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第28話:怪しげな賊

 怪しげな野盗に襲われていた、聖教会の馬車を発見する。

 オレは馬車を助けるために、その戦いの中に突撃していく。


「素顔がバレるのは面倒だな。また、この仮面の世話になるか」


 駆けながら、ポケットから仮面を取り出し、装備する。

 これはエリザベス襲来の時に使った、村の民族祭り用の仮面。

 目元だけを隠すので、変装にけっこう便利。

 そのまま持ってきてきたのだ。


 よし。これで準備は万端。

 あとは戦いを収めるだけだ。


「賊の数が多くて面倒だな? よし、飛ぶか……っ!」


 馬車を包囲している賊は40人以上。

 だからオレは地面を強烈に蹴り出し、空中に舞う。


「あの辺に落ちるか?」


 そのまま落下の力を使い、馬車の前……賊の囲む中心地に、ドンと着地する。


「ふう……さて、多勢に無勢とは、少し卑怯ではないか? そこまでにしておけ、お前たち!」


 囲んでいる賊に聞こえるように、オレは大声で叫ぶ。

 かなり目立ってしまったが、時間をかけている場合ではない。


 何しろオレが到着した時点で、馬車の護衛の戦士たちは全滅していた。

 残るは馬車の中から感じる、一人だけの気配しかないのだ。


「なんだ、テメェは⁉」

「どっから落ちてきたんだ、こいつは⁉」


 野盗たちは驚いていた。

 これも仕方がないであろう。

 何しろ仮面を被った大男が、空から舞い降りてきたのだ。


 オレが逆の立場でも、間違いなく驚く。

 だが今は、そんなことに気をつかっていられない。


「オレは通りすがりの一般人だ。理由は知らないが、聖教会の馬車を襲うとは、やり過ぎではないか? この辺で止めておけ」


 唖然とする野盗に向かって、オレは叫ぶ。

 この戦いは既に決着がついている。

 これ以上の無益な殺戮は、戦いの神に無礼だと説得する。。


「通りすがりの一般人だと⁉」

「こんな怪しい一般人が、いるわがねぇだろうが! テメェ名者だ⁉」

「関係ない奴は消えろ! お前も殺すぞ!」


 どうやら説得は無理そうであった。

 野盗側はかなり殺気だっている。

 剣先を向けながら、ジリジリとこちらに迫ってくきた。


「では仕方がないな。オレは聖教会の熱狂的な信者だ。こちらに加勢させてもらおう」


 野盗側に宣戦布告する。

 もちろん無神論者のオレは、聖教会の信者ではない。


 だが、これで敵味方の区別がつきやすいであろう。

 馬車の中の生き残りに、自分の存在を伝えるためにも有効な嘘なのだ。


「構わん、そいつも皆殺しにしろ!」

「「「はっ!」」」


 指揮官らしき男の指示に、野盗たちは返事をする。

 数人の野盗が、オレに斬りかかってきた。


「一応は訓練されてはいるが、偽装工作は素人か……っ!」


 今の相手のやり取りで、相手の指揮官の場所が判明した。


 オレは闘気を解放して、一気にジャンプする。

 その衝撃で馬車の窓が吹き飛ぶ。

 中から少女らしき悲鳴が聞こえてくる。


 すまないことをしたな。

 だが今は、そんなことに構っている暇はないのだ。


「ふう……」


 オレは馬車の前からジャンプして、一気に敵陣のど真ん中に着地する。


「さて、お前がこの部隊の指揮官だな?」


 降り立ったのは、先ほどの指揮官らしき男の目の前。

 闘気術を使ったジャンプで、一気に間合いを詰めたのだ。


「こ、この距離を⁉ テ、テメエ、化け物か⁉」


 善良な村人のことを、“化け物”とは酷いな。


「死にやがれぇ!」


 そんな酷い言葉を吐きながら、指揮官は斬りかかってきた。

 一応は訓練されているが、それほど鋭くない。


「遅すぎるな……っ!」


 もう少し対人戦を鍛錬しておいた方がいいぞ?

