第22話:増築
キャラバン隊が去ってから数日が経つ。
村にはいつもの平穏な日々が戻っていた。
今日も午前中の仕事を終えて、3人と1匹で昼食をとっているところだ。
「ところで、少し手狭になってきたか?」
昼飯を食いながら、オレはふと思う。
オレの家が手狭になってきたことに。
ここは小さな1階建ての平屋。
部屋も少ししかない。
最初はマリアと二人暮らしで快適だった。
だが今では女騎士エリザベスも一緒に住んでいる。
あとペットの白魔狼族のフェンも、意外と生活の場所をとる。
だから、かなり狭く感じるのだ。
「そうかな、パパ? マリアはせまくても、だいじょうぶだよ!」
小さなマリアは気にならないのであろう。
オレも娘が身近に感じられる、狭い空間は嫌いではない。
「わ、私もオードルと、こんなに近くにいられるから……狭くても大丈夫だぞ……」
エリザベスは肩をすり寄せながら、顔を赤らめていた。
だがエリザベスは、一応は貴族の令嬢である。
こんな狭い小屋みたいな家に、住まわせられない。
……というか、お前の騎士のフル装備が、部屋の一室を占領して狭いんだぞ。
「という訳で、増築しよう」
「今からか、オードル⁉」
エリザベスは驚いているが、善は急げ。
このままではマリアの将来にも悪影響があるかもしれない。
「さあ、昼飯を食ったら、さっそく取り掛かるぞ!」
こうしてオレは我が家の改築に着手するのであった。
◇
「さて、どんな家にするか?」
とりあえず各人にアンケート調査することにした。
まずはマリアから聞いてみよう。
「マリア、どんな家でもいいよ! パパといっしょだから、幸せだよ!」
いきなり泣かせる話である。
オレは持っていたペンを、思わず落としそうになる。
「でも、パパ。お人形さんの、お部屋があった、マリアうれしいかも」
マリアは布きれで作った人形を、とても大事にしていた。
家の中では遊んで、いつも一緒に寝ている。
今までその人形たちは、居間の端っこの木箱の中にいた。
そのことを可哀想に思っていたのであろう。
なるほど。人形を置ける部屋か。
大きな字でメモしておこう。
さて、次はエリザベスに聞いてみよう
だが見当たらない。
先にフェンに聞きに行こう。
家の玄関前の犬小屋にいるフェンに、念話で話を聞いてみる。
《ボクはこの犬小屋でも満足だワン!》
フェンは村では白い子犬ということにしてある。
カモフラージュのための犬小屋を、けっこう気に入っていた。
誰にも世話にならない白魔狼族の誇りは……いったい、どこに……。
《でも、理想を言えば、家の中にも、ボクの居場所が欲しいワン。そうしたらマリアと、いつもで遊べるワン》
なるほど、家の中にフェンの居場所か。
それはナイスアイデアかもしれん。
どうしても雨などで天気が悪い日は、マリアは家の中に籠りがちになる。
雨の日の家の中は、気分も沈みがちになるもの。
だがフェンと遊べるなら、マリアの笑顔が雨を晴らしてくれるであろう。
よし、フェンのアイデアは採用だ。
さて、最後はエリザベス……だが、どこにいったんだ?
「やあ、待たせたな、オードル! 新しい家のアイデアが欲しいのであろう!」
ちょうエリザベスがやって来た。
手には紙の束を持っている。
どこかで何かを書いていたのであろうか。
「これが私の提案する、新しい家のアイデアだ! まずは、この部屋が私の寝室だ。隣のオードルとの寝室とは、将来的に繋がる計算だ! そ、そんな変な意味はないぞ……万が一ということもあるので……そして、ここが調理場だ。こっちも凄いぞ! なんと……」
これまでにないほど興奮して、エリザベスは説明してくる。
自分の設計した家の機能を、一つずつ解説をしてくる。
内容はさておき。
この短期間でここまで考えてきた行動力は、認めてやるしかない。
使える部分だけ採用しておこう。
もちろん寝室の部分は、丁重にお断りしておく。
「お、おい、待て、オードル⁉ まだ説明の続きがあるんだぞ……」
そんなことを叫ぶエリザベスを後にして、オレはテーブルの前に向かう。
「さて、アイデアは集まった。あとは調整していくか」
オレは紙の上に、ペンを走らせていく。
描いているのは家の設計図である。
「こんな感じでいいか?」
設計の技術は、傭兵時代に習得していた。
何しろ傭兵の団長クラスには、陣地設営の技術も必要となる。
場合によっては簡易的な砦を、築く時もあるのだ。
この程度の一軒家。
村の牛舎、学校などの設計は苦にはならない。
