のシンボルタワーだ、エリザベス。この大陸も貴重な古代書が、たくさんあるらしい」

「なるほど。さすがはオードル。博学だな」


 このルーダの街にオレは、何度か訪れたことがある。

 過去の傭兵団の仕事で、短期だが滞在していたのだ。


 だから、ある程度の地理や情報は知っている。


 とりあえず、一緒に来たのは、これで全員か?

 荷物を積んだエリザベスの愛馬も、一向にいるが。


『ワン!』


 ああ、そうだったな、フェン。

 お前のことを忘れていたな。


 白魔狼族の危険な上位魔獣。

 だがフェンの見た目は、普通の子犬。

 城門の検査も難なく通過していた。


『ワンワン!』


 なんだと、自己紹介じゃないだと?

 あっちから、いい匂いがするから、食べてみたいだと?


「パパ。フェンの見ている、あのお店はなに?」


 フェンの鳴いている方向を、マリアも気にしている。


「あれは屋台料理の店だ。金を払って、歩きながら食べる」


 街の大通りには、出店が沢山並んでいた。

 街に入った観光客や、通行人に対して商売をしているのであろう。

 売り子たちは威勢のいい声で、客引きをしている。


「歩きながら、食べる? 楽しそうだ! でも、パパ、おぎょうぎ悪くなるよね?」

「屋台では大丈夫だぞ、マリア。どれ、皆で買って食べよう」


 大きな街に来たことがないマリアに、屋台料理を買ってやることにした。

 これもマリアが成長するための社会勉強。


 今回買うのは、こんがりと焼いた鶏肉を刺した串焼き。

 これならマリアも食べられるであろう。

 ついでに他の2人1匹にも買っておく。


 よし。みんなで頂くとするか。


「いただきます! もぐもぐ……うん、おいしい! おいしいね、パパ!」


 初めて食べる屋台料理に、マリアは感動の声を上げる。


 大きく口を開けて、口の周りにタレをつけないように食べていた。

 こういった気づかいは、少しずつレディーとして成長して証であろう。


「本当ですね、マリア様。屋台料理……本当に美味しいですわ」


 同じく初めて屋台料理を食べるリリィも、感動していた。

 神に祈りを捧げながら、美味しそうに食べている。


「まあ……ルーダの街の屋台も、なかなか美味しいな」


 エリザベスも文句を言いながらも、串焼きをほお張っていた。

 よほど王都の暮らしとし比較したいのであろう。


 だは、エリザベス。

 その口の周りに、タレが付いているぞ。

 かなり美味しいのであろう。

 あまり無理はするな。


『ワンワン! ワンワン!』


 一番食いしん坊なフェンは、早くも2本目に移っていた。

 本来の白魔狼の食欲は凄まじい。

 このままペースでいけば、屋台ごと料理を食いつくしてしまう勢いだ。


「あっ、リリィお姉ちゃん! あっちの屋台も美味しそうだね!」

「本当ですわ、マリア様。甘くて、いい香りですね……」


「よし、それなら、この私が買ってやろう!」

「ほんとう、エリザベスお姉ちゃん⁉」

「ああ。何しろ私はこの中で、一番のお姉さんだからな! はっはっは……」


 マリアとリリィ、エリザベスの三人娘は、いつの間にか別の屋台へと移動していた。

 果物を甘い蜜でコーティングしたお菓子を、買って食べ始める。


「美味しいね! ありがとう、エリザベスお姉ちゃん!」

「礼には及ばんぞ、マリア。……ああ、本当に、この菓子は美味いな!」

「本当ですわ。ほっぺたが落ちそうな甘さですわね」


 三人はお菓子を食べながら、満面の笑みを浮べていた。

 それぞれ人生に事情がある少女たち。

 だが、今は何の屈託もない笑顔で、屋台料理を楽しんでいる。


「さて、そろそろ移動するぞ。このペースだと日が暮れてしまう」


 この街には観光に来た訳ではない。

 それに住みはじめたら、屋台にはいつでも来ることができる。


 オレは様子を見ながら、移動を開始することにした。


「なあ、オードル。まずは、どこに行くのだ? 宿屋? それとも案内所か?」


 後ろをついてきたエリザベスは、訪ねてきた。

 オレたち一行は引っ越しの道中。

 かなりの大荷物を持って移動している。


 普通ならエリザベスの言う通り、寝床を探すのが適切であろう。


「いや、まずは学園に向かう。そこでマリアの入学の申し込みをしておく。宿はその後に探す」


 だが街の中央にある学園に、オレは向かうことにした。

 何しろ学園に入るには、入学の申し込みが必要である。


 時期的にもうすぐ“入学の儀”もあるはず。

 だから宿屋の前に、学園に向かいたいのだ。


「さあ、学園にいくぞ」


 こうしてマリアの入学の手続きのために、オレたち一行は学園と向かうのであった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一年は生活するのだから、2日目以降はなるべく早く借家を探すのがベストだよね。 まぁオードルなら木材さえあれば自分で家建てちゃえるけど…
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