 オレは相手の剣先を素手で砕き、そのまま指揮官の顔面を殴りつける。


「うぐふぅう⁉」


 指揮官は声にならない叫びと共に、吹き飛んでいく。

 手加減をしたパンチなので、殺してはいない。


 だが数日は目を覚まさないであろう。


「隊長⁉」

「テメェ、よくも隊長を!」

「死にやがれぇ!」


 自分たちの指揮官を殴り殺されたと思い、野盗たちは逆上する。

 剣を振りかざし、一気に襲いかかってきた。


「やれやれ、殺してはいなんだがな」


 幼いマリアが近くにいる。

 だから平和的な解決を試みたのだが。


 どうやら力ずくで解決するしかないのか?


「とりあえず、10人ほど眠ってもらうとするか」


 野盗の剣先をかわしながら、オレは反撃に移る。

 カウンター攻撃で、一気に二人を拳で吹き飛ばす。


 そのまま流れる動きで、更に三人を吹き飛ばす。

 更に追加で5人を吹き飛ばす。


 これで合計10人か。

 全員が顔面陥没で、地面にうずくまっていた。


「こいつ……化け物か……動きが見えねぇぞ⁉」

「だが素手だ! 殺せ!」

「そうだ! 囲め!」


 やれやれ。

 これだけ見せても、まだ実力差に気がつかないのか?


 野盗たちは更に逆上して、斬りかかってきた。


 こうなった仕方がない。

 あと10人ほど眠ってもらうとするか。


「死ぇえ!」


 野盗たちは群がって斬りかかってきた。

 だがオレは全ての攻撃を回避。

 同時に拳のカウンターで反撃する。


「うぎぇぇえ!」

「ほぎゃぁああ!」


 野盗たちは次々に吹き飛んでいく。

 オレは更に攻撃しながら流れるように移動。

 拳を振り回し倒していく。


 さて、これで20人目か?

 さて、相手も怯みだしたから、そろそろ、頃合いか?


「ふう……『去れ。さもなくば、ここから先は手加減しないぞ!』」


 その言葉を殺気と共に発する。

 覇気を全身から放出させて、野盗側の全員にぶつけていく。


「ひっ、ひぃ……」

「あわわ……あわわ……」


 オレの周囲にいた数人は、恐怖のあまり気絶してしまう。

 小便を漏らして、恐怖で身体を震わせていた。


「こ、こいつは……ヤバイ……」

「くそっ! 撤退だ!」


 他もの野盗たちも、恐怖で逃げ出して始める。

 この時のために副官らしき男は、わざと残しておいた。

 そいつが命令を下して、野盗たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 残存野盗は恐怖で正気を失っていた。

 だから気絶した隊長と、仲間を見捨てていったのだ。


「だが馬車だけは、何とかしろ! 橋から突き落とせ!」


 賊の副官が撤退しながら叫ぶ。

 橋の上に残った、馬車を始末しろと。


(はやり、そうきたか……)