「よし、できた」
設計図が完成した。
闘気術で集中して描いたので、あっという間に完成した。
新しい家の設計図である。
「さて、数日かかるが、頑張っていくか」
設計は出来た。
こうしてオレは新しい家の建築に取りかかるのである。
◇
翌日から新しい家の建設にとりかかる。
「さて、いくぞ」
皆に指示を出す。
家はオレ一人でも建築は可能。
だが他の皆の希望で、全員で建てることにしたのだ。
「まず、オレとエリザベスで基礎の土台を作る。マリアはお手伝いだ。フェンは道具を運ぶ係りだ」
各自に仕事の役割分担を教える。
闘気術で人並み以上の力が出せる、オレとエリザベスがメインの仕事をする。
マリアはお手伝いをしたり、ゴミ拾い、お弁当を用意するかかり。
フィンは手を使えないが、口で大工道具は持ってこられる。
「さあ、ドンドンいくぞ、エリザベス」
「ああ、任せておけ、オードル!」
メインのエリザベスと二人で、土台の土を慣らしていく。
今回建てるのは、今までの家のすぐ隣の土地。
辺境の村では土地だけは、存分に余っているのだ。
「さすがは怪力無双のオードルだな……あっとう間に終わってしまったぞ」
基礎造りはオレ一人で、ほとんど終わらせてしまった。
いかん。
張り切りすぎて、エリザベスの仕事を奪ってしまった。
「では、次は柱を立てて、木材を加工して、家をドンドン形にしていくぞ」
次の作業は“ログ組”と呼ばれる作業である。
ちなみに今回、建てるのはログハウスと呼ばれる建築の家である。
加工した丸太を組み上げて、家にしていく工法だ。
木材の多いこの村では、一般的な方法である。
「よし、床はできたぞ。次は壁だ」
何とか柱と床部分ができた。
木材はオレが森を開拓した物が、十二分に余っている。
ログハウスは木材も加工も少ないので、ドンドン作業が進んでいくのだ。
オレは闘気術を発動させて、一気に数本の丸太を担いでいく。
「よし、壁が終わったら、次は屋根だ。それが終わったら内装もいくぞ」
自分たちの家づくりは想像以上に楽しい。
こうして家づくりは順調に進んでいくのであった。
◇
そして数日が経つ。
新しい家が完成した。
「すごい、パパ……すてきな、お家だね!」
完成した家を目の前にして、マリアは満面の笑みを浮べていた。
新しい家の暮らしに、夢を広げていた。
「これが新しい家……私とオードルの……」
エリザベスは別の意味で感動している。
まあ、今回はこいつもオレの次に働いてくれた。
変な妄想も今日は、少しくらいは大目にみてやろう。
『わんわん!』
フェンだけは家よりも、朝ご飯に夢中であった。
まあ、こいつはマイペースなのは一番だな。
「家の中の機能は、みんなの希望を形にしている。もう一度、確認してくれ」
新しい家の中に全員で入る。
一部屋ずつ確認していく。
「見て、見て! マリアのお人形さんのお部屋が、あるよ!」
マリアは自分の部屋の中を見て、感動の声を上げていた。
希望の通り彼女の部屋を作っておいた。
お人形の置ける棚も完備した、マリア専用のお部屋だ。
『ワンワン!』
「あっ、ブランコがあるね、フェン! ここでいっしょに遊べるね!」
マリアの部屋には、ブランコなどの遊び道具も用意しておいた。
これで雨の日も、元気いっぱいに遊べるであろう。
「あと、個人の寝室部屋も用意してある。確認しておきてくれ」
この家には大広間の他に、5個の個室を用意した。
オレの部屋、マリアの遊び部屋、エリザベスの部屋、あと客室が2部屋で、合計5部屋である。
「私の部屋の隣は……オードルの部屋ではないのか⁉」
「残念ながらエリザベス。防犯上の都合だ」
「なんと……とほほ……」
エリザベスが、がっかりしているが仕方がない。
戦闘力が高いオレとエリザベスが、家の両端の部屋にしている。
か弱いマリアの部屋は真ん中にしていた。
玄関にはフィンの犬小屋がある。
万が一の敵襲にも、万全な家の設計図なのだ。
「とにかく家はできた。だが暮らすには、まだ小物の準備が必要だ」
これから引っ越しの作業がある。
隣の古い家から、持ってこないといけない。
「それならマリアは、お花をかざる係!」
「私は力仕事を手伝うぞ!」
『ワンワン!』
オレが指示する前に、みんなは動き出してくれた。
新しい家にどんどん荷物を運んでいく。
「やれやれ……騒がしいな。だが我が家か……悪くはない響きだな……」
こうして新しい家の生活が始まるのであった。
 