 その命令をオレは読んでいた。


 何しろ、相手は、馬車の中の人物を執拗に狙っている。

 恐らくは事故死に見せかけて、中の人物を殺したいのであろう。


 それでなければ真っ先に、馬車に火矢でも放つのが、戦いのセオリーなのだ。


「副隊長! 馬車を落としてやりました!」

「よし! 作戦は成功だ! 撤退だ!」


 残存賊は馬車を谷底に突き落とす。

 そして一目散に撤退していく。


「よし、今だ!」


 その瞬間をオレは見逃さなかった。

 相手の死角から、谷底を一気に駆け下りていく。


「よし、いたぞ!」


 落下している馬車に、闘気術で一気に追いつく。

 そのまま馬車の扉を粉砕して、中で気絶していた人物を助け出す。


 更に馬車から離脱して、

 崖に生えている木に飛び移る。


「ふう……少し、ギリギリだったな……」


 間一髪だった。

 谷底に落ちて木っ端みじんになる馬車を、見つめながら息を吐き出す。


「だがこれで、アイツ等は、この少女が死んだと、思っているであろうな」


 あのまま野盗を全滅させることは簡単だった。

 だが、そうなれば確実に遺恨が残る。


 奴らは兵を集めて、この少女のことを追跡してくるであろう。

 だからオレは一芝居をうった。

 ワザと馬車を落とさせて、アイツ等に確証を持たせたのだ。


「さて、そろそろ、いいか?」


 崖上の気配をさぐる。

 野盗の残党は、どこか遠くへ逃げていった。

 隠れてこちらを監視している者の気配もない。


 一応の安全は確保されたであろう。


 《フェン。こっちは終わった。今からそっちに向かう》

 《分かったワン! 待っているワン!》


 少し離れたところで待機していたフェンに、念話で合図をする。


「さて、行くとするか」


 気絶したままの少女を左手に抱えて、オレは崖を飛び渡っていく。

 周囲の気配を索敵しながら、そのままエリザベスたちに合流するのであった。


 ◇


 崖上の茂みの中で、エリザベスたち3人と合流する。


「パパ、だいじょう⁉」


 マリアが駆け寄ってきた。

 遠目に先ほどの戦いを見ていたのであろう。


 かなり心配そうにしていた。

 オレの全身をペタペタ触ってくる。


「あの程度は、大丈夫だ。オレは……マリアのパパは強い。これからも心配は無用だ」


 今後のためにも、マリアに教えておく。


 オレは強い。

 どんな敵がきても心配をしなくも大丈夫だと。


 だからマリアは、いつも笑顔に戻ってもいいと。

 目いっぱい力こぶを作り、自分の力を見せてやる。


「うん、わかった! マリアのパパは、すごくつよい! とっても、つよい!」


 マリアに笑顔が戻る。

 どうやらオレの想いを分かってくれたらしい。


 これなら一安心。

 今後、荒事に巻き込まれても、マリアが暗い顔になることはないであろう。


「それにしても、オードル。まさか素手で、あそこまでやるとはな? 相変わらず、規格外の男だな」


 遠目に20数人の野盗が、気絶をしていた。

 かなり異様な光景。

 その光景を眺めながら、エリザベスは呆れかえっている。


「あの程度の連中ならエリザベス、お前でも再現は可能だろう?」

「剣で倒すなら、私でも可能だ。だが、お前のように、誰ひとり殺さずの戦いは、不可能だ。こんな馬鹿げたことができるのは、オードルぐらいのものだぞ!」


 なるほど、そういうことか。

 確かに不殺さずの戦いは、高い技術を要する。

 オレも殺した方が早かったであろう。


 今回はマリアが近くにいた。

 だからオレは敢えて、不殺生に徹していたのだ。


「さて、無駄話と寄り道も、ここまでだ。早く、あの街を向かうぞ」


 目的の街の城壁が、遠目に見えている。

 ここからなら急げば、午後には到着するであろう。


 早く街に入って、マリアの疲れを癒してやりたい。


「ところで、オードル。この少女はどうするのだ?」


 助け出した少女は、まだ気絶したまま。

 歳はエリザベスより少し下くらいであろう。

 金髪の美しい顔立ちの少女だ。


「ん⁉ この方は、まさか⁉」


 少女の顔を間近で見て、エリザベスが言葉を失っていた。

 どうやら顔見知りらしい。

 もしかしたら知り合いの修道女シスターなのか?


「知り合いも何も……この方は聖女様だ……この大陸に一人しかいない聖女リリィ様だ……」


 オレが助けだしたのは聖女と呼ばれる少女。

 しかも謎の兵士団に狙われていた存在。


「なんだと、聖女だと?」


 こうしてオレは少しだけ面倒なことに、巻き込まれるのであった。


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[一言] 子供の前で人殺しはしたくない気持ちはわかるけど 護衛の人を殺して、馬車の中の人も殺そうとした殺人者集団を殺さずに手加減しましたとか、しらけます
[良い点] 殺さずに制圧?普通の人間は顔面陥没したら高確率で死にますw じゃなくても、獣が出るような場所で数日間目を覚ませないのは普通に死ねますw こんなん笑うわw
